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第三章
一
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イレーヌの事件から数日、シーラは平和な日々を過ごしていた。
ペンが紙の上を滑る音を聞きながら、シーラはそっと視線を上げる。すると、ジルヴィウスはすぐに手を止め、シーラを見下ろした。
「どうした? 喉でも乾いたか? 庭に行って気分転換でもするか?」
「ううん、大丈夫だよ。ジルこそ、わたし邪魔じゃない?」
「お前が邪魔になることはないから気にするな」
ジルヴィウスは額に触れるだけのキスを贈ると、視線を執務机の上へと戻した。シーラはそれをぼんやり眺めると、ジルヴィウスの首元に顔を寄せ、目を閉じる。
(……イレーヌのこと、いい加減訊かなくちゃ)
事件の翌日、イレーヌとの間にあったことをすべてジルヴィウスに説明した。その説明以降、二人の間でイレーヌの名が挙がったことはない。
行動の早い彼のことだ。イレーヌ対してとっくに何かしらの罰を与えているに違いない。
(あの日の翌日、ネリーをどうしたいかもすぐに訊いてきたもんなぁ)
あの日イレーヌが持っていた裁ちばさみは、もともとはネリーが持ち込んだものだった。ネリーが裁縫が得意と言っていたことを覚えていたのか、それとも持っているところを見かけたのか、イレーヌは奪うように裁ちばさみを借りていったらしい。
イレーヌの凶行に自分の裁ちばさみが利用されたことを知ったネリーは、床に額を擦り付けて謝罪した。許しを請うわけでもなく、泣きじゃくりながら謝罪を繰り返すネリーに、罰は与えないでほしいとジルヴィウスに頼んだ。
謝罪されようがされまいがもともと罰を与える気などなかったが、大切にしていた道具をこんなことに使われてしまったネリーが可哀想で、それでも言い訳をしない彼女が好ましかった。それから、大きな問題を起こさなかったからとイレーヌへの警戒を怠ってしまったことが申し訳なかった。
思わず「ごめんね」と謝ると、ネリーは顔面蒼白になり気を失った。そのまま数日寝込んでしまったそうだが、今ではすっかり快復して再びキッチンメイドとして働いているらしい。
もしかしたらこれを機に辞めてしまうかも、と思ったが、今まで以上に元気に働いているとリディが教えてくれた。
(そういえば、そろそろリディが来る時間かも)
ふっと目を開け身じろいだのと、ノックの音が聞こえたのはほぼ同時だった。
「入れ」
「失礼します」
リディはトレイを手に一礼すると、真っ直ぐシーラの元へとやって来る。
「おやつをお持ちしました。今日は野菜のクッキーとカモミールとパッションフラワーのハーブティーです」
「ありがとう、リディ」
「いえ。奥様とお会いできる貴重な機会ですから。むしろあたしがお礼を言いたいくらいです」
サイドテーブルに一人分のティーセットを用意しながら、どこか意気込んだようにそう答えるリディに、シーラは思わず笑みをこぼす。
リディは現在側仕えを外れており、会える回数がぐんと減ってしまったのだ。ジルヴィウスが何かそういう指示を出したわけではなく、リディ自身がそれを望んだ結果だ。
一度側仕えを外れ、従者として必要なことを改めてギーから学びたいと、彼女は訴えた。
もしかしたら断られるかもと思いつつ、ギーがいいなら、と伝えると、彼は意外にも快くリディを引き受けてくれた。
ジルヴィウスも「シーラがいいならいい」と特に反対はしなかった。
(まぁ、あの日以降ジルがずっとべったりで、何をするにも基本的にこうして膝の上に乗せるから、側仕えのままでも特にできることはなかっただろうし……)
「では、あたしはこれで失礼しますね」
「あ、うん。ネリーにもお菓子ありがとうって伝えておいてくれる?」
「もちろんです」
リディは握りこぶしを作りながら強く頷くと、早々に部屋を後にした。
再び二人きりになった静まり返った室内で、シーラは起こしていた体から力を抜くと、先ほど同様ジルヴィウスに体を預ける。
寄りかかり、首筋に鼻先を擦り付けるシーラの頭をジルヴィウスは優しく撫でた。
「食べないのか?」
「んー……んーん」
「否定か肯定か判断するのが難しい返事だな」
ジルヴィウスは羽根ペンから手を放すと、軽く手を振った。すると執務机の上に広げられていた書類がすべて端に寄せられ、代わりにティーセットが堂々と置かれる。
片手で器用にお茶を注ぐジルヴィウスの手元を見つめながら、シーラは意を決したように息を吸い込んだ。
「……イレーヌのこと、訊いてもいい?」
ジルヴィウスの手がぴたりと止まる。一拍置いて、彼はティーポットを戻すとカップを手に取り、シーラの手にカップを握らせた。
「ほら、冷める前に飲め」
薄茶色に揺れる水面を数秒見つめたあと、そっとカップに口を付ける。爽やかな風味が口いっぱいに広がったかと思うと、ほのかな香ばしさが鼻から抜けていった。
心を落ち着かせるハーブの風味に、自然とほっとした息が漏れる。体の力を抜きながら、ゆっくりとハーブティーを飲んでいると、ジルヴィウスが頭上に口付けた。
「お前を害した理由から聞くか? あの女へ下した処罰から聞くか?」
「……なんであんな行動したのかを先に知りたいかな」
「俺の愚かな過去の行いと、ありもしない妄想に取りつかれた結果だ」
ジルヴィウスはイレーヌから聞いた話を細かく教えてくれた。
彼女の家庭環境。妄執を抱くに至った経緯。お門違いなシーラへの嫉妬。
そのすべてを聞いて、シーラはなんだ、と口元に力を入れた。
(わたしにはどうしようもないことだったのね。わたしが何をしようと、きっとイレーヌはわたしを嫌ったわ)
あのとき、わざと神経を逆撫でするようなことを口にしたが、もっと別の言い方をしたところで結局は襲われることになっただろう。そもそも、彼女は頭に血がのぼった結果、突発的に武器を手に取ったわけではなく、もともとそれを用意していたのだ。
以前のように不用意に近付いていたら、もっと早く襲われていた可能性もある。
自分にはどうしようもない理由で嫌われていたのだと思うと、何ともやるせない気分になった。いっそのこと、自分のことを心底嫌いでしたことだと言われたほうが、まだ納得感がある。
理不尽だと怒る気にもなれず、ハーブティーとともに言葉にできない気持ちを飲み込んだ。
「じゃあ……イレーヌへの罰は?」
実は、これを聞くのが一番気が重かった。
公爵夫人を害そうとした者が厳しい罰を与えられるのは仕方がないということもわかっている。けれど、自分がきっかけで誰かが酷い目に遭うというのは、やはり気分がいいものではない。
(わたしはジルの奥さんだし、公爵城で起きたことはわたしにも責任があるから、ジルがどんな罰を与えていても受け入れるけど……それはそれとして気は重いよねぇ)
上に立つ者として、公爵夫人として、こういうことに慣れていかなくては、と気合いを入れ直したシーラだが、ジルヴィウスの答えは予想もしていないものだった。
ペンが紙の上を滑る音を聞きながら、シーラはそっと視線を上げる。すると、ジルヴィウスはすぐに手を止め、シーラを見下ろした。
「どうした? 喉でも乾いたか? 庭に行って気分転換でもするか?」
「ううん、大丈夫だよ。ジルこそ、わたし邪魔じゃない?」
「お前が邪魔になることはないから気にするな」
ジルヴィウスは額に触れるだけのキスを贈ると、視線を執務机の上へと戻した。シーラはそれをぼんやり眺めると、ジルヴィウスの首元に顔を寄せ、目を閉じる。
(……イレーヌのこと、いい加減訊かなくちゃ)
事件の翌日、イレーヌとの間にあったことをすべてジルヴィウスに説明した。その説明以降、二人の間でイレーヌの名が挙がったことはない。
行動の早い彼のことだ。イレーヌ対してとっくに何かしらの罰を与えているに違いない。
(あの日の翌日、ネリーをどうしたいかもすぐに訊いてきたもんなぁ)
あの日イレーヌが持っていた裁ちばさみは、もともとはネリーが持ち込んだものだった。ネリーが裁縫が得意と言っていたことを覚えていたのか、それとも持っているところを見かけたのか、イレーヌは奪うように裁ちばさみを借りていったらしい。
イレーヌの凶行に自分の裁ちばさみが利用されたことを知ったネリーは、床に額を擦り付けて謝罪した。許しを請うわけでもなく、泣きじゃくりながら謝罪を繰り返すネリーに、罰は与えないでほしいとジルヴィウスに頼んだ。
謝罪されようがされまいがもともと罰を与える気などなかったが、大切にしていた道具をこんなことに使われてしまったネリーが可哀想で、それでも言い訳をしない彼女が好ましかった。それから、大きな問題を起こさなかったからとイレーヌへの警戒を怠ってしまったことが申し訳なかった。
思わず「ごめんね」と謝ると、ネリーは顔面蒼白になり気を失った。そのまま数日寝込んでしまったそうだが、今ではすっかり快復して再びキッチンメイドとして働いているらしい。
もしかしたらこれを機に辞めてしまうかも、と思ったが、今まで以上に元気に働いているとリディが教えてくれた。
(そういえば、そろそろリディが来る時間かも)
ふっと目を開け身じろいだのと、ノックの音が聞こえたのはほぼ同時だった。
「入れ」
「失礼します」
リディはトレイを手に一礼すると、真っ直ぐシーラの元へとやって来る。
「おやつをお持ちしました。今日は野菜のクッキーとカモミールとパッションフラワーのハーブティーです」
「ありがとう、リディ」
「いえ。奥様とお会いできる貴重な機会ですから。むしろあたしがお礼を言いたいくらいです」
サイドテーブルに一人分のティーセットを用意しながら、どこか意気込んだようにそう答えるリディに、シーラは思わず笑みをこぼす。
リディは現在側仕えを外れており、会える回数がぐんと減ってしまったのだ。ジルヴィウスが何かそういう指示を出したわけではなく、リディ自身がそれを望んだ結果だ。
一度側仕えを外れ、従者として必要なことを改めてギーから学びたいと、彼女は訴えた。
もしかしたら断られるかもと思いつつ、ギーがいいなら、と伝えると、彼は意外にも快くリディを引き受けてくれた。
ジルヴィウスも「シーラがいいならいい」と特に反対はしなかった。
(まぁ、あの日以降ジルがずっとべったりで、何をするにも基本的にこうして膝の上に乗せるから、側仕えのままでも特にできることはなかっただろうし……)
「では、あたしはこれで失礼しますね」
「あ、うん。ネリーにもお菓子ありがとうって伝えておいてくれる?」
「もちろんです」
リディは握りこぶしを作りながら強く頷くと、早々に部屋を後にした。
再び二人きりになった静まり返った室内で、シーラは起こしていた体から力を抜くと、先ほど同様ジルヴィウスに体を預ける。
寄りかかり、首筋に鼻先を擦り付けるシーラの頭をジルヴィウスは優しく撫でた。
「食べないのか?」
「んー……んーん」
「否定か肯定か判断するのが難しい返事だな」
ジルヴィウスは羽根ペンから手を放すと、軽く手を振った。すると執務机の上に広げられていた書類がすべて端に寄せられ、代わりにティーセットが堂々と置かれる。
片手で器用にお茶を注ぐジルヴィウスの手元を見つめながら、シーラは意を決したように息を吸い込んだ。
「……イレーヌのこと、訊いてもいい?」
ジルヴィウスの手がぴたりと止まる。一拍置いて、彼はティーポットを戻すとカップを手に取り、シーラの手にカップを握らせた。
「ほら、冷める前に飲め」
薄茶色に揺れる水面を数秒見つめたあと、そっとカップに口を付ける。爽やかな風味が口いっぱいに広がったかと思うと、ほのかな香ばしさが鼻から抜けていった。
心を落ち着かせるハーブの風味に、自然とほっとした息が漏れる。体の力を抜きながら、ゆっくりとハーブティーを飲んでいると、ジルヴィウスが頭上に口付けた。
「お前を害した理由から聞くか? あの女へ下した処罰から聞くか?」
「……なんであんな行動したのかを先に知りたいかな」
「俺の愚かな過去の行いと、ありもしない妄想に取りつかれた結果だ」
ジルヴィウスはイレーヌから聞いた話を細かく教えてくれた。
彼女の家庭環境。妄執を抱くに至った経緯。お門違いなシーラへの嫉妬。
そのすべてを聞いて、シーラはなんだ、と口元に力を入れた。
(わたしにはどうしようもないことだったのね。わたしが何をしようと、きっとイレーヌはわたしを嫌ったわ)
あのとき、わざと神経を逆撫でするようなことを口にしたが、もっと別の言い方をしたところで結局は襲われることになっただろう。そもそも、彼女は頭に血がのぼった結果、突発的に武器を手に取ったわけではなく、もともとそれを用意していたのだ。
以前のように不用意に近付いていたら、もっと早く襲われていた可能性もある。
自分にはどうしようもない理由で嫌われていたのだと思うと、何ともやるせない気分になった。いっそのこと、自分のことを心底嫌いでしたことだと言われたほうが、まだ納得感がある。
理不尽だと怒る気にもなれず、ハーブティーとともに言葉にできない気持ちを飲み込んだ。
「じゃあ……イレーヌへの罰は?」
実は、これを聞くのが一番気が重かった。
公爵夫人を害そうとした者が厳しい罰を与えられるのは仕方がないということもわかっている。けれど、自分がきっかけで誰かが酷い目に遭うというのは、やはり気分がいいものではない。
(わたしはジルの奥さんだし、公爵城で起きたことはわたしにも責任があるから、ジルがどんな罰を与えていても受け入れるけど……それはそれとして気は重いよねぇ)
上に立つ者として、公爵夫人として、こういうことに慣れていかなくては、と気合いを入れ直したシーラだが、ジルヴィウスの答えは予想もしていないものだった。
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