遺書

永倉圭夏

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第3話 ケンカと義理立て

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 高三になると、学力的に横並びのタカキとサナエと俺は同じ地元の大学を目指すこととなった。ただ、二人の学部と俺の学部は違った。それを残念がる二人だったが、俺だっていつまでもあの二人にぶら下がっているようなポジションは嫌だった。特にサナエから離れて早くアイツのことを忘れたかった。

 俺たちの受験は無事成功し、晴れて俺たちは同じ大学の学生になった。

 大学2年の冬、二人の中が険悪になった。その頃には大学でも有名なカップルになっていた二人は学食で派手なケンカをしてしまったらしい。わざわざそんな話を俺にご注進する奴がいたのは、その際サナエが吐いたセリフが原因だった。

「こんなんだったらあたしマサヤとつきあうんだった!」

 学食の隅から隅まで響き渡る声で叫んだサナエは呆気あっけにとられたタカキを置いて学食から大またでのっしのっしと出ていったのだという。


 その時はそんなことなどあずかり知らぬ俺は、校舎の移動で表に出ていた。今にも雪が降りそうな曇り空だった。

 背後から大きな声が聞こえた。

「マサヤっ」

 こいつの声を聞くのは何か月ぶりだろうか。俺は努めて平静を装った。

「おう、サナエどうした。タカキいないけど」

「あんな奴いいの。次どこ」

「二号館」

「やった、あたしと同じ」

 なにがやったなのかよく判らないが俺たちは並んで道を歩く。サナエとの距離が少し近い気がする。

「なあ」

「なに?」

「タカキとケンカしたな?」

「大きなお世話」

 サナエの声はむっとしている。

「やっぱりな」

 俺はため息をついた。

「ちゃんと仲直りしろよな」

「……やだよ」

「なんで」

「もうほとほと呆れましたあ」

 おいおい、それじゃあ俺がタカキの背中を押してやった意味がないだろう。俺は少しむっとした。
 とは言え俺だってコイツへの想いは未だに消えていなかった。もしコイツがタカキと別れれば、俺にもワンチャンあるかもしれない。

「あんな奴だと思わなかったよ」

「そうなのか」

「そうだよ」

 すうっとサナエが俺との距離を縮めた。互いのダウンが触れ合う。俺の心臓が高鳴った。

「ね」

 サナエが俺に声をかけた。今までに聞いたことのない響きだった。

「寒くない……? 手が冷たくてさ…… 温めてよ」

 俺の心臓がさらに高鳴る。
 正直言うと俺はサナエの手を掴む寸前までいった。だけどその瞬間タカキのことが頭に浮かんだ。サナエに告白したいと言った不安げな顔や、サナエへの告白が成功したと言って輝いた顔を。
 その顔を思い出すと、俺にはタカキを裏切ることはできないと思った。タカキからサナエをかすめ取るようなことはできない。

 俺は手を引っ込めた。

「お前さ、やっぱり仲直りしろ」

「……」

 サナエは何も言わず突然駆け出した。そしてくるりと振り向くと俺に向かって怒った顔で舌を出して二号館まで走って消えていった。

 それっきり俺はあいつらとほとんど顔を合わせることもなかった。たまに二人と顔を合わすとサナエはどこか気まずそうな表情で俺からその顔をそらすのだった。

▼次回
 2022年6月21日 21:00更新
 「第4話 結婚と病魔」
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