遺書

永倉圭夏

文字の大きさ
3 / 13

第3話 ケンカと義理立て

しおりを挟む
 高三になると、学力的に横並びのタカキとサナエと俺は同じ地元の大学を目指すこととなった。ただ、二人の学部と俺の学部は違った。それを残念がる二人だったが、俺だっていつまでもあの二人にぶら下がっているようなポジションは嫌だった。特にサナエから離れて早くアイツのことを忘れたかった。

 俺たちの受験は無事成功し、晴れて俺たちは同じ大学の学生になった。

 大学2年の冬、二人の中が険悪になった。その頃には大学でも有名なカップルになっていた二人は学食で派手なケンカをしてしまったらしい。わざわざそんな話を俺にご注進する奴がいたのは、その際サナエが吐いたセリフが原因だった。

「こんなんだったらあたしマサヤとつきあうんだった!」

 学食の隅から隅まで響き渡る声で叫んだサナエは呆気あっけにとられたタカキを置いて学食から大またでのっしのっしと出ていったのだという。


 その時はそんなことなどあずかり知らぬ俺は、校舎の移動で表に出ていた。今にも雪が降りそうな曇り空だった。

 背後から大きな声が聞こえた。

「マサヤっ」

 こいつの声を聞くのは何か月ぶりだろうか。俺は努めて平静を装った。

「おう、サナエどうした。タカキいないけど」

「あんな奴いいの。次どこ」

「二号館」

「やった、あたしと同じ」

 なにがやったなのかよく判らないが俺たちは並んで道を歩く。サナエとの距離が少し近い気がする。

「なあ」

「なに?」

「タカキとケンカしたな?」

「大きなお世話」

 サナエの声はむっとしている。

「やっぱりな」

 俺はため息をついた。

「ちゃんと仲直りしろよな」

「……やだよ」

「なんで」

「もうほとほと呆れましたあ」

 おいおい、それじゃあ俺がタカキの背中を押してやった意味がないだろう。俺は少しむっとした。
 とは言え俺だってコイツへの想いは未だに消えていなかった。もしコイツがタカキと別れれば、俺にもワンチャンあるかもしれない。

「あんな奴だと思わなかったよ」

「そうなのか」

「そうだよ」

 すうっとサナエが俺との距離を縮めた。互いのダウンが触れ合う。俺の心臓が高鳴った。

「ね」

 サナエが俺に声をかけた。今までに聞いたことのない響きだった。

「寒くない……? 手が冷たくてさ…… 温めてよ」

 俺の心臓がさらに高鳴る。
 正直言うと俺はサナエの手を掴む寸前までいった。だけどその瞬間タカキのことが頭に浮かんだ。サナエに告白したいと言った不安げな顔や、サナエへの告白が成功したと言って輝いた顔を。
 その顔を思い出すと、俺にはタカキを裏切ることはできないと思った。タカキからサナエをかすめ取るようなことはできない。

 俺は手を引っ込めた。

「お前さ、やっぱり仲直りしろ」

「……」

 サナエは何も言わず突然駆け出した。そしてくるりと振り向くと俺に向かって怒った顔で舌を出して二号館まで走って消えていった。

 それっきり俺はあいつらとほとんど顔を合わせることもなかった。たまに二人と顔を合わすとサナエはどこか気まずそうな表情で俺からその顔をそらすのだった。

▼次回
 2022年6月21日 21:00更新
 「第4話 結婚と病魔」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...