遺書

永倉圭夏

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第4話 結婚と病魔

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 それから数年の歳月が過ぎた。大学卒業後しばらくしてタカキとサナエは結婚した。新郎友人側の席でほかの大学時代の友人と二人を見つめる。壇上には晴れがましい表情のタカキと幸せに弾けんばかりのサナエ。俺の胸は痛んだ。ロウソクをつけに来た二人を見ながら俺は、高校時代にタカキから相談を受けた時とった行動の浅はかさと傲慢さを呪った。あんなことをしなければ、サナエの隣にいるのは俺だったのかも知れなかったのに。二人は俺に目を向けずに俺たちのいるテーブルから去っていった。


 それから更に二年の歳月が過ぎた。

 俺は製薬会社に就職し病院回りに忙しい日々を送っていた。アラサーの俺は特に誰かとつきあうこともなくただ無為に日々を過ごしていた。サナエの面影が俺の頭から離れることがなかったことも影響していたと思う。

 そんな中、とある大きな病院で俺はサナエとばったり再会した。その左手薬指にはプラチナのリングが嵌っていた。タカキとの結婚指輪だった。
 久しぶりの再会に喜んだ俺と違ってサナエの表情は暗かった。それだけでなくひどく疲れ切っていた。その尋常でない様子を見た俺は仕事をサボって病院内のカフェで話を聞く。そこでサナエはタカキに会って欲しいと言った。タカキはこの病院にいると言う。そしてこの病院はがんの専門病院だった。俺は理解した。タカキは患者としてここに入院しているのだと。そしてサナエの様子からして病状はかなり思わしくないのだと。俺は一も二もなくサナエの申し出を受けた。
 タカキに会う前に俺はサナエに釘を刺された。何があっても驚かない事。そして病気については何も口にしない事。

 病室の扉を開けてタカキの顔を見ると確かに俺は声をあげそうになった。あまりにも痛々しいやつれ方だった。げっそりと痩せ細っていくつものチューブを介して機械に繋がれたタカキは嬉しそうに弱々しい笑みを浮かべた。
 その後気を取り直した俺はタカキと何気ない口調で昔話をしてタカキを和ませた。
 あの時マサヤが背中を押してくれなかったら僕はサナエと一緒になることはできなかった。病気が治ったらサナエの行きたがっていたタヒチに行くつもりだ。

 息をするのも苦しそうな笑顔でタカキはそう言った。俺は危うく目頭が熱くなるところだった。こいつの様子ではどうやったってタヒチ旅行なんて無理に決まっている。それどころか明日あすをも知れぬ状態じゃないか。俺は作り笑いを浮かべて言った。タヒチに行ったら俺にも土産をいっぱい買って来いよな、と。

 サナエを病室に残して俺一人で部屋を出る。俺は涙が止まらなかった。タカキを襲った病魔の理不尽さ、残酷さを腹の底から呪った。あとで聞いた話では、すい臓がんのステージⅣで既に数か所に転移も見られたと言う。

▼次回
 2022年6月22日 21:00更新
 「第5話 葬式とすれ違い」
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