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第5話 葬式とすれ違い
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二か月後タカキは帰らぬ人となった。最後の言葉はサナエに言った言葉、「ごめん。ありがとう。もう君は自由だ」だったと言う。通夜の帰り、俺はサナエが心配でマンションまで送ってやったが、抜け殻のような彼女はろくに礼も言わずマンションに引きこもった。
葬式で俺は泣いた。サナエも泣いていた。
葬式が終わると俺はその足で仕事に戻った。だが頭の中からタカキとサナエのことが頭から離れない。特に火葬場でタカキが骨になるのを待つ間、一瞬だけ俺に見せたすがるようなサナエの表情が忘れられなかった。
そのサナエの目が忘れられなかった俺は残業もそこそこにもうサナエしかいないマンションへ行った。
いや、正確にはそこにタカキもいた。
俺とサナエはタカキの遺骨を前にしてぽつりぽつりと昔話をした。大学に入ってからは次第に疎遠になっていったから中学高校の頃の話がほとんどだった。サナエがウィスキーと氷を出してくるのでそれをちびちびやりながら昔話に興じる。
もう時効だろうと思って俺はタカキから相談された時のことを話した。サナエに告白したい、そう言った時の話だ。なぜかサナエはひどくショックを受けた顔をしていた。すると俺の手をきつく握り、ひどく泣き始めた。俺も若妻を置いて夭折したタカキを思って泣いた。だがサナエの涙はそうしたものではなかった。
初七日も過ぎた頃サナエからLINEが着信する。大学以来だ。話がしたいという内容だった。サナエの心痛を和らげることができるなら、と俺は快諾した。俺もサナエに逢いたかった。
都心の完全個室の懐石を指定された。俺はなんだか不自然なものを感じながらそこへ向かった。
大都会の喧騒が俺の胸に空しく響く。ここにタカキは既に存在せず、それでも人々は楽し気に、或いはせわし気に行き来する。人の波にもまれて俺は目的地に着いた。
「おそい」
サナエはいつも通りおどけた口調で言おうとしたようだが失敗した。
「すまん駐車場が見つからなくて」
「車で来たんだ」
「ああ。お前は?」
「あたしは駅から歩いて。帰り乗せってってよ」
「オーケー」
「やった」
今度も笑顔を作ろうとしたものの、サナエの顔はみっともなくくしゃくしゃになっただけだった。
俺たちはほとんど会話もせず飯を食った。俺にはあまり食べたことのない高級懐石だったが、どうにも味がよく判らなかった。
そんな中サナエが俯いて強肴(しいざかな)の白海老の昆布〆をつつきながらぽつっと呟いた。
「前の話だけど、タカキがあたしに告白したいって、あなたに言ったって話をしてたでしょ」
「ああ、この間話したな」
「私ね……」
サナエが背もたれに寄りかかり天井の間接照明を見上げる。きれいだ。
「その前の日あなたに告白するつもりだった」
頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。あまりの驚きに言葉が出ない。
「びっくりしたでしょ」
「あ、ああ……」
「でも勇気出なくって」
サナエは白海老を口にする。そして視線を足元に落とす。
「もともとムリ目な話だなって思ってから」
「……そんなことなかった」
「え?」
「全然そんなことなかった」
「そうなの?」
「俺も、できたら、告白したいと、思ってた…… タカキの告白は、きっとフラれて終わるだろうから、そうしたら俺が……って」
「……そうなんだ」
俺たちは沈黙して自分たちのお茶のグラスを眺める。間接照明に照らされたお茶の上で天上の星のように小さな光がキラキラと乱反射していた。
▼次回
2022年6月23日 21:00更新
「第6話 諦観と封筒」
葬式で俺は泣いた。サナエも泣いていた。
葬式が終わると俺はその足で仕事に戻った。だが頭の中からタカキとサナエのことが頭から離れない。特に火葬場でタカキが骨になるのを待つ間、一瞬だけ俺に見せたすがるようなサナエの表情が忘れられなかった。
そのサナエの目が忘れられなかった俺は残業もそこそこにもうサナエしかいないマンションへ行った。
いや、正確にはそこにタカキもいた。
俺とサナエはタカキの遺骨を前にしてぽつりぽつりと昔話をした。大学に入ってからは次第に疎遠になっていったから中学高校の頃の話がほとんどだった。サナエがウィスキーと氷を出してくるのでそれをちびちびやりながら昔話に興じる。
もう時効だろうと思って俺はタカキから相談された時のことを話した。サナエに告白したい、そう言った時の話だ。なぜかサナエはひどくショックを受けた顔をしていた。すると俺の手をきつく握り、ひどく泣き始めた。俺も若妻を置いて夭折したタカキを思って泣いた。だがサナエの涙はそうしたものではなかった。
初七日も過ぎた頃サナエからLINEが着信する。大学以来だ。話がしたいという内容だった。サナエの心痛を和らげることができるなら、と俺は快諾した。俺もサナエに逢いたかった。
都心の完全個室の懐石を指定された。俺はなんだか不自然なものを感じながらそこへ向かった。
大都会の喧騒が俺の胸に空しく響く。ここにタカキは既に存在せず、それでも人々は楽し気に、或いはせわし気に行き来する。人の波にもまれて俺は目的地に着いた。
「おそい」
サナエはいつも通りおどけた口調で言おうとしたようだが失敗した。
「すまん駐車場が見つからなくて」
「車で来たんだ」
「ああ。お前は?」
「あたしは駅から歩いて。帰り乗せってってよ」
「オーケー」
「やった」
今度も笑顔を作ろうとしたものの、サナエの顔はみっともなくくしゃくしゃになっただけだった。
俺たちはほとんど会話もせず飯を食った。俺にはあまり食べたことのない高級懐石だったが、どうにも味がよく判らなかった。
そんな中サナエが俯いて強肴(しいざかな)の白海老の昆布〆をつつきながらぽつっと呟いた。
「前の話だけど、タカキがあたしに告白したいって、あなたに言ったって話をしてたでしょ」
「ああ、この間話したな」
「私ね……」
サナエが背もたれに寄りかかり天井の間接照明を見上げる。きれいだ。
「その前の日あなたに告白するつもりだった」
頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。あまりの驚きに言葉が出ない。
「びっくりしたでしょ」
「あ、ああ……」
「でも勇気出なくって」
サナエは白海老を口にする。そして視線を足元に落とす。
「もともとムリ目な話だなって思ってから」
「……そんなことなかった」
「え?」
「全然そんなことなかった」
「そうなの?」
「俺も、できたら、告白したいと、思ってた…… タカキの告白は、きっとフラれて終わるだろうから、そうしたら俺が……って」
「……そうなんだ」
俺たちは沈黙して自分たちのお茶のグラスを眺める。間接照明に照らされたお茶の上で天上の星のように小さな光がキラキラと乱反射していた。
▼次回
2022年6月23日 21:00更新
「第6話 諦観と封筒」
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