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エピローグ2.落陽
第十五話 思わぬ再会
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すると彩希が伊緒のとよく似たマルチグラスで通信する。
「あ、ちょっと出てきてくれるかな。うん。だって傘ないんだもん え? まあいいからいいから、ね。それじゃ」
簡単に通信を済ます。伊緒とシリルには状況がよく呑み込めなかった。
「さて、じゃあお暇しようかな、と。あ、焼酎二本もありがとうね。きっと喜んでもらえるはず」
玄関を開けて軒まで伊緒、シリル、彩希、マイアの四人が出てくるとさすがに少し手狭だ。
その時家の前に停まった白いセダンから傘を持った一人の女性が下りてくる。
少し機嫌の悪そうな顔をしたストレートセミロングのその女性は、彩希の後ろに伊緒とシリルがいるの気づき、まるで息が止まったかのようにして目を剥いた。
伊緒もシリルも驚きの色を隠せない。こうして面と向かって顔を合わせたのは伊緒はプールでの鉢合わせ以来、シリルは球技大会で憎悪の視線と言葉をぶつけられて以来、実におよそ十九年ぶりの事であった。
彩希とマイア以外が絶句する中で彩希は淡々と話をする。
「さすが、時間ピッタリ。ありがと由花」
由花は眼光鋭く彩希を睨む。が、彩希は表情一つ変えない。由花の視線に気づくと何でもないように言い放った。
「うん、まあ久しぶりだし挨拶くらいしておいたほうが良かったかなって思ってさ」
明らかに腹を立てている由花の声はそれでも静かで小さかった。
「普通に出張だって聞いてたけど」
「えー?、だから普通に出張だよ? ほら、これが報酬」
彩希は涼しい顔をして二本括りにした焼酎を掲げて見せる。
「あ、あの、由花…… その、久しぶり」
伊緒が恐る恐る声をかけると、由花は心持ち顔を赤らめながら小さく頷く。
「お久しぶり……」
朴念仁の極みでもある伊緒は、由花が自分に好意を抱いていたとは未だ知らない。だが、伊緒とシリルが交際を始めて以来、何か強くて良くない感情を自分とシリルに向けていることくらいは理解できていた。
気まずい空気が流れる。
「あ、あの五十畑さん……」
シリルもありったけの勇気を振り絞って由花に声をかけた。バレーコートでのレーザー兵器のような視線を思い出す。今にも車から玄能《げんのう》でも持ち出してくるんじゃないか。そんな恐れる心を抑え、プログラムに則り軽く会釈する。
「どうも……」
由花はシリルと目を合わせずやはり小さく会釈した。
事情の呑み込めないマイアを除けば、彩希だけがいつもと同じ少しとぼけた風に、少し声高に、一同に声をかける。
「まあ、ちょっとした同窓会みたいなもんだよね。なんなら伊緒んちで矢木澤さんにコーヒー淹れてもらう? これがまたバリスタ級においしくてさあ」
シリルとしてはぎょっとする提案だった。由花としても似たようなものだったろう。二人とも俯き加減で視点が定まらない。
「ああ、いいね! もしよかったらおいでよ。二人のことも聞かせて。ね、由花もいいよね」
「……え、その ……う、うん」
先にも述べた通りの朴念仁っぷりを大いに発揮した伊緒は一瞬で気を取り直し、無邪気に由花に声をかけていた。そうなると由花としては実に断り辛い。それを横目で見てクスリとする彩希も由花には実に腹立たしい。
シリルとしても身の休まらないひと時が来そうでいささか憂鬱だった。
結局のところ一行は伊緒宅へ引き返し一服していく事となった。
「あ、ちょっと出てきてくれるかな。うん。だって傘ないんだもん え? まあいいからいいから、ね。それじゃ」
簡単に通信を済ます。伊緒とシリルには状況がよく呑み込めなかった。
「さて、じゃあお暇しようかな、と。あ、焼酎二本もありがとうね。きっと喜んでもらえるはず」
玄関を開けて軒まで伊緒、シリル、彩希、マイアの四人が出てくるとさすがに少し手狭だ。
その時家の前に停まった白いセダンから傘を持った一人の女性が下りてくる。
少し機嫌の悪そうな顔をしたストレートセミロングのその女性は、彩希の後ろに伊緒とシリルがいるの気づき、まるで息が止まったかのようにして目を剥いた。
伊緒もシリルも驚きの色を隠せない。こうして面と向かって顔を合わせたのは伊緒はプールでの鉢合わせ以来、シリルは球技大会で憎悪の視線と言葉をぶつけられて以来、実におよそ十九年ぶりの事であった。
彩希とマイア以外が絶句する中で彩希は淡々と話をする。
「さすが、時間ピッタリ。ありがと由花」
由花は眼光鋭く彩希を睨む。が、彩希は表情一つ変えない。由花の視線に気づくと何でもないように言い放った。
「うん、まあ久しぶりだし挨拶くらいしておいたほうが良かったかなって思ってさ」
明らかに腹を立てている由花の声はそれでも静かで小さかった。
「普通に出張だって聞いてたけど」
「えー?、だから普通に出張だよ? ほら、これが報酬」
彩希は涼しい顔をして二本括りにした焼酎を掲げて見せる。
「あ、あの、由花…… その、久しぶり」
伊緒が恐る恐る声をかけると、由花は心持ち顔を赤らめながら小さく頷く。
「お久しぶり……」
朴念仁の極みでもある伊緒は、由花が自分に好意を抱いていたとは未だ知らない。だが、伊緒とシリルが交際を始めて以来、何か強くて良くない感情を自分とシリルに向けていることくらいは理解できていた。
気まずい空気が流れる。
「あ、あの五十畑さん……」
シリルもありったけの勇気を振り絞って由花に声をかけた。バレーコートでのレーザー兵器のような視線を思い出す。今にも車から玄能《げんのう》でも持ち出してくるんじゃないか。そんな恐れる心を抑え、プログラムに則り軽く会釈する。
「どうも……」
由花はシリルと目を合わせずやはり小さく会釈した。
事情の呑み込めないマイアを除けば、彩希だけがいつもと同じ少しとぼけた風に、少し声高に、一同に声をかける。
「まあ、ちょっとした同窓会みたいなもんだよね。なんなら伊緒んちで矢木澤さんにコーヒー淹れてもらう? これがまたバリスタ級においしくてさあ」
シリルとしてはぎょっとする提案だった。由花としても似たようなものだったろう。二人とも俯き加減で視点が定まらない。
「ああ、いいね! もしよかったらおいでよ。二人のことも聞かせて。ね、由花もいいよね」
「……え、その ……う、うん」
先にも述べた通りの朴念仁っぷりを大いに発揮した伊緒は一瞬で気を取り直し、無邪気に由花に声をかけていた。そうなると由花としては実に断り辛い。それを横目で見てクスリとする彩希も由花には実に腹立たしい。
シリルとしても身の休まらないひと時が来そうでいささか憂鬱だった。
結局のところ一行は伊緒宅へ引き返し一服していく事となった。
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