偽りの星灯火(ほしともしび)

永倉圭夏

文字の大きさ
94 / 100
エピローグ2.落陽

第十五話 思わぬ再会

しおりを挟む
 すると彩希が伊緒いおのとよく似たマルチグラスで通信する。

「あ、ちょっと出てきてくれるかな。うん。だって傘ないんだもん え? まあいいからいいから、ね。それじゃ」

 簡単に通信を済ます。伊緒とシリルには状況がよく呑み込めなかった。

「さて、じゃあお暇しようかな、と。あ、焼酎二本もありがとうね。きっと喜んでもらえるはず」

 玄関を開けて軒まで伊緒、シリル、彩希、マイアの四人が出てくるとさすがに少し手狭だ。

 その時家の前に停まった白いセダンから傘を持った一人の女性が下りてくる。

 少し機嫌の悪そうな顔をしたストレートセミロングのその女性は、彩希の後ろに伊緒とシリルがいるの気づき、まるで息が止まったかのようにして目を剥いた。

 伊緒もシリルも驚きの色を隠せない。こうして面と向かって顔を合わせたのは伊緒はプールでの鉢合わせ以来、シリルは球技大会で憎悪の視線と言葉をぶつけられて以来、実におよそ十九年ぶりの事であった。

 彩希とマイア以外が絶句する中で彩希は淡々と話をする。

「さすが、時間ピッタリ。ありがと由花」

 由花は眼光鋭く彩希を睨む。が、彩希は表情一つ変えない。由花の視線に気づくと何でもないように言い放った。

「うん、まあ久しぶりだし挨拶くらいしておいたほうが良かったかなって思ってさ」

 明らかに腹を立てている由花の声はそれでも静かで小さかった。

「普通に出張だって聞いてたけど」

「えー?、だから普通に出張だよ? ほら、これが報酬」

 彩希は涼しい顔をして二本括りにした焼酎を掲げて見せる。

「あ、あの、由花…… その、久しぶり」

 伊緒が恐る恐る声をかけると、由花は心持ち顔を赤らめながら小さく頷く。

「お久しぶり……」

 朴念仁の極みでもある伊緒は、由花が自分に好意を抱いていたとは未だ知らない。だが、伊緒とシリルが交際を始めて以来、何か強くて良くない感情を自分とシリルに向けていることくらいは理解できていた。
 気まずい空気が流れる。

「あ、あの五十畑さん……」

 シリルもありったけの勇気を振り絞って由花に声をかけた。バレーコートでのレーザー兵器のような視線を思い出す。今にも車から玄能《げんのう》でも持ち出してくるんじゃないか。そんな恐れる心を抑え、プログラムに則り軽く会釈する。

「どうも……」

 由花はシリルと目を合わせずやはり小さく会釈した。

 事情の呑み込めないマイアを除けば、彩希だけがいつもと同じ少しとぼけた風に、少し声高に、一同に声をかける。

「まあ、ちょっとした同窓会みたいなもんだよね。なんなら伊緒んちで矢木澤さんにコーヒー淹れてもらう? これがまたバリスタ級においしくてさあ」

 シリルとしてはぎょっとする提案だった。由花としても似たようなものだったろう。二人とも俯き加減で視点が定まらない。

「ああ、いいね! もしよかったらおいでよ。二人のことも聞かせて。ね、由花もいいよね」

「……え、その ……う、うん」

 先にも述べた通りの朴念仁っぷりを大いに発揮した伊緒は一瞬で気を取り直し、無邪気に由花に声をかけていた。そうなると由花としては実に断り辛い。それを横目で見てクスリとする彩希も由花には実に腹立たしい。
 シリルとしても身の休まらないひと時が来そうでいささか憂鬱だった。

 結局のところ一行は伊緒宅へ引き返し一服していく事となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...