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エピローグ2.落陽
第十四話 帰宅
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彩希が留守番をしてくれているマイアの待つ家へ、伊緒とシリルが帰りついたのは、結局一週間ほど経ってからの事だった。
「いや、本当に、申し訳ない」
「色々お手数をおかけしました」
すっかり彩希に頭が上がらない二人だったが、彩希はいつもと変わらない気さくな笑顔で応える。
「いやいや、なんのなんの、どうせ事務所も暇だったしさ。うんうん、もっとなんて言うかこう称賛し給えあたしを」
「彩希様最高です」
「女神様です」
「いやいやいやいや、あっはっは、気持ちいいなあこれ」
「あ、こちら。ご所望の麦焼酎鴛鴦でございます。どうぞお納めください」
「うんうん、苦しゅうないぞ」
シリルの足元にマイアがしがみ付いてきた。
「シリル」
伊緒と彩希がふざけた会話をしているのは放っておいて、シリルは屈んでマイアの髪をなでる。
「いい子にしてた?」
「うん。アイスも二つにしてた」
「そう、お利口さんね。彩希おばさんと何して遊んだの?」
「おばさん」
耳ざとい彩希が反応した。
「あのね、あのね。コインがテーブルを通り抜けるの!」
目を輝かせるマイアに彩希が割って入る。
「ああ、手品なんですよ。マイアちゃん凄いんですよ。七割は種明かしできちゃって。でもこのコインがテーブルを貫通して落ちる手品はなかなかわからないみたいでね。見てみます?」
彩希がリビングのテーブルで実演してみる。なるほどコインがテーブルを貫通しているように見える。伊緒にはそのタネが一向に判らなかった。
何度か彩希が披露してみると、シリルははたと何かに気付いたようで、マイアに耳打ちをする。
「視覚情報に囚われないで聴覚センサーを使うと判るかも知れないわよ」
ハッとなったマイアはテーブルの下の彩希の手にコインが握られているのを見つける。
「いや、さすがだね。経験がある分お母さんの方が一枚上手かな」
苦笑いをする彩希。
「まだ見せてあげようか。カードも結構やるんだよ」
「いつの間に覚えたの? マジックが趣味だなんて知らなかったなあ」
「最近ね。暇つぶし。慣れると結構簡単なんだよ」
「見せていただいてもいいのですけど、お帰りが遅くなってしまいません?」
「ああ、迎えをよこしているので、それ待ちです。雨も降って来ちゃいましたしね」
「あれ? 気が付かなかったよ」
「予報だと夕立程度なんだけど。雨の中トラムで帰るのはちょっとね。だから車を呼んだの」
「自動運行タクシー?」
「いやいや自前の。あ、来たんじゃないかな」
家の前に電気自動車が止まったがその音は伊緒には聞き取れなかった。
「いや、本当に、申し訳ない」
「色々お手数をおかけしました」
すっかり彩希に頭が上がらない二人だったが、彩希はいつもと変わらない気さくな笑顔で応える。
「いやいや、なんのなんの、どうせ事務所も暇だったしさ。うんうん、もっとなんて言うかこう称賛し給えあたしを」
「彩希様最高です」
「女神様です」
「いやいやいやいや、あっはっは、気持ちいいなあこれ」
「あ、こちら。ご所望の麦焼酎鴛鴦でございます。どうぞお納めください」
「うんうん、苦しゅうないぞ」
シリルの足元にマイアがしがみ付いてきた。
「シリル」
伊緒と彩希がふざけた会話をしているのは放っておいて、シリルは屈んでマイアの髪をなでる。
「いい子にしてた?」
「うん。アイスも二つにしてた」
「そう、お利口さんね。彩希おばさんと何して遊んだの?」
「おばさん」
耳ざとい彩希が反応した。
「あのね、あのね。コインがテーブルを通り抜けるの!」
目を輝かせるマイアに彩希が割って入る。
「ああ、手品なんですよ。マイアちゃん凄いんですよ。七割は種明かしできちゃって。でもこのコインがテーブルを貫通して落ちる手品はなかなかわからないみたいでね。見てみます?」
彩希がリビングのテーブルで実演してみる。なるほどコインがテーブルを貫通しているように見える。伊緒にはそのタネが一向に判らなかった。
何度か彩希が披露してみると、シリルははたと何かに気付いたようで、マイアに耳打ちをする。
「視覚情報に囚われないで聴覚センサーを使うと判るかも知れないわよ」
ハッとなったマイアはテーブルの下の彩希の手にコインが握られているのを見つける。
「いや、さすがだね。経験がある分お母さんの方が一枚上手かな」
苦笑いをする彩希。
「まだ見せてあげようか。カードも結構やるんだよ」
「いつの間に覚えたの? マジックが趣味だなんて知らなかったなあ」
「最近ね。暇つぶし。慣れると結構簡単なんだよ」
「見せていただいてもいいのですけど、お帰りが遅くなってしまいません?」
「ああ、迎えをよこしているので、それ待ちです。雨も降って来ちゃいましたしね」
「あれ? 気が付かなかったよ」
「予報だと夕立程度なんだけど。雨の中トラムで帰るのはちょっとね。だから車を呼んだの」
「自動運行タクシー?」
「いやいや自前の。あ、来たんじゃないかな」
家の前に電気自動車が止まったがその音は伊緒には聞き取れなかった。
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