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第16話 姉と最後のデート
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すると姉はパッと顔を輝かせる。
「よしっ。じゃ、姉ちゃんとデートしよっ」
「はあ? デート?」
僕は素っ頓狂な声を出す。
「そっ、デート」
満面の笑みを浮かべる姉。少し顔が赤いような気もする。
「だからあ、さっきも言ったでしょ。姉弟でそういうことはしないんですけど?」
呆れながらもどこかしら照れて言い返す僕に、姉は少し怒った顔を見せる。
「何よっ、昔だって散々してたじゃん、デート」
「え? してないって」
「じゃ、何だったの? 今までのあれは」
「んー、普通に姉弟で映画鑑賞とか、タケノコ掘りとか、銀杏拾いとか、お花見とか、そんなの?」
「ちっちっちっ、それを世間ではデートと言うんですなあ」
水を得た魚のような表情になる姉。ここのところの元気のなさが嘘のようだ。一方の僕は少々うんざりした。
「むちゃくちゃだよ」
「むちゃくちゃでもデートはデート。姉弟デートなの」
「はあ、姉弟デート…… あの、僕の話聞いてました?」
「聞いてた聞いてた。だからこれが最後のデート。ねっ、いいでしょ」
「最後?」
「んっ、そ。今日のデートを最後にもうこんなことはしない。だからあー、ねえいいでしょおー、お兄ちゃあん」
またこれかよ。
でも僕にしつこくデートをせがんでくる姉を見ながら僕は思った。これも姉なりに精一杯気持ちを整理しようとしているんじゃないだろうか。最後にあと一回だけ、思うままにデートをしてそれを思い出に僕との距離を開ける。そういうことであれば一回だけならいいだろうと思った。それに、いくら今は体調がいいとはいえ、いつ死ぬのかも判らない姉にこういった恋愛の真似事っぽい思い出を作ってあげるのもいいことのように思える。僕はそういった考えを言い訳にして、姉とデートするくらいはいいかも知れないと考えた。本当は僕自身も姉とデートしたくてうずうずしていたのに、それについて僕は心の奥底に隠し通した。
そう考えたところで僕もすっかりその気になった。これで最後だというなら精一杯いい思い出を作ってあげたかった。僕は胸を高鳴らせながら姉に問いかける。
「わかった。じゃあ行きたいとことかある?」
姉はくすっとほほ笑んで、驚いたことにどこかはにかみながら上目づかいで僕を見る。その表情を見た途端に僕は胸を何かに鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。
「ゆーくんが決めて」
「えええ」
「ふふっ、ちゃんと姉ちゃんをエスコートしてよね。期待してるから」
「僕にエスコートしろって言うのか」
「そ」
「それはなかなかハードル高いなあ……」
「そんなことないよ。ゆーくんなら姉ちゃんの好きなものを誰よりも判ってるし、姉ちゃんもゆーくんが選んでくれたものならなんでも楽しいに決まってるから」
「うーん」
僕は腕を組んで悩んだ。それこそデートするかしまいか悩んだ時より悩んだ。
「よし判った。そのかわり文句なしだよ。もちろん僕も頑張ってみるけどさ」
「うん……」
姉が僕の首元に腕を回してきて抱きついてくる。僕は「今日だけの特別だぞ」と言って、僕自身もそれを言い訳にして姉を抱擁した。抱擁をとくと少しのぼせた顔の姉が僕を力ない目で見つめている。よせよ、それじゃまるで本物の恋人じゃないか。僕は胸の高鳴りをごまかした。姉の早い鼓動を感じた。ああ、生きている。生きているんだ。姉は今ここに確かに生きている。そう思うと自然と僕の腕に力が入った。
「ねえゆーくん……」
「……なに?」
「これからお互いを名前呼びしない? あたし、優斗って呼ぶから、優斗も愛未って呼んで」
「えっいやそれは……」
「いや?」
「ううーん……」
「だってさ、デートするのに『姉さん』じゃカッコつかないじゃん」
「あー」
「でしょ」
気持ちはわかる。判るけど、さすがにそれにはものすごい抵抗があるぞ。
「い、一応努力はするけど…… 僕にとって姉さんはやっぱり姉さんなんだし…… 名前呼びしたらそれはどこか別の人のような気がしてくる。ごめん」
「ん、判った。それに年上を名前呼ぶするのって抵抗あるもんね。いいよ、無理しないで」
「あ、ああ。ごめん」
「よしっ。じゃ、姉ちゃんとデートしよっ」
「はあ? デート?」
僕は素っ頓狂な声を出す。
「そっ、デート」
満面の笑みを浮かべる姉。少し顔が赤いような気もする。
「だからあ、さっきも言ったでしょ。姉弟でそういうことはしないんですけど?」
呆れながらもどこかしら照れて言い返す僕に、姉は少し怒った顔を見せる。
「何よっ、昔だって散々してたじゃん、デート」
「え? してないって」
「じゃ、何だったの? 今までのあれは」
「んー、普通に姉弟で映画鑑賞とか、タケノコ掘りとか、銀杏拾いとか、お花見とか、そんなの?」
「ちっちっちっ、それを世間ではデートと言うんですなあ」
水を得た魚のような表情になる姉。ここのところの元気のなさが嘘のようだ。一方の僕は少々うんざりした。
「むちゃくちゃだよ」
「むちゃくちゃでもデートはデート。姉弟デートなの」
「はあ、姉弟デート…… あの、僕の話聞いてました?」
「聞いてた聞いてた。だからこれが最後のデート。ねっ、いいでしょ」
「最後?」
「んっ、そ。今日のデートを最後にもうこんなことはしない。だからあー、ねえいいでしょおー、お兄ちゃあん」
またこれかよ。
でも僕にしつこくデートをせがんでくる姉を見ながら僕は思った。これも姉なりに精一杯気持ちを整理しようとしているんじゃないだろうか。最後にあと一回だけ、思うままにデートをしてそれを思い出に僕との距離を開ける。そういうことであれば一回だけならいいだろうと思った。それに、いくら今は体調がいいとはいえ、いつ死ぬのかも判らない姉にこういった恋愛の真似事っぽい思い出を作ってあげるのもいいことのように思える。僕はそういった考えを言い訳にして、姉とデートするくらいはいいかも知れないと考えた。本当は僕自身も姉とデートしたくてうずうずしていたのに、それについて僕は心の奥底に隠し通した。
そう考えたところで僕もすっかりその気になった。これで最後だというなら精一杯いい思い出を作ってあげたかった。僕は胸を高鳴らせながら姉に問いかける。
「わかった。じゃあ行きたいとことかある?」
姉はくすっとほほ笑んで、驚いたことにどこかはにかみながら上目づかいで僕を見る。その表情を見た途端に僕は胸を何かに鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。
「ゆーくんが決めて」
「えええ」
「ふふっ、ちゃんと姉ちゃんをエスコートしてよね。期待してるから」
「僕にエスコートしろって言うのか」
「そ」
「それはなかなかハードル高いなあ……」
「そんなことないよ。ゆーくんなら姉ちゃんの好きなものを誰よりも判ってるし、姉ちゃんもゆーくんが選んでくれたものならなんでも楽しいに決まってるから」
「うーん」
僕は腕を組んで悩んだ。それこそデートするかしまいか悩んだ時より悩んだ。
「よし判った。そのかわり文句なしだよ。もちろん僕も頑張ってみるけどさ」
「うん……」
姉が僕の首元に腕を回してきて抱きついてくる。僕は「今日だけの特別だぞ」と言って、僕自身もそれを言い訳にして姉を抱擁した。抱擁をとくと少しのぼせた顔の姉が僕を力ない目で見つめている。よせよ、それじゃまるで本物の恋人じゃないか。僕は胸の高鳴りをごまかした。姉の早い鼓動を感じた。ああ、生きている。生きているんだ。姉は今ここに確かに生きている。そう思うと自然と僕の腕に力が入った。
「ねえゆーくん……」
「……なに?」
「これからお互いを名前呼びしない? あたし、優斗って呼ぶから、優斗も愛未って呼んで」
「えっいやそれは……」
「いや?」
「ううーん……」
「だってさ、デートするのに『姉さん』じゃカッコつかないじゃん」
「あー」
「でしょ」
気持ちはわかる。判るけど、さすがにそれにはものすごい抵抗があるぞ。
「い、一応努力はするけど…… 僕にとって姉さんはやっぱり姉さんなんだし…… 名前呼びしたらそれはどこか別の人のような気がしてくる。ごめん」
「ん、判った。それに年上を名前呼ぶするのって抵抗あるもんね。いいよ、無理しないで」
「あ、ああ。ごめん」
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