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第34話ランガの森ダンジョン編 ⑮

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「シルフの魔力探知は正確だ。無茶な探索さえしなければ、マリアとベックでも十分に攻略可能なダンジョンなんじゃないか? そもそも俺は戦闘が苦手なんだ」
「よく言うわ。あれだけ派手な地属性魔法を使っておいて」
 マリアが呆れた顔でハルトを見る。
「何度も言ってるが、あれは俺の力じゃない。精霊の力なんだ。ノ―ムとシルフがいなきゃ俺はとっくにやれれてた。とにかく、ダンジョン探索の件は断る」
 頑固な表情を崩さないハルトを見て、マリアがため息をついた。
「ごめんね、ベネディ。ハルトって職人気質というか、変なとこで頑固なのよ」
「いいえ。こちらこそ、貴重な装備まで作っていただいたのに無理なお願いをしてごめんなさい」
 ベネディクタが丁寧に頭を下げる。
「いや、俺の方こそ力になれなくてすまない。でも、新装備の作成やメンテナンスならいつでも力になるよ」
 ハルトが笑顔で答え、椅子から立ち上がった。
「おい、どこ行くんだよ? 話はまだ終わってないぞ」
 ノ―ムがハルトの周囲を飛び回る。
「俺は仕事があるから失礼するよ。話が終わるまで部屋は好きに使ってくれて構わない。ノ―ムはみんなの邪魔するなよ」
「チェっ。付き合いの悪いヤツだな」
 部屋を出ていくハルトの背中を見ながら、ノ―ムが舌打ちする。

「マリアとベックはこの件、引き受けてくれるかしら?」
「私は引き受けるよ! 自信は無いけど、大事な友達の頼みなら力になりたい」
 マリアが即答した。
「マリア……嬉しいわ。本当にありがとう」
 ベネディクタがマリアの両手を握りしめる。
「もちろんベックも行くわよね?」
「俺は……」
 ベックが言葉に詰まる。
「何よ、らしくないわね。いつものベックなら『俺に任せとけ!』とか自信満々に答えるのに」
「俺は、現実を見ちまったからな。ゴブリン相手に取り乱して、まともに戦えなかった。だけどマリアは違った。冷静な判断で戦って、ゴブリンどもを押し返し、劣勢だった戦況を一気にひっくり返したんだ」
「ちょっと、やめてよ。私一人の力じゃないでしょ。ベックや冒険者みんなで戦った。みんなでルドルフの町を守ったんだよ」
 マリアがベックの顔を真っすぐに見つめる。
「マリアは本当の意味で強い冒険者だよ。俺はあの時、ひたすら恐怖に震えた。死にたくないと思って、他のヤツのことなんてどうでもよくなってた」
「あの状況なら当たり前でしょ。私だって余裕は一欠けらも無かったわ。生きるために必死で剣を振った。結果こうして生き延びた。私が剣を振ったことでみんなの戦意が回復し、結果ゴブリン軍団を撃退できた。恥じることは何も無いよ」
 マリアの言葉にベックが涙ぐむ。
「マリアの言う通りです。あなたの活躍はマリアから聞いています。あなたはあの戦場を生き抜いた。絶体絶命の状況を切り抜ける力があります。ネームドゴブリンのゾイドと戦うマリアをサポートし、ピンチを救った。勇気と行動力があります。私は理由なしに勧誘したりしませんよ」
 ベネディクタが静かに語った。
「行きます。俺の出来る限りのことをやって、ベネディさんをサポートさせてください」
「よしっ、決まりね!」
 マリアがベネディクタを見てにっこり笑った。
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