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第二話
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「ああ疲れた」
フィリップが長椅子に身を投げ出すと、第一王子アベルが「聖女さまのお相手はそんなに大変なのか?」と心配そうに尋ねて来た。
「大人しそうな方に見えたのだが、実はすごくわがままなのか?」
「いや、卑屈なくらい謙虚だよ。真面目だし頑張り屋だし、すごくいい子なんだけど、ただちょっと内気すぎてね」
「ああ、一緒にいるとこっちも気を使って疲れちまうってやつねー、分かる分かる」
第二王子のジョージが茶化すように口を挟んだ。
「あの聖女さまっていかにもそんな感じだもんなー。お前が大神官に指名されたときはコンチクショウって思ったもんだが、こうなってみると俺じゃなくて良かったわー」
「そういう言い方するなよ兄上、不敬だぞ」
「ていうかあの聖女さまっていったいなにやってんの? 神殿で祈ってるって言われても、加護とかぜんぜん感じないんだけど」
「だからそういう言い方するなって」
フィリップはジョージをいさめながらも、内心共感するところがないでもなかった。
――フィリップ殿下、神託により、殿下が聖女さまの婚約者に選ばれました。
大神官からそう告げられた時には、誇らしさと使命感で胸がふるえたものである。
聖女さまを一番近くで支え、何があってもお守りするのだと意気込んだ。
しかし実際に会ったクローディアはいたって平凡な田舎娘で、神々しさなど微塵もないし、東の聖女イザベラや、西の聖女アリシアのように奇跡を起こすわけでもない。
当初の情熱が冷めていくのに、さして時間はかからなかった。
大神官は、東西の聖女なんてしょせんただの子供だましで、我が国の聖女さまこそが世界を守る要なのだと力説するが、その具体的な内容となると途端に歯切れが悪くなる。
そのくせ「とにかく大事なお役目なのですから、婚約者としてしっかり勤めてくださいね、お願いしますよフィリップ殿下」と繰り返し念押しされるのが、正直かなりうっとうしい。
兄王子や従弟たちが連れている才気あふれる美女を見るにつけても、あんな神託さえなかったら、と思ってしまうのをおさえられない。
(まあ選ばれた以上は仕方ないから、彼女の前では優しい婚約者を演じるくらいはするけどさ)
フィリップがため息をついていると、第一王子アベルが「聖女さまといえば、東の国の聖女さまが、今うちの国境沿いの神殿に来ているのを知ってるか?」と唐突な質問を投げかけて来た。
「へえ、あんな辺鄙なところに聖女さまが?」
「うむ。なんでも降臨際に備えて、国内各地の神殿を回って祝福を与えているらしい。あそこなら王都から馬で三日もあれば着くだろうから、お前、行ってきたらどうだ?」
「俺に他国の聖女さまに会いに行けっていうのか?」
「お前はこのあいだ魔獣に右手をやられただろう。イザベラさまにお会いして、癒しの奇跡をお願いしてみろ」
「うーん、そこまでするほどの傷じゃないしなぁ」
「いや正直言うとな、イザベラさまの力が本物かどうか、お前に確かめてほしいのだ。それでもし本物だったら、なんとか我が王都に来てもらえるよう彼女を説得してほしい。ここだけの話、父上の病は薬が効かなくなってきているらしくてな」
「そうか。父上が……」
三人の父親である国王には持病があり、以前からときどき発作を起こしていた。これまでは薬によって症状を改善させることができたのだが、今回は随分と長引いており、フィリップも心配していたところである。
フィリップは「そういうことなら」とイザベラに会いに行くことを了承した。
フィリップが長椅子に身を投げ出すと、第一王子アベルが「聖女さまのお相手はそんなに大変なのか?」と心配そうに尋ねて来た。
「大人しそうな方に見えたのだが、実はすごくわがままなのか?」
「いや、卑屈なくらい謙虚だよ。真面目だし頑張り屋だし、すごくいい子なんだけど、ただちょっと内気すぎてね」
「ああ、一緒にいるとこっちも気を使って疲れちまうってやつねー、分かる分かる」
第二王子のジョージが茶化すように口を挟んだ。
「あの聖女さまっていかにもそんな感じだもんなー。お前が大神官に指名されたときはコンチクショウって思ったもんだが、こうなってみると俺じゃなくて良かったわー」
「そういう言い方するなよ兄上、不敬だぞ」
「ていうかあの聖女さまっていったいなにやってんの? 神殿で祈ってるって言われても、加護とかぜんぜん感じないんだけど」
「だからそういう言い方するなって」
フィリップはジョージをいさめながらも、内心共感するところがないでもなかった。
――フィリップ殿下、神託により、殿下が聖女さまの婚約者に選ばれました。
大神官からそう告げられた時には、誇らしさと使命感で胸がふるえたものである。
聖女さまを一番近くで支え、何があってもお守りするのだと意気込んだ。
しかし実際に会ったクローディアはいたって平凡な田舎娘で、神々しさなど微塵もないし、東の聖女イザベラや、西の聖女アリシアのように奇跡を起こすわけでもない。
当初の情熱が冷めていくのに、さして時間はかからなかった。
大神官は、東西の聖女なんてしょせんただの子供だましで、我が国の聖女さまこそが世界を守る要なのだと力説するが、その具体的な内容となると途端に歯切れが悪くなる。
そのくせ「とにかく大事なお役目なのですから、婚約者としてしっかり勤めてくださいね、お願いしますよフィリップ殿下」と繰り返し念押しされるのが、正直かなりうっとうしい。
兄王子や従弟たちが連れている才気あふれる美女を見るにつけても、あんな神託さえなかったら、と思ってしまうのをおさえられない。
(まあ選ばれた以上は仕方ないから、彼女の前では優しい婚約者を演じるくらいはするけどさ)
フィリップがため息をついていると、第一王子アベルが「聖女さまといえば、東の国の聖女さまが、今うちの国境沿いの神殿に来ているのを知ってるか?」と唐突な質問を投げかけて来た。
「へえ、あんな辺鄙なところに聖女さまが?」
「うむ。なんでも降臨際に備えて、国内各地の神殿を回って祝福を与えているらしい。あそこなら王都から馬で三日もあれば着くだろうから、お前、行ってきたらどうだ?」
「俺に他国の聖女さまに会いに行けっていうのか?」
「お前はこのあいだ魔獣に右手をやられただろう。イザベラさまにお会いして、癒しの奇跡をお願いしてみろ」
「うーん、そこまでするほどの傷じゃないしなぁ」
「いや正直言うとな、イザベラさまの力が本物かどうか、お前に確かめてほしいのだ。それでもし本物だったら、なんとか我が王都に来てもらえるよう彼女を説得してほしい。ここだけの話、父上の病は薬が効かなくなってきているらしくてな」
「そうか。父上が……」
三人の父親である国王には持病があり、以前からときどき発作を起こしていた。これまでは薬によって症状を改善させることができたのだが、今回は随分と長引いており、フィリップも心配していたところである。
フィリップは「そういうことなら」とイザベラに会いに行くことを了承した。
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