俺のソフレは最強らしい。

深川根墨

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88.食卓を囲んで

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 丘の上にぽつんと建つマンション。その一室は相変わらず賑やかだ。
 四人掛けのダイニングテーブルに七人が囲んでいる。
 京はダイニングテーブルを囲う面々を見て頬をかいた。まず、右手の二人。

「だーかーらー、俺は一人で食えるって……」
「ダメ。ほら、イチ、お口開けて?」

 金髪と赤毛の身長差カップルがイチャつく。壱也は慣れないのか、頬張るときに頬が朱に染まる。その反応が嬉しいのであろう、スケのにんまりが止まらない。
 二人は最近一緒に暮らし始めたそうだ。スケの押しに負けたのだと壱也は言い張るが、壱也がスケを見る目はとても優しい。

 京は視線を左に転じる。そこにはカクが座っていた。カクはとうとうスマホに変えたらしく、スマホを持つ手は震えている。今は食事中だというのに隣に座るゼロに操作方法を質問している。
 よほど混乱しているのか、箸の先で画面を押してしまっている……こんな不器用な人がよく思い切ったものだ。

「これが俺の息子。可愛いだろう? これを表紙にしたいんだけど」
「あ? あーロックか? ホーム?」
「え……シャーロックホームズって何?」
「……どうなってそうなった? それは探偵だろうが。というか、俺は今紅白なますに忙しいんだ」

 愛息の存在を知らなかったカク。
 カクには内緒で所沢があしながおじさん、サンタクロースとして活躍していたそうだ。
 雅美から口止めされていた所沢だったが、そのプレゼントを買いに行く仕事をカクにさせていたと言う。所沢らしいなと京は思った。
 壁紙設定に戸惑うカクを微笑ましく見ていると正面に座る二人の声が耳に入った。
 
「うるさい……箸の使い方ぐらい自由にさせてくれません? ヤクザが礼儀作法にうるさいだなんて……」
「突き刺すのは頸動脈か延髄のみとか言わないでくださいね。肉団子も可哀想です」
「不味くなる……僕の好きに食べさせてよ」
「刺し箸は厳禁です」

 雪の精霊のような銀髪の男とそれを窘める貴族のような所作の男が静かに言い合いをしている。お互い敬語を使っているが険悪だ。
 マリナのそっけない態度は相変わらずだが、ツンデレのように思えて可愛い。野良猫を餌付けしているような気分だ。
 所沢もマリナを可愛がっているようで、箸の正しい使い方から友達の作り方まで親のように面倒をみている。

「大学が昼からなのに、寝坊しているのはなぜですか? 貴方、私の部屋から通わせますよ?」
「それ、は……困リマス……」
「あぁ、キングベッドですのでお気になさらず」
「いや! 僕は気になります!」
「あー……私が巨根かどうかですか? 貴方、どれほど大きくても受け入れると豪語していましたしねぇ? あ、ゼロ限定でしたか?」
「それは……」
「諦めて、私の抱き枕になりませんか? マリナ」

 真っ赤な顔をしたマリナがそっぽを向く。その反応に所沢は満足げに微笑んでいる。 

……という訳で、我が家は相変わらず賑やかというか、何というか。各々話をしながらもしっかり手と口は動いており、あっという間に机の上に並べられたおかずたちが消えていく。壮観だ。

「照国京、おかわりをください」
「はいはい。お茶碗半分ぐらいで良い?」

 コクっと頷くマリナは素直で可愛い。少し申し訳なさそうな顔を見せるのもさらに良い。マリナに白飯を渡すと、ゼロが「食え」と近くにあった鰹のパリパリふりかけを手渡した。マリナは煌めく瞳でそれを見つめ、両手で受け取った。
 ふりかけの袋の音に反応した雷太が皆の足元で右往左往している。それを見たゼロがポケットからサイコロ状のお菓子を差し出す。

「雷太が肥えますよ、ゼロ」
「良いんだ。可愛いから」

 帰ってきてからゼロが雷太に甘々だ。これは由々しき問題で、散歩の時間を多めに取り、尚且つ自分があげるおやつは低カロリーのものに切り替えている。

「あ、マリナ。お前、雷太と京さんたち3Pしてるって勘違いしてたよなー? ハハハ」
「……卑猥な拘束具。〇月〇日深夜購入。翌月に色違いのピンク……」
「あぁぁぁぁぁああああぁぁあッ⁉︎  おま、え‼︎  スケ、違う、ピンク色は買ってない!」
「……ふぅん?」

 恥辱の渦に引き込もうとしたが、あっけなくマリナから返り討ちを受ける壱也。そして、情報提供を受けたスケは舐めるような視線を壱也に送る。これは火にガソリンをぶっかけた状態だろう。ご愁傷様。

 視線を左に戻すと、屈強な二人組はまだスマホを覗き込んで眉間に皺を寄せている。

「あー、画像加工のサプリを使わないと」
「……アプリだ」
「え? あ、指紋認証で購入って書いてある……サツに情報がいくのか? まずいな……」
「怖がるなカクさん。警察の指紋データはいくらでもすり替えられる」
「うんうん、やっぱゼロくんは頼りになる」

 ゼロとカクの何とも言えない会話に思わずにやけてしまう。
 スマホに遊ばれるカクと、ヘンテコなフォローをするゼロの会話は面白い。

 右に左に、左に右に。あっちゃこっちゃに飛び交う会話たち。それを目で追い、京は密かに微笑んだ。
 ご飯が何倍も美味しい。ご飯を食べることが待ち遠しかった。
 京は一人で済ましてきた孤独な食事を思い返し、あの頃の自分に伝えてあげたかった。
 いただきますとごちそうさまを忘れないで、と。

 思い耽っているといつのまにか皆の視線が自分に注がれていた。

「え?」
「「「「「おかわり」」」」」

 先ほどおかわりをしたマリナを除く全員がお茶碗を掲げていた。
 京は鼻の奥にツンとしたものを感じながら勢いよく席を立った。

「うん! たんと食べてや!」
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