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第一章

69 女神神社

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エリカと学校で別れた後、冬華は一人で帰宅していた。さっきの事もあってかまだ冬華は混乱していたが落ち着いてきたのでスターバーストという喫茶店で飲み物を買って歩いているとふとした瞬間足は家ではなく違う方へと向かっていた。

「あれ?ここ・・・神社?」

いつの間にかいた場所は神社だった。名前を見ると女神神社。藤寺愛由美の実家だったはずだ。

「なんでこんなとこに来てんだ俺は・・・・折角だし拝んでいくか」

冬華は教会だか神社だとかいう場所は苦手である。理由としては神とかの存在を信じていないからだ。魔術士の端くれとしてそう言ったものが有る、存在するのは理解しているが、実際に目に見える物しか信じないところがあるからだ。
ああいったものを信仰している人間達の気がしれない。

「こんな事言ったら蹴られそうだが、まぁでもいいか。意外と綺麗だな。ローズから聞いてはいたが本当に女神像が沢山あるんだな」

神社内に入るとそこら中に女神像が立っていた。こんなものを祀っているというのは珍しい。ローズの話ではこの神社はかつて存在した女性達を女神として例えて祀っているらしい。
この女神達は全員、冬華のご先祖様に仕えていた女性達らしく、冬華ともこの神社は無関係とは言えなくはない。それに此処に入った時に、初めて入った筈なのに懐かしいとさえ思ったのは先祖の記憶の影響なのだろうか。

少し破損部分はあるとはいえ、数多くある女神像は綺麗に保たれているものが多い。よく見ればどんな女性なのか分かってくる。動物の耳が生えた女神、植物を操る女神、武装した女神、ドレスを着た2丁銃の女神、剣を握った騎士女神、妖精の姿をした女神、和装した女神、そして少し離れたところには7人の像が並んでいた。他のとは違うデザインで全員が手を繋いでいるような形となっているとおもう。服装から察するに恐らくは歌姫か何かであるだろう。

この7人も何かの象徴となる武器があるが、他の像も比べて破損が目立つ為どんなのかは分からない。けれど一人だけ分かったのが鎌のようなものが見える。死神だろうか?女神なのに?
残っている伝記、書物が少なすぎる為どんな人物で何をしたのかは分かっていない。分かるのは先祖本人、もしか、先祖の魂と記憶を受け継いだ者のみだ。

「一度・・・会ってみたいもんだな」

何気ない一言でそう言って冬華は目の前の女神像の台座に触れる。すると、0.1秒の間に頭の中に大量の意識や記憶、ありとあらゆる何とも形容できない何かが冬華の頭に流れ込んできた。人間の頭は一度に大量の記録を頭に入れると処理が追いつかず意識を失う事がある。だからとて、その記憶が脳のキャパを超えることはなく、今思い出せないだけで脳の記憶の片隅に保存されているような状態な訳だ。
今の状況は冬華の頭のキャパを超えてしまい、ゆっくりと前のめりに膝を突く。

(やべぇ・・・これは、立ってられ・・・・ねぇ)

膝をついて何とか倒れずにしていたが頭が強制的にシャットアウトし意識が途切れる。意識が無くなると同時に夢を見る。最初は子供の頃の夢だったりしたが、次第に別の夢へと変わる。最初は夢だと認識できていた意識も薄れてきてやがては完全に闇に落ちた。



・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。




長い長い夢を見ていた気がする。此処とは大きく違う世界の夢を。
意識が段々と覚醒してきたのは倒れてからどのくらい経ってからだろうか。何処までも落ちていた自分の意識を取り戻し考える事は出来るようになったがまだ目が醒めず起きる事もできない。
だが其処のところは何とかできる。意識さえあるならば身体中の魔術回路に魔力を巡らせて体を活性化させる。
すると、体の自由が利くようになった為、目を開ける事もできた。ゆっくりと体を起こし周りを確認する。
畳の匂いがする、何処かの居間だ。此処は何処なのだろうと考えるが、自分が倒れた場所を考えると恐らくは女神神社の中だ。
立ち上がり襖を開ける。まだ寝ぼけていたのか目の前にいる人の気配に気が付かず接触した。ほぼゼロ距離だ。

「・・・ふ、藤寺?」
「・・・・・良かった~。目が覚めたんだね、星川くん」

目の前に現れたのは巫女服を着た藤寺愛由美だった。咄嗟だったのでぶつかりそうになった彼女を少しばかり抱き寄せるような体制になってしまっていた。

「ご、ごめんなさい!」
「いや、こっちこそ・・・・お前が俺を?」
「うん。妹にも手伝ってもらったんだ。私一人じゃ大変だったから」
「悪いな。神社の中で倒れて」
「ううん。丁度掃除に出てきたら星川くんが女神像の前で倒れてたから吃驚したの。本当に心配したんだから」
「・・・すまん。ちょっと・・・・・貧血気味だったみたいでな。次は気をつけるよ」
「でも星川くんも神社来るんだね。そんなイメージなかったから驚いちゃった」
「・・・気がついたら此処に足が行ってたんだ。この神社に不思議と惹かれてさ」
「私もこの神社が大好きなんだ。此処に祀られている女神様達はかつて世界を統べていた人に仕えていたそうなんだ。一度会ってみたいな~」
「・・・・・俺もだよ」
「えっ?・・・知ってるの?」
「・・・・・先祖が此処の女神と関係あったらしくてさ。俺も最近知ったんだけど」
「へぇ~。・・・・・じゃあ星川くんは【魔術士】なんだね?」
「!・・・・なんでそれを」

その言葉を聞いて驚いた。まさか愛由美からその言葉を聞くとは夢にも思ってみなかったからだ。
どんな状況においても顔には出すなと学んできたが、不意打ちではどうする事も出来ないのが人間の弱い所だ。

「・・・私、神社の巫女さんだよ?そういうのには無関係じゃない役職だし魔術的な神楽も舞えるから星川くんが此処の神社と関係があるって聞いたら魔術士関係なのかなって思ったんだ」

驚いた。巫女である事は神社の話を聞いた時から思ってはいたし、現に格好を目の当たりして確信はしていたが本当に魔術を扱う巫女だったとは。
巫女が扱う魔術は特殊であり、通常の魔術士が扱う魔術とは違う系統のものが多くある。
陰陽師のようでもあり、または神道とも言われる。魔を滅する事などにも精通していて中々に奥が深い。
西洋で言うところの聖女のような役割と考えているところもある。

冬華もそれなりの魔術士だ。相手を見ればどれだけの技量かは分かる。生まれ持って才能もあるし、努力の成果なのだろう。ほぼ魔術士としては遜色ない程の腕前を愛由美は持っている。更には儀式神楽も舞えると言うのだから大したものである。ここまで卓越した巫女もまた現代ではそう見ない。

「巫女なんて初めて見たよ。まさか藤寺が魔術士だったなんて・・・意外だった」
「私も星川くんが魔術士なのに驚いたよ。この神社に来たのってもしかして・・・」
「多分・・・先祖の影響なのかもな。さっき倒れてたのは像に触れたらなんか頭に流れ込んできて、脳の処理が追いつかずキャパオーバーで倒れたんだ」
「そうだったんだ。もう平気?へっちゃら?」
「大丈夫。動きに支障はないし俺はピンシャンしてる。俺はどのくらい寝てたんだ?」
「1時間くらいかな?外はもう暗くなりそうだし」
「結構世話になったんだな。俺、帰るよ」
「えっ!」
「そんな驚くなよ。流石にこれ以上世話になるわけにはいかねぇしさ」
「え、えっと・・・その・・・ほ、ほしかわくん」
「?」

愛由美はわたわたと慌て出した。とても常識人の彼女とは思えない。

「良ければ・・・今日・・・ごはん食べていかない?家で」
「え?」
「も、勿論!予定があれば断ってくれてもいいし、嫌なら嫌で言ってくれていいから!」
「・・・・・」

今日はエリカと飯を食べる予定を立てていたのだが、今の時間帯ではもしかしたら今帰ってるかもしれない。

「すまん。少し連絡するから待ってくれ」
「う、うん」

冬華はスマホを取り出し早打ちでエリカにメッセージを送る。すると10秒くらいで返事が返ってきた。しかしその文面は少しばかり怒っているような気がする。

『いきなりなんです?もう材料買ってしまいましたよ』
「すまん。ちょっと食事に誘われてさ」
『・・誰に?』
「・・・藤寺」
『藤寺さん?・・・分かりました。帰る頃に連絡してください』
「了解。ありがとな、エリカ」

連絡を終え、スマホをしまう。帰る際に何か買って帰らなければならないと胸に誓う冬華であった。

「星川くん?」
「あ、ああ、大丈夫。折角だから、言葉に甘えていいか?」
「ほ、本当?」
「ああ。俺も何か手伝おうか?」
「ううん。星川くんは休んでて。出来たら声かけるから」

そう言って愛由美は厨房?の方へと歩いて行った。冬華はそれを見送った後、靴を履いて外に出る。あの女神像がある場所へだ。先ほど触って倒れてしまった女神像に触れるがもう何もない。大量の情報が流れ込んできたあの時、冬華の中で何かが変わったような気がしたのだが、今はそんなに変わりがない。
この女神像の元になっている人達はご先祖様と深い関わりがあったとは聞いているが、実際に何をした人なのかはローズも知らないと言っていた。

今度機会があれば書物を漁ってみようと思いながら冬華は愛由美の様子を見に戻る。

『■■■■■■■■■■■■■■■■■』
「・・・え?」

冬華は空耳で女神像に振り返る。今確かに声がした気がする。更に一人の気配ではなくもっと大勢の人の気配がしたと思ったのに振り返ると誰もいない。

けれど、像の前に何かが落ちていた。首から下げられる紐の先にあるのはキーホルダーのような小さな剣だった。
何か力を感じるが、今の冬華では分からない。けれど何故かとても懐かしく感じた。今度ローズに渡して調べてもらう事にしようと冬華はそのペンダントをポケットに仕舞い込みながら歩く。

その後ろでは女神像の前に何人もの人影が立っていた。それは幻なのか幽霊なのかは分からないが、どんな時でも冬華を見守っているような雰囲気があった。










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