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悔恨編
52. ロイside
しおりを挟む危険種を倒してから2日。
明日とうとう俺たちは王都へ戻らなければならない。
2日前難なく危険種を確認されていた4体と他2匹を倒した後、その日は門の外の警護を手伝ったりして探しに行けなかった。
昨日は昨日で街を歩く度多くの人に囲まれ危険種を倒したお礼を言われるので人探しどころの話じゃなかった。
それでも一応今日も街に出てきてみた。
「今日はあんまり近寄ってこないな」
「アル様に怯えてるんじゃないですか?顔こっわいですよ」
「あ?んなわけねえだろ」
ビルドの言う通り今日は俺たちを取り囲もうと寄ってくる人が少ない。少ないに越したことはないが昨日との差の激しさについ呆けてしまう。
まぁアルの顔が不機嫌極まりないのもひとつの原因だと思うが。
「明日の昼にはここを経つから今日見つけないと…」
「でも本当にここにいるんですかね?もう移動したんじゃないですか?」
「……それは…わからないが…」
ビルドの言葉も最もではある。
子爵も俺たちがここに来ることを知った時点で目的がシルヴィアだと気づいたはずだ。その時にここから別の場所に移した可能性もある。
まぁその時はその時。また違う日に探しにいくだけだ。
「騎士様っ!!」
不意に後ろから声を掛けられる。振り返ると一昨日のリックスという酒屋の青年だった。
汗だくの青年は息も絶え絶えで俺たちの元へ走ってくる。
俺たちは顔を見合わせその場に止まった。
「そんなになってどうした」
「はぁ、はぁ、あの、くみ、ねが…」
「1回お茶飲んで落ち着きましょう。話が出来ません。」
ビルドの合図で護衛2人がタオルで汗を拭ったり水を飲ませる。
そうして少しするとリックスの呼吸も大分落ち着いたようだ。
「はぁ、ありがとうございます」
「いえ、で、どうしたんだ?今日はそんなに暑い気温ではないと思うが。」
「はい…その…クミネを探しているんです…何か知りませんか…?」
「クミネ?」
クミネとは誰だったかと思ったがすぐに頭に浮かんだ。唯一の孤児でフードの妖精の顔を見た唯一の人物。
その彼がどうしたのか。
「探してるって言っても…家とかにいるんじゃないのか?」
「クミネの家は門の外にあるんです。でもこの間の危険種が出た時から姿を見てなくて…普段は一日に1回は門の中に入って来てたのに……」
「あの日からか……」
そういえば森に走って行ってたよな、と考えてあることを思い出した。
だがそれをこの青年の前で言うには少し憚られた。
「……ちょっと仲間にも声をかけてみるよ。だからまた後で集合しよう。」
「ありがとうございます!!」
走っていくリックスの背を見て、声が聞こえるはずのない距離まで言ったことを確認する。
「なぁ…あの時危険種の周りに既に体力の血があったよな……?」
「……血?……あ、……確かに」
「……もしや?」
アルも護衛達も見ていたらしい。危険種の周りに散っていた大量の血を。
「……その可能性は高いかもしれない。俺たちより先に森に入った者はいないだろうし…」
「あの危険種を斬れる手練も中々いないはずだしな…」
あの危険種、つまりボア種は集団で移動する。それに仲間意識が強いため一体を狩れば必ず他の奴らが襲ってくる。流石にそれら全部を相手にできる人は俺の知る限りでは存在しない。
それに凶暴なボア種との戦闘であれだけの血しか流さないのも難しいだろう。血管を綺麗に斬ればあるいは……ただそれは理論上では、という条件がつく。
それに1匹だけ他に気づかれず、というのも不可能だろう。
「……ヴィーの仲間とか?」
「……ヴィーの……?」
不意に呟くようにアルはそう口にした。
シルヴィアの仲間、その線は考えてなかった。
思えばシルヴィアが1人で生活出来るはずがない。誰かと生活している、という当たり前のことがなぜ思いつかなかったのか。
「だがそれとクミネがいなくなった理由が結びつかない」
「……仲間が連れてったとか?」
「……だがクミネはシルヴィアを悪魔だと罵ったんだろう?……仲間が見つけた時点で…」
───殺したんじゃないか。
流石にその一言は口に出せなかったが皆は察したらしく俯いた。
「……まだ確定じゃない。探そう」
「ああ、そうだな」
「じゃあとりあえず森の方行ってみましょうか」
俺たちは歩き出す。
心の中で諦めにも気持ちを抱いていることを悟られないようにしながら。
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