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会遇編
35.
しおりを挟む街で幸せな家族を見るたびそれを自分の家族に置き換えて想像していた。
父親、母親、自分、妹。もしかしたら仲良く過ごせる世界があったんじゃないかと。
普通の家族のように親に甘えたり妹と遊んだり出来たかもしれない。父の背に憧れ、母の愛に包まれ、妹の我儘に振り回される。そんな何気ない暮らし。
もし。もしも俺が光の御子じゃなかったら有り得たかもしれない世界。
あの時、あの日、初めて空が青いことを知った日。
俺も家族皆で死ねればよかったのに。死がなんなのか。何故彼らの首が取れたのか。それが何を意味するのかよく理解出来ていないまま家族はこの世を去った。無知な俺だけを遺して。
沢山のことを知っていろんな人に出会ったけど、大切な人達は皆、俺を捨てて逝ってしまう。
カイル達も、アマンダも、伯爵も。
皆俺を捨てる。勝手に拾い上げて希望を見せたあと飽きたら見向きもしないで捨てていく。
ねぇ。誰か俺を愛してよ。愛しつづけてよ。
「ヴィー…家族は…戻らないけど……これから俺と家族になろう……?」
泣きながら笑ってカイルが俺に震える手を伸ばす。
俺はその手を拒んだ。
「また化け物と呼んで絶望に叩き落とすんだろ!!わざわざそのために全部準備してたんだろ!?」
ビルドの地位も、俺の痛覚も、伯爵のことだって。
なのに、カイルはまるで自分が被害者かのような傷ついた顔をした。それが酷く苛立たしかった。お前は加害者だろ。そんな顔してんじゃねーよ。もっと飄々とした顔してろよ。隣のアルみたいなさ。…じゃないとまるでお前が本当に俺の事信じてるなんて馬鹿みたいな夢物語を鵜呑みにしそうになる。
「っんなことしない!俺は!本当に!!」
真剣なその瞳に呑み込まれそうになる。
本当にこいつは……カイルは…信じてもいいの、か…?
「───殺すべきだろう…?」
そんな楽観論はすぐ崩壊した。
アルが俺に向かって弓をかまえていた。
「なっ!?」
「おいばか!!早く武器を下ろせ!!」
「アル何してんの!?やめなさい!!」
「……嘘つき」
「ち、ちがう!おいアル!やめろ!!」
カイルもリアも慌てふためいている。それがどこまで本気なのか俺には何もわからなかった。ただやはり簡単に信じてはならなかったと再認識した。
「え、光の御子に矢は効かないんじゃ…?」
クミネが怯えながら伺ってくる。それもそうなのだが何故アルが知っているにも関わらず弓を構えているのか。
その答えは老人がもっていた。
「あれは魔封石で作られとるな。お前が入っていた地下牢と同じ素材だ。それはあらゆる祝福も呪いも魔法も通さない。」
俺の入っていた地下牢はなんだかすごいところだったらしい。
全く実感が湧かないが。
「普通光の御子ならば…いや普通の子供なら日常会話から言葉を覚える。だが魔封石に囲まれた地下牢での生活でお前は言葉すら覚えなかった。それは全て魔封石のせいだ。」
地下牢での日々を思い出す。確かに出てからはすんなりいろんなことを覚えたのにあの中では何一つ覚えなかったな、なんて他人事のように思った。
「魔とは聖。聖とは魔。魔を封じることで人体の脳を司る部分の役割をほとんど妨害していた。……それほどあやつは光の御子という存在を恐れていたのだろうな…」
「な、んで…いつの間にそのことを知った!アル!」
「……そいつが出ていってすぐだよ。教会の神父に教えてもらった。まぁ神父は魔封石で捉えて教会で飼い殺しにしたかったみたいだけどな。けど俺は」
──俺はお前を殺したい。
今までの睨みと全く次元の違う鋭い目付きと気配に身体が震えた。
これが死への恐怖だろうか。
どんな怪我も病気も一瞬で治る俺の唯一の天敵が今俺に向けられている。
それはとても恐ろしいことだった。
死とはこんなに恐ろしいものだったのか。
あの日、妹が必死にほとんど関わりなどなかった僕に命乞いしてきた意味がやっと分かった。今まで哀れだと思っていたと知ったら妹は激怒するだろうか。それ以前に虫に気を取られ命乞いに応じなかったことを激怒するかもしれない。
こんな状況なのに、いやこんな状況だからか。考えてもどうしようもないことを考えてしまう。
嗚呼、あの指が離されたら俺は死ぬ。
本能がそう言っていた。
「アルやめろ!!」
少し離れた所にいたカイルがアルへ手を伸ばす。
その光景がゆっくりと、そしてこちらに向かってくる矢でさえもまるで時間がゆっくり動いているかのように見えた。
「っん゙ん゙ん゙~ッッ!!」
くぐもったヒルハの呻き声だけがやたら鮮明に耳に届いた。
ドスッという肉が貫かれる音と共に。
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