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会遇編
34. カイルside
しおりを挟む嗚呼、どうして?
ようやくこの数年何よりも望んだ存在が目の前に居るのに彼は俺と同じように俺のことを望んではくれなかった。
憎悪の瞳が向けられる。
違う。違うんだ。誤解なんだよ。
名前を変えたのも、ビルドがそんなことしてたのも痛覚を戻したことだってお前を騙すためなんかじゃないんだ。
そこのヒルハとかいう奴のことだって後から知ったんだ。情報を得るためにその後追加で自白香を使わせたけれどそれも全部全部シルヴィアのためなんだよ。
分かってくれるだろう?ヴィー。
「……そんな化け物をわざわざこんな場所まで呼ぶなんて…どういうわけ?」
吐き捨てるようにヴィーが言う。お喋りが上手くなったのは良いけれど口が悪いのは頂けない。
「処刑してやるのさ。人の皮を被った蛮族の血を引いたやつがのうのうと生きていて良いわけがないだろ?」
「アル。余計な口を聞くな。違うんだよヴィー。ただ俺はヴィーと」
「うるさい。」
──もう一度暮らしたかっただけなんだ。
その願いは本人によって遮られた。
俺はアルを力いっぱい睨みつける。全てアルのせいだ。元々城から出ていったのも、今ヴィーにとてつもなく睨まれれているのも。
全てアルがヴィーを罵倒するからだ。
良い奴だと思っていた。
いや、ヴィーが絡まず正義感にも引っかからない点では未だ良い奴ではある。
ただ何故かヴィーを目の敵にしているし、謎の強すぎる正義感が時に暴走するだけで。
革命なんて起こしておいて何人も人を殺しているのにリアもアルも薄っぺらな正義を振りかざす。人間としてそれは正しい行いかもしれない。けれど為政者としては正しい行いではない。
それをどうして彼らは分からないのか。
「…筆頭文官……?」
ヴィーが小さく何かを考えるように呟いた。
「……ヴィー…?」
不審に思いながら問いかけると彼は目を見開き怒りを顕にした。
「そいつをその地位に置くために伯爵を誘惑したのか!?」
「は?伯爵?誰のこと?」
「とぼけるな!そうなんだろう!俺からお前が伯爵を…!!フォルネウス伯爵を奪ったんだろう!!」
フォルネウス伯爵。
その名に一気に吐き気が込み上げる。思い出したくもない醜態を思い出す。その行為を連動して憧れていた本物のロイのことを思い出してしまう。
「奪った?どういうことだ?」
俺の問いにヴィーは更に激昂した。
「まだしらを切るつもりか!お前に会ったせいで…!!お前のせいで…!!伯爵は俺を愛してくれなくなった!!お前のせいだ!!お前の…!」
「落ち着けユルハ。呼吸を整えろ。」
「ユルハ様…!!」
フーレ子爵とヒルハが眉を顰め心配そうに声をかける。
ヴィーをユルハと呼ぶ声に何故だか苛ついた。
彼は光の御子だ。もっと光の御子に相応しい名前がある。それこそシルヴィアのような。
「陛下がユルハから伯爵を奪った、と思っているようですが事実ですか?そう言えば見世での…ミーネのことを聞きに来たこともありましたしね。」
いつものようにニヤニヤとした表情を浮かべることなく真面目そうな面持ちをしてフーレ子爵が俺たちを見据える。
ミーネ。ミルネス。
その名がヴィーのことを表すのは更に気に食わない。最も程遠いものだ。ヴィーのどこがミルネスなのか。
ヴィーに拒絶は似合わない。
「そんなことをした覚えはない。」
「私は事務連絡以外で喋ったこともないわ。」
「……そんな奴知らねぇな」
俺たちは関わりがないと言った。
「嘘だ!!ロイ=アドマイヤーが誘惑したんだ!!あいつが俺から全てを奪ったんだ!!」
けれどヴィーはどれだけ言葉を尽くしても信じられないようだった。
周りが必死に宥めるがその声が聞こえていないように俺を睨みつけている。その目に明確な殺意の色が浮かんでいる。
「何故そう思う?俺はヴィーから何も奪っていないよ。」
その言葉に一瞬ヴィーはきょとんとしてすぐに先程よりも濃い憎悪を宿らせた。
「……俺から全てを奪っていった癖に…!!家族も城も見世も今の穏やかな暮らしだって!!放っておいてくれたら俺は一生郊外で長閑に暮らすだけで良かったのに!!全てを忘れて過ごせたのに!!」
「ヴィー……」
いつの間にか涙を流しながら俺達を睨む。その剣幕に何も言えなかった。
ただ力なくその既に捨てた名を呼ぶことしか。
「何も奪ってないって言うんなら!!俺の家族を返してよ!!俺は一生地下に入れればそれで良かったんだ!!」
彼の慟哭に彼をただこちらの都合だけで探し続けてしまった己になんと言えばいいのか分からなかった。
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