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sixth
しおりを挟む「なんだあいつは本当に見せてなかったのか。」
くつくつと心底可笑しそうに笑う父上を睨む。
何が何だか理解できない今の俺にはそんな姿さえ夢の一部のように思えた。
心優しく常に可愛がってくれた父上がこれなのか?
ただ頭の中にぐるぐると言われた言葉が駆け巡る。
ラルアの背中、家畜の紋、俺のため、反乱の種、王になるため。
───俺のためにラルアが殺された?
そのありえない事実が段々と現実味を帯びて俺の頭に入ってくる。
この男は俺が王なんかになるというくだらない理由のためにラルアを殺したのか?
何かが俺の中で切れた気がした。
「……っざけるな!!そんな、、そんなくだらないことのためにラルアをっ……!!ラルアを…!!」
「くだらなくはないだろう?王位継承は大切だ。お前の人生で最も大切な役割だろうが。」
全く意味がわからないと言いたげに小首を傾げているこの男を今すぐ斬りたかった。
理性がなんとかそれを留めているだけで本能は今すぐこの屑をぶっ殺せと訴えている。
ただ、俺の剣はラルセントの剣だから。ただそれだけの理由が俺を留めていた。
人を守るための剣技。最も誉高き剣。……今では俺だけが受け継いだ、俺だけの使える剣。
それを激情のままに穢したくなかった。あいつが何よりも大切にしたものだから、あいつが俺に遺したものだから、あいつと最も深く関わったものだから。
それだけでこの男へ斬り掛らない十分な理由になった。
「……家畜の紋とはどういうことだ。」
「知らないと言うことは性行為はしてないんだな」
「……答えろ。どういうことだ。」
「あんな汚物と交わっていたらお前と言えど廃嫡するところだったぞ」
「いいからはやく答えろって言ってんだよ!!」
いちいち癇に障る言い方をするこいつを殺してやりたい。だがそれではこいつの思うがままなのだろう。
きっと挑発に乗って攻撃を仕掛ければ何らかの罠があるのだろう。だから先程からわざと癪に障る言い方をしているのだろう。
酷く愉快そうに笑いながらこいつの喋った言葉に俺は言葉を失った。
「あいつを連れてきてから毎晩犯してやったよ。あのお綺麗な顔が怯えと恐怖に変わり白濁に塗れる姿は酷く唆った…。だがいつまで経っても生意気だから立場を分からせるために焼印をいれてやったのさ。あの日のあいつは良く鳴いた。」
──嗚呼、酷く愉快だった。
鳥肌がたった。
自分が尊敬していた父が、俺の何よりも大切なナディアにそんな外道な行いをしていたなんて。
ナディアは俺が父上の話をする時どんな思いで聞いていたのだろう。過去の自分を殺してやりたい。あの時あいつはどんな顔をしていたのか。
「クソ外道がぁ…!!貴様ぶっ殺してやる!!!」
「エルリカ何故怒る。恋人などまた作れば良いだろう。良家の令嬢でも子息でもお前なら選り取りみどりだ。」
心の底から思っているかのような声音に更に苛つく。この野郎は本気で代わりがいると思っている。ナディアはナディアだけしかいないのに。
「ああ、まああいつの泣き叫ぶ姿と穴の具合は最高だったから代わりは難しいかもなァ!!あはははははは!!!」
「ぶっ殺す!!」
抜刀して奴を目掛けて駆け出す。兵士たちが立ちはだかるが雑魚しかいない。
こんな弱い手を抜いたときのナディアの十分の一の強さもない奴が国の最高レベルなどと笑わせてくれる。
次々と切り伏せていく。その度にナディアとの修行の日々が頭を駆け巡る。
ナディア。ラルア。師匠。愛しい人。
色んな名前で呼んだ。そのどれでもお前はその澄んだ瞳で俺の目を見つめ返してくれた。強い意志を持ったその瞳で。
なぁ。俺はお前がいないと何も出来ないんだよ。お前も知ってるだろ?
なのにどうしてお前だけそっちに行っちまうんだ。一緒に駆け落ちでもなんでもしたのに。どうしてお前はいつも一人で抱えて勝手に俺の手の届かない所に行ってしまうんだろうなぁ…
お前だって泣き虫で寂しがり屋の癖にさ。
俺が隣にいてやらないとお前はきっと泣くだろう?
ひとり、また1人と騎士が殺されていく。
弱い。こんなのが近衛?
騎士が倒れていく数に比例するかのように段々と顔色を失い惨めに逃げようとする父王。退路を経つと先程まで余裕綽々にラルアのことを馬鹿にしていた口でラルアを褒めたたえ命乞いをしてきた。
こんな奴のせいでラルアは苦しんでいたのか。それに俺は終ぞ気づくことがなかったのか。
「え、エルリカ!!俺が悪かった!お前になんでもやる!今すぐにでもこの国をやる…!!だからっ……!!」
「くたばれ下郎。地獄へ堕ちろ。」
剣に着いた汚い血を振り払う。
振り返ると生者は誰もおらず血に染った部屋に血だらけのまだ暖かい肉塊が横たわっているだけだった。
俺は酷く後悔した。
高潔な人を守るためのラルセントの剣を怒りに任せて復讐のために使ってしまった。
早くナディアの元へ行こう。
そう思い部屋を出るとガタガタと震える昔から仕えてくれている使用人がいた。
彼女は初めからナディアに友好的でナディアも彼女には心を開いているようだった。
「あ、……」
「…………………」
彼女は生かしておこう。そう思いその横を通り過ぎようとした。
「お待ちください!!あ、あの……昨晩……ラルア様から手紙を預かっております……」
「何!?何処だ!!」
急いで振り返り彼女の元へ戻ると震える手で彼女はメイド服のポケットから手紙を取り出した。
薄れてはいるが微かにナディアの匂いがした。枯れたと思った涙がまた滲む。
しかし人前で泣いてはならぬと己を律しなんとか堪える。
「…お前は……毒のことを知っていたのか…?」
「…いえ、……昨日……ラルア様が……これから先俺はエルリカ様の傍には居てやれないから代わりに支えてやってくれ。あいつは1人では何も出来ない困った奴だから、と手紙を託して下さって……今朝になって初めて知りました……私以外は知っていたのできっと……」
「そうか……ありがとう……」
きっとこのメイドに伝えれば俺に伝えて反乱を起こされると思ったのだろう。
そしてメイドに何も知らせなかったナディアにも少し苛立った。もし伝えていてくれたら2人で生き残れたかもしれないのに。
どうして1人でお前は抱えてしまうんだ。
お前の方こそ困った奴だろう。
人のことは言えない。
もう会えない愛しい人へ不満を抱いた。そして小さく口角を持ち上げた。
素直じゃない彼の本音を俺だけは分かっている。俺だけが覚えている。
もう会えないけどこの気持ちは色褪せない。数時間前まで悲しみに打ちひしがれていたが今はなんとか持ち直せた。
彼が惜しみなく与え続けてくれた愛情のお陰だろう。
そして震える手で愛しい彼が最後に残した手紙を開いた。
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