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しおりを挟むパン、と頬に痛みが走る。
「この…この馬鹿娘が!!」
「…お父さん!!」
「…………」
厳しいながらに今まで1度も手を挙げたことのない父が私の頬を打った。
彼と別れてから2週間。彼は私の家に置いていた荷物を少しずつ持ち帰り、いつの間にか私の部屋には彼のものは無くなった。
彼が最後の荷物を持って部屋を出る時、嫌だと泣く私を彼は辛そうに、けれどきっぱりと拒絶して私の縋る手を無視して出ていった。
それが一昨日のこと。
私はこの土日を使って実家に帰ってきていた。
両親には帰る、とだけ伝えて用件は伝えていなかった。だが、久しぶりに顔を合わせただけでわかる程私は窶れ、目蓋は赤く腫れていた。
初めは純粋に心配していた両親は、私の子を身ごもり彼と別れた話を聞き呆然としていたが我に返った途端、頬を打った。
「学生の身でありながら何を考えてるんだ!!しかも子供ができた途端捨てるような男と…!!」
「……りっくんを悪く言わないで!!結婚しないって言われただけで…」
「それと捨てられたのと何が違う!!そいつをここに連れてこい!!」
怒り狂う父、泣いている母、心配そうに扉の隙間からこちらを眺める弟。
私はそれを他人事のように見つめていた。
「まいちゃん…あなた、避妊しなかったの…?」
母が泣きながら問うてくる。
私は首を横に振る。
「……ちゃんとゴムつけてた…でもそれでも妊娠することはあるんだって先生が……」
「……っこの…」
母はそれを聞き少しは安心したようだった。
父はそれでも怒りが鎮められないといった風に肩を怒らせる。
「……私なんで…こうなっちゃったの…?ただ、幸せに…りっくんと家族になりたかっただけなの……赤ちゃんも欲しかったけど今すぐ欲しかった訳じゃないの…でも赤ちゃん出来たと知った時も……ただ嬉しくて…喜んで欲しくて報告したのに……っこんなことなら…赤ちゃん出来たなんて言わなければ良かった……!!」
どうしてだろう。
周りのカップルみたいにデキ婚するんだと思っていた。
世間の目は厳しくてもそんなの気にしないくらい幸せになるのだと信じていた。
家族になるのだと信じていたのに。
どうして隣にりっくんはいないの?
どうして私は1人になっちゃったの?
どうしてお父さんとお母さんは怒ってるの?
私はただ幸せになりたかっただけなのに。
「まいっ……あぁ、、あぁ…この馬鹿娘が…!!あんたって子は……」
お母さんはそう言って私を強く抱きしめた。
次第に視界が滲んでくる。
久しぶりに感じたお母さんの匂いは懐かしくて温かくて幸せの匂いがした。
「ぅ…あ、あ…ああああああああ…!!」
私は子供のように泣き喚いた。
いつの間にかお父さんも私を抱きしめていた。
お父さんは嗚咽を漏らさず泣いていた。
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