幸せの形

夜瑠

文字の大きさ
5 / 9

5.

しおりを挟む



パン、と頬に痛みが走る。

「この…この馬鹿娘が!!」

「…お父さん!!」

「…………」


厳しいながらに今まで1度も手を挙げたことのない父が私の頬を打った。

彼と別れてから2週間。彼は私の家に置いていた荷物を少しずつ持ち帰り、いつの間にか私の部屋には彼のものは無くなった。

彼が最後の荷物を持って部屋を出る時、嫌だと泣く私を彼は辛そうに、けれどきっぱりと拒絶して私の縋る手を無視して出ていった。

それが一昨日のこと。

私はこの土日を使って実家に帰ってきていた。

両親には帰る、とだけ伝えて用件は伝えていなかった。だが、久しぶりに顔を合わせただけでわかる程私は窶れ、目蓋は赤く腫れていた。


初めは純粋に心配していた両親は、私の子を身ごもり彼と別れた話を聞き呆然としていたが我に返った途端、頬を打った。


「学生の身でありながら何を考えてるんだ!!しかも子供ができた途端捨てるような男と…!!」

「……りっくんを悪く言わないで!!結婚しないって言われただけで…」

「それと捨てられたのと何が違う!!そいつをここに連れてこい!!」


怒り狂う父、泣いている母、心配そうに扉の隙間からこちらを眺める弟。

私はそれを他人事のように見つめていた。



「まいちゃん…あなた、避妊しなかったの…?」

母が泣きながら問うてくる。

私は首を横に振る。

「……ちゃんとゴムつけてた…でもそれでも妊娠することはあるんだって先生が……」

「……っこの…」

母はそれを聞き少しは安心したようだった。
父はそれでも怒りが鎮められないといった風に肩を怒らせる。


「……私なんで…こうなっちゃったの…?ただ、幸せに…りっくんと家族になりたかっただけなの……赤ちゃんも欲しかったけど今すぐ欲しかった訳じゃないの…でも赤ちゃん出来たと知った時も……ただ嬉しくて…喜んで欲しくて報告したのに……っこんなことなら…赤ちゃん出来たなんて言わなければ良かった……!!」



どうしてだろう。


周りのカップルみたいにデキ婚するんだと思っていた。
世間の目は厳しくてもそんなの気にしないくらい幸せになるのだと信じていた。
家族になるのだと信じていたのに。

どうして隣にりっくんはいないの?

どうして私は1人になっちゃったの?

どうしてお父さんとお母さんは怒ってるの?



私はただ幸せになりたかっただけなのに。



「まいっ……あぁ、、あぁ…この馬鹿娘が…!!あんたって子は……」

お母さんはそう言って私を強く抱きしめた。

次第に視界が滲んでくる。

久しぶりに感じたお母さんの匂いは懐かしくて温かくて幸せの匂いがした。

「ぅ…あ、あ…ああああああああ…!!」



私は子供のように泣き喚いた。

いつの間にかお父さんも私を抱きしめていた。

お父さんは嗚咽を漏らさず泣いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...