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しおりを挟むその日の晩ご飯はいろんな店から出前を取った。
お寿司、ピザ、丼、色々頼んで、食べきれないほど頼んで残ったのは明日食べようねって笑った。
皆で一頻り泣いたあと誰もこの話題に触れなかった。
皆何事も無かったかのように過ごして、普段と変わらないように笑った。
ずっとこの時間が続いたらいいのにって思った。
「舞。」
お風呂から上がって部屋に向かおうとしたら父に呼び止められた。
その真剣な瞳にやっぱりちゃんと話さないとな、と気持ちを決めた。
薄暗いリビングで父と母が待っていた。
弟はもう寝た。
普段は明るい食卓に似つかわしくない重たい空気が痛かった。
「…………どうするんだ。」
沈黙を破ったのは父だった。
私はりっくんと別れ話をしたときからずっと考えて、悩んで悩んで悩み抜いた後に出した結論を口にした。
「…産みたい。せっかく学費払ってくれて県外の大学まで行かせてくれて本当に感謝してる。けど、私はこの子を産みたい。だから……大学を辞めたい。」
「……1人で育てるつもりか?金は?仕事はどうする?」
「……これから産んで1歳になる頃くらいまではこの家で過ごさして欲しい。お金は海外旅行に行くつもりで数百万は貯めてるの。それを崩して、バイトもギリギリまでは働いて稼ぐ。」
「もし今後好きな人ができた時その子供は確実に障害になるぞ。まだお前は21歳だ。これが最後の恋ではない。」
「……確かにりっくんは居なくて、私1人で、でももうこの子は命なんだよ……?りっくんに言われたみたいに堕ろして彼と生活する未来とか、別れてこの子も堕ろすことも考えたけど……私はこの子を殺したくないの。」
頬を涙が伝う。
何度も考えた。
この子さえ居なければ私はまだりっくんと2人きりのあの部屋で笑ってたのに、とか。
今ならまだりっくんとやり直せるんじゃないか。
私は1人っきりでこの子をちゃんと育てられるのか、虐待してしまうんじゃないか、とか。
そもそも私はまだ大学生で、年齢的には成人だけれどまだまだ子供だ。そんな私が母親になれるのか、とか。
それでももう、この子を命だと認識してしまったから。
愛した人の子供を殺せなかった。
長い間また沈黙がリビングに響いた。
「舞ちゃん…子育てって本当に大変なんだよ?ママだって、パパと2人の子育てでも本当に辛かった。それが舞ちゃんは倍の苦労、いや倍以上の苦労をすることになるんだよ?本当に分かってるの?」
「……苦労するのは分かってる。でも…」
「舞ちゃんのその赤ちゃんを殺したくない、って気持ちは偉いと思う。けど、もし子育ての心労がたたって舞ちゃんが倒れたら?もし子供が悪さをしたとき、なにかする度きっと若い片親だからだって言われるんだよ。お綺麗な倫理観は捨てて自分の将来を考えなさい。」
母の厳しい目線が私を貫く。
苦労するのは私にだって分かっている。
片親なだけでいろいろ言われるしそれに私はまだ若い。何かあればすぐ攻撃の的になるだろう。
それでも
「……私は産む。」
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