拝啓、頑張り屋の貴方へ

夜瑠

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妹が俺の唯一だった。


物心ついた時から人生はなんてくそみたいなんだろうと思ってた。
酒を飲んで暴れる母親。けたけた笑いながら堂々と浮気相手を家に連れ込む父親。ご飯代だけ置かれたテーブル。冷たいコンビニ飯しか食べたことがなかった。


父親に興味があるという理由だけで犯された2年後、俺は宝物を見つけた。


唯。

俺の唯一の家族。

このくそみたいな家族の中で唯一の天使。柔らかい肌をしてキュッと俺の指を握ったその姿に妹だけは守り抜くと決めた。


流石に出産のために酒を飲まなくなった母親は初めてまともな人間に見えた。まともになった母親はそのまま父親と離婚した。もともと愛情があったのか定かではない人達だから元々離婚話は出ていたのかもしれない。


唯という名前は俺が付けた。

俺みたいな「名前考える時に窓の外見たら夕日出てたから」なんていうくそみたいな由来の名をこの子には付けたくなかった。

父親というストレッサーの居なくなった家は快適だった。母親も酒を飲まないでいたから平和だった。俺はこのままの家族になれるんじやないかって期待した。

唯が離乳食に変わった頃、母親はまた酒に溺れるようになった。

その日から俺の人生は唯を守るためだけに使われるようになった。

高校生と偽りバイトをして稼いだ金で唯に玩具やお菓子を与えた。唯と遊んで家事をしてバイトして学校いって。
大変ではあったが唯のためだと思えば耐えれた。

そんな生活を何年も続け、気づけば20歳を超えていた。

その頃から唯は反抗期なのか昔のように笑いかけたり話しかけたりしてくれることは無くなったけれど、それでも唯は俺の宝物のままだった。

唯が不器用な子だと知っている。
唯が優しい子だと知っている。
唯が良い子だと知っている。

だから何も心配しないでいられた。

だから、あのクソ親父に頭を下げられた。

「お金が必要なので援助してください。」

クズを窮めたような父親だったが大手の勤めだったので高給取りだった。裏では糞だが表ではまともな親父は頼るには打って付けだった。


仕事先の人は働きすぎだと、気を使ってくれたがそれでも足りないと思った。

唯の将来のためにはもっと金がいる。何処の大学に行くとしても足りるくらいにしなければ。

俺みたいな人生を歩ませてはいけない。

進学して、就職して、結婚して、暮らしていく。

甘えん坊だった唯にはとても寂しい思いをさせてしまった。小さな子供が家に1人で留守番させられるのは寂しかっただろう。

早く帰ってきて、と何度も泣かれた。その姿が今も忘れられない。

ぼろぼろのぬいぐるみを抱きしめて泣きながら眠る唯を何度抱きしめたことだろう。
唯が寝る前には頑張って帰ってくるからね、なんて約束を何度破ったことだろう。

それなのに唯は俺を一切責めずに朝起きればお兄ちゃんがいる、と笑ってくれた。その笑顔で俺は頑張れた。


小学生のときもきっと俺のせいで何か問題が起きていたのだろう。俺に暴言を吐いてしまって顔面蒼白にしている姿には胸が傷んだ。

ごめんなぁ、優しい唯にそんな言葉言わせてしまってなぁ。俺は駄目なお兄ちゃんやな。大丈夫、大丈夫やからな、唯は何にも悪くないからな。


悪いのはそんなの言わせてしまった兄ちゃんやからな。




久しぶりに昔のことを思い出してしまった。

あの日と同じでシチューを作ろうとしてるからだろうか。

それとも風邪で思考がマイナスに振れているのか。

頭がガンガンと痛む。今回の風邪はちょっと酷いかも知れない。
シチュー作る前に少しだけ仮眠を取る事にする。


唯、ちょっとだけ待っててな。少しだけ寝たら今度こそ唯の好きなシチュー作ってやるからな。

きっとコンビニ飯より美味いはずやから、明日は一緒にシチュー食べような。






fin.
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