うちの居候は最強戦艦!

morikawa

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第6章

6-4

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 いくら慰めても、セラスはへたり込んだまま動こうとしなかった。

 こころは多少元気を取り戻したものの、草の上に体育座りしてぼんやりと街を見てる。とてもこっちを手伝ってもらえる状況じゃなさそうだ。

 まあ、あんまりこころとセラスは接触しない方が良いのかもしれないが。俺は八つ当たりのようにラナをじろっと見ると、ラナもさすがに言い過ぎたと思っていたのか、うっと呻いてこころの影に隠れる。

 俺はどうしようかと困っていると、

『こちらも全機撃破した。そちらもとりあえずアパートへ戻れ』

 というサレナからの連絡が頭に届いた。それを聞いたラナはこころの影から出て、いそいそと空間の穴を作った。あいつも困っていたらしいな、一応。

 俺はセラスを抱きかかえるように立たせて、連れ出す。こころもなんとか動けるようだが、ふらふらとしている。

「もう、だめだね。これ以上ここに居ちゃ・・・」

 と、こころが呟くのが聞こえた。どういう意味だ? まあ、さっさと帰った方が良いのは確かだが・・・

 アパートに帰った俺達は、カルティにセラスを診てもらった。検査の間、俺とこころは育子さんが淹れてくれたお茶をリビングのソファーに座ってすすっていた。そこへサレナが戻ってくる。

「セラスはまだだめか」

 サレナはそう言いながら俺達の横のカウチに腰かける。

「どうなんだ、ヴァルミン達の動きは」

 俺の質問にサレナは、

「太陽系には確実に居ないな。あと、ついでに光学観測をして来た。少なくとも二十光年以内にはそれらしい存在は確認できない。超高速航行を使っても一気には襲撃しては来られないだろう」

 と答えた。

「じゃあ、しばらくは大丈夫ってことか」

「いや、そうとも言い切れない。奴らは突然現れるからな」

「突然?」

「そう、突然だ。超高速航行でやってくるのであれば、高重力が検出されるはずだ。時間や空間を歪めるには重力しか手段が無いからな。だが、やつらの移動にはそれが無い。まるで別の世界から現れるように、忽然と出現するのだ」

 その時、こころが湯のみをひっくり返した。育子さんがそれを素早く拭きながら、

「そういえばカルティが、ヴァルミン達は別の宇宙からやって来ている可能性があると言ってましたわ」

 と言った。ああ、こないだ揉まれた時にサレナもそんなこと言ってたな。

「でも、私達がこっちに来た時はあんなに派手な大穴を開けて来た、です」

「確かにそうだよな」

 ラナの言葉に俺は頷く。

「あんなに影響が出ればすぐに分かるだろう?」

「それが正論のように思えるが・・・育子、我々はこの宇宙に来るまで別の宇宙が存在するという確かな実証データを持たなかったので判断は難しいだろうが、科学者としてどう思う?」

「断定はできませんが・・・セラスやラナのように時空に大きく干渉するのではなく、世界の壁と言いましょうか、その壁をすり抜ける程度に干渉する技術があれば、痕跡が分からないかもしれません」

 育子さんはサレナの問いに少し考えてからそう答えた。

「あら~、盛り上がってるわね~?」

 その時、セラスの手を引きながらカルティが壁の穴から出て来た。

「どこも異常なかったわよ~」

 にこにことそう言いながら、カルティもソファに腰掛ける。セラスは俺の隣に来てしょぼんと立っている。

「まあ、セラスは人と同じに生んだんだから、精神の状態によって船体のスペック通りに性能が出なかったり、動かせない場合があるというのは想定の範囲内よ~」

 そうか、まだ吹っ切れてないのか・・・俺はどうしようもなく申し訳ない気持ちになって、セラスの手を引いて俺の横に座らせた。

「で、さっきの話だけど」

 育子さんが持ってきた湯のみを受け取りながらカルティは言った。

「こころちゃん、何か知ってるんじゃない? ヴァルミンのこと」

 お茶を淹れ直してくれた育子さんに会釈していたこころは、それを聞いてびくっと震えた。そして、少し間を置いてから、

「・・・全自動連邦星系攻撃システム・・・」

 と呟いた。な、なんだよ、それは? 全員がこころを見る。こころはうつむいたまま、話し始めた。

「私は別の宇宙から来たの」

「本当なのか、それは?」

 サレナから聞かされてたし、そんな素振りもあったけど、やっぱり直接聞くと結構驚く。

「そう。あいつらから逃げていろんな宇宙を転々としてたんだ」

こころは悲しそうに微笑む。

「私達の世界で大きな戦争があったの。この宇宙と比べて早くに宇宙へ出る技術を持った私達の世界では、いろんな惑星や宇宙コロニーに植民していた。その全てを巻き込む星間戦争だったの」

 こころは言葉を切り、すこしうつむいた。

「戦争の最中にヴァルミンってカルティさん達が呼ぶ、全自動連邦星系攻撃システムを戦争していた相手の連盟星系の人達が作ったの。最初は敵の戦艦を乗っ取って自動で攻撃するウイルスのようなプログラムを持つナノマシンだった。だけど作った人達の想定を超えて進化したの。いろんな機械を乗っ取って、思考する力を持ってから」

「進化?」

「うん。コロニーの製造プラントを乗っ取って、自分達を増殖させるようになったり、ナノマシン同士で連絡を取り合って群体として行動するようになったり・・・私達の星系はあっという間にほとんどの戦艦や機械を乗っ取られて降伏に追い込まれたの」

「それならそれで戦争は終わったんじゃないのか?」

「戦争は、終わったよ。でもね、増殖して自分達で動き始めたシステムを、作った人達も止めることは出来なかったの。戦争が終わってからもシステムは人々を殺戮し続けた。それを止めようとしたり、私達の星系の人達を保護しようとした作った人達の宇宙艦隊も全滅させられた。もう誰にもどうしようもなくなっちゃったの」

「それで別の宇宙に逃げたの~?」

「はい。兵器として開発されていた、育子さんがさっき言ったような、世界の壁をすり抜ける砲弾を宇宙船に改造して。でも、だめだった。その宇宙船を幾つか乗っ取ったヴァルミンは時空を超える方法を学習したの。私達が別の宇宙へ逃げても逃げても、ヴァルミンはどんどんその能力を高めながらずっと追って来るの・・・」

「それが、この街が狙われる理由だったのか・・・」

 サレナが呻く。

「で、では私達の世界が攻撃されたのも・・・?」

 育子さんも茫然と呟くように言う。

「はい・・・皆さんの宇宙にも私達の星系の人か、その子孫が居るんだと思います・・・」

「そんな・・・役目を終えた兵器のせいで・・・」

 育子さんはその場にへたり込む。

「こ、こんな広い宇宙のどこにいるって、なんで分かるんだ? しかも子孫まで!?」

 俺の疑問に、こころは目に涙を溜めながら、自分に頭を指差した。

「ここにね、ヴァルミンのナノマシンが幾つも入っちゃってるの。常に私の居場所を仲間に連絡してるの。他の人も同じ。子供達にも母体を通してナノマシンは感染していくんだよ・・・」

「そ、そんなの取りだせないのか? そうだ! セラスやラナの出すナノマシンでどうにかならないか?」

 俺はカルティを見た。カルティもやってみようという感じで頷く。

「ありがとう、好一君、カルティさん。でも、ダメなの」

 こころはぽろりと涙をこぼしながら言った。

「幾つ目かの宇宙でね、調べてもらったんだ。ナノマシンは連結して、私の脳に広く根を張ってるようになってるんだって。とても除去はできないんだってさ・・・」

 こころはぽろぽろと涙を流す。

「システムのナノマシンは有機生命体を殺したり、思考に干渉したりは出来ないみたいだけど・・・ひどいよね。だったらさっさと殺してくれれば良いのに・・・」

 こころは顔を両手で覆って泣き始めた。俺は手をぎゅうっと握る。

 ちくしょう、なんだってこころはこんな目に・・・しかし俺には何もしてやれない。それが堪らなく悔しい。悔し過ぎる。ちくしょう。ちくしょう・・・俺のヘタレ野郎、お前が死ね!

「あ、ごめんね、泣いちゃって。大丈夫、心配しないで。私が居なくなれば、攻撃されることは無いから」

 こころは顔を上げて、涙を拭きながら笑う。

「早まったことをするなよ? この程度の攻撃ならどうにでもなる」

「そうだ、です! 私達はヴァルミンを倒す為に建造された最新鋭の宇宙戦艦だ、です! お姉ちゃんは私が守ってあげる、です!」

 サレナは淡々と、ラナは自信たっぷりに言う。

「そうよ~。頭のナノマシンも私達がなんとかするわ~」

 カルティはそう言って微笑み、育子さんも頷く。

「そうです。そんな機械の好き勝手にはさせませんわ!」

「ありがとう、みんな・・・」

 こころはまた涙を流した。良かった、頼りになる連中が居て・・・

 それにくらべて俺は・・・居た堪れなくなって、俺はこころにティッシュでも取ってやろうと席を立つ。横のセラスは暗い顔をしてうつむいていた。俺はすれ違いざまいにその頭を撫でた。

 その後、こころと育子さんの作ってくれた夕飯を皆で談笑しながら食べた。

 久しぶりにこころも皆も明るくなった感じだ。やっぱり良いよな、こういうのが。ただ、セラスは受け答えはするものの静かだったし、俺の胸のもやもやしたものも取れないままだった。

 こころは、頭部をサレナが出した装置でカルティに精密検査してもらってから、お休みなさいと挨拶をして部屋から出て行った。その時育子さんがラナに目配せをした。ラナもこくこくと頷いている。

「どうしたんですか?」

「いえ・・・ちょっと・・・」

 俺の問いに育子さんは口ごもる。だが、二人が完全に外に出て行ったのを確かめると、言葉を続けた。

「実は私がこころさんをさらった時・・・こころさんは自決しようとしたのです」

 な? 自決って自殺のことだろ? な、なんでそこまで・・・

「なるほどな。あのような環境で生きて来たのだ。他人に迷惑を掛けぬよう、いつでもその覚悟はあるということか。若いのに大したものだ」

 サレナが腕を組んだまま、うんうんと頷く。って感心してる場合かよ? ど、どうすれば・・・

「そう心配するな。ラナが一緒だ」

 まあ、それはそうなのだろうが・・・なんの役にも立てない俺だ。少しはこころの支えになってやれないのだろうか・・・

「これは夜這いしかないわね~!」

 突然、大型の立体ディスプレイで作業をしていたカルティがほざいた。

「うなっ?!」

「やっぱりこころちゃんの頭にあるヴァルミンを除去するのはすぐには出来ないわ~。絶対に何とかしてみせるけど、脳に影響を与えないようにヴァルミンだけ対消滅させるか転移させるか・・・どっちにしろ綿密な検査と計画が必要で時間が掛かるわね~。だから孕ませちゃいなさい!」

「なんでそうなる?!」

「お腹に赤ちゃんが居れば早まったことは出来ないし~。コウイチ君に責任とってもらうしかないから、そうそう離れられなくなるわよ~?」

 くすくすとカルティは笑いながら言う。ち、ちくしょう? 告白もまともに出来ない童貞君を舐めるな? そんなことできるわけねえじゃねえか?!

 で、結局。もちろんそんなアダルトなことが出来る訳ない俺は、こころが風呂から出た頃を見計らって、セラスを連れこころの部屋へ行った。鍵が掛かっていたが、いつもとは逆に蹴り開けてやる。

「好一君?」

 ラナの髪を梳いていたらしいこころは、驚いた顔をして俺のことを見る。

「お、おう・・・」

 うぅ、なんて言えば良い? だ、だが、ここは意を決して言うしかない!

「お、俺達もこっちで寝るぞ!」

「な、なにおぞましいこと言いやがるこのヘタレ痴漢強姦魔、です!」

 こころに髪を梳かされてぽわんと幸せそうな顔をしていたラナが一気に凶暴な顔になってがおうと吠える。

「う、うるせえ! 俺達もこころと一緒に居たいんだよ!」

 俺は必死で言い返す。俺の後ろでおどおどしていたセラスも、おずおずとだが、こくんと頷く。

「好一君、セラスちゃん・・・」

 こころは嬉しそうに微笑み、そして涙をぽろりと落とす。

「嬉しいよ・・・皆で寝よっ」

 こころの反応に、ラナはぐぅと悔しそうな顔をして黙る。

「は、入るぞ?!」

 俺はセラスの手を引いて中に突入した。

 で、俺達は窓側から俺、セラス、ラナ、こころの順に四つ布団を敷いて、寝た。ラナがじ~っと俺を睨んでいるのが分かるが、まあ気にしない。やっぱり良いな、皆で一緒に居るのは・・・

「ありがとう」

 暗がりの向こうでこころの声がした。

「嬉しいよ。好一君とセラスちゃんが来てくれて。やっぱり皆一緒が良いよ・・・」

「俺じゃなんにも出来ないけどな・・・」

 俺は呟くように答えた。

「そんなことないよ。私、ここに来て、好一君やセラスちゃん、ラナちゃんやカルティさん達、それに学校の皆に会えて本当に良かった・・・」

 こころはそう言うと、布団の中に顔を埋めた。俺も口には出せなかったけど、お前達に会えて良かった。このままずっと一緒に居たい、心からそう思った。
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