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第6章
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朝、目を覚まし、カルティ達の部屋へ行き、皆で楽しく朝飯を頂く。
そして何でもないような話をしながら登校する。セラスもおずおずとだが話をするようになってきたし、ちょっと前に戻ったようだ。気がかりは多々あるが、俺はこの瞬間をとても幸せに感じた。
学校でも皆とわいわいとやり、無事終業式を終える。まあ、成績はあんまり無事では無かったが・・・良しとしよう。小さなことだ・・・多分。
学校の皆と分かれ、アパートの部屋に戻り、荷物を置いてからカルティ達の部屋へ。そして皆で昼飯。明日からは夏休みだ。さて、何をするか・・・
だが、そんな楽しいひと時は当然のごとく破られた。そうだ、分かっていたことだ。認めたくは無いが。ちくしょう・・・
まずサレナがびくっとイスから立ち上がった。そしてラナとセラスも。
「来た・・・ヴァルミンだ」
サレナが呟く。
「で、でも、この数は、です!」
ラナが呻くように言う。俺の頭にもサレナ達が探知したデータが送られてくる。ヴァルミン達が突然現れた位置は木星付近。別の宇宙から来たってことか。だが、なんだ? 正確な数がまったく分からないほどレーダーに反応が有る・・・!
「これは10万を下らないわね~」
「私達の地球を総攻撃して来た時と同等とは・・・」
カルティと育子さんも茫然と呟く。
「迎撃に向かうぞ! ラナ準備しろ。セラス、お前もなんとか船体を動かせ!」
サレナが焦ったように叫ぶ。
「慌てないで、みんな」
全員が騒然とする中で、こころが静かに言った。
「無理をしないで。私が居なくなればいいことなんだから」
「こころ!」
俺は叫んだ。
「ありがとう、好一君。ありがとう、みんな。私、本当に生きててよかったよ」
こころはそう言って微笑むと、すっと俺に顔を寄せた。そしてセラスの方を向いて、
「ごめんね、セラスちゃん。これで最後だから・・・」
と言うと、俺の額に唇を寄せる。暖かくて、柔らかいこころの唇が一瞬触れた。
「好一君、大好き。ずっと大好きだよ・・・」
こころは俺に微笑むと、俺から離れて部屋を出て行こうとする。
「こころ!」
俺はこころを捕まえようとして、テーブルに足を引っ掛けて転んだ。こころは振り向いて微笑むと、
「さよなら、好一君。セラスちゃん、好一君を宜しくね」
そう言って部屋から走りように去るように出て行った。
「お姉ちゃん!」
ラナが慌てて後を追う。出て行く二人を俺達は見送るしかなかった。
「くそっ!」
サレナが壁を強く叩く。茫然とこころを見送った俺は、その音で堰が切れたように泣いた。無様にも転んだままで。涙と嗚咽が止まらなかった。
敵はとんでもない数だ。サレナでもどうしようもない。こころを生かす為には、こころを別の宇宙へ逃がすしかない。
だけど、だけど! あいつはそうやってずっと逃げ続けるしかないのか? 生きてる限りずっと! あいつらに殺されるまでずっと! もう、もう、会えないのか、こころに! ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう! 力が欲しい! こころを守ってやれる力が欲しい! こころとずっと一緒に居たい。その為の力が欲しい! 俺は涙と鼻水を垂れ流しながら、自分の無力さを呪った。
「うわぁぁぁぁぁ・・・!」
俺の横で、セラスがしゃがみ込んで、火が付いたように泣き始めた。
「私の、私のせいです! コーイチが、コーイチが、こんなに力を欲しているのに、私が情けないから、汚いから・・・!」
セラスも滝のように涙を流しながら、叫ぶ。
「お前の、せいじゃ、ねえよっ! 俺が、俺がどうしようもないから・・・」
俺も泣きながら叫ぶ。
「コーイチもこころも優しいから・・・私はそれに甘えて、戦うのが嫌だとわがままを言ったばかりか、こころが居なければいいなんて! 嫌ぁ! こころも居ないと嫌なのに!」
後はもうどちらも言葉にならない。二人でわめくように叫びながら、泣き続けた。
だけど情けないもんだ。俺達は泣き続けることもできない。やがて涙は枯れ果て、呼吸も苦しくなり、ぜいぜいとせき込むように荒い息をするだけになった。
「ひどい顔です、コーイチ・・・」
セラスは青い瞳を真っ赤に充血させて、俺を見る。そして袖で俺の顔を拭ってくれる。
「人のこと言えるかよ・・・」
俺も涙でびたびたになったセラスの顔を、指で拭った。俺達はお互いのみっともない顔を見て、失笑する。
「コーイチ・・・」
セラスは自分の顔を袖でごしごしと擦ってから言った。
「なんでしょう? 理解できないことですが、泣いたらすっきりしました」
「そうか・・・」
俺は答えながら、体をのろのろと起こす。体中が痛い。泣くってのは結構体力使うんだな。俺みたいに大泣きするようなヘタレしか気付かんことだろうが。
「私は、逃げるのを止めることにしました」
体を起こして座った俺を見上げながらセラスは言った。
「戦うことから。汚くて醜い自分から」
そう言うセラスの目は、今までと違い、力強い光に満ちていた。
「だから、コーイチ。私に力を下さい!」
セラスが顔を俺に寄せてくる。何が何だか分からず、セラスの決意に満ちた綺麗な顔を俺が眺めていると、柔らかく熱い唇が、俺のに触れた。
次の瞬間、セラスの体が光りに包まれる。以前よりも力強く激しい光に。座っていたセラスは光に包まれたまま立ち上がる。その背が少しずつ伸びて行き、体も膨らんで行く。そして光は粒のようにまとまり、セラスの体から離れた。俺にはその光の粒が、セラスの翼のように見えた。
「コーイチ・・・」
微笑むセラスは、俺と同じくらいの年齢の美少女に成長していた。こころが朝結った髪は解けて腰より長く伸び、美しく銀色に輝いている。すらりと伸びた手足に、スタイルの良い細身の体に豊かな胸。そして何より、力強い意志を秘めた美しい顔。天使、いや女神が俺の目の前に現れたように思えた。
「コーイチは望みましたね、こころを守る力が欲しいと」
「ああ!」
「では、私は自分の存在意義を果たします。コーイチがそう望むのなら、私はコーイチのために、最強の戦艦になります。無限に存在する並行宇宙のすべてでも、最強の戦艦に!」
美しく微笑むセラスは、すっと俺に手を差し伸べる。まるで本当の女神のように。俺はその手を握り返した。ぎゅっと、強く。
そして何でもないような話をしながら登校する。セラスもおずおずとだが話をするようになってきたし、ちょっと前に戻ったようだ。気がかりは多々あるが、俺はこの瞬間をとても幸せに感じた。
学校でも皆とわいわいとやり、無事終業式を終える。まあ、成績はあんまり無事では無かったが・・・良しとしよう。小さなことだ・・・多分。
学校の皆と分かれ、アパートの部屋に戻り、荷物を置いてからカルティ達の部屋へ。そして皆で昼飯。明日からは夏休みだ。さて、何をするか・・・
だが、そんな楽しいひと時は当然のごとく破られた。そうだ、分かっていたことだ。認めたくは無いが。ちくしょう・・・
まずサレナがびくっとイスから立ち上がった。そしてラナとセラスも。
「来た・・・ヴァルミンだ」
サレナが呟く。
「で、でも、この数は、です!」
ラナが呻くように言う。俺の頭にもサレナ達が探知したデータが送られてくる。ヴァルミン達が突然現れた位置は木星付近。別の宇宙から来たってことか。だが、なんだ? 正確な数がまったく分からないほどレーダーに反応が有る・・・!
「これは10万を下らないわね~」
「私達の地球を総攻撃して来た時と同等とは・・・」
カルティと育子さんも茫然と呟く。
「迎撃に向かうぞ! ラナ準備しろ。セラス、お前もなんとか船体を動かせ!」
サレナが焦ったように叫ぶ。
「慌てないで、みんな」
全員が騒然とする中で、こころが静かに言った。
「無理をしないで。私が居なくなればいいことなんだから」
「こころ!」
俺は叫んだ。
「ありがとう、好一君。ありがとう、みんな。私、本当に生きててよかったよ」
こころはそう言って微笑むと、すっと俺に顔を寄せた。そしてセラスの方を向いて、
「ごめんね、セラスちゃん。これで最後だから・・・」
と言うと、俺の額に唇を寄せる。暖かくて、柔らかいこころの唇が一瞬触れた。
「好一君、大好き。ずっと大好きだよ・・・」
こころは俺に微笑むと、俺から離れて部屋を出て行こうとする。
「こころ!」
俺はこころを捕まえようとして、テーブルに足を引っ掛けて転んだ。こころは振り向いて微笑むと、
「さよなら、好一君。セラスちゃん、好一君を宜しくね」
そう言って部屋から走りように去るように出て行った。
「お姉ちゃん!」
ラナが慌てて後を追う。出て行く二人を俺達は見送るしかなかった。
「くそっ!」
サレナが壁を強く叩く。茫然とこころを見送った俺は、その音で堰が切れたように泣いた。無様にも転んだままで。涙と嗚咽が止まらなかった。
敵はとんでもない数だ。サレナでもどうしようもない。こころを生かす為には、こころを別の宇宙へ逃がすしかない。
だけど、だけど! あいつはそうやってずっと逃げ続けるしかないのか? 生きてる限りずっと! あいつらに殺されるまでずっと! もう、もう、会えないのか、こころに! ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう! 力が欲しい! こころを守ってやれる力が欲しい! こころとずっと一緒に居たい。その為の力が欲しい! 俺は涙と鼻水を垂れ流しながら、自分の無力さを呪った。
「うわぁぁぁぁぁ・・・!」
俺の横で、セラスがしゃがみ込んで、火が付いたように泣き始めた。
「私の、私のせいです! コーイチが、コーイチが、こんなに力を欲しているのに、私が情けないから、汚いから・・・!」
セラスも滝のように涙を流しながら、叫ぶ。
「お前の、せいじゃ、ねえよっ! 俺が、俺がどうしようもないから・・・」
俺も泣きながら叫ぶ。
「コーイチもこころも優しいから・・・私はそれに甘えて、戦うのが嫌だとわがままを言ったばかりか、こころが居なければいいなんて! 嫌ぁ! こころも居ないと嫌なのに!」
後はもうどちらも言葉にならない。二人でわめくように叫びながら、泣き続けた。
だけど情けないもんだ。俺達は泣き続けることもできない。やがて涙は枯れ果て、呼吸も苦しくなり、ぜいぜいとせき込むように荒い息をするだけになった。
「ひどい顔です、コーイチ・・・」
セラスは青い瞳を真っ赤に充血させて、俺を見る。そして袖で俺の顔を拭ってくれる。
「人のこと言えるかよ・・・」
俺も涙でびたびたになったセラスの顔を、指で拭った。俺達はお互いのみっともない顔を見て、失笑する。
「コーイチ・・・」
セラスは自分の顔を袖でごしごしと擦ってから言った。
「なんでしょう? 理解できないことですが、泣いたらすっきりしました」
「そうか・・・」
俺は答えながら、体をのろのろと起こす。体中が痛い。泣くってのは結構体力使うんだな。俺みたいに大泣きするようなヘタレしか気付かんことだろうが。
「私は、逃げるのを止めることにしました」
体を起こして座った俺を見上げながらセラスは言った。
「戦うことから。汚くて醜い自分から」
そう言うセラスの目は、今までと違い、力強い光に満ちていた。
「だから、コーイチ。私に力を下さい!」
セラスが顔を俺に寄せてくる。何が何だか分からず、セラスの決意に満ちた綺麗な顔を俺が眺めていると、柔らかく熱い唇が、俺のに触れた。
次の瞬間、セラスの体が光りに包まれる。以前よりも力強く激しい光に。座っていたセラスは光に包まれたまま立ち上がる。その背が少しずつ伸びて行き、体も膨らんで行く。そして光は粒のようにまとまり、セラスの体から離れた。俺にはその光の粒が、セラスの翼のように見えた。
「コーイチ・・・」
微笑むセラスは、俺と同じくらいの年齢の美少女に成長していた。こころが朝結った髪は解けて腰より長く伸び、美しく銀色に輝いている。すらりと伸びた手足に、スタイルの良い細身の体に豊かな胸。そして何より、力強い意志を秘めた美しい顔。天使、いや女神が俺の目の前に現れたように思えた。
「コーイチは望みましたね、こころを守る力が欲しいと」
「ああ!」
「では、私は自分の存在意義を果たします。コーイチがそう望むのなら、私はコーイチのために、最強の戦艦になります。無限に存在する並行宇宙のすべてでも、最強の戦艦に!」
美しく微笑むセラスは、すっと俺に手を差し伸べる。まるで本当の女神のように。俺はその手を握り返した。ぎゅっと、強く。
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