うちの居候は最強戦艦!

morikawa

文字の大きさ
12 / 40
第2章

2-6

しおりを挟む
 良く通る、だが優しげな声がセラスの後ろの路地から聞こえ、そして一人の女性がそこから姿を現した。

 淡いブロンドに青い瞳。年齢は俺たちと同じくらいだろうか。おっとりとした顔つきの、すんごい美少女さんだ。あれ、気のせいか、なんだが成長した今のセラスやサレナに似ているような……

「はいはい、ぶっそうな物はしまう~」

 彼女がそう言うと、セラスもサレナもびくっとして、セラスは街の上空に鎮座する巨大戦艦を、サレナは砲塔を空間の向こうへ押し戻す。戦艦が消えると、太陽の光が再び街を照らし始め、周囲は昼間の明るさを取り戻す。

 それを見届けた彼女は、つかつかとセラスの方へ向かう。セラスはなぜか茫然として立ちすくんでいる。そして、彼女が近付くとびくっと身を縮めた。だが、彼女はそんなセラスを優しく抱きしめた。

「ふふふっ、あっという間に大きくなったわね~」

 彼女はセラスの頭を撫でながら、優しく語りかける。

「お、お母様……わ、私は……」

 セラスは少し震えながら、確かにそう言った。お母様? じゃあ、この人が、さっきサレナが言ってた、カルティって人か?

「そんなに怖がらないで? 私もサレナも怒っていないから。もちろん他の姉妹も絶対にね~」

 カルティはそう言うと、セラスをぎゅっと抱きしめる。

「ああなる可能性はもちろん把握していたわ。それを含めて判断したのは私。あなたはあの状況で十分な結果を出したわ。自分に自信を持ちなさい」

 セラスも緊張が解けたのか、そのままカルティに身を預ける。

 サレナはそれを見て、ちょっと嬉しそうな顔をしてから、そっぽを向く。その様子を見て、サレナにしがみついたままだったこころも安心したのか、サレナから離れた。

「ところであなたは今どんな状況なの~?」

 カルティがセラスに尋ねる。

「私は、花咲好一の所有物です」

 セラスはカルティの胸から顔を上げて、答えた。

「そう」

 カルティはセラスに微笑んでから、俺を見た。

「あなたがハナサキ・コウイチ君~?」

「あ、は、はい」

 ううむ、同じ年くらいなのに、にじみ出る貫禄のせいなのか、なぜか緊張してしまう俺。

「ありがとう、この子を成長させてくれて」

「成長?」

「そう、他の姉妹と違って、この子は人間と同じように赤ちゃんとして生まれた。精神の成長と共に体も大きくなったでしょ~?」

 カルティはそう言って、今度は俺の方に寄って来ていたこころの方を見た。

「あなたのお名前は~?」

「こころ、春花こころです」

「そう。あなたとコウイチ君が、セラスのお父さんとお母さんになってくれたのね?」

「え、ええ、まあ……」

 なぜかこころは顔を真っ赤にする。な、なんでだ。お前は今までそんなノリだったくせに。こっちまで恥ずかしくなるだろ?

「ふふふ~」

 なぜかカルティは微笑む。そして、

「コウイチ君、こころちゃん。これからもセラスを宜しくお願いします~」

 と言った。

「え、良いんですか?」

 これでセラスはカルティ達と一緒に行ってしまうのではないかと寂しく思っていた俺は、つい嬉しそうに答えてしまった。

 むぅ……そう言えば、さっき家族がどうとか、やたら恥ずかしいことを夢中で叫んでしまったしな……うわ、恥ずかしい……し、死にそう……

「ええ、この子にはあなた達が必要。この子のマスターになって、もっと成長させてあげて。それがこの宇宙の為にもなることだから~」

「この宇宙?」

 なんだ? 突然話がでかくなったぞ?

「そう。昨晩ヴァルミンの反応をサレナが探知したわ。すぐに消えたけど。セラスが倒したのでしょう~?」

 カルティはセラスの頭を撫でて言う。

「あれはまだ斥候のようなもの。まさかこの宇宙にも居るとは思ってなかったし、奴らの目的は分からないままだけど、いずれ大軍で押し寄せてくるわ~」

 カルティがそう言うと、こころがびくっと震えた。昨日のことをまだ怖がっているのか?

「この子が本当の力を発揮するには、もっと成長しないとだめなの。それに信頼できるマスターも必要なの。だからよろしくね~?」

 カルティはそう言って微笑む。

「こころちゃんには迷惑をかけちゃうだろうけど。ううん、場合によると横取りしちゃうかな? でも、まあ、寛大な心で相手してやってね~?」

 こころは、一瞬はっとしたような顔をして、それから顔を少し赤くしてぴくぴくっと動く。なんなんだ、忙しい奴だな? 意味分からんし。

「それじゃあ、よろしくね~。セラス、あなたはあなたの正しいと思う様に行動しなさい。それがきっと良い結果になるわ~」

 カルティはそう言うと、また連絡するわね~ と手を振って去っていく。

「わ、私は認めたわけじゃないからな? あまり勝手な行動はするなよ?! さっさと帰って来い!」

 サレナはセラスを軽く睨みつけながらそう言うと、カルティに従って歩き出す。だが、俺の横で止まると、ぽりぽりと頬を掻きながら、

「妹を頼む」

 と小さい声で呟くように言って、早足でカルティの後を追って行った。

 うぅむ、良くは分からんが、良いお姉さんっぽいな……もっと素直にすれば良いのに。ツンデレ系なのか? ……とりあえずは一件落着したということで良いのだろうか?

「良いのかセラス、これで」

 俺はセラスに聞いてみた。

「はい。私はコーイチの所有物ですから」

 セラスは微笑んだ。その笑顔が可愛くて、俺は一瞬どきっとしてしまった。いや、今までも可愛いかったのだが、今度は急に成長したせいか、やけに可愛く見えた。

「う、うぐう?」

 何故か、こころが後ろで大きく呻いた。

「そ、想定外だったよ……ま、まさか急に大きくなって本当にライバル化するとは……」

そして俺には良く分からなかったが、そんなことを呟く。ライバルってなんだよ?

「よし、それじゃあ、これからも宜しくな、セラス」

こころはまだ何かぶつぶつ言っているので、とりあえず俺は何気なく、セラスに手を差し出した。

「はい」

セラスもそう答え、差し出した俺の手を取った。少し冷たい、いつものセラスの手だ。ちょっと大きくなってるけどな。

 それにしても良かった。一時はどうなるかと思ったぜ……でも成長とか本当の力とか、一体何なんだろう?

 俺がそんなことを考えていると、セラスは今更のように、繋いだ俺達の手をじっと見て、それから急に顔を真っ赤にして、俺の顔を見た。

「な、なんだ? どうした?」

なんだか様子のおかしいセラスを心配して、セラスの顔をじっと見ると、セラスはさらに顔を赤くして顔をそむけた。

「な、なんでもありません……」

セラスはそう答え、だけど手を今までより強く握り返してきた。

「う、うわあ?!」

後ろでこころが今度は叫び声を上げる。そして、

「こ、好一君を好きになる子なんて絶対に他には居ないと思ってたのに……し、しまったよ、大失敗だったよ、大誤算だよ……」

 なんてことを言った。う、うるせえよ。悪かったな、どうせ俺はもてないよ! こ、この場では関係ないことだろ?!

「こ、こうなったら仕方がない! セラスちゃん! あなたは妹・娘ポジションからライバルに格上げだよ!?」

 こころはセラスを指差して、声高にそんな宣言を行った。それは格上げと言うのか? 良く意味が分からないのだが……セラスもきょとんした顔でこころを見ている。

 そんな俺達を気に留めず、こころはすたすたと俺の横まで来ると、セラスと繋いでいない方の俺の手を取って、ぐっと握った。うわ、痛てぇ?

 だけど、こころの手はセラスと違って柔らかく、それでいて肌はなめらかで、とても暖かかった。その感触に、俺の心臓がどきんと大きく跳ねる。そ、そういえば、こころと手を繋ぐのって初めてだよな……ま、まあ、当然と言えば当然なのだが。おぱぱ触っちゃったけど、付き合ってるわけじゃないし。

「さ、じゃあ、スーパーに寄って帰ろうか」

 そう言って、こころは俺とセラスを引きずるように歩き出す。

「な、なんだよ、セラスが真ん中じゃないのかよ?」

 俺は慌てて尋ねる。

「人間関係は常に変化するものなの」

 こころは意味の分からないことを言った。

「家族は家族でも、これからはライバルなの! 私だって最後に素敵な恋ぐらいしたいの!」

 こころはさらにそうまくし立てると、ちょっと顔を赤くしてそっぽを向いた。手はぎゅっと強く握ったままで。

え、そ、それは、まさか……まさかとは思うが、そういうことなのか? い、いいのか? いいのか? だけど最後ってなんだろう……?

 セラスはまだ顔を少し赤くしたままで、ちらちらと俺とこころを交互に見ている。

 なんだかよく分からない状況になってしまったが、とりあえず俺達はお互いに強く手を握り合ったまま歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...