うちの居候は最強戦艦!

morikawa

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第2章

2-6

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 良く通る、だが優しげな声がセラスの後ろの路地から聞こえ、そして一人の女性がそこから姿を現した。

 淡いブロンドに青い瞳。年齢は俺たちと同じくらいだろうか。おっとりとした顔つきの、すんごい美少女さんだ。あれ、気のせいか、なんだが成長した今のセラスやサレナに似ているような……

「はいはい、ぶっそうな物はしまう~」

 彼女がそう言うと、セラスもサレナもびくっとして、セラスは街の上空に鎮座する巨大戦艦を、サレナは砲塔を空間の向こうへ押し戻す。戦艦が消えると、太陽の光が再び街を照らし始め、周囲は昼間の明るさを取り戻す。

 それを見届けた彼女は、つかつかとセラスの方へ向かう。セラスはなぜか茫然として立ちすくんでいる。そして、彼女が近付くとびくっと身を縮めた。だが、彼女はそんなセラスを優しく抱きしめた。

「ふふふっ、あっという間に大きくなったわね~」

 彼女はセラスの頭を撫でながら、優しく語りかける。

「お、お母様……わ、私は……」

 セラスは少し震えながら、確かにそう言った。お母様? じゃあ、この人が、さっきサレナが言ってた、カルティって人か?

「そんなに怖がらないで? 私もサレナも怒っていないから。もちろん他の姉妹も絶対にね~」

 カルティはそう言うと、セラスをぎゅっと抱きしめる。

「ああなる可能性はもちろん把握していたわ。それを含めて判断したのは私。あなたはあの状況で十分な結果を出したわ。自分に自信を持ちなさい」

 セラスも緊張が解けたのか、そのままカルティに身を預ける。

 サレナはそれを見て、ちょっと嬉しそうな顔をしてから、そっぽを向く。その様子を見て、サレナにしがみついたままだったこころも安心したのか、サレナから離れた。

「ところであなたは今どんな状況なの~?」

 カルティがセラスに尋ねる。

「私は、花咲好一の所有物です」

 セラスはカルティの胸から顔を上げて、答えた。

「そう」

 カルティはセラスに微笑んでから、俺を見た。

「あなたがハナサキ・コウイチ君~?」

「あ、は、はい」

 ううむ、同じ年くらいなのに、にじみ出る貫禄のせいなのか、なぜか緊張してしまう俺。

「ありがとう、この子を成長させてくれて」

「成長?」

「そう、他の姉妹と違って、この子は人間と同じように赤ちゃんとして生まれた。精神の成長と共に体も大きくなったでしょ~?」

 カルティはそう言って、今度は俺の方に寄って来ていたこころの方を見た。

「あなたのお名前は~?」

「こころ、春花こころです」

「そう。あなたとコウイチ君が、セラスのお父さんとお母さんになってくれたのね?」

「え、ええ、まあ……」

 なぜかこころは顔を真っ赤にする。な、なんでだ。お前は今までそんなノリだったくせに。こっちまで恥ずかしくなるだろ?

「ふふふ~」

 なぜかカルティは微笑む。そして、

「コウイチ君、こころちゃん。これからもセラスを宜しくお願いします~」

 と言った。

「え、良いんですか?」

 これでセラスはカルティ達と一緒に行ってしまうのではないかと寂しく思っていた俺は、つい嬉しそうに答えてしまった。

 むぅ……そう言えば、さっき家族がどうとか、やたら恥ずかしいことを夢中で叫んでしまったしな……うわ、恥ずかしい……し、死にそう……

「ええ、この子にはあなた達が必要。この子のマスターになって、もっと成長させてあげて。それがこの宇宙の為にもなることだから~」

「この宇宙?」

 なんだ? 突然話がでかくなったぞ?

「そう。昨晩ヴァルミンの反応をサレナが探知したわ。すぐに消えたけど。セラスが倒したのでしょう~?」

 カルティはセラスの頭を撫でて言う。

「あれはまだ斥候のようなもの。まさかこの宇宙にも居るとは思ってなかったし、奴らの目的は分からないままだけど、いずれ大軍で押し寄せてくるわ~」

 カルティがそう言うと、こころがびくっと震えた。昨日のことをまだ怖がっているのか?

「この子が本当の力を発揮するには、もっと成長しないとだめなの。それに信頼できるマスターも必要なの。だからよろしくね~?」

 カルティはそう言って微笑む。

「こころちゃんには迷惑をかけちゃうだろうけど。ううん、場合によると横取りしちゃうかな? でも、まあ、寛大な心で相手してやってね~?」

 こころは、一瞬はっとしたような顔をして、それから顔を少し赤くしてぴくぴくっと動く。なんなんだ、忙しい奴だな? 意味分からんし。

「それじゃあ、よろしくね~。セラス、あなたはあなたの正しいと思う様に行動しなさい。それがきっと良い結果になるわ~」

 カルティはそう言うと、また連絡するわね~ と手を振って去っていく。

「わ、私は認めたわけじゃないからな? あまり勝手な行動はするなよ?! さっさと帰って来い!」

 サレナはセラスを軽く睨みつけながらそう言うと、カルティに従って歩き出す。だが、俺の横で止まると、ぽりぽりと頬を掻きながら、

「妹を頼む」

 と小さい声で呟くように言って、早足でカルティの後を追って行った。

 うぅむ、良くは分からんが、良いお姉さんっぽいな……もっと素直にすれば良いのに。ツンデレ系なのか? ……とりあえずは一件落着したということで良いのだろうか?

「良いのかセラス、これで」

 俺はセラスに聞いてみた。

「はい。私はコーイチの所有物ですから」

 セラスは微笑んだ。その笑顔が可愛くて、俺は一瞬どきっとしてしまった。いや、今までも可愛いかったのだが、今度は急に成長したせいか、やけに可愛く見えた。

「う、うぐう?」

 何故か、こころが後ろで大きく呻いた。

「そ、想定外だったよ……ま、まさか急に大きくなって本当にライバル化するとは……」

そして俺には良く分からなかったが、そんなことを呟く。ライバルってなんだよ?

「よし、それじゃあ、これからも宜しくな、セラス」

こころはまだ何かぶつぶつ言っているので、とりあえず俺は何気なく、セラスに手を差し出した。

「はい」

セラスもそう答え、差し出した俺の手を取った。少し冷たい、いつものセラスの手だ。ちょっと大きくなってるけどな。

 それにしても良かった。一時はどうなるかと思ったぜ……でも成長とか本当の力とか、一体何なんだろう?

 俺がそんなことを考えていると、セラスは今更のように、繋いだ俺達の手をじっと見て、それから急に顔を真っ赤にして、俺の顔を見た。

「な、なんだ? どうした?」

なんだか様子のおかしいセラスを心配して、セラスの顔をじっと見ると、セラスはさらに顔を赤くして顔をそむけた。

「な、なんでもありません……」

セラスはそう答え、だけど手を今までより強く握り返してきた。

「う、うわあ?!」

後ろでこころが今度は叫び声を上げる。そして、

「こ、好一君を好きになる子なんて絶対に他には居ないと思ってたのに……し、しまったよ、大失敗だったよ、大誤算だよ……」

 なんてことを言った。う、うるせえよ。悪かったな、どうせ俺はもてないよ! こ、この場では関係ないことだろ?!

「こ、こうなったら仕方がない! セラスちゃん! あなたは妹・娘ポジションからライバルに格上げだよ!?」

 こころはセラスを指差して、声高にそんな宣言を行った。それは格上げと言うのか? 良く意味が分からないのだが……セラスもきょとんした顔でこころを見ている。

 そんな俺達を気に留めず、こころはすたすたと俺の横まで来ると、セラスと繋いでいない方の俺の手を取って、ぐっと握った。うわ、痛てぇ?

 だけど、こころの手はセラスと違って柔らかく、それでいて肌はなめらかで、とても暖かかった。その感触に、俺の心臓がどきんと大きく跳ねる。そ、そういえば、こころと手を繋ぐのって初めてだよな……ま、まあ、当然と言えば当然なのだが。おぱぱ触っちゃったけど、付き合ってるわけじゃないし。

「さ、じゃあ、スーパーに寄って帰ろうか」

 そう言って、こころは俺とセラスを引きずるように歩き出す。

「な、なんだよ、セラスが真ん中じゃないのかよ?」

 俺は慌てて尋ねる。

「人間関係は常に変化するものなの」

 こころは意味の分からないことを言った。

「家族は家族でも、これからはライバルなの! 私だって最後に素敵な恋ぐらいしたいの!」

 こころはさらにそうまくし立てると、ちょっと顔を赤くしてそっぽを向いた。手はぎゅっと強く握ったままで。

え、そ、それは、まさか……まさかとは思うが、そういうことなのか? い、いいのか? いいのか? だけど最後ってなんだろう……?

 セラスはまだ顔を少し赤くしたままで、ちらちらと俺とこころを交互に見ている。

 なんだかよく分からない状況になってしまったが、とりあえず俺達はお互いに強く手を握り合ったまま歩き出した。
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