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第1章
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「うはっ! 絶好の観望日和だね!」
私はつい興奮して叫んだ。夜空は澄みわたり、市街地では普段見えない星雲や銀河も見える、ような気がする。まるで星々に手が届く、ような気がする。そんな素敵な夜だよ!
「それは良かったですね。カナタが喜んでくれて何より」
後ろから声が掛かる。私は自分でも分かるくらいにんまりと微笑んで、後ろを振り向く。
そこには私の大事な双子の妹、ハルカが居た。
暗闇の中でもはっきりと分かる、輝くような黒髪と白い肌、そして整った顔立ち。あんまり表情が顔に出ないからまるで精巧な人形のよう。
ちょっと古めかしい黒のセーラー服が本当に良く似合ってるね。
少し伸ばすとくるくると巻いてしまう猫っ毛で、ぽわっしている上に丸顔の私からすると妬ましいくらいの美少女だ。なんで双子でこんなに差があるんだろうね? まったく。
ハルカは重そうに、望遠鏡セットの鏡筒部分が入ったバックを下げている。
バックはぎりぎり地面には接触せず、ハルカと一緒に這うように移動している。ひきずったら怒るよ? 大事な部の備品だからね?
あ、一応言っておくけど、私はもっと重い赤道儀っていう望遠鏡の架台が入ったトランクと三脚も持ってるよ?
この望遠鏡セットの七割くらいは私が運んでるんだから。いじめだとは思わないでよ?
私達は広い校庭のすみっこ、学校で一番家の明かりや街灯の光が届かない場所へ辿り着き、大事な備品をゆっくり大事に降ろすと、はぁと息をついた。
「惑星を見るくらいなら、こんな所まで来る必要は無いのではありませんか?」
ハルカは汗もかいていないくせに、普段通りの無表情でそんな文句を言う。
私達の通う学校は静かな住宅街の中にある。おまけに校舎裏は近くの山まで続く林。
確かに天体観測に邪魔な街明かりはたいして無いんだけど。そう言うハルカの気持ちも分からなくはないんだけど。でも、
「え~、いいじゃん。せっかくシーイングが良いんだから色々見たいじゃん」
私は制服のスカートからハンカチを取り出し、汗を拭いながら自分のこだわりを主張する。あ、シーイングってのは望遠鏡で見た時の星の見え具合のことね。
ただ晴れてれば良いってわけじゃないから、本当に良く見える日は少ないんだよ。でもさすがにここまで運んでくるのは、ちょっと疲れたかな?
「部の活動とはいえ、あまり遅くなると『お父さん』『お母さん』に怒られますよ?」
じとっとハルカに睨まれ、私は若干怯む。
「だ、大丈夫、土星としし座の銀河群ぐらい見ても…大丈夫だよ、多分」
私は新たに噴き出た額の冷や汗を拭いながら、そしてあさっての方向の名前も知らない恒星を見上げながらそう答える。
そう、今日は部活動をするから遅くなると両親に断ってないの。
学校は自宅からさほど遠くはないし、決まった門限があるわけじゃないけど、限度を超えるとさすがに怒られるよね……お父さんとお母さん、普段は優しいけど怒ると怖いからな……
「まあ、良いですけどね……何か言い訳を考えておきますよ」
ハルカはそう言いながら、足元に置いたバックのジッパーに白くて細い指を掛け、ゆっくりと開いた。
「ありがと~! ハルカ、愛してる!」
私は本当に感謝しつつ、親愛の情を表現する為にハルカの細い首に抱きつく。
「はいはい。分かりましたから、カナタも出して下さい」
心なしか、少し顔を赤らめながらハルカは私を軽く振りほどき、作業を催促する。普段無表情な分、こういう時のハルカはとっても可愛い。
私はハルカへにまーっと微笑むと、持っていたバックを開け、三脚を取り出し、広げ、足を伸ばしてから地面にしっかりと立てる。まあ、校庭だし、良いでしょこれで水平ということで。
それから星々の明かりを受けて銀色に輝くアルミケースを開き、そこに鎮座していた白くて結構重い赤道儀を取り出した。慎重に抱えて、三脚と合わせてから下部のネジで固定。
「合っ体!」
「毎回言いますね、それ……」
ハルカはなぜか少し呆れた顔をしながら、彼女の持ってきたバックからクリーム色の鏡筒を取り出して、無造作に、だが正確に赤道儀に合わせた。
「合っ体、完了!」
「良いですから、それはもう……」
ハルカはそう言うと、完成した望遠鏡の後ろ側にスカートを抑えながらちょこんとしゃがみ、極軸望遠鏡を覗きこんで、赤道儀を北極星へ、つまり北へ合わせる作業を開始した。
私はつい興奮して叫んだ。夜空は澄みわたり、市街地では普段見えない星雲や銀河も見える、ような気がする。まるで星々に手が届く、ような気がする。そんな素敵な夜だよ!
「それは良かったですね。カナタが喜んでくれて何より」
後ろから声が掛かる。私は自分でも分かるくらいにんまりと微笑んで、後ろを振り向く。
そこには私の大事な双子の妹、ハルカが居た。
暗闇の中でもはっきりと分かる、輝くような黒髪と白い肌、そして整った顔立ち。あんまり表情が顔に出ないからまるで精巧な人形のよう。
ちょっと古めかしい黒のセーラー服が本当に良く似合ってるね。
少し伸ばすとくるくると巻いてしまう猫っ毛で、ぽわっしている上に丸顔の私からすると妬ましいくらいの美少女だ。なんで双子でこんなに差があるんだろうね? まったく。
ハルカは重そうに、望遠鏡セットの鏡筒部分が入ったバックを下げている。
バックはぎりぎり地面には接触せず、ハルカと一緒に這うように移動している。ひきずったら怒るよ? 大事な部の備品だからね?
あ、一応言っておくけど、私はもっと重い赤道儀っていう望遠鏡の架台が入ったトランクと三脚も持ってるよ?
この望遠鏡セットの七割くらいは私が運んでるんだから。いじめだとは思わないでよ?
私達は広い校庭のすみっこ、学校で一番家の明かりや街灯の光が届かない場所へ辿り着き、大事な備品をゆっくり大事に降ろすと、はぁと息をついた。
「惑星を見るくらいなら、こんな所まで来る必要は無いのではありませんか?」
ハルカは汗もかいていないくせに、普段通りの無表情でそんな文句を言う。
私達の通う学校は静かな住宅街の中にある。おまけに校舎裏は近くの山まで続く林。
確かに天体観測に邪魔な街明かりはたいして無いんだけど。そう言うハルカの気持ちも分からなくはないんだけど。でも、
「え~、いいじゃん。せっかくシーイングが良いんだから色々見たいじゃん」
私は制服のスカートからハンカチを取り出し、汗を拭いながら自分のこだわりを主張する。あ、シーイングってのは望遠鏡で見た時の星の見え具合のことね。
ただ晴れてれば良いってわけじゃないから、本当に良く見える日は少ないんだよ。でもさすがにここまで運んでくるのは、ちょっと疲れたかな?
「部の活動とはいえ、あまり遅くなると『お父さん』『お母さん』に怒られますよ?」
じとっとハルカに睨まれ、私は若干怯む。
「だ、大丈夫、土星としし座の銀河群ぐらい見ても…大丈夫だよ、多分」
私は新たに噴き出た額の冷や汗を拭いながら、そしてあさっての方向の名前も知らない恒星を見上げながらそう答える。
そう、今日は部活動をするから遅くなると両親に断ってないの。
学校は自宅からさほど遠くはないし、決まった門限があるわけじゃないけど、限度を超えるとさすがに怒られるよね……お父さんとお母さん、普段は優しいけど怒ると怖いからな……
「まあ、良いですけどね……何か言い訳を考えておきますよ」
ハルカはそう言いながら、足元に置いたバックのジッパーに白くて細い指を掛け、ゆっくりと開いた。
「ありがと~! ハルカ、愛してる!」
私は本当に感謝しつつ、親愛の情を表現する為にハルカの細い首に抱きつく。
「はいはい。分かりましたから、カナタも出して下さい」
心なしか、少し顔を赤らめながらハルカは私を軽く振りほどき、作業を催促する。普段無表情な分、こういう時のハルカはとっても可愛い。
私はハルカへにまーっと微笑むと、持っていたバックを開け、三脚を取り出し、広げ、足を伸ばしてから地面にしっかりと立てる。まあ、校庭だし、良いでしょこれで水平ということで。
それから星々の明かりを受けて銀色に輝くアルミケースを開き、そこに鎮座していた白くて結構重い赤道儀を取り出した。慎重に抱えて、三脚と合わせてから下部のネジで固定。
「合っ体!」
「毎回言いますね、それ……」
ハルカはなぜか少し呆れた顔をしながら、彼女の持ってきたバックからクリーム色の鏡筒を取り出して、無造作に、だが正確に赤道儀に合わせた。
「合っ体、完了!」
「良いですから、それはもう……」
ハルカはそう言うと、完成した望遠鏡の後ろ側にスカートを抑えながらちょこんとしゃがみ、極軸望遠鏡を覗きこんで、赤道儀を北極星へ、つまり北へ合わせる作業を開始した。
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