異世界ファンタジー系短編〜人気エピソードは連載!〜

マルジン

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異世界に来た底辺作家〜スキル【小説家になろう】でポイント無双するまで〜

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~あらすじ~
5年もの間泣かず飛ばす底辺作家。
不摂生がたたり絶命したはずが、目を覚ましたのはナーロッパだった。
鑑定してみるとスキルは【小説家になろう】で――。
スキルの説明には、異世界でなろうを運営できるよーとのこと。

ならやるしかねえな!

なろうを運営して、小説家無双してやるぜ!


◇◇◇


「おけおけ。恋愛モノがキテると」

バリボリとポテチを食べながら、小説家になろうの攻略法を読み漁る日々。
もちろん、書いてます。
書いてますとも、ええ。

だが読まれないのだ。
PV?
パノラマビューの略かな?

ブクマ?
……ぶ、ぶくぶく太ったマラソンランナーの略かな?

とにかく読まれないから、攻略法を探しつつ、小説をちまちまと投稿しているわけだ。


さて、小説家になろうのランキング踏破法は、完璧にインストールできた。

まずは、人の多い時間帯めがけて予約投稿をしてだな……。

「あれ、あんだ、これ」

PCモニターの異常かとも思ったが、これはヤバいかもしれない。
視界がぐにゃぐにゃするだけでなく、体に力が入らない。

ガシャン――。

キーボードに頭を打ち付けた。
背筋をのばすこともできないし、前を見ることもできない。

ヤバい、これはなんかおかしい。

そう思ったら普通はスマホを探すだろう?

チッチッチッ、甘いな。
底辺作家歴5年ともなれば、マウスを握るのだ。
画面が見えないけど、適当に左クリックを連打して、なんとか予約投稿しようと試みる。

そして……意識を失った。



「おいあんちゃん、おい」

横っ腹を小突かれるような違和感を覚え、ハッと目を覚ました。

「おーい」

声の方に視線をやると、そこにはおじさんがいた。
叔父ではなく、おじさんだ。
髪がボサボサで、無精髭で……革の胸当てに剣!?

「おいったら」

ガスッ――。

おじさんに脇腹を蹴られ、体がへの字に曲がった。
どうしてだか俺は、地面に膝をついて座り込んでいる。

たしか、PCの前にいたはずなのに。

「頭イッテんのか?」

「いえ、正常です」

「おお、喋った」

また蹴られそうだったので正常だと答えたが、本当に正常なのか?

俺は辺りを見回した。
アスファルト舗装されてない、むき出しの道。
酒場やら商店やら雑多に配置された店店。
そして目の前の建物の上には、とこう書かれている。

「冒険者ギルド」

「あ?ああ、そうよ、ギルドの前だぜ。邪魔だからどっか行きな」

ここはさしずめ、ナーロッパ。
小説家になろうにおける、テンプレでありお約束の一つ。
ナーロッパじゃないか。

「もしやアナタは冒険者さんですか?」

「ああそうだ」

「やはり。その胸当て、使い込まれた剣、血のついたブーツに、いかめしい顔。C級冒険者ですね!?」

「……な、なんで分かった」

B級以上から、だいたい品性が良くなる。
見た目にも気を使い始め、やさぐれから、遊び人風にシフトチェンジしてくもんだ。

なろうってのは、そういうものなんだ。

ふむ、ここは小説家になろうにおける、異世界テンプレを踏襲しているわけだ。

であれば、俺にはあるはず。

転生・転移者特典の神託スキルがな!

俺は駆け出した。
すべて分かる、手に取るように分かるぞ。

冒険者ギルドにて、鑑定を行う。
それから俺のスキルに全員が腰を抜かして、なんか無双を始める。
意表をついたパターンなら、貧相な鑑定結果になるだろうが、その場合はおおよそ、俺がスキル開発をすればいいのだ。

なろう底辺作家歴5年を、ナメてもらっちゃあ困るね!

バタンッ――。

「鑑定お願いしますッ!」

俺は受付へと勇み行く。
ギルド内の視線を一身に浴びながら、主人公然とした態度でな。

「か、鑑定ですか、どうぞ」

受付嬢が差し出したのは、これまたド定番の水晶玉だった。

よし、これで俺のスキルがわかるぞ。

ソっと手を乗せてみると、水晶玉がボヤーと光る。
そして……ん?特に何も起きないだと?

水晶玉が光った後は、特に何も起きなかった。
これでは、ぼんやりと明るい玉を触ってるだけの、いきがった変な男になってしまうじゃないか。

水晶玉から手を離すタイミングもわからないし、とりあえず黙って受付嬢を見つめていると、べべーッと変な音がした。

なんかファックスみたいな音だなあと懐かしく思ってたら、受付嬢は手元をゴソゴソして、何かをビリッと破り、俺に差し出してきた。

それは、文字が書かれた1枚の紙だった。

「鑑定が終わりました。あの、もう離していいですよ」

「……はい」

俺が手を離すと、急いで水晶玉が回収された。
泥棒だとでも思われたのだろうか。

気を取り直して、受付に置かれたレシートみたいな紙に目を通す。

そこに書かれていたのは、ステータス表だった。
体力やら年齢やら名前やら色々書かれてて、その一番下には……あった!

「スキル【小説家になろう】か。ふむふむ」

【小説家になろう】ねえ。

そんなスキル、あったっけ?

普通は【剣聖】とか【大賢者】とかそんなんでしょ。

なんだ【小説家になろう】って。
ただのサイト名じゃないか。

「スキルの説明なら、すぐ下にありますよ」

困った顔をしていたら、受付嬢が助け舟を出してくれた。
言われた通りにスキルのすぐ下に目をやる。

なるほど、大雑把ではあるがスキルの説明が書かれているな。

内容はと……。

【小説家になろう】

HinaProject Inc.が運営する、投稿型小説サイトを異世界で運営することができる。

システム改変、規約改変はスキルホルダーの自由裁量。

ただし、小説家になろうの運営理念にそぐわない場合は、上記の限りではない。

スキルを使用する場合、魔力を込めて「ログイン」または「なろう」と詠唱する必要がある。

異世界にはインターネット、PC等が存在しないため、スキルホルダーは別の媒体を、決定しなければならない。
別の媒体は、一度決めたら変更不可。


ふむふむ。

「これ、意味わかりますか?」

一応、受付嬢にも確認してみたが、首を傾げている。
やはり分からんよな、だってここ異世界だし。

俺は日本で、5年もの歳月を費やして、なろうと向き合ってきた。
だからほとんどのことは理解できる。
ただ最後がなあ。

PCがないから別媒体を用意しろと言われても。
しかも、一度決めたら変更不可だもんな。

……どうしよう。

「小説家さんなんですか?」

うんうんと唸っていると、受付嬢が質問してきた。
レシートみたいなステータス表を見て、疑問に思ったのだろう。

【小説家になろう】だもんな。
小説家だと思うよなー。

ただの底辺作家なんですよ俺、なんて言いたくないし。

あ、いや待てよ?

底辺でも作家は作家だ。
見向きもされない小説を山のように書いていたわけだが、書いてるってことは作家だよな。

評価されなきゃ小説家とは認めれない、なんて法律ないでしょ?
義務教育でそんなこと習ってないし。

てことは俺、小説家じゃん。

「……まあ、そっすね」

「へえー、それなら冒険者登録は不要ですよね?」

「……え?」

「だって小説家なんですよね?冒険者になるんですか?」

「あー」

たしかに。
冒険者には……ならないっていうより、なれない。
体が頑丈ってわけでもないし、剣は触ったこともないし、喧嘩もしたことないし。

冒険者が不向きってことは、俺が一番良く分かってる。

うーん、てことは必然的に小説家になるしかないよな。

スキル【小説家になろう】だし?
小説書けって言うんなら、いくらでも書ける自信はあるし?評価されるかは別だけど。

「そうですね、冒険者は止めときます」

「はーい」

ポイッ――。

受付嬢は、俺のスキル表を丸めて、ゴミ箱へと放り投げた。
いやいいんだけどさ、なんか切ないわ。
こっそりと捨てたらいいじゃない。
ゴミのように捨てなくても……まあゴミか。

また笑顔を貼り付けてこちらを見ているし、別に悪意があってのことではないだろうからな。
うん。

……うん?

ゴミか、ゴミなのか!

「ちょっと、質問なんですけど」

俺は受付嬢の答えを聞いて、PCやスマホに代わる別の媒体とやらを決めた。

そもそも小説家になろうは、インターネットと、インターネットに流れる情報を出力する装置 (要するにPCとスマホ)によって成り立っている。

それなのに、俺のスキルが【小説家になろう】ということは?
インターネットの代わりになるものが、この世界にはちゃんとあるってことだ。

日本にあってこの世界にないもの、この世界にあって日本にないもの。完璧とは言えないが、なんか代替できそうなもの、といえば、恐らく魔力だろう。

では魔力を使って情報を流せたとしよう。
何に流すのか?それが一番重要だ。

PCやスマホは、作家と読者を繋ぐ媒体なのだ。

スマホは常に持ってるし、PCは家に帰ればあるし。
日本にいれば、24時間小説家にに触れることができるわけだ。

それに代わる物は何なのか。

そりゃあ、もう一択しかない。

べべーッ、ビリッ――。

今の音が、まさにそれだ。

やっぱり小説といえば紙だ!

さっき受付嬢に聞いたのは、紙の値段とか普及率だった。
俺の鑑定結果を出力して、それでポイと捨てるぐらいだから、大して貴重でもないんだろうなと思ってら、やっぱりそうだった。

メモ帳とか、塗り絵帳とか、小説だって、みんなが普通に買える値段で売ってるらしい。

だから紙だ。
常にポケットに入れられるし、そして書ける。
小説家になろうの醍醐味は、小説家になれるって夢があるとこだろう。

だから作ろう、俺と同じ底辺作家を。


俺は受付へと赴き、渋い顔で言った。
「紙、もらえますか?」と。
トイレか?後から気づいて、ちょっと恥ずかしかった。

レシートみたいに細い紙を1枚手に入れて、またギルドの端っこへ。

そして、気合を入れて例の呪文を唱える。

『なろう』

すると紙の上に浮かび上がったのは……。

青と白を基調としたデザイン、某声優を全面に押し出したラジオ告知、そして!エロい広告。

「あれ?なんか見切れてるな」

細長いレシート状の紙なので、とてつもなく見切れてるけど、まあ分かる。
これは小説家になろうだ!

で、どうしたらいいんだろう。
と思いながら、細い画面をよくよく見てみると、サイトトップにあるはずの、ランキングが空白になっているではないか。

いつもならここには、えげつないポイントを稼ぐ猛者が軒を連ねているのに……白紙だと!?

今ならランキングの表紙を飾れる……書きたい、今すぐ書きたい。

はやる気持ちを抑え、紙をスクロールしてみると、スマホのように動いてくれた。
んで、ぺージ下部へと流してみるが、ない。

完結作品、更新作品、新着短編、コンテストやら書報やらがない!

これってつまり、日本で書かれた小説はここに掲載されてないということか。

え?
てことは、1から登録者を増やしてかなきゃならないの?

なるほどなるほど。これは燃えるな、燃えてくるなあ!

俺は、小説家になろうの底に溜まってる、泥水をすすって生きてきた男だ。
小説家になろうの仕様は隅々まで把握しているし、これまでに培ってきた作家脳もある。

今この世界で、小説家になろう上で、まともに小説を書けるのは俺しかいないのだ。

つまり、登録者を増やせば増やすだけ、すべてが俺の読者になる。
PV爆上がりの、ブクマと星のランデブーが始まるということだ。

やるしかないな。

俺はまた、受付へ。
今度は受付嬢ではなくて、ギルド内にいる全員へ届くように、声を張り上げた。

「めっちゃ面白い小説を、ただで読みませんかー!」

「……」

全員がキョトンとしていたが、俺はめげない。
この程度、5年間の修行に比べれば屁でもない。

俺のスキルを明かし、俺の持ってる紙を全員に見せて、娯楽の少ないであろう彼らに、色々と吹き込んだ。
ハーレムもの、恋愛、BL、それからちょいエロまで何でもあるよ!とな。

「おっしゃ、登録してやる!」
「俺もだ俺も!」

そしてこの世界で初めての、小説家になろう登録者が誕生した。
しかも20人も。

「んで?小説はどこにあんだ」

もう待ち切れないようだな、C級冒険者おじさんよ。

仕方ない、俺が今すぐ書き上げてやるぜ。

「えーと、タイトルは雪の道。ジャンルは純文学と」

純文学小説をなッ!
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