異世界ファンタジー系短編〜人気エピソードは連載!〜

マルジン

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失礼な勇者を倒した武具屋のおっさん、繫盛して笑っちまう。

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~あらすじ~

最近、弱い者を狙った犯罪が多い。
どうにかしないと……。
武具屋のおっさんは、どうにかこにか護身具を開発して、よし売り出すぞ!という日、失礼な勇者パーティーがやってきてしまう。

◇◇◇

ここ最近の町の、不穏な空気はいかんともしがたい。

年寄りや女子供を狙った犯罪が増えているというのに、騎士団の捜査もむなしく、犯人はいまだ捕まっておらず、町の男どもが自警団を名乗って巡回しているけれど、効果なく新たな犯罪が起きてしまって……。

この町で生まれて、この町で育ってきた俺も何かできないかと考えて、自警団に加わってはみたものの、どうにも違う気がしたんだ。

自警団として男どもが家を空ければ、残された女子供が狙われてしまう。
一人店番をするご老人が狙われてしまう。

自警団というアイデアに実効性がないとは言わないが、もっと違う視点や切り口で解決策を見出したほうがいいのではないか。
そう考えるようになった俺は、自分の職業を見つめなおした。

武具屋を営む俺には、武器や防具しか思い浮かばない。武具で自衛できるようになれば、うちも儲かるし、みんなも安心できるし、町の雰囲気もきっとよくなるはずだ。

うちに置いてある武具といえば……。
屈強な男が振り回す剣、獰猛な魔物から体を保護する防具、専門性の高い魔術杖。
これらは、一般人がホイホイ買えるほど安くはないし、扱うにも技術がいる。

だから、一般の人が気軽に買える値段にして、簡単に扱えて、有効性があるものを、作ることに決めた。

◇◇◇

そして俺は、身を護る装具である護身具を完成させ、本日ついにお披露目する。

この1週間、町の男として、気持ちのいい汗を流した。

町の方々にアイデアを聞きまわり、試行錯誤して護身具を完成させ、試供品を配り感想も聞いた。おおむね好評だったので、販売することに決めた俺は、速攻で宣伝ビラを配って回った。
それだけでなく、内装やら店の雰囲気やらも改善した。

なぜなら、護身具を買う方は、この店を頻繁に利用する客層とは全く違うからだ。

例えば家族、例えばご老人夫婦、例えば女性、こういう人たちがメイン客であり、臭くて乱暴で喧嘩っ早い冒険者共はお呼びでない……わけではないが、とにかく今日は、いつもの客でなく新しい客層に集中したい。

だから今日は、ビシッと気合を入れているぞ。
ヒゲは剃ったし、髪も整えた。

いつもの冒険者崩れみたいな、粗野っぽい服は止めて、祖母の葬儀で着た燕尾服を引っ張り出した。
結構パツパツだけど、恰幅がいいぐらいにしか思わんだろう。

それから、臭い対策だ。
うちの店は、魔物の死骸を素材にすることもあるからかなりの悪臭が漂っていた。
そういうの、嫌うだろ?普通の方は。
だから、しっかりと換気して薬屋から買い付けたハーブで掃討済みだ。

さらに、うちのメイン商品である武器やら防具やらは、ほとんど後ろにひっこめた。
平素の客は、買うものが明確に決まってたり、既に持ってる武具の修理だから、どうせ俺に話しかけてくる。
一方、護身具を買う人は、身を護るのに役立ちそうな「なにか」って具合に、買いたい物がぼんやりしているはずだから、予め商品として陳列しておく。
お客さんが商品を目で見て、興味を持ってもらい、もしも疑問があるなら、都度都度、商品を見せながら説明すればいい。

とにかく今日はファミリーとか女性とか子供のための日なんだ。

気合十分の準備万端。
軒先に人影はないが、まあこれから来るだろうさ。

営業中の札を出して、精算台の奥に座った。

◇◇◇

カランコロン――。

「いらっしゃ……い」

開店してから3分後、客がやってきた。
キョロキョロと辺りを見回し、顔をしかめているソイツらは、この町では有名な冒険者パーティーだ。

転生者で、男1対女4のハーレムパーティーってのもそうだが、不死身の魔王を唯一殺せる【勇者】ってスキルを持ってることは、みんなが知ってる。
でも、それがスゴイから有名なんじゃない。

コイツらはとにかく……失礼なんだそう。
めちゃくちゃ調子に乗ってるというか、選ばれし者ってのを鼻にかけて、クソウザいってことで、この辺じゃあ有名な要注意人物になってる。

「短剣だ。この子に合うのを見繕ってくれ」

いかにも奴隷の少女を指さして、パーティーリーダーである男が、俺に指示を出したわけだが、まあナメてるわ。

噂によると、勇者と呼ばれる転生者は16歳らしい。
俺よりも一回り下のガキが、偉そうに……。

とは思ったけれど、まあ我慢しよう。
いつもならば絶対に追い出してるけれども、今日は優しく穏やかな心持ちでいたい。

俺は裏の倉庫から、安物の短剣を取り出して、固まった。

ずーっと売れないであった安物を本能的に掴んでいたからだ。
ああいう手合いには、ナメられちゃいけないって性分があるもんで、体が勝手に動いてた。

俺は、首を振って悪感情を振り払い、まあまあ自信のある短剣と高価な短剣に持ち替えた。

精算台の上に並べて、文句ないだろ?と表情で語りかけたわけだが、転生者のソイツは鼻で笑いやがった。

「この子が奴隷だからって、バカにしてるのか?」

この店にあるものは、全部俺がこしらえた。
出来に満足いかない物もあれば、大満足で売りたくないもんだってある。

だが精算台に並べたのは、そこそこ自信があって、悪くない出来のもの。
そして売りたくないという気持ちを表した、高価な物だ。

それを……バカ……?

おっといけねえ。俺は一呼吸置いて、短剣を抜いてみせた。中身を見ればきっと減らず口もなくなるだろうと思ってな。

シャキン――。

「……ゴミ、だな。王都の武具屋に比べて、質が悪すぎる」

「ぐっ」

「なんだ?文句か」

俺は、物心ついた頃には、クソ熱い炉の前で鉄を叩いてた。
20年近く、武具を作ってきた。
武具を作るってことは、武具の使い方や使用感に対しても知識がなけりゃいけない。

だからこそ身をもって魔物と戦い、俺の作った武具でたくさん魔物を屠ってきたし、魔物の攻撃を受けてきた。

こんなヒョロいガキに言われずとも、質がってのは、魂がわかってんだ。

そんだけ、マジで作ってるものを、クソガキによぉ……。

ゴミだぁ!?

短剣を鞘にしまい、精算台の上で拳を握りしめた。

しゃーない。
こういう客はどこにだっているし、噂になるぐらいのクソ客なんだ。
今日は、今日だけは殺さずにおいてやろう。

俺は引き攣った笑顔で言った。

「……すんませんね。また機会がありましたら、よろしくお願いします」

すると、勇者は鼻を鳴らして、出口へと向かった。

クソ小せえヒョロい背中を睨みつけつつ、怒らずに抑えきれたと安堵したのも束の間、扉に手をかけた転生者は、言いやがった。

絶対に許してはいけない、クソみたいなことをな。

「さっさとこの町を出よう。肥溜めよりも価値のない町だ」

カランコロン――。

肥溜めよりも価値がないって、どういう意味だ。クソ、ションベンを溜め込んでる穴ぼこよりも、存在価値がねえってことか?

それともこの町にいるよか、肥溜めに沈んだほうがいいってことか。

奴の真意なんざ、どうでもよかった。

生まれ育ったこの町を、侮辱されてたまるかってんだ。
たしかに治安はよくねえし、ここ最近は犯罪が増えてやがる。

でもみんなこの町が好きで住んでるし、この町を良くしたいから自警団じみたこともするし、俺の護身具にだってアイデアを出してくれたんだ。

それをよお、ふらっと立ち寄ったクソガキに罵られて、黙ってられるやつがいるのかってんだよ。

俺は精算台の下に備えてある、剣を引き抜き、丸型の盾を腕に通して店先へと飛び出した。

「おいこらぁ!ちょっと待てクソガキ!」

「へ……」

すると、なんと運の悪いことか、勇者パーティーとすれ違う親子をビビらせてしまった。

「あ、お、おめえじゃねえ。あっちのクソガキだ。ご、ごめんな」

「ママー」
「だ、大丈夫よ」
「二人とも離れよう」

完全に怯えた母子を、親父のほうがうまく誘導してくれて、勇者パーティーと俺との間にはなんの障害もなくなった。

……そして今気づいたのだが、今日はなんだか子連れの家族が多い。

こんな場所で大立ち回りなんかしたら、俺の苦労が、ここ一週間の努力が水泡に帰してしまう。

そんな葛藤を胸に勇者の後頭部を睨みつけていると、奴はめんどくさそうに振り返る。

「俺?」

「お前に決まってるだろ。今なら許すぞ。町を侮辱したことを謝るなら、許してやる」

俺にとっても、奴にとっても悪くない妥協案だと思うのだ。
戦う気満々の状態で、正直引くに引けないんだ。俺はもう、睨んじゃいなかった、縋るような目つきで転生者を見つめていた。

そしたら、また、奴は鼻で笑いやがった。

「クソ以下の町をクソ以下といってなにが悪い。というか、ヤル気なんだろ?」

シャキン――。

「みんな手を出さないでくれ。いじめになってしまうからな」

奴は剣を抜いて、やる気満々のパーティーメンバーたちの動きを抑えた。

そして、躊躇うことなく突進してきた。

「勇者にケンカを売ったこと、後悔させてやる!」

勇者の動きは、さすがというべき俊敏さと洗練さだった。
だが、その手に握られた剣が、あまりにも……。

ガギン――。

「剣の手入れしてねえだろ」

「防がれただと!?」

まばらに黒ずんだ剣を盾で防いだ俺は、剣を放して手を固く握りしめた。
そして、目を見開く勇者の薄っぺらい腹に叩き込んだ。

「げふっ」

ズザザザ――。

吹っ飛ぶ勇者。
慌てて治癒魔法をかけるパーティーメンバー。

騒然とする店前の通り。

俺の頭の中では、たった一つの言葉がじわりと大きくなっていった。

やってしまった。

「うわーん」
「大丈夫よ怖くない怖くない」

「死んだの?」
「い、いや、生きていると思う」

泣きじゃくる子供を、なだめようとする母親。
吹っ飛んだ勇者を見て、呆然とする少年と父親。

これは、もう無理だ。挽回のしようがない。

「く、くそ。覚えてろ!」

それだけ言って、勇者パーティーは走り去っていく。

俺も奴らの後を追って逃げ出したかったよ。
店に戻ったって、どうせ誰も来やしないんだから。

粗暴なおっさんが、子供といって差し支えない勇者を叩きのめした。

この構図を見た人々が、そのおっさんの店に入ると思うか?

俺は俯きながら扉に手をかけて、営業中の立て看板を睨む。
どうせ来ないんだから、今日は閉店して飲みにでも行こうかしら。
そんなことが頭をよぎるほどに、落ち込んでいた。

カランコロン――。

それでも営業は続けるしかない。
ビラを配って、大々的に宣伝したのだから、と気合を入れなおして店に入ると、背中に小さな違和感があった。

虫かと思って背中をかくと、また小さな違和感が。

「ちっ」

舌打ちをして背中に目を向けると、そこには少年が立っていた。

「はいこれ、忘れてたよ」

落ち込みすぎて、剣を道端に忘れていたらしい。

「あ、おお、ありがとな」

振り返って剣を受け取ると、少年の父親と思しき男がすすっと近づいてくる。
そして、ポケットから折りたたまれた紙を取り出して、俺の前で広げた。

「これ、まだ売ってますか?」

その紙はまさしく、俺が配りまくったビラだった。
そして父親が指さす商品こそ、俺が売りたかった護身具。

「あ、ある。あります」

何が起きているのか、事態の把握ができないまま、俺は何とか返事をした。
そしたら少年が言った。

「買いに来たんだ!入ってもいいですか!」

「あ、ああ」

俺は扉を押さえて少年と父親を招き入れた。すると、父親だけが立ち止まって俺のほうに顔を近づけてきた。

「さっきのスカッとしました!」

そして親指を立てて、少年が待つ護身具コーナーへ。

彼らの背中を見て、俺はちょっとだけ安心した。

今日までの一週間が無駄にならずに済んでよかったなと。

カランコロン――。

そしたらまた客がやってきた。
さっき通りで泣いてた少女と母親だ。

「私でもその盾使えますか?」

「は?」

「その勇者殺しの盾、使ってみたいです。最近物騒じゃないですか」

「あー、殺してないですけどね」

「あの勇者を半殺しにしたらよかったのに……。性能を見たかったです」

「はあ」

どうやら、通りで暴れたのも無駄じゃなかったらしい。

「ママー、お店キレイだね」
「そうだねー」
「アレ可愛い!」
「あ、待ちなさい、走っちゃだめよ」

少女が向かったのは、女性用に見た目をこだわった護身具の前だった

今まで言われたことがねえぜ。店がきれいだなんて。
少女のおかげで心が幾分か軽くなり、ぼんやりしていた感覚がクリアになっていくと、外の喧騒が強くなっていることに気づく。

首を傾げ扉にはめ込まれた覗き窓から外を見ると、そこには人の群れができていた。

子連れ家族や、ご老人たちが集まって、配ったビラと店の看板を見比べている。

「勇者の攻撃を防いだ盾を持っておるんじゃ。相当いい商品を扱っておるぞ」

「いいから来なさいって!ちょっと町への愛情が強いだけで、いい人なのよ」

「俺の案を採用した商品だからな。買わないわけにはいかん」

「試供品が良かったんじゃよ。トメさんも買ったほうがええぞ」

色んな言葉が、扉の向こうでは飛び交っていた。
ここ一週間の努力が報われた気がして、思わず笑みがこぼれた。

まあでも、一個だけ無駄だったことがある。

いい人のように見られようと、繕ったことだ。

付け焼刃がいかに無駄なのかってことは、武具屋である俺は一番知ってるはずなのにな。

カランコロン――。

「さっさと入んな、通りが詰まっちまうだろ」

そのまんまの方がいいや。
この町と武具の出来の良さは、俺が一番分かってんだから。
自信持って、ドーンと構えてりゃあいいんだ。
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