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10. 人生はかくも賑やかなり
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結局、本当にそのまま両家の話はまとまり、ご嫡男とロゼリエは正式に婚約することになった。
伯爵様が挨拶に現われなかったのは、ロゼリエに不満があったからではない、ということも教えて貰えた。
男爵家にお見合いを打診した後で、嫡男から『ソトヅラ詐欺疑惑』について進言され、それももっともだと思ってしまったのだという。
結果、『伯爵が挨拶してるのに嫡男を紹介しない』という不自然と、『伯爵が顔を見せない』という不自然を天秤にかけ、嫡男に抱く印象としてまだマシそうな後者を選んだそうで、ご嫡男が自分の素を出せるくらいにロゼリエと打ち解けるのを待って、正式に顔合わせするつもりだったらしい。
初めから『お見合い』という形にはせずに、まずは『意見交換会』あたりにしておけば問題なかったのに。
正式な席と思って構えていたからこそ、色々胡散臭く見えてしまったけれども、若者同士の意見交換くらいのカンジだったのなら、伯爵様が出てこなかろうが、ご嫡男が出てこなかろうが、あまり気にならなかったような気がしてならない。
ま、そんな残念さが、この伯爵家らしさなのだろうと、ロゼリエは早々に諦めることにした。
この伯爵家には、諦めることの大切さを体現している先輩がいる。
もちろん『お坊ちゃん』こと、次男くんである。
次男くんは、経験値的に、まだ咄嗟の対応には弱いところがあるが、
一度経験したことには割とすんなり対応してくるという、なかなかのスキルを持っている。
(伯爵家、次男くんがフォローしてくれれば何も問題なくない?)
正直、ガサツで気の強い嫁をとるより、何気に優秀な次男くんにフォローして貰った方が、伯爵家にとってよっぽど有益な気がするのだが、次男くんは次男くんで、ちゃんと商会を手伝ってくれるつもりでいるので、まあもうコレでいいことにしよう。
あの兄らに日々揉まれる次男くんは、愚痴仲間になってくれそうな兄嫁を歓迎してくれているらしいし、仲良くやっていけそうな気がしている。
色々ややこしくしてくれた元凶のご嫡男は、
口先勝負は得意だが、事前にネゴったり先を考えて手を打ったりという裏方業務が不得意なため、そこらへんを上手いこと回してくれる嫁を希望していたらしい。
ロゼリエなら、男性に気後れすることなく ぐいぐい回してくれるだろうし、やんわり言われても気づけないご嫡男にとって、ズバズバ言うロゼリエは、非常にわかりやすくて助かるんだそうだ。
「―――――ま、ちゃんとガサツな中身も知った上で評価してくれてるなら、
これはこれで、悪くない話なのかもね」
ロゼリエは、苦笑したような微妙な表情を浮かべた。
残念ながら今のところ、トキメキも何もあったもんじゃないが、
何も遠慮することなく、怒鳴ったりど突いたりできる関係性は悪くない。
ああ見えて、ロゼリエに胸倉を掴まれようが、首根っこ掴まれようが、笑って許容できるくらいの器は持っているし、クレーマーを懐柔できる度量もある。
今のロゼリエにはトキメキよりも、そういう気楽さや安心感の方が重要に思えるので、意外と結果オーライなのかもしれない。
(もしかしたら これから、トキメくこともあるかもしれないしね。・・・ないか。)
まあ、過度に期待はしないにしても、まだ諦める必要もないはずだ。
実家の男爵家の商会については、両親が、
「ロゼが手伝い始めるまで何とかやってたんだから大丈夫よ~?」
と、のほほんと答えるので、もうあのまま ぽやぽやとやっていって貰おうと割り切った。
ロゼリエはこれから、伯爵家で、貴族相手の商売に立ち向かうのだ。それはそれで腕が鳴るというものだ。
ロゼリエもちょっと楽しみだが、ご嫡男はそれ以上に楽しそうに笑っている。
「ところでご嫡男?」
「ハイ?」
「そろそろ、名前と年齢は教えてもらえるのかしら?」
ご嫡男は、一瞬きょとんとした後、おなかの底から声を出して楽しそうに笑った。
そういえばロゼリエも、次男くんには名乗ったけれど、ご嫡男には名乗っていなかった。
(なんだぁ。似た者同士じゃん。)
ご嫡男もご嫡男だが、ロゼリエも大概だ。
『この二人で、伯爵家と商会は大丈夫なんだろうか』という気もしなくはないが、
夫婦としては、まあ何か上手くやっていけそうな気がする。
自分たちにはこんな出会いが合っていたのかもしれない、なんて感じながら、
ロゼリエも屈託なく笑うのだった。
おしまい。
====================================
本当は、ヒーローも名前付けてあったのですが、
ここまで来たらもう出さないでいいやと暴挙に出てみました。
命名1名。何とかなりました。
伯爵様が挨拶に現われなかったのは、ロゼリエに不満があったからではない、ということも教えて貰えた。
男爵家にお見合いを打診した後で、嫡男から『ソトヅラ詐欺疑惑』について進言され、それももっともだと思ってしまったのだという。
結果、『伯爵が挨拶してるのに嫡男を紹介しない』という不自然と、『伯爵が顔を見せない』という不自然を天秤にかけ、嫡男に抱く印象としてまだマシそうな後者を選んだそうで、ご嫡男が自分の素を出せるくらいにロゼリエと打ち解けるのを待って、正式に顔合わせするつもりだったらしい。
初めから『お見合い』という形にはせずに、まずは『意見交換会』あたりにしておけば問題なかったのに。
正式な席と思って構えていたからこそ、色々胡散臭く見えてしまったけれども、若者同士の意見交換くらいのカンジだったのなら、伯爵様が出てこなかろうが、ご嫡男が出てこなかろうが、あまり気にならなかったような気がしてならない。
ま、そんな残念さが、この伯爵家らしさなのだろうと、ロゼリエは早々に諦めることにした。
この伯爵家には、諦めることの大切さを体現している先輩がいる。
もちろん『お坊ちゃん』こと、次男くんである。
次男くんは、経験値的に、まだ咄嗟の対応には弱いところがあるが、
一度経験したことには割とすんなり対応してくるという、なかなかのスキルを持っている。
(伯爵家、次男くんがフォローしてくれれば何も問題なくない?)
正直、ガサツで気の強い嫁をとるより、何気に優秀な次男くんにフォローして貰った方が、伯爵家にとってよっぽど有益な気がするのだが、次男くんは次男くんで、ちゃんと商会を手伝ってくれるつもりでいるので、まあもうコレでいいことにしよう。
あの兄らに日々揉まれる次男くんは、愚痴仲間になってくれそうな兄嫁を歓迎してくれているらしいし、仲良くやっていけそうな気がしている。
色々ややこしくしてくれた元凶のご嫡男は、
口先勝負は得意だが、事前にネゴったり先を考えて手を打ったりという裏方業務が不得意なため、そこらへんを上手いこと回してくれる嫁を希望していたらしい。
ロゼリエなら、男性に気後れすることなく ぐいぐい回してくれるだろうし、やんわり言われても気づけないご嫡男にとって、ズバズバ言うロゼリエは、非常にわかりやすくて助かるんだそうだ。
「―――――ま、ちゃんとガサツな中身も知った上で評価してくれてるなら、
これはこれで、悪くない話なのかもね」
ロゼリエは、苦笑したような微妙な表情を浮かべた。
残念ながら今のところ、トキメキも何もあったもんじゃないが、
何も遠慮することなく、怒鳴ったりど突いたりできる関係性は悪くない。
ああ見えて、ロゼリエに胸倉を掴まれようが、首根っこ掴まれようが、笑って許容できるくらいの器は持っているし、クレーマーを懐柔できる度量もある。
今のロゼリエにはトキメキよりも、そういう気楽さや安心感の方が重要に思えるので、意外と結果オーライなのかもしれない。
(もしかしたら これから、トキメくこともあるかもしれないしね。・・・ないか。)
まあ、過度に期待はしないにしても、まだ諦める必要もないはずだ。
実家の男爵家の商会については、両親が、
「ロゼが手伝い始めるまで何とかやってたんだから大丈夫よ~?」
と、のほほんと答えるので、もうあのまま ぽやぽやとやっていって貰おうと割り切った。
ロゼリエはこれから、伯爵家で、貴族相手の商売に立ち向かうのだ。それはそれで腕が鳴るというものだ。
ロゼリエもちょっと楽しみだが、ご嫡男はそれ以上に楽しそうに笑っている。
「ところでご嫡男?」
「ハイ?」
「そろそろ、名前と年齢は教えてもらえるのかしら?」
ご嫡男は、一瞬きょとんとした後、おなかの底から声を出して楽しそうに笑った。
そういえばロゼリエも、次男くんには名乗ったけれど、ご嫡男には名乗っていなかった。
(なんだぁ。似た者同士じゃん。)
ご嫡男もご嫡男だが、ロゼリエも大概だ。
『この二人で、伯爵家と商会は大丈夫なんだろうか』という気もしなくはないが、
夫婦としては、まあ何か上手くやっていけそうな気がする。
自分たちにはこんな出会いが合っていたのかもしれない、なんて感じながら、
ロゼリエも屈託なく笑うのだった。
おしまい。
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本当は、ヒーローも名前付けてあったのですが、
ここまで来たらもう出さないでいいやと暴挙に出てみました。
命名1名。何とかなりました。
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面白かったです。続きも読みたくなる話でした。名前命名一名でもなくてもなんとかなる‼️
ご感想ありがとうございます!
今でも全力で名前つけずに乗り切ろうとしている作者です。
だいぶ苦しい時もありますが…
名前思いつかないのです…
面白くてテンポも良くて一気に読んでしまいました!
最後の命名1名に驚きましたが、確かにロゼリエちゃんとしか名前がない!俺様嫡男と苦労性の次男、ぽやぽや家族しか書いてない(笑)
名前と年齢が伏せられるお見合い…おもしろい匂いしかないですよ。楽しい作品ありがとうございました。
ご感想ありがとうございます!
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完結してから読むことが多いので、本当にこの作品を読めて、嬉しいです😆
私は、書く人ではないので、上手く言葉にできないので、ごちゃごちゃ書いてすみません💦
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応援しています、頑張って下さい🎀
ありがとうございます・・・!!
こんな風に言っていただけるなんて、
投げ出さずに書ききって本当によかった・・・!