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一章 出会いの舞

③遊郭で-3 side傑

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高松の送ってくれたURLのおかげで傑は迷うことなく『玉の緒』に辿り着くことができた。
『玉の緒』は木造の二階建てで建物は昔の造りになっていた。遊郭だと知らなかったら普通に茶屋だと思って入ってしまいそうな外観をしていた。




「失礼する。」



慣れない足取りで店内に入ると、これまたこじんまりとしたカウンターと、接待待ちの客の座る椅子が目に入った。



「いらっしゃいませ。ご新規様でしょうか??」



カウンターからひょこっと顔を出したのは藍色の髪が目立つ若い男で、胸には藍原と書いたプレートがつけてあった。




「あぁ、まあ。」




傑は自分の顔を見てここまで物怖じせずに話しかけられる人間に出会ったことがなかったため驚きが隠せなかった。


(まさか、この店の者は私のことを知らないのか?!)



そんなことを思っている傑を他所に藍原は話を進める。



「ここに必要事項の記入をお願いします。あと、指名できる子のリストです。」




どうぞ、と言われ渡された紙の束を傑は椅子に座りじっくりと目を通す。
高松の言う通り、ここには少年しか在籍していないようだ。
傑の頭には瑠亜のことしかなかったので、ら行のページにまっしぐらだ。



(どんな顔をしているのだろうか、、早く見たい!!)



はやる心臓を抑え【瑠亜】と書かれたページを開く、、とそこには名前しか書かれていなかった。
驚いた傑は、すぐさまカウンターの藍原の元へ向かうと



「瑠亜という少年は指名できないのか?今日は休みなだけなのか?」



と早口でまくし立てた。
一方藍原にとってこんな事は日常茶飯事のことで特に慌てることでも怯えることでもなんでもなかった。この店に来る大体の客は瑠亜を求めてやってくる。しかし、瑠亜の接待は限られた人しか受けられないし、この店のお得意様にならなければならない…。瑠亜の接待にはそれぐらいの価値があるのだ。




「申し訳ありません、お客様。瑠亜の接待を受けられる方は限られておりまして…」



傑は生きてきた中でこれほどに焦ったことはない。高松から話を聞いただけなのに、いつの間にか瑠亜という少年にこれほどまで執着をしているとは傑も思わなかった。



「金ならある。瑠亜を指名させてくれ。」



言い方こそぶっきらぼうではあったものの傑の真剣な面持ちは今まで瑠亜を求めてやって来た客とは違うものを藍原には感じさせた。



「負けましたよ、あなたからは何か違うものを感じます。確認して参りますので暫しお待ちを。」


はぁっ、、


傑はなんの緊張からかへなへなとその場に座り込んだ。大企業の社長という肩書きは何処へやらだ。
それから数分後、藍原が手で小さくOKマークを作って階段から降りてきた。
こちらへ、と藍原の声に促され傑は階段を上る。気のせいなのか分からないが上に行くにつれていい匂いがしてくる気がした。
階段を上り終えると更に奥に進み1番奥の大きな個室の襖の前に到着した。


「瑠亜、お客様だ。」


中からは返事がなかったが、藍原はいつものことなので、と苦笑いしながら襖をスルスルと開けていく。
窓際に立っていた赤い着物の少年が振り返って言った。



「こんばんは、初めてのお客様。」




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