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第4章 「公式ラジオ」と「罰ゲーム」
第23話 こんなに早く内見のスケジュールが埋まるなんて(後編)
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「そう言えば、なんで原宿の不動産屋なんですか?」
「原宿は若者の街。最先端のカルチャーが生まれる場所だからね」
「……なるほ、ど?」
竹下通りを田舎ものとモデルとオタクが並んで歩いている。
ハロウィンでもないのに仮装しているような異色な組み合わせ。けれども、そんな私たちを原宿という街は排斥しない。
昔、修学旅行で訪れた時には、ぼっち感と場違い感に今すぐ地元に帰りたくなったものだけれど、時代と共にずいぶん変わったみたいだ。
先頭を行くずんだ先輩が「ここよ」と足を止める。
お洒落な衣服屋・雑貨屋さんが立ち地並ぶ商店街。
その中ほどにぽつんと立っている2階建て&正面ガラス張りの建物。
看板はない。どころか不動産屋名物、ガラス戸に張られた物件情報もない。
白い木目のフローリング。
革張りのソファーとガラス張りのローテーブル。
背の低い観葉植物が並べられた向こうにはカウンターキッチンがあった。
ぱっと見、「カフェかな」と勘違いするようなお店。
とても不動産屋には見えないが――。
「ここ、大丈夫なんですか? 怪しいお店とかじゃありません?」
「あら、よく分かったわね?」
「えぇ⁉」
「嘘だぞばにら。ずんだもからかうのはやめてやれ」
怯える私を引きずって、ずんだ先輩とゆき先輩が店の中へと引き込む。
ガラス張りの両開きの扉を引くと、どこからともなく鈴の音が鳴った。
「はい、いらっしゃい。ようこそ、お待ちしてましたよ」
「こんにちは。その節はどうも」
奥から出てきたのは細身の男性。
アフロヘアで黒いYシャツの上からカラフルなベストを着ている。
エメラルドグリーンのチノパン。
顎髭を真ん中だけ残した彼は、女性みたいな柔和な笑顔を向けてきた。
「どうぞそちらへ」
名乗る間もなく私たちは革張りのソファーへ。
男性はバーカウンターに一度引っ込み、コーヒーが入ったグラスを人数分持ってきた。銀色の盆の上から落ち着いた所作でローテーブルにグラスを置く。
「ガムシロップ、あと、フレッシュはどうします?」
「あ、いえ、お構いなく」
「そうですか」
「あの……私、実はVTuberの」
「名乗らなくていいわよ。事前に説明してあるから」
名乗ろうとした私にずんだ先輩が釘を刺す。「でも、ずんだ先輩」と口にしかけて、彼女は私の唇の先にそっと指を添えた。
それ以上は言っちゃいけない――と目が言っていた。
店員さんが口元を隠して笑う。
「うちにはいろいろな事情を抱えたクライアントが来ますから。人通りの多い場所でもありますし、名前は伏せてお話していただいてるんです」
「あ、そう、なんですね……」
「ご用件はあらかじめうかがっています。防音室とネット回線が快適に使えること。御茶ノ水駅へのアクセスが良好。女性の一人暮らしに必要なセキュリティが揃っていること。以上の条件で、めぼしい物件をピックアップさせていただきました」
タブレット端末が差し出される。
そこには都内にある物件の写真、間取り、築年数、インターネット回線の種類、家賃、特記事項、などなどまとめられたデータシートが表示されていた。
スワイプして次々に物件を眺めていく。
どれも――やっぱり家賃がお高い。
ただ「会社からのお給料でなんとかなる」程度に収まっていた。
その辺りも、既にずんだ先輩が通達してくれているのだろう。
「会社の住宅補助があるからもう少しグレード上げてもよかったけど。まぁ、身の安全が保障できればそれでいいし、店長さんには悪いけれど下限を攻めてもらったわ」
「え、住宅補助なんてあるんですか?」
「アンタ、本当に何も知らないのね?」
ずんだ先輩とゆき先輩が顔を見合わせる。
あきれかえって頭を抱えるずんだ先輩。
彼女に変わり、ゆき先輩が「いい、ばにら?」と話を引き継いだ。
「家賃の40%相当。上限20万円まで。会社が家賃を負担してくれるのよ。入社する時の契約書に、これは書かれているはずだけれど?」
「知らなかったです」
「ちゃんと契約書は読もうね。まぁ、防音室だとか仕事上のセキュリティだとか、配信することを考えると普通の物件には住めないからねぇ」
「なにそれ。それ知ってたら、もっと良い所に入居したのに」
「「ちゃんと契約書を読まないアンタが悪い」」
つい「ばにぃ」と嘆きそうになってあわてて口を噤む。
うなだれてタブレットをスワイプすると――どこかで見た間取りを見つけた。
L字型の間取り。2LDK。風呂トイレ別。
2部屋とも防音室になっておりどちらも光回線が入っている。
5階建て。各階には二つしか住居はなく、中庭には特徴的な苔むした庭が。
「あの、ここって――?」
「あぁ、その物件ですか。ちょうど、この春先のタイミングで一部屋空きまして」
「いえ、そうではなくて」
ちらりとずんだ先輩の方を見る。
そっと彼女にタブレットを差し出すと、彼女の目がぎょっと見開かれた。
間違いない。ずんだ先輩のマンションだ。
すぐに「店長ォ!」という「圧」の籠もったずんだ先輩の怒声が店に響いた。
というか、結構いいお家賃の住宅だ。
リストの中でも一つ抜けたお値段。
良い所に住んでるんだなずんだ先輩ってば――。
「なにさりげなく、私の部屋を候補に入れてるのよ! やめてよね! 同僚と同じ家だなんて、家に帰った気がしないじゃないの!」
「すみません。後輩の部屋を選んであげたいと聞いたから、仲がよろしいのかと」
「よろしくない! 私とこいつは、ただの先輩と後輩!」
「……あの、私、ここが、良いです。会社に近いですし。先輩もいますし」
「絶対にダメ! こればっかりはダメ! 却下よ却下!」
感情のままタブレットをローテーブルに振り下ろすずんだ先輩。
流石にまずいと私とゆき先輩がテーブルの盤面すれすれでキャッチして止めた。
一緒のマンションに住んでいれば、コラボとかもやりやすくなるし、防犯という観点でも安心だと思ったんだけれどなぁ。
そうかダメかぁ。
まだまだ、ずんだ先輩と私の心の距離は遠いみたいだ。
「やっぱり、仲がよろしいんですね」
うちひしがれる私に何も知らない店員さんが言った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
なし崩しでお隣さん? まさかの同棲?
それはエッ……過ぎませんか?
主人公の新生活が気になる方は、どうか評価お願いいたします。m(__)m
「原宿は若者の街。最先端のカルチャーが生まれる場所だからね」
「……なるほ、ど?」
竹下通りを田舎ものとモデルとオタクが並んで歩いている。
ハロウィンでもないのに仮装しているような異色な組み合わせ。けれども、そんな私たちを原宿という街は排斥しない。
昔、修学旅行で訪れた時には、ぼっち感と場違い感に今すぐ地元に帰りたくなったものだけれど、時代と共にずいぶん変わったみたいだ。
先頭を行くずんだ先輩が「ここよ」と足を止める。
お洒落な衣服屋・雑貨屋さんが立ち地並ぶ商店街。
その中ほどにぽつんと立っている2階建て&正面ガラス張りの建物。
看板はない。どころか不動産屋名物、ガラス戸に張られた物件情報もない。
白い木目のフローリング。
革張りのソファーとガラス張りのローテーブル。
背の低い観葉植物が並べられた向こうにはカウンターキッチンがあった。
ぱっと見、「カフェかな」と勘違いするようなお店。
とても不動産屋には見えないが――。
「ここ、大丈夫なんですか? 怪しいお店とかじゃありません?」
「あら、よく分かったわね?」
「えぇ⁉」
「嘘だぞばにら。ずんだもからかうのはやめてやれ」
怯える私を引きずって、ずんだ先輩とゆき先輩が店の中へと引き込む。
ガラス張りの両開きの扉を引くと、どこからともなく鈴の音が鳴った。
「はい、いらっしゃい。ようこそ、お待ちしてましたよ」
「こんにちは。その節はどうも」
奥から出てきたのは細身の男性。
アフロヘアで黒いYシャツの上からカラフルなベストを着ている。
エメラルドグリーンのチノパン。
顎髭を真ん中だけ残した彼は、女性みたいな柔和な笑顔を向けてきた。
「どうぞそちらへ」
名乗る間もなく私たちは革張りのソファーへ。
男性はバーカウンターに一度引っ込み、コーヒーが入ったグラスを人数分持ってきた。銀色の盆の上から落ち着いた所作でローテーブルにグラスを置く。
「ガムシロップ、あと、フレッシュはどうします?」
「あ、いえ、お構いなく」
「そうですか」
「あの……私、実はVTuberの」
「名乗らなくていいわよ。事前に説明してあるから」
名乗ろうとした私にずんだ先輩が釘を刺す。「でも、ずんだ先輩」と口にしかけて、彼女は私の唇の先にそっと指を添えた。
それ以上は言っちゃいけない――と目が言っていた。
店員さんが口元を隠して笑う。
「うちにはいろいろな事情を抱えたクライアントが来ますから。人通りの多い場所でもありますし、名前は伏せてお話していただいてるんです」
「あ、そう、なんですね……」
「ご用件はあらかじめうかがっています。防音室とネット回線が快適に使えること。御茶ノ水駅へのアクセスが良好。女性の一人暮らしに必要なセキュリティが揃っていること。以上の条件で、めぼしい物件をピックアップさせていただきました」
タブレット端末が差し出される。
そこには都内にある物件の写真、間取り、築年数、インターネット回線の種類、家賃、特記事項、などなどまとめられたデータシートが表示されていた。
スワイプして次々に物件を眺めていく。
どれも――やっぱり家賃がお高い。
ただ「会社からのお給料でなんとかなる」程度に収まっていた。
その辺りも、既にずんだ先輩が通達してくれているのだろう。
「会社の住宅補助があるからもう少しグレード上げてもよかったけど。まぁ、身の安全が保障できればそれでいいし、店長さんには悪いけれど下限を攻めてもらったわ」
「え、住宅補助なんてあるんですか?」
「アンタ、本当に何も知らないのね?」
ずんだ先輩とゆき先輩が顔を見合わせる。
あきれかえって頭を抱えるずんだ先輩。
彼女に変わり、ゆき先輩が「いい、ばにら?」と話を引き継いだ。
「家賃の40%相当。上限20万円まで。会社が家賃を負担してくれるのよ。入社する時の契約書に、これは書かれているはずだけれど?」
「知らなかったです」
「ちゃんと契約書は読もうね。まぁ、防音室だとか仕事上のセキュリティだとか、配信することを考えると普通の物件には住めないからねぇ」
「なにそれ。それ知ってたら、もっと良い所に入居したのに」
「「ちゃんと契約書を読まないアンタが悪い」」
つい「ばにぃ」と嘆きそうになってあわてて口を噤む。
うなだれてタブレットをスワイプすると――どこかで見た間取りを見つけた。
L字型の間取り。2LDK。風呂トイレ別。
2部屋とも防音室になっておりどちらも光回線が入っている。
5階建て。各階には二つしか住居はなく、中庭には特徴的な苔むした庭が。
「あの、ここって――?」
「あぁ、その物件ですか。ちょうど、この春先のタイミングで一部屋空きまして」
「いえ、そうではなくて」
ちらりとずんだ先輩の方を見る。
そっと彼女にタブレットを差し出すと、彼女の目がぎょっと見開かれた。
間違いない。ずんだ先輩のマンションだ。
すぐに「店長ォ!」という「圧」の籠もったずんだ先輩の怒声が店に響いた。
というか、結構いいお家賃の住宅だ。
リストの中でも一つ抜けたお値段。
良い所に住んでるんだなずんだ先輩ってば――。
「なにさりげなく、私の部屋を候補に入れてるのよ! やめてよね! 同僚と同じ家だなんて、家に帰った気がしないじゃないの!」
「すみません。後輩の部屋を選んであげたいと聞いたから、仲がよろしいのかと」
「よろしくない! 私とこいつは、ただの先輩と後輩!」
「……あの、私、ここが、良いです。会社に近いですし。先輩もいますし」
「絶対にダメ! こればっかりはダメ! 却下よ却下!」
感情のままタブレットをローテーブルに振り下ろすずんだ先輩。
流石にまずいと私とゆき先輩がテーブルの盤面すれすれでキャッチして止めた。
一緒のマンションに住んでいれば、コラボとかもやりやすくなるし、防犯という観点でも安心だと思ったんだけれどなぁ。
そうかダメかぁ。
まだまだ、ずんだ先輩と私の心の距離は遠いみたいだ。
「やっぱり、仲がよろしいんですね」
うちひしがれる私に何も知らない店員さんが言った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
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主人公の新生活が気になる方は、どうか評価お願いいたします。m(__)m
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