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第4章 「公式ラジオ」と「罰ゲーム」
第24話 ずんだ先輩の辛口物件レビュー紀行(前編)
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テーブルに座ってタブレットとにらめっこすること三十分。
文京区内にあるマンションから三つを選び私たちは内見することにした。
「それでは、すぐに出発しましょうか」
店員さんに連れられて向かったのはガレージ。
停めてあるのはワンボックスカー。シルバーの車体の側面には会社のロゴが書いてあったが、独特のデザインでさっぱり読めなかった。
助手席に私。
後部座席にずんだ先輩とゆき先輩。
全員シートベルトを締めたことを確認して、「それじゃあ出発しますよ」と店員さんが発進の声をかける。
ガレージのシャッターが上がればそこはすぐ車道だった。
細い坂道を縫うようにして移動しながら大通りへ。
国立競技場、明治神宮外苑から北上して私たちは文京区へと向かった。
「あの。すみません。私、今日は判子とか持って来てないんですが?」
「大丈夫ですよ。うちは特殊な物件を扱う不動産なので、ガツガツ営業はしていません。もし、気に入った物件がなないならそうおっしゃってください」
変な不動産屋さんだなと思った。
前職で一人暮らしをした時や、今のアパートに入った時も、不動産屋の店員さんからは「絶対に契約させるぞ」という意思を感じた。
なのに、運転席の男性には、そういう気負いみたいなものがまるでない。
「私どもの会社はですね、近年需要の高まっている防音設備のある賃貸物件を専門に扱っているんですよ」
「防音設備、ですか?」
「はい。古くはミュージシャン、劇団員、声優などをされている方々を相手に商売を営んでおりました。それが、ひょんな縁から最近は配信業に携わる方々に、積極的にお部屋をご紹介させていただいてるんです」
「……あぁ、都会住みの配信者に需要はありそうですね」
「こんなことを言うと失礼ですが、配信業はまだ世間にそれほど認知されておりません。不動産業界でも『信用なし』とみなして、紹介を渋る傾向があります」
「……それは、心当たりがあります」
「そこに加えて防音室のある部屋となると限られますし、必然賃料も高くなってきます。当社は古くから『その手の事情』に理解のあるオーナーとつき合いがありますので、多種多様なニーズにご対応できるというわけです。もっとも川崎ばにらさんのようなトップVTuberにお部屋をご紹介するのは、私もはじめてのことですがね」
唐突に名前を呼ばれて背筋が伸びた。
赤信号で車が停車すると店員さんがまじまじとこちらを見てくる。
相変わらずの人の良い笑顔。けど、今はちょっと怖い。
たまらず私はバックミラー越しにずんだ先輩に助けを求めた。
「店長。この娘、ビビりだからいじめてあげないで」
「そうなんですか? 私も好きで見ていますが快活な方なのだと……」
「ガワと中身の性格が違うのなんて、VTuberじゃよくあることでしょ。というか、普段の配信の様子から伝わってこない。こいつコミュ力低そうだなって」
ひどいバニ。
まぁ、その通りですけど。
コミュ力底辺すぎて、金盾凸待ち失敗しかけましたけど。
ずんだ先輩の「擁護なのかディスりなのか分からない言葉」に私は傷ついた。
がっくりとうなだれる私を乗せて、車は再び走りだす――。
「けど、そんなことが分かるくらいよく見ていらっしゃるんですね」
「たまたまよ。たまたま」
「ずんだってば素直じゃないんだから。ばにらの配信よくチェックしてるくせに」
「ちょっと、ゆきち⁉」
「知ってたかばにら。こいつさ、デビュー当初からお前の配信ずっと追ってんだぞ。そのたびに私が愚痴につき合わされてさ」
「~~~~ッ!」
「『あのプレイングはよくない』『イライラしててもあの発言はダメ』『今日の配信内容はもっと工夫できた』ってダメだしてくんのよ。そんなの直接言えよな」
「なんでバラすのよ、もうっ!」
後部座席でどたばたとやかましい音が響く。
ミラー越しにおそるおそる確認すると、走行中だというのにずんだ先輩が顔を真っ赤にしてゆき先輩に掴みかかっていた。
停めようにも言葉が思いつかない。
私があたふたとしているうちに「走行中ですから、お静かに願えますか」と、店員さんがふたりに釘を刺した。
途端に無言になるふたり。
とはいえ、すごい話を聞いてしまった。
「み、見てたんですか、ずんだ先輩? 私の、配信?」
バツが悪そうにずんだ先輩が窓の方を向く。
「……そりゃ、まぁ、後輩の配信くらい見るでしょ」
「……そ、そうですよね。私も、ずんだ先輩の配信は、よく見てますし」
「ちょっ! アンタも急になに言ってんのよ!」
「えっ、いや、だって⁉」
「私がアンタの配信を見るのは分かるけど、アンタが私の配信を見るのは意味が分からないでしょ! やめなさいよ今すぐに!」
「そんな! 深夜の耐久配信、いつも楽しみにしてるのに!」
「あんな健康に悪いものVTuberが見るな! 大人しく寝ろ!」
「寝るなってリスナーに圧かけてるじゃないですか!」
また顔を真っ赤にして怒鳴るずんだ先輩。
その隣でゲタゲタと大笑いするゆき先輩。
どうしていいか分からず、振り返ったままオドオドとする私。
「どうやら『みみさん』は、今度はいい同僚に恵まれたようですね……」
そんな私の隣でぼそりと店員さんが呟いた。
ここにいるメンバーではない人物の名前を。
「ずんだ、もうこれは認めちまった方が良いぜ。言ってやりなよ、私は筋金入りのカメコ(ばにらのリスナーの愛称)だって」
「だから、違うって言ってんでしょ! そういうゆきちだって見てるくせに!」
「ほら、私とばにらは元々ユニットみたいなもんだったから。いろいろあって、今は別々に行動しているけれど、その時の絆があるみたいな?」
「何が絆よ! 大切な金盾配信の日に謹慎なんかして!」
「それはホント、申しわけないと思ってる……」
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着いてもろて」
「元はと言えばアンタのせいでしょ!」
「……ひん!」
文京区内にあるマンションから三つを選び私たちは内見することにした。
「それでは、すぐに出発しましょうか」
店員さんに連れられて向かったのはガレージ。
停めてあるのはワンボックスカー。シルバーの車体の側面には会社のロゴが書いてあったが、独特のデザインでさっぱり読めなかった。
助手席に私。
後部座席にずんだ先輩とゆき先輩。
全員シートベルトを締めたことを確認して、「それじゃあ出発しますよ」と店員さんが発進の声をかける。
ガレージのシャッターが上がればそこはすぐ車道だった。
細い坂道を縫うようにして移動しながら大通りへ。
国立競技場、明治神宮外苑から北上して私たちは文京区へと向かった。
「あの。すみません。私、今日は判子とか持って来てないんですが?」
「大丈夫ですよ。うちは特殊な物件を扱う不動産なので、ガツガツ営業はしていません。もし、気に入った物件がなないならそうおっしゃってください」
変な不動産屋さんだなと思った。
前職で一人暮らしをした時や、今のアパートに入った時も、不動産屋の店員さんからは「絶対に契約させるぞ」という意思を感じた。
なのに、運転席の男性には、そういう気負いみたいなものがまるでない。
「私どもの会社はですね、近年需要の高まっている防音設備のある賃貸物件を専門に扱っているんですよ」
「防音設備、ですか?」
「はい。古くはミュージシャン、劇団員、声優などをされている方々を相手に商売を営んでおりました。それが、ひょんな縁から最近は配信業に携わる方々に、積極的にお部屋をご紹介させていただいてるんです」
「……あぁ、都会住みの配信者に需要はありそうですね」
「こんなことを言うと失礼ですが、配信業はまだ世間にそれほど認知されておりません。不動産業界でも『信用なし』とみなして、紹介を渋る傾向があります」
「……それは、心当たりがあります」
「そこに加えて防音室のある部屋となると限られますし、必然賃料も高くなってきます。当社は古くから『その手の事情』に理解のあるオーナーとつき合いがありますので、多種多様なニーズにご対応できるというわけです。もっとも川崎ばにらさんのようなトップVTuberにお部屋をご紹介するのは、私もはじめてのことですがね」
唐突に名前を呼ばれて背筋が伸びた。
赤信号で車が停車すると店員さんがまじまじとこちらを見てくる。
相変わらずの人の良い笑顔。けど、今はちょっと怖い。
たまらず私はバックミラー越しにずんだ先輩に助けを求めた。
「店長。この娘、ビビりだからいじめてあげないで」
「そうなんですか? 私も好きで見ていますが快活な方なのだと……」
「ガワと中身の性格が違うのなんて、VTuberじゃよくあることでしょ。というか、普段の配信の様子から伝わってこない。こいつコミュ力低そうだなって」
ひどいバニ。
まぁ、その通りですけど。
コミュ力底辺すぎて、金盾凸待ち失敗しかけましたけど。
ずんだ先輩の「擁護なのかディスりなのか分からない言葉」に私は傷ついた。
がっくりとうなだれる私を乗せて、車は再び走りだす――。
「けど、そんなことが分かるくらいよく見ていらっしゃるんですね」
「たまたまよ。たまたま」
「ずんだってば素直じゃないんだから。ばにらの配信よくチェックしてるくせに」
「ちょっと、ゆきち⁉」
「知ってたかばにら。こいつさ、デビュー当初からお前の配信ずっと追ってんだぞ。そのたびに私が愚痴につき合わされてさ」
「~~~~ッ!」
「『あのプレイングはよくない』『イライラしててもあの発言はダメ』『今日の配信内容はもっと工夫できた』ってダメだしてくんのよ。そんなの直接言えよな」
「なんでバラすのよ、もうっ!」
後部座席でどたばたとやかましい音が響く。
ミラー越しにおそるおそる確認すると、走行中だというのにずんだ先輩が顔を真っ赤にしてゆき先輩に掴みかかっていた。
停めようにも言葉が思いつかない。
私があたふたとしているうちに「走行中ですから、お静かに願えますか」と、店員さんがふたりに釘を刺した。
途端に無言になるふたり。
とはいえ、すごい話を聞いてしまった。
「み、見てたんですか、ずんだ先輩? 私の、配信?」
バツが悪そうにずんだ先輩が窓の方を向く。
「……そりゃ、まぁ、後輩の配信くらい見るでしょ」
「……そ、そうですよね。私も、ずんだ先輩の配信は、よく見てますし」
「ちょっ! アンタも急になに言ってんのよ!」
「えっ、いや、だって⁉」
「私がアンタの配信を見るのは分かるけど、アンタが私の配信を見るのは意味が分からないでしょ! やめなさいよ今すぐに!」
「そんな! 深夜の耐久配信、いつも楽しみにしてるのに!」
「あんな健康に悪いものVTuberが見るな! 大人しく寝ろ!」
「寝るなってリスナーに圧かけてるじゃないですか!」
また顔を真っ赤にして怒鳴るずんだ先輩。
その隣でゲタゲタと大笑いするゆき先輩。
どうしていいか分からず、振り返ったままオドオドとする私。
「どうやら『みみさん』は、今度はいい同僚に恵まれたようですね……」
そんな私の隣でぼそりと店員さんが呟いた。
ここにいるメンバーではない人物の名前を。
「ずんだ、もうこれは認めちまった方が良いぜ。言ってやりなよ、私は筋金入りのカメコ(ばにらのリスナーの愛称)だって」
「だから、違うって言ってんでしょ! そういうゆきちだって見てるくせに!」
「ほら、私とばにらは元々ユニットみたいなもんだったから。いろいろあって、今は別々に行動しているけれど、その時の絆があるみたいな?」
「何が絆よ! 大切な金盾配信の日に謹慎なんかして!」
「それはホント、申しわけないと思ってる……」
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「元はと言えばアンタのせいでしょ!」
「……ひん!」
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