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第4章 「公式ラジオ」と「罰ゲーム」
第25話 ずんだ先輩の辛口物件レビュー紀行(後編)
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最初に内見した部屋は柘植大学近くにある8階建てのマンション。
5階の部屋。1LDKで少し手狭な感じ。廊下と一体になったキッチンにユニットバス。6畳の防音室がある以外は、学生の下宿先という感じだった。
おかげでお値段はかなりお手頃。
「トップVTuberの自宅としては手狭さはありますが、いかがでしょう?」
「いや、これくらいの方が落ち着きます。無駄に広いと緊張して」
思わず「ここで!」と言いそうになる私に待ったをかけるずんだ先輩。
しげしげと見つめるのは廊下と一体になったキッチンだ。
はめ込み型のIHコンロに小さなシンク。
特に私は文句がなかったのだが……。
「これ、冷蔵庫はどこに置く感じ?」
「あ……」
彼女に言われて冷蔵庫用のスペースがないことに気がついた。
すぐに店員さんがシンク下の冷蔵庫を示す。
ミニ冷蔵庫。明らかに容量がたりない。
これじゃ自炊はまず無理だ。
毎日お弁当生活確定。
「他にも電子レンジやトースターなんかを置く所もないわよね」
「……本当だ!」
「リビングに置くと生活空間が圧迫されるわ。あと、やっぱりユニットバスがねぇ。脱衣所があるとそこにいろいろと収納できるし」
「……考えたこともなかったです」
「そう言えばアンタお風呂どうしてるの?」
「……それは、あは、あはははは」
言えない。
毎日、蒸しタオルで身体を拭いているだけなんて。
銭湯に行くのは三日に一度なんて。
私が黙って目を逸らすと、ずんだ先輩はそれ以上は詮索しなかった。
私のお風呂事情を知っているゆき先輩は、終始ニマニマと笑っていたが。
「とにかく、生活のクオリティがここだと微妙だわ。ここはなしね」
「これくらいが身の丈に合ってる気がするんですけどね」
「VTuberの王がなに言ってんの。アンタの身の丈に合う建物なんて、都庁かスカイツリーくらいよ」
「……どっちも住みたくないバニ」
急いで次の物件へ。
次は文京区の北の果て。駒込駅の近く。
窓から六義園が見渡せる落ち着いた3階建てのマンションだった。
3階の角部屋。日当たり良好の2LDK。
トイレと風呂場は別で、少し広めのバスルームがついていた。
特筆すべきは防音室が二つあること。
元々一つだった防音室(バンド練習用)を強引に二つに分けたらしく、部屋を隔てる壁は見るからに薄かった。
隣の部屋でずんだ先輩が壁を叩けば音がこちらに聞こえてくる。
返事をするように私も壁をノックする。こちらの部屋に帰ってきたずんだ先輩が、力なく首を横に振った。
「ダメね。寝室と配信部屋の壁が薄すぎる」
「……別に問題ないような?」
「うみやゆきちが突然家に押しかけてきて、『お泊まり配信しようぜ!』ってなっても、安心して泊められる環境の方がいいでしょ?」
「なるほど、一理ありますね」
流石は家に2台も配信環境を整えているずんだ先輩。
配信に対する心構えが違う。
私はこくこくとその言葉に頷いた。
全肯定川崎ばにらで、先輩の助言に従った。
「いやまぁ、私は別にリビングで寝るけどな」
「ゆきち、揚げ足取るのやめてくれる?」
「だいたい寝室も4畳だし布団二つは置けないだろ」
「……キングサイズのベッドならふたりくらい寝られるでしょ?」
「……同じベッドで寝るのはまずくね?」
「……え? ずんだ先輩って、もしかしてガチ百合なんですか?」
「違うわよ!!!!」
ガチ百合疑惑を払拭せぬまま次の家へ。
文京区の東の端。上野公園に徒歩数分の距離。
5階建ての細長いオフィスビルのようなマンション。
1階に1部屋しかないので音は上下にだけ気をつければいい。
ただしワンルーム。
16畳で全面防音仕様というかなり特殊な物件だった。
当然ベランダなどはなく、窓には重々しい蓋がかかっていた。
「元々、ここは貸しスタジオだったんです。ただ利用者があまりに少なくて、元が取れなくて賃貸に改装したんです。窓に蓋さえ閉めれば完全防音になりますよ」
まるでカラオケルームをそのまま住居にしたような部屋。
床の木目調のフロアマットは元スタジオにしては綺麗で、おそらく住居用に改装したことがうかがえた。真新しいシンクに無理矢理後つけされたトイレとバスルームが、妙に部屋の景観に浮いている。
昼間だというのに薄暗く息苦しい部屋。
けれども、それがちょっと心地よくもあった。
たぶん、引きこもり気質のせいかな?
「ここ、良いわね。ここなら大規模オフコラボとかできそう」
とか思ったら、ずんだ先輩もこの部屋に食いついた。
食いつく理由が完全に「配信者目線」でちょっとウケる。
確かにこれだけ広い防音室はありがたい。
お泊まり配信によし、大規模オフコラボによし。
配信にはうってつけの良物件だ。
あとはお家賃だが――。
「うーん、家賃もだけど敷金・礼金もちょっと次元が違う」
「やっぱり上野に近いからかしら。まぁ、アンタが今後どういう配信をしたいかよね。コラボを重視するならアリだと思う」
私の「今後したい配信」か。
別に黙々とゲーム配信ができればそれでいいけれど。
けど、社長が私に求めているのはそうじゃないんだろうな。
うぅん、それを考えるとなんだかプレッシャー。
すぐに結論を出せそうにない。
私の悩む様子で察したのだろう「今日は、ここまでにしておきましょうか」と、店員さんが脇にタブレットを抱えて微笑んだ。
「本日内見した物件の資料はメールで送らせていただきます。また、今日のご様子からめぼしい物件をピックアップしますので、それを交えて判断していただければと」
「あ、はい。ありがとうございます」
「他にご要望などありますか? どんな些細なことでも構いません。ばにらさんが『こうしたい!』というご希望があれば、遠慮なくおっしゃってください」
希望、と言われても困る。
そもそも私は、転居する気がなかったのだから。
ただ、いろいろ見て回ったあとだと引っ越しもいいかなと今は思っている。
会社から住宅補助が出るのも分かったことだし。
そんな複雑な心境で、私は――。
「じゃあ、一つだけ、いいですか?」
「えぇ、なんなりと」
「……防音室はできるだけ広い方が良いです。ずんだ先輩やゆき先輩、同期のみんなが来た時に、コラボ配信とかがやりやすいように」
「はい、承知いたしました」
なんとも配信者らしい条件をつけるのだった。
コラボ苦手なんですけれどね。
オフコラボも数えるほどしかしてないんですけどね。
けどまぁ、いつどういう縁があるかは分からないし。
ずんだ先輩のように備えておいて損はないだろう。
「おまかせください。ダンスレッスンに使えるような大部屋にもアテがあります。もちろん、その分お値段は高くなりますが、そこは『川崎ばにら』さまですしね」
「あはは、頑張って稼がせていただくバニ」
「では、この条件で近日中にまた物件を紹介させていただきますね」
メモを取り終えた店員さんはトンと胸を叩くと白い歯を見せて笑った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
分かりやすい伏線回です!
はたしてこの内見がどんな波乱を呼ぶのか!
続きが気になるという方は、どうか評価をお願いいたします。m(__)m
5階の部屋。1LDKで少し手狭な感じ。廊下と一体になったキッチンにユニットバス。6畳の防音室がある以外は、学生の下宿先という感じだった。
おかげでお値段はかなりお手頃。
「トップVTuberの自宅としては手狭さはありますが、いかがでしょう?」
「いや、これくらいの方が落ち着きます。無駄に広いと緊張して」
思わず「ここで!」と言いそうになる私に待ったをかけるずんだ先輩。
しげしげと見つめるのは廊下と一体になったキッチンだ。
はめ込み型のIHコンロに小さなシンク。
特に私は文句がなかったのだが……。
「これ、冷蔵庫はどこに置く感じ?」
「あ……」
彼女に言われて冷蔵庫用のスペースがないことに気がついた。
すぐに店員さんがシンク下の冷蔵庫を示す。
ミニ冷蔵庫。明らかに容量がたりない。
これじゃ自炊はまず無理だ。
毎日お弁当生活確定。
「他にも電子レンジやトースターなんかを置く所もないわよね」
「……本当だ!」
「リビングに置くと生活空間が圧迫されるわ。あと、やっぱりユニットバスがねぇ。脱衣所があるとそこにいろいろと収納できるし」
「……考えたこともなかったです」
「そう言えばアンタお風呂どうしてるの?」
「……それは、あは、あはははは」
言えない。
毎日、蒸しタオルで身体を拭いているだけなんて。
銭湯に行くのは三日に一度なんて。
私が黙って目を逸らすと、ずんだ先輩はそれ以上は詮索しなかった。
私のお風呂事情を知っているゆき先輩は、終始ニマニマと笑っていたが。
「とにかく、生活のクオリティがここだと微妙だわ。ここはなしね」
「これくらいが身の丈に合ってる気がするんですけどね」
「VTuberの王がなに言ってんの。アンタの身の丈に合う建物なんて、都庁かスカイツリーくらいよ」
「……どっちも住みたくないバニ」
急いで次の物件へ。
次は文京区の北の果て。駒込駅の近く。
窓から六義園が見渡せる落ち着いた3階建てのマンションだった。
3階の角部屋。日当たり良好の2LDK。
トイレと風呂場は別で、少し広めのバスルームがついていた。
特筆すべきは防音室が二つあること。
元々一つだった防音室(バンド練習用)を強引に二つに分けたらしく、部屋を隔てる壁は見るからに薄かった。
隣の部屋でずんだ先輩が壁を叩けば音がこちらに聞こえてくる。
返事をするように私も壁をノックする。こちらの部屋に帰ってきたずんだ先輩が、力なく首を横に振った。
「ダメね。寝室と配信部屋の壁が薄すぎる」
「……別に問題ないような?」
「うみやゆきちが突然家に押しかけてきて、『お泊まり配信しようぜ!』ってなっても、安心して泊められる環境の方がいいでしょ?」
「なるほど、一理ありますね」
流石は家に2台も配信環境を整えているずんだ先輩。
配信に対する心構えが違う。
私はこくこくとその言葉に頷いた。
全肯定川崎ばにらで、先輩の助言に従った。
「いやまぁ、私は別にリビングで寝るけどな」
「ゆきち、揚げ足取るのやめてくれる?」
「だいたい寝室も4畳だし布団二つは置けないだろ」
「……キングサイズのベッドならふたりくらい寝られるでしょ?」
「……同じベッドで寝るのはまずくね?」
「……え? ずんだ先輩って、もしかしてガチ百合なんですか?」
「違うわよ!!!!」
ガチ百合疑惑を払拭せぬまま次の家へ。
文京区の東の端。上野公園に徒歩数分の距離。
5階建ての細長いオフィスビルのようなマンション。
1階に1部屋しかないので音は上下にだけ気をつければいい。
ただしワンルーム。
16畳で全面防音仕様というかなり特殊な物件だった。
当然ベランダなどはなく、窓には重々しい蓋がかかっていた。
「元々、ここは貸しスタジオだったんです。ただ利用者があまりに少なくて、元が取れなくて賃貸に改装したんです。窓に蓋さえ閉めれば完全防音になりますよ」
まるでカラオケルームをそのまま住居にしたような部屋。
床の木目調のフロアマットは元スタジオにしては綺麗で、おそらく住居用に改装したことがうかがえた。真新しいシンクに無理矢理後つけされたトイレとバスルームが、妙に部屋の景観に浮いている。
昼間だというのに薄暗く息苦しい部屋。
けれども、それがちょっと心地よくもあった。
たぶん、引きこもり気質のせいかな?
「ここ、良いわね。ここなら大規模オフコラボとかできそう」
とか思ったら、ずんだ先輩もこの部屋に食いついた。
食いつく理由が完全に「配信者目線」でちょっとウケる。
確かにこれだけ広い防音室はありがたい。
お泊まり配信によし、大規模オフコラボによし。
配信にはうってつけの良物件だ。
あとはお家賃だが――。
「うーん、家賃もだけど敷金・礼金もちょっと次元が違う」
「やっぱり上野に近いからかしら。まぁ、アンタが今後どういう配信をしたいかよね。コラボを重視するならアリだと思う」
私の「今後したい配信」か。
別に黙々とゲーム配信ができればそれでいいけれど。
けど、社長が私に求めているのはそうじゃないんだろうな。
うぅん、それを考えるとなんだかプレッシャー。
すぐに結論を出せそうにない。
私の悩む様子で察したのだろう「今日は、ここまでにしておきましょうか」と、店員さんが脇にタブレットを抱えて微笑んだ。
「本日内見した物件の資料はメールで送らせていただきます。また、今日のご様子からめぼしい物件をピックアップしますので、それを交えて判断していただければと」
「あ、はい。ありがとうございます」
「他にご要望などありますか? どんな些細なことでも構いません。ばにらさんが『こうしたい!』というご希望があれば、遠慮なくおっしゃってください」
希望、と言われても困る。
そもそも私は、転居する気がなかったのだから。
ただ、いろいろ見て回ったあとだと引っ越しもいいかなと今は思っている。
会社から住宅補助が出るのも分かったことだし。
そんな複雑な心境で、私は――。
「じゃあ、一つだけ、いいですか?」
「えぇ、なんなりと」
「……防音室はできるだけ広い方が良いです。ずんだ先輩やゆき先輩、同期のみんなが来た時に、コラボ配信とかがやりやすいように」
「はい、承知いたしました」
なんとも配信者らしい条件をつけるのだった。
コラボ苦手なんですけれどね。
オフコラボも数えるほどしかしてないんですけどね。
けどまぁ、いつどういう縁があるかは分からないし。
ずんだ先輩のように備えておいて損はないだろう。
「おまかせください。ダンスレッスンに使えるような大部屋にもアテがあります。もちろん、その分お値段は高くなりますが、そこは『川崎ばにら』さまですしね」
「あはは、頑張って稼がせていただくバニ」
「では、この条件で近日中にまた物件を紹介させていただきますね」
メモを取り終えた店員さんはトンと胸を叩くと白い歯を見せて笑った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
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はたしてこの内見がどんな波乱を呼ぶのか!
続きが気になるという方は、どうか評価をお願いいたします。m(__)m
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