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第4章 「公式ラジオ」と「罰ゲーム」

第27話 教えてなぜなにGoogle先生!(後編)

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「ばにら、ざまぁっ! 雑魚杉乙ばにでしたー!」

「うーちゃん強すぎバニでしょ! というか、執拗に赤甲羅当てられたんですけど! もしかしてレースの参加者、全員アンタの式神(うさぎのリスナーの愛称)なの?」

「そんなことないよ。ほら、1位の人『ばにら大好きUSA』って?」

「そのUSAは、アメリカじゃなくて『うさ』じゃないバニか?」

「はい! というわけで、最下位のばにらちゃんは腹筋12回でーす! 配信終了までにできるかなー?」

「もう、背中が床から上がらないバニ!」

「トータルで何回腹筋したんだっけ?」

「……79回!」

「体育会系の部活じゃん! あっ、それじゃカメコ(ばにらのリスナーの愛称)のみなさん、腹筋中のばにらに変わって私が終わりの挨拶するね!」

「ちょっ、やめろ……いたーっ! 腹筋つったぁっ!」

「乙バニー! まったねー!」

 立ち絵だけなのにしっかりとキス音声でアピールするうーちゃん。
 V魂逞しい限りだ。こうやっていろんな先輩のチャンネルで営業し、多くのファンを獲得してきた彼女の努力は素直に認めている。

 まぁ、配信時間制限のデバフで、3期生の中では伸びがいまいちだけど。

「ばにらぁ~、まだ腹筋終わらないのぉ~?」

「まだ、チャンネル閉じてないから黙っててバニ」

「だらしないぞばにら。腹筋100回未満で音を上げるなんて」

「うっせえバニ! お前、1回も腹筋してねえだろ! この幸運うさぎ!」

「まぁ、やっぱりね、世俗に汚れたバニーガールと神の使いの違いということで」

「神の使い1ミリも関係ない格好しておいてよう言うたなァ!」

 同期生コラボらしい終始賑やかな感じで腹筋マリカは幕を下ろした。
 数字も上々。罰ゲームだけだと他の配信にリスナーが逃げていただろう。うーちゃんが枠を取ってないのは申しわけなかったが、今回の配信は大成功だった。

 チャンネルを閉じて「ふぅ」と息を吐く。
 ジンジンと痛む腹筋を押さえながら天井をぼんやりと見上げた。

「ねー、ばにらぁー」

「なに、うーちゃん?」

「やっぱ、暇ぁ。今から遊びに来て」

「無茶言わないで。もう今日はここから一歩も動けないよ」

「ばにらのコラボ手伝ってあげたんだからいいじゃん! 遊びに来て、遊びに来て、遊びに来てぇー! ていうかヒーマぁー! あーそーんでー!」

「学生なんだから、勉強してもろて」

「ばにらまでそんなこと言うんだ! うさぎは大学生の前にVTuberなんだよ! 世界中のみんなが、うさぎのことを待ってるんだよ!」

「ほんと配信でもリアルでもめんどくせーばにな」

「えへへっ!」

 褒めてませんがな。

 無事に配信は終ったけれど、残ったかまちょな同期生をどう扱おう。
 うーちゃんてばこうなるとしつこいからなぁ。

 けど、久しぶりに通話できて嬉しい気持ちの方が強い。
 やっぱり同期生っていいな。

 そんなことをしみじみ思いながら、私は粛々と配信の後片づけをはじめた。
 一歩も動けないと言っておきながら立ち上がる。スピーカーとマイクの設定をハンズフリーモードにし、座卓からキッチンへと移動した。

「ところでさぁ、ちょっとばにらに質問してもいい?」

「なにバニか?」

「どうやってさ、『氷の女王』を凸待ちに呼んだの?」

 コップに水を注ぐ最中に背中に飛んだ「冷たい質問」。
 つい手元が狂ってコップを落とした。

 ガンと激しい衝撃音。
 幸いにもプラスチック製のコップのため大惨事は免れた。

「ちょっと、今の音なに! ばにら、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫だから」

「……なんか誤魔化してない?」

「誤魔化してない!」

「……まぁ、いいや。それより、どうやって呼んだの? 私もさ、ずっとコラボしたいと思ってたんだけれど断られてて!」

 蛇口から出る水を手ですくうと私は口と喉を潤す。
 濡れた口元を手ぬぐいで拭いながら、買いだめしておいた大豆バーを一本持ってパソコンの前へと戻った。

 まぁ、へたに隠してもバレる話だ。
 うーちゃんの質問に、私はありのまま起こったことを答えた。

「ふーん、そっか、ゆき先輩が連絡して助けに来てくれたのか。ゆき先輩とは仲良いもんね、ばにらも、『氷の女王』も」

「ちょっとうさぎ、『氷の女王』はやめなって。失礼だよ」

「だって、コラボしてくれないし。公式企画の収録も終わったらすぐ帰っちゃうし。私、あの人、苦手だなぁ」

「思ってるほど悪い人じゃないよ」

「どうして分かるの?」

「金盾コラボのあともいろいろと一緒に企画やったから。それで、なんとなく。ぶっきらぼうだけれど、ちゃんと私たちのこと見ててくれてる良い先輩だよ?」

「ふーん。すっかり、ばにらはずんだ先輩ファンってことか」

「そういうんじゃないってば!」

 なんだろう。
 やけにうーちゃんてば突っかかってくるな。
 もしかして、妬いているのだろうか。

 心配しなくても私とあの人はただの先輩と後輩。
 百合営業もしないし、特別な感情だって持ち合わせてない。

 はずだった――。

「けどさ! ずんだ先輩って経歴不明のVTuberじゃない? 突然個人勢として現れて、レトロゲーがすごいって評判になって、うちにスカウトされたけれども――その前、なにしてたかは分かんないんでしょ?」

「そうだね。ニコ生にもそれっぽい人はいなかったし」

「だよねだよね! なのにあんなに配信うまいってどういうこと? 妙に肝も据わってるしさ! どういう仕事してたら、あんな風になるんだろう?」

「だから言い方……」

 その時、昼間――ずんだ先輩と都内のマンションを巡っていた際に、ふと店員さんの口から漏れた台詞が、私の頭を過った。

『どうやら「みみさん」は、今度はいい同僚に恵まれたようですね……』

 店員さんの台詞。
 あれはいったい誰に向けたものだったんだ。
 あの中で、彼と過去に接点があるのは――。

「ごめん、うさぎ。私ちょっとやることができたから」

「え? ちょっ、待ってよばにら!」

「ごめん」

 私はDiscordの通話を切るとそのままPCを落とした。
 代わりにスマホでブラウザを立ち上げ、「ミミ VTuber」とGoogleで検索をかける。検索結果はずんだ先輩とは似ても似つかない個人勢VTuber。

 これは違う。

「じゃあ、配信者は?」

 次に「ミミ 配信者」で検索するがこちらも不発。
 該当する配信者はどこにも存在しなかった。

 おそらく、ずんだ先輩の前世は「ミミさん」だ。
 その名義で、何かしらの活動をしていた。
 その時に、彼女は店員さんと出会っているはず――。

「あとは何、ラジオ主? それともTiktoker? まさか、ミミっていうのはあだ名で、また違う名前があるの?」

 自分がいけないことをしている自覚はある。
 人が隠している過去を探るなんてゲスな行為だ。
 それを知って私がどうなるわけでもないし、ずんだ先輩をどうするわけでもない。

 けれど知りたい。
 知りたいという欲求を抑えられない。
 特別な感情なんてないはずなのに「青葉ずんだ」の過去が気になった。

 もっと、あの人のことを私は知りたい――。

「確か、元々はミュージシャンやダンサーに部屋を貸してたんだよね?」

 頭の中に浮かび上がったアイデア。
 それを少しずつ解きほぐして私はスマホの液晶を指で叩く。
 検索窓に入力した文字は「ミミ 女優」。

 しかし検索の直前で思い直して、私は一部を修正した――。

 はたして検索結果として表示されたのは見覚えのある女性。

 髪型こそ違うが間違いない。
 それはずんだ先輩だった。

 検索ワードは――「mimi 女優」。

「女優mimi。元KKYMプロダクション所属。初主演映画の撮影中に、スタッフに暴言を吐いたことで降板。一ヶ月後に引退表明。現在の動向は不明――」

 さらに、女優mimiが芸能界から引退した日付と、VTuber「青葉ずんだ」が活動を開始した日付は――1日違いだった。

 きっと偶然なんかじゃない。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 それは裏切りか? それとも恋慕か?
 無自覚重めな百合ムーブは吉と出るか凶と出るか?

 今後の展開が気になる思ったら、どうか評価お願いいたします。m(__)m
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