VTuberなんだけど百合営業することになった。

kattern@GCN文庫5/20新刊

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第9章 エンドラ討伐隊

第61話 ウソツキ、ダイキライ(前編)

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 家に帰った私は真っ先にえるふに連絡を取った。
 明日の『ニーナちゃんデビュー配信』に向けて、今日は配信をする余裕がない。
 コラボの予定をずらしてくれるよう頼んだのだ。

 急なドタキャンに、流石のえるふも怒るんじゃないだろうか。そんな心配とは裏腹、ボイスチャットで返ってきた言葉は、あっさりしたものだった。

「あ、うん、大丈夫だよ。また日をずらしてやろう」

「……えるふ? 怒ってないバニか?」

「お仕事なら仕方ないじゃん。社長直々の辞令となったらそりゃ逆らえないでしょ。企業VTuberの悲しいところだよねぇ。うちら結局、サラリーマンだから」

「えるふ……!」

 液晶ディスプレイの前で私は机に額を擦りつけた。
 ボイスチャットなので、えるふに見えることはない。
 けど、こうでもしないと気が収まらなかった。

 エルフは終始、私をフォローしてくれた。
 彼女も社会人経験のあるVTuberだ。上の無茶振りでスケジュールが狂わされる苦悩は理解している。残念そうではあったがドタキャンを許してくれた。

「しかし、ずんだ先輩といいニーナちゃんといい大変だね。それだけばにらが頼りにされてるってことだけど、こんなにいろいろ背負わされたらしんどいよね……」

 さらに、無理難題を押しつけられた私を慰めてくれた。

 優しい同期の気遣いに思わず涙と鼻水が出る。
 本当に私は同期に恵まれている――。
 
「手伝えることがあったらなんでも言ってね? なんだったら、明日のエンドラ討伐のために、ダイヤ装備を集めておこうか?」

「それは、助かるけれども……」

「遠慮しないで! これくらいしか私じゃ力になれないから! それに、うみもよく言ってるけど――三期生の絆じゃない! 困った時には助け合おうよ!」

「…………うん! ありがとう、えるふ!」

「どういたしまして!」

 同期の好意に私はとことん甘えた。
 やはり持つべきものは、苦楽を分かち合える仲間だ。
 胸に温かいものを感じながら、私はえるふとの通話を切るのだった。

 それからほどなくして、Twitterに配信中止の告知を流した。
 リスナーたちは残念がっていたが、「また別の日に、改めてコラボするバニ!」と追加でツイートすると、納得してくれたようだった。

 さて、これで喫緊の連絡が一つ済んだ。
 もう一つの『美月さんへの宅呑みのお断り』は、少し落ち着く時間が欲しかった。

 時刻は午後7時半過ぎ。
 幸いというか間が悪いというか、美月さんは配信中。
 珍しくレトロゲー配信ではなくホラゲ配信。過去に私も配信したゲームのため、だいたい配信時間の予測がつく。この調子なら、終るのは午後9時頃だろうか。

 その間に食事を摂っておこう。
 そう思い立つや、私は近くのコンビニまで足を運んだ。

 100円引きのシールが貼られた冷やし中華。
 パック入りの牛乳。
 明日の長丁場を想定しゼリー食品をいくつか。

 あと、猫缶。

 お会計をSuicaで済ましそそくさとアパートに戻る。
 部屋へと戻る前に裏庭を覗き込み、猫たちがいないかを確認した。

 コンクリートブロックの塀の裏。
 生い茂った背の低い木の間に、キラリと輝く猫目が見える。
 輝く黄色い瞳は四つ。どうやら二匹はいるみたいだ。

 食事が遅くなったお詫びとばかりに、私は猫缶を取り出すとその蓋を剥がして裏庭の入り口に置いた。そろそろと警戒しながら近づいてくる猫たち。撫で回して癒やされたい気分だったが、そんなことをしている状況ではない。
 私は猫たちに背中を向けて自室に戻る。

「うぇえっ、ごわがっだよぉ! 誰なの、このゲームそんなに怖くないって言ったの! めちゃくちゃ怖くてちびりそうになったんだけれど!」

 部屋に戻れば、美月さんはもうスパチャ読みに入っていた。
 想定より少し早い。

「『絶叫配信助かる!』じゃねーんだわ! でゅはははは! まぁ、ずんだの配信は常に絶叫してるみたいな所があるから!」

 軽妙にスパチャやコメントに応答する美月さん。
 ついつい自分の置かれた状況も忘れて見入ってしまう。
 いつ見ても、彼女のスパチャ読みは賑やかで、楽しい空気に満ちていた。

 そんな所も尊敬している。


 こんなすごい百合営業のパートナーと――別れなくちゃいけないなんて。


 ゆき先輩とコンビを解消したのは私だ。
 私は自分のために『川崎ばにら』と『網走ゆき』が築いたエロ売り路線を捨てた。
 そして、VTuber界隈で今の地位に昇り詰めた。

 自分のエゴを優先し、ゆき先輩の優しさに甘え、一人だけ人気者になった。

 だからこそ、もう二度と『百合営業』はしたくなかった。
 自分の身勝手で、大切なパートナーを傷つけるなんて、そんなことしたくない。
 なのに――私はずんだ先輩に、また同じことをしようとしている。

「『DStarsでマイクラが流行っていますが、ずんさんはしないの?』。うーん、どうしよっかなって、ちょっと迷ってる所だよ」

 ふと、スパチャでマイクラの話題が飛んだ。
 DStars内部でこれだけ流行れば、『青葉ずんだ』のファンたちも彼女のマイクラ配信を期待する。そういう質問が飛ぶのは仕方がない。

 そして、私も気になっていた。

 座卓に置いたヘッドホンを耳に当て、私は美月先輩の次の言葉を待つ。
 もったいつけるように「ん~」と美月さんが唸る。

「まぁ、やっても良いんだよ? やるのは構わないの! けどさ、今って、いっぱいDStarsのメンバーがプレイしてるじゃない?」

(まぁ確かに。どの時間帯でも、誰かしらマイクラしてるもんね……)

「そこにずんだが入ってくとさ、『あ、ずんだ先輩だ! ヤベっ!』ってなっちゃうでしょ? 遠慮しちゃうというか、場の空気を凍りつかせちゃうというか?」

(……いやいや、何を心配しているバニですか)

「あと、ずんだあのゲームやるのはじめてだでな。なんかやっちゃいけないことしてサーバー壊しちゃうんじゃないかって心配なのよ! わがる? わがって⁉」

 思った以上にプレイしてない理由がしょーもない。
 VTuberとして、常にプロ意識を持って臨む『青葉ずんだ』が、そんな些細なことを気にするなんて。

「『じゃあ、誰かに誘われたらするの?』。うーん、まぁ、ばにらちゃんが誘ってくれたら、ワンチャン考えるかもしれないなぁ……」

 けど、そんな私の感想は、彼女の次のコメントでどうでもよくなった。

「美月さん……」

 名前を挙げてもらえたのが嬉しい。
 みんなの前で言ってくれたことも。

 そして、だからこそ彼女に断りの電話を入れるのが怖い。「他の人とマイクラするため、宅呑みの予定をキャンセルしたい」と、彼女に告げるのが。
 美月さんを裏切ってしまうのが。
 
 青葉ずんだの配信を見ながら食べようとした冷やし中華は、すっかりと汁を吸って無惨に膨れ上がっていた。ぐちゃぐちゃになってしまった冷やし中華と私の心を、どうすれば元に戻せるのか――無学な私にはさっぱりと分からなかった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 友達に予定キャンセルの連絡入れるのって……ほんと辛いよね。(白目)
 えるふにはなんとか断りの連絡を入れられたばにら。しかし、美月にはどうしても言い出せない花楓。はたして、急な宅呑みドタキャンに、美月はどんな反応を返すのか。そして、二人の関係はこのまま自然消滅していくのか――。

 ちょっと展開的には早いですがシリアスな方向に話が流れて参りました。「ここまで社会人百合温めておいて、この破局はねーでしょ!」と、思う方は――安心してください「ハッピーエンド」タグついてますよ! 幸せな結末を信じていただいて、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
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