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第9章 エンドラ討伐隊
第62話 ウソツキ、ダイキライ(後編)
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「…………DStarsIDの新人と『百合営業』?」
「はい。先日の突発コラボが話題になっているらしくて、彼女のデビュー配信でコラボすることになりました。社長の肝煎り案件です」
「……そう、それで配信を急に休んだのね?」
「はい」
「ふ~ん、まぁ、あの社長が考えそうなことね。本当に、こういう微妙な駆け引きについては知恵が回るんだから」
「…………あの?」
「なに?」
「怒らないんですか? 宅呑みの約束、破っちゃったのに……?」
「怒ってどうなるのよ? 『やっぱりコラボやめます!』って、今からBちゃんに連絡するわけ? やめときなさいよ。あの娘、心労で死んじゃうわ」
美月さんの配信が終ってから三十分後。
彼女が一段落した頃合いを見計らい、私はLINEで連絡を入れた。
彼女はすぐ私からの通話に出たが――。
「で、連絡ってそれだけ?」
「あ、はい」
「そう。それじゃあ、次の宅呑みの日程よろしく。アンタの都合ですっぽかすんだから、段取りは自分で調整してよね。あと、お詫びの品も期待してるから」
「え、あ、ちょっと! 美月さん!」
「今、お風呂に入ってるの。まだ話があるなら、30分後に折り返して。ほら、アンタも準備で忙しいでしょ。私はいいから、自分のことして今日は寝なさい。深夜配信で疲れも溜まってるでしょ。そんなんじゃ、いいコラボできないわよ?」
美月さんはあっさりと私のドタキャンを認めてくれた。
それどころか「今、忙しいから」という感じで、そそくさと通話を切った。
塩対応ではない。
私の身体を気遣ってくれていた。
約束を破ることへの恨み節も感じられた。
けれども――。
「……なんでそんなに軽いんですか?」
あっさりと「仕事だから仕方ないね」で済ませた美月さんに、私はやもやとした居心地の悪さを抱いてしまった。
私が感じていた後ろめたさはなんだったのか?
美月さんが泣いて『宅呑みしよう!』と凸電してきたから、こんなにも罪悪感を抱いたというのに。
もしかして、私が勝手に盛り上がっていたのだけなのか。
百合営業のことも。
美月さんとのことも。
これくらいが私たちの本当の距離感ってこと――?
「だったら、なんで昨日、あんな電話をかけて……!」
握りしめたスマホに思わず力が籠もった。
合成樹脂のスマホケースが歪み、中からスマホが飛び出しそうになる。
真っ暗になった液晶画面に、泣きそうな自分の顔が映り、それで私はようやく我に返った。返ったが、胸の痛みは収まらなかった。
こんなにあっさり「仕事だから」で割り切れるんだ。
割り切れない、私がおかしいの?
百合営業って、こういうものなの?
すっかりと伸びて常温になった冷やし中華。
麺を口に運んでみるが、とても食べる気にはなれない。
ふらふらと私はパソコンの前から立ち上がる。
食べかけの冷やし中華は、三角コーナーの食べ残しに変わった。
温くなった紙パックの牛乳を飲み干してゴミ箱に捨てる。
それ以上のことを、今日はもうできなかった。
きっと連日の深夜配信に疲れ切っているのだ。
美月さんの言う通りだ。疲れていたらいいコラボはできない。
このもやもやとした感情に名前をつけることもできないのもそのせいだ。
いつになく早い時間だったが、私はパソコンの電源を落とす。
ベッドにうつ伏せになると、タオルケットを背中にかけ、胸に枕を抱き、ベッドのヘッドボードにおいてあったリモコンで、シーリングライトの照明を落とした。
大丈夫。
どんなに嫌なことがあっても、寝れば忘れるのが私の特技。
明日の朝になればきっと冷静に受け止められる。
そう信じて瞼を閉じた。
けれど――。
「……眠れない」
ここ数日の深夜配信で体内時計がおかしくなったのか。
心も身体もヘトヘトのはずなのに眠気が訪れない。
いつもは布団に入れば、気絶するように眠るのに。
どうしてこんな時に限って。
瞳を瞑れば瞑るほど心臓の高鳴りが激しくなる。
背中を丸めれば丸めるほど、脳が冴えて思考が止まらなくなる。
涼を求めて寝返りを打ったはずなのに、身体の火照りがとれない。
いったい私の身体はどうしてしまったのだろう。
十数回目の寝返りを打った時――ふと、私はスマホに手を伸ばした。
さきほど、美月さんに電話をかけた時刻から30分が経過している。
もう、美月さんはお風呂を出た所だろうか。
「……もう一度、電話してみよっかな?」
タオルケットにくるまる私に「電話してどうする?」と冷徹な誰かが問いかける。
恋人じゃないんだ。
彼氏じゃないんだ。
私と美月さんは、会社の先輩と後輩で、百合営業のパートナーで、それ以上でもそれ以下でもなくて――けど、一緒に晩酌をして楽しい夜を過ごせる相手で。
そういう相手と、どう接するのが人間として正解なんだ。
誰か私に、どうすればいいのか教えてよ――。
悩みに悩んだ末に、私はLINEの画面を閉じた。
代わりにTwitterを起動して、ひたすら私のファンイラストのハッシュタグを巡回した。サムネイルに使う作品を探すのでもなく、人気のイラストを探すのでもなく、ただただ『川崎ばにら』を応援してくれている人たちの絵を眺めた。
会ったこともなければ顔も見たこともない。
そんな人たちが、こんなにも『川崎ばにら』という存在を愛してくれている。
その事実だけが私のささくれた心を癒やしてくれた。
思考は未だに定まっていない。
胸の中のもやもやも残っている。
けれど、多くのファンたちの応援に、私の中の『川崎ばにら』は再起した。
その外殻――小嶋花楓の心はどこまでも空虚だったが。
ふと、操作ミスでハッシュタグ検索画面が消える。
再検索する気になれずホームに戻ると、『青葉ずんだ』のツイートが目に入った。
こんな時間に呟くなんて珍しい。
いつも、配信開始前と配信終了直後にするくらいなのに。
いったい何を呟いたのか。
興味からそのツイートを確認すると、そこには――。
「明日の19時から、りんご先輩とマインクラフトでコラボ……?」
仲良く肩を寄せ合う先輩二人のサムネイル画像。
そして、想像もしなかった配信告知が書かれていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タイトル回収。
今回はばにらの心を壊す感じで書きました。
こんなんやられたらメンタル死ぬよね……。(つらひ)
ばにらにきつい展開が続きますが、本作はゆるゆる社会人百合ですので、でかい揺り戻しがくるはず――百合だけに! ということで、よろしくこの後もお付き合いいただければ幸いです、どうぞよろしくお願いいたします。m(__)m
「はい。先日の突発コラボが話題になっているらしくて、彼女のデビュー配信でコラボすることになりました。社長の肝煎り案件です」
「……そう、それで配信を急に休んだのね?」
「はい」
「ふ~ん、まぁ、あの社長が考えそうなことね。本当に、こういう微妙な駆け引きについては知恵が回るんだから」
「…………あの?」
「なに?」
「怒らないんですか? 宅呑みの約束、破っちゃったのに……?」
「怒ってどうなるのよ? 『やっぱりコラボやめます!』って、今からBちゃんに連絡するわけ? やめときなさいよ。あの娘、心労で死んじゃうわ」
美月さんの配信が終ってから三十分後。
彼女が一段落した頃合いを見計らい、私はLINEで連絡を入れた。
彼女はすぐ私からの通話に出たが――。
「で、連絡ってそれだけ?」
「あ、はい」
「そう。それじゃあ、次の宅呑みの日程よろしく。アンタの都合ですっぽかすんだから、段取りは自分で調整してよね。あと、お詫びの品も期待してるから」
「え、あ、ちょっと! 美月さん!」
「今、お風呂に入ってるの。まだ話があるなら、30分後に折り返して。ほら、アンタも準備で忙しいでしょ。私はいいから、自分のことして今日は寝なさい。深夜配信で疲れも溜まってるでしょ。そんなんじゃ、いいコラボできないわよ?」
美月さんはあっさりと私のドタキャンを認めてくれた。
それどころか「今、忙しいから」という感じで、そそくさと通話を切った。
塩対応ではない。
私の身体を気遣ってくれていた。
約束を破ることへの恨み節も感じられた。
けれども――。
「……なんでそんなに軽いんですか?」
あっさりと「仕事だから仕方ないね」で済ませた美月さんに、私はやもやとした居心地の悪さを抱いてしまった。
私が感じていた後ろめたさはなんだったのか?
美月さんが泣いて『宅呑みしよう!』と凸電してきたから、こんなにも罪悪感を抱いたというのに。
もしかして、私が勝手に盛り上がっていたのだけなのか。
百合営業のことも。
美月さんとのことも。
これくらいが私たちの本当の距離感ってこと――?
「だったら、なんで昨日、あんな電話をかけて……!」
握りしめたスマホに思わず力が籠もった。
合成樹脂のスマホケースが歪み、中からスマホが飛び出しそうになる。
真っ暗になった液晶画面に、泣きそうな自分の顔が映り、それで私はようやく我に返った。返ったが、胸の痛みは収まらなかった。
こんなにあっさり「仕事だから」で割り切れるんだ。
割り切れない、私がおかしいの?
百合営業って、こういうものなの?
すっかりと伸びて常温になった冷やし中華。
麺を口に運んでみるが、とても食べる気にはなれない。
ふらふらと私はパソコンの前から立ち上がる。
食べかけの冷やし中華は、三角コーナーの食べ残しに変わった。
温くなった紙パックの牛乳を飲み干してゴミ箱に捨てる。
それ以上のことを、今日はもうできなかった。
きっと連日の深夜配信に疲れ切っているのだ。
美月さんの言う通りだ。疲れていたらいいコラボはできない。
このもやもやとした感情に名前をつけることもできないのもそのせいだ。
いつになく早い時間だったが、私はパソコンの電源を落とす。
ベッドにうつ伏せになると、タオルケットを背中にかけ、胸に枕を抱き、ベッドのヘッドボードにおいてあったリモコンで、シーリングライトの照明を落とした。
大丈夫。
どんなに嫌なことがあっても、寝れば忘れるのが私の特技。
明日の朝になればきっと冷静に受け止められる。
そう信じて瞼を閉じた。
けれど――。
「……眠れない」
ここ数日の深夜配信で体内時計がおかしくなったのか。
心も身体もヘトヘトのはずなのに眠気が訪れない。
いつもは布団に入れば、気絶するように眠るのに。
どうしてこんな時に限って。
瞳を瞑れば瞑るほど心臓の高鳴りが激しくなる。
背中を丸めれば丸めるほど、脳が冴えて思考が止まらなくなる。
涼を求めて寝返りを打ったはずなのに、身体の火照りがとれない。
いったい私の身体はどうしてしまったのだろう。
十数回目の寝返りを打った時――ふと、私はスマホに手を伸ばした。
さきほど、美月さんに電話をかけた時刻から30分が経過している。
もう、美月さんはお風呂を出た所だろうか。
「……もう一度、電話してみよっかな?」
タオルケットにくるまる私に「電話してどうする?」と冷徹な誰かが問いかける。
恋人じゃないんだ。
彼氏じゃないんだ。
私と美月さんは、会社の先輩と後輩で、百合営業のパートナーで、それ以上でもそれ以下でもなくて――けど、一緒に晩酌をして楽しい夜を過ごせる相手で。
そういう相手と、どう接するのが人間として正解なんだ。
誰か私に、どうすればいいのか教えてよ――。
悩みに悩んだ末に、私はLINEの画面を閉じた。
代わりにTwitterを起動して、ひたすら私のファンイラストのハッシュタグを巡回した。サムネイルに使う作品を探すのでもなく、人気のイラストを探すのでもなく、ただただ『川崎ばにら』を応援してくれている人たちの絵を眺めた。
会ったこともなければ顔も見たこともない。
そんな人たちが、こんなにも『川崎ばにら』という存在を愛してくれている。
その事実だけが私のささくれた心を癒やしてくれた。
思考は未だに定まっていない。
胸の中のもやもやも残っている。
けれど、多くのファンたちの応援に、私の中の『川崎ばにら』は再起した。
その外殻――小嶋花楓の心はどこまでも空虚だったが。
ふと、操作ミスでハッシュタグ検索画面が消える。
再検索する気になれずホームに戻ると、『青葉ずんだ』のツイートが目に入った。
こんな時間に呟くなんて珍しい。
いつも、配信開始前と配信終了直後にするくらいなのに。
いったい何を呟いたのか。
興味からそのツイートを確認すると、そこには――。
「明日の19時から、りんご先輩とマインクラフトでコラボ……?」
仲良く肩を寄せ合う先輩二人のサムネイル画像。
そして、想像もしなかった配信告知が書かれていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
タイトル回収。
今回はばにらの心を壊す感じで書きました。
こんなんやられたらメンタル死ぬよね……。(つらひ)
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