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第一章 みんな大好き「からあげ弁当」編
第4話 【駆除チーム】のリゾット
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小麦粉・大麦・稲はミラの実家から。
醤油などの調味料はキャンティの卸問屋から。
材料の調達はここまでは上手く行った。
ただし、からあげに一番大事な材料の調達で俺たちは行き詰まった。
「鶏肉をどうやって仕入れよう」
畜産業がこの世界にはない。
食品卸を営むキャンティが「アテがない」と言うのだから間違いなかった。
「ほなジェロはん! 近いうちに調味料を運ぶさかいによろしう!」
本日最後の乗合馬車で町の中央へと戻るキャンティ。
彼女を見送って店じまい。
新居での初日は怒濤の忙しさだった。
キッチンの後片付けをして、風呂の代わりに身体を拭けばもうヘトヘト。
二階の寝室に入ると、俺は吸い込まれるように真新しいベッド――オヤジさんが気を利かして買ってくれたふかふかの羽毛の奴――に倒れ込んだ。
「疲れた。こんな感じで弁当屋なんてできるのかな」
「弱気はダメよジェロ」
「けどさ問題が山積みで」
「少しずつ解決していけばいいのよ」
「そうかな」
「そうよ」
現実の厳しさに打ちひしがれる俺をミラは健気に励ましてくれる。
俺は本当にいい娘を嫁にもらったなと、隣で眠る彼女の方を振り向いた。
するとそこには――。
「ミラさん、どこで買ったのその下着?」
「えへへ、お昼に道具屋で」
下着姿で妻がうつ伏せにベッドに寝転がっていた。
肌色に映える白い絹のブラジャー&ショーツ。
柔らかな胸のシルエットも、慎ましやかな茂みも、はっきり浮き上がった半透明の布はもはや下着の用をなしていない。
赤い髪の毛をベッドに沈めて物欲しげに美少女がこちらをうかがう。
ミラは腕を伸ばすと俺の鳩尾をちょんと人差し指で突いた。
「……どうかな?」
「どうかなって」
「興奮する?」
「……そりゃ、もちろん」
「キャンティより?」
「なんでそこでキャンティの名前が出るのさ?」
「……言わせないでよ、バカ」
突如現れたライバルに妻は嫉妬しているようだ。
その気もないのにキャンティとイチャつくんじゃなかったと反省する。
すると、黙り込んだ俺にそっとミラが身を寄せた。
逃げる気力もない俺にのし掛かると、ミラはその豊満な胸を押し当てる。
温かく柔らかい二つの膨らみに俺は優しく包まれた――。
「……ジェロ。貴方のここ、すごく固くなってる」
「……疲れたせいだよ(大嘘)」
「苦しいよね? だったら、私にまかせて……」
ミラがその大人びた身体を使って俺の大事な部分を撫でる。
なんとも言えない心地に、あっという間にそれは「疲れているから」では済まない大きさになった。
半ばあきらめと共に彼女の豊満な胸から抜け出す。
逃げた旦那を切なそうに見つめる乙女に、精一杯の笑顔を向けた。
こういう時に気が利かないから、俺はこの歳まで童貞だったんだろうな――。
「ミラ。心配しなくても、君が一番大事だから」
「ちゃんと身体で教えて」
「……しょうがないお嫁さんだなぁ」
「……エッチなお嫁さんは、やっぱり嫌?」
そんなわけ、あるもんか。
純白の下着に触れるより早く、俺は小麦色に焼けたふっくらとした伴侶の頬を撫でる。彼女の身体をこちらに引き寄せるとその肉厚な唇を――控えめに貪った。
新居で迎える最初の夜はとても長かった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
俺は一番鶏が鳴くより先に目を覚ました。
「……店の前で変な音がする?」
胸の中で寝息をたてるミラ。
27歳まで童貞だったせいで拗らせているおっさんに、根気よくつきあってくれた乙女は、深く寝入っていて起きる気配がない。
ミラの髪をかき分けて額にキスをすると俺はベッドを出た。
ズボンに脚を通し、チュニックを着込む。
念のため冒険者時代に使っていたチェインメイルを身につけた。
腰にはショートソード。
野盗か。
モンスターか。
馬車を逃した冒険者が野営をしているのが一番ありがたい。
そんなことを考えながら、俺はカンテラを手に店の外に出た。
握りしめた投光器が映し出したのは――。
「うわぁっ! ビックトード!」
広場で山のように折り重なったビックトード。
ダンジョンに湧く雑魚モンスターの姿だった。
しかし、様子がおかしい。
広場のビックトードはなぜか腹を上にして寝転がっている。
さらに多くの個体がだらしなく舌を出していた。
よく見ると腹も動いていない。
「呼吸をしていない?」
これは死骸だ。
「…………誰だ」
耳元で声がする。
振り返ろうとした俺の首筋に冷たい感触が走る。
すぐに手を後ろに回されて身動きを封じられた。
ビックトードの死体の山に気を取られ、背後に近づく人影に気がつかなかった。
いや、そもそも気配をまったく感じなかった。
何者だいったい――。
「……冒険者か?」
「いいえ、そこの店に住んでいるものです」
「……店?」
「ほらそこの。ダンジョン前にある」
「……なるほど」
あっさりと背中の人物は俺を解放する。
振り返った先にいたのは黒いフードを被った男。
細身ながらも筋肉質な肉体。それは戦士とは違うベクトルの、戦闘のプロフェッショナルの証拠。おそらく――彼は上級職【アサシン】だ。
けど、どうしてこんな時間にこんな場所に?
「……近隣住民だったか。騒いですまない」
「いえ」
「……俺の名はリゾット。冒険者ギルドの【駆除チーム】に所属している」
「【駆除チーム】?」
一連の騒動を水に流すと、俺はリゾットさんに事情を聞いた。
彼は冒険者ギルドの職員で、【駆除チーム】という「ダンジョン内で増えたモンスターを間引く」業務に従事しているとのこと。ちなみにチームリーダーらしい。
毎朝、狩ったビックトードをこの広場で処分しているのだという――。
「……住民がいるとは気がつかなった。すまない」
「あ、いえ、こちらこそ」
「……明日からは場所を変えると約束しよう」
「あ、別にそこまでしていただかなくても」
というか、処分とはどういうことだろう。
もしかしてこのビックトードを解体するつもりなのか?
どう考えても広場が血の海になると思うのだけれど――。
無言でリゾットさんが俺から離れる。
彼はビックトードの死骸の前に移動すると手をかざす。
そして――上級職には似合わない&モンスターに使うには抵抗のある、とある生産職向けのスキルを発動した。
それは――。
「スキル【下ごしらえ】!」
主に果物や動物の死骸に使うスキル。
対象物から【可食部】を切り出すものだ。
たちまちビックトードが人の頭くらいの肉片に変わった。
それと同時に――俺の身体を衝撃が走った!
これだ!
「あったよ! 肉を調達する方法!」
「……どうした?」
「この世界には狩っても狩っても狩りきれないモンスターがいるじゃないか」
漫画「ダンジョン飯」の発想だ。
鶏はいなくても、鶏肉に近い食感のモンスターはいる。
蛙は「鶏肉に近い食感」とは元いた世界でもよく聞いた。
ビックトードの肉でからあげを作れば良いんだ。
「すみません! その肉、貸していただけませんか?」
「……うん?」
「ちょっとついてきてください!」
俺はリゾットさんからビックトードの肉を借りると、鶏肉と同じ調理手順でからあげを作ってみた。
カラッと揚がったビックトード。
見た目は完璧に普通のからあげだ。
身構えて俺は口の中に揚げたてのからあげを放り込む。
「あ、普通にうまいわ」
味は予想以上。
ちょっと淡泊でささみのような感じだけれど、全然いける。
もしかすると鶏より美味しいかもしれない。
「……ビックトードを調理したのか?」
背中から俺の調理の様子をうかがっていたリゾットさん。
俺は自信を持ってからあげを彼に差し出した。
「よければ、食べてみてください」
「……ふむ」
リゾットさんが躊躇なくそれに手を伸ばす。「揚げたてだから気をつけて」と注意する間もなく彼は口にそれを放り込むと、かっとその目を見開いた。
唇の先から漏れたのは「ほふっ!」と幸せそうな声。
「……もう一つ、いただいても構わないか」
「もちろん!」
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
俺が皿にからあげを盛りつけるとリゾットさんは一心不乱にそれを貪った。
まるで食べ盛りの中学生みたいに。
「……淡泊な蛙肉がこうもうまくなるとはな」
「しっかりと味がついていて美味しいでしょ」
「……サクサクとした食感がたまらない。なにより素晴らしいのは、油と塩気」
「肉体労働で疲れた身体は、やっぱり求めちゃいますよね」
「……あぁ。失われたエネルギーが満たされるのを感じる」
あっという間に彼はからあげを完食。
そして、いささか興奮した様子で俺に尋ねた。
「……ビックトードを捕まえてきたらこれを作ってくれるのか?」
「話が早くて助かる!」
かくして、最後まで俺を悩ませていた最大の懸念事項――鶏肉の確保という難題は、思いがけない形で解決した。
異世界でからあげ売ります。
ただし――肉は蛙です。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
新婚夫婦の初々しい夜の営みを「楽しみだぞッ!」と思った――という方は、評価・フォローよろしくお願いします。m(__)m
醤油などの調味料はキャンティの卸問屋から。
材料の調達はここまでは上手く行った。
ただし、からあげに一番大事な材料の調達で俺たちは行き詰まった。
「鶏肉をどうやって仕入れよう」
畜産業がこの世界にはない。
食品卸を営むキャンティが「アテがない」と言うのだから間違いなかった。
「ほなジェロはん! 近いうちに調味料を運ぶさかいによろしう!」
本日最後の乗合馬車で町の中央へと戻るキャンティ。
彼女を見送って店じまい。
新居での初日は怒濤の忙しさだった。
キッチンの後片付けをして、風呂の代わりに身体を拭けばもうヘトヘト。
二階の寝室に入ると、俺は吸い込まれるように真新しいベッド――オヤジさんが気を利かして買ってくれたふかふかの羽毛の奴――に倒れ込んだ。
「疲れた。こんな感じで弁当屋なんてできるのかな」
「弱気はダメよジェロ」
「けどさ問題が山積みで」
「少しずつ解決していけばいいのよ」
「そうかな」
「そうよ」
現実の厳しさに打ちひしがれる俺をミラは健気に励ましてくれる。
俺は本当にいい娘を嫁にもらったなと、隣で眠る彼女の方を振り向いた。
するとそこには――。
「ミラさん、どこで買ったのその下着?」
「えへへ、お昼に道具屋で」
下着姿で妻がうつ伏せにベッドに寝転がっていた。
肌色に映える白い絹のブラジャー&ショーツ。
柔らかな胸のシルエットも、慎ましやかな茂みも、はっきり浮き上がった半透明の布はもはや下着の用をなしていない。
赤い髪の毛をベッドに沈めて物欲しげに美少女がこちらをうかがう。
ミラは腕を伸ばすと俺の鳩尾をちょんと人差し指で突いた。
「……どうかな?」
「どうかなって」
「興奮する?」
「……そりゃ、もちろん」
「キャンティより?」
「なんでそこでキャンティの名前が出るのさ?」
「……言わせないでよ、バカ」
突如現れたライバルに妻は嫉妬しているようだ。
その気もないのにキャンティとイチャつくんじゃなかったと反省する。
すると、黙り込んだ俺にそっとミラが身を寄せた。
逃げる気力もない俺にのし掛かると、ミラはその豊満な胸を押し当てる。
温かく柔らかい二つの膨らみに俺は優しく包まれた――。
「……ジェロ。貴方のここ、すごく固くなってる」
「……疲れたせいだよ(大嘘)」
「苦しいよね? だったら、私にまかせて……」
ミラがその大人びた身体を使って俺の大事な部分を撫でる。
なんとも言えない心地に、あっという間にそれは「疲れているから」では済まない大きさになった。
半ばあきらめと共に彼女の豊満な胸から抜け出す。
逃げた旦那を切なそうに見つめる乙女に、精一杯の笑顔を向けた。
こういう時に気が利かないから、俺はこの歳まで童貞だったんだろうな――。
「ミラ。心配しなくても、君が一番大事だから」
「ちゃんと身体で教えて」
「……しょうがないお嫁さんだなぁ」
「……エッチなお嫁さんは、やっぱり嫌?」
そんなわけ、あるもんか。
純白の下着に触れるより早く、俺は小麦色に焼けたふっくらとした伴侶の頬を撫でる。彼女の身体をこちらに引き寄せるとその肉厚な唇を――控えめに貪った。
新居で迎える最初の夜はとても長かった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
俺は一番鶏が鳴くより先に目を覚ました。
「……店の前で変な音がする?」
胸の中で寝息をたてるミラ。
27歳まで童貞だったせいで拗らせているおっさんに、根気よくつきあってくれた乙女は、深く寝入っていて起きる気配がない。
ミラの髪をかき分けて額にキスをすると俺はベッドを出た。
ズボンに脚を通し、チュニックを着込む。
念のため冒険者時代に使っていたチェインメイルを身につけた。
腰にはショートソード。
野盗か。
モンスターか。
馬車を逃した冒険者が野営をしているのが一番ありがたい。
そんなことを考えながら、俺はカンテラを手に店の外に出た。
握りしめた投光器が映し出したのは――。
「うわぁっ! ビックトード!」
広場で山のように折り重なったビックトード。
ダンジョンに湧く雑魚モンスターの姿だった。
しかし、様子がおかしい。
広場のビックトードはなぜか腹を上にして寝転がっている。
さらに多くの個体がだらしなく舌を出していた。
よく見ると腹も動いていない。
「呼吸をしていない?」
これは死骸だ。
「…………誰だ」
耳元で声がする。
振り返ろうとした俺の首筋に冷たい感触が走る。
すぐに手を後ろに回されて身動きを封じられた。
ビックトードの死体の山に気を取られ、背後に近づく人影に気がつかなかった。
いや、そもそも気配をまったく感じなかった。
何者だいったい――。
「……冒険者か?」
「いいえ、そこの店に住んでいるものです」
「……店?」
「ほらそこの。ダンジョン前にある」
「……なるほど」
あっさりと背中の人物は俺を解放する。
振り返った先にいたのは黒いフードを被った男。
細身ながらも筋肉質な肉体。それは戦士とは違うベクトルの、戦闘のプロフェッショナルの証拠。おそらく――彼は上級職【アサシン】だ。
けど、どうしてこんな時間にこんな場所に?
「……近隣住民だったか。騒いですまない」
「いえ」
「……俺の名はリゾット。冒険者ギルドの【駆除チーム】に所属している」
「【駆除チーム】?」
一連の騒動を水に流すと、俺はリゾットさんに事情を聞いた。
彼は冒険者ギルドの職員で、【駆除チーム】という「ダンジョン内で増えたモンスターを間引く」業務に従事しているとのこと。ちなみにチームリーダーらしい。
毎朝、狩ったビックトードをこの広場で処分しているのだという――。
「……住民がいるとは気がつかなった。すまない」
「あ、いえ、こちらこそ」
「……明日からは場所を変えると約束しよう」
「あ、別にそこまでしていただかなくても」
というか、処分とはどういうことだろう。
もしかしてこのビックトードを解体するつもりなのか?
どう考えても広場が血の海になると思うのだけれど――。
無言でリゾットさんが俺から離れる。
彼はビックトードの死骸の前に移動すると手をかざす。
そして――上級職には似合わない&モンスターに使うには抵抗のある、とある生産職向けのスキルを発動した。
それは――。
「スキル【下ごしらえ】!」
主に果物や動物の死骸に使うスキル。
対象物から【可食部】を切り出すものだ。
たちまちビックトードが人の頭くらいの肉片に変わった。
それと同時に――俺の身体を衝撃が走った!
これだ!
「あったよ! 肉を調達する方法!」
「……どうした?」
「この世界には狩っても狩っても狩りきれないモンスターがいるじゃないか」
漫画「ダンジョン飯」の発想だ。
鶏はいなくても、鶏肉に近い食感のモンスターはいる。
蛙は「鶏肉に近い食感」とは元いた世界でもよく聞いた。
ビックトードの肉でからあげを作れば良いんだ。
「すみません! その肉、貸していただけませんか?」
「……うん?」
「ちょっとついてきてください!」
俺はリゾットさんからビックトードの肉を借りると、鶏肉と同じ調理手順でからあげを作ってみた。
カラッと揚がったビックトード。
見た目は完璧に普通のからあげだ。
身構えて俺は口の中に揚げたてのからあげを放り込む。
「あ、普通にうまいわ」
味は予想以上。
ちょっと淡泊でささみのような感じだけれど、全然いける。
もしかすると鶏より美味しいかもしれない。
「……ビックトードを調理したのか?」
背中から俺の調理の様子をうかがっていたリゾットさん。
俺は自信を持ってからあげを彼に差し出した。
「よければ、食べてみてください」
「……ふむ」
リゾットさんが躊躇なくそれに手を伸ばす。「揚げたてだから気をつけて」と注意する間もなく彼は口にそれを放り込むと、かっとその目を見開いた。
唇の先から漏れたのは「ほふっ!」と幸せそうな声。
「……もう一つ、いただいても構わないか」
「もちろん!」
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
俺が皿にからあげを盛りつけるとリゾットさんは一心不乱にそれを貪った。
まるで食べ盛りの中学生みたいに。
「……淡泊な蛙肉がこうもうまくなるとはな」
「しっかりと味がついていて美味しいでしょ」
「……サクサクとした食感がたまらない。なにより素晴らしいのは、油と塩気」
「肉体労働で疲れた身体は、やっぱり求めちゃいますよね」
「……あぁ。失われたエネルギーが満たされるのを感じる」
あっという間に彼はからあげを完食。
そして、いささか興奮した様子で俺に尋ねた。
「……ビックトードを捕まえてきたらこれを作ってくれるのか?」
「話が早くて助かる!」
かくして、最後まで俺を悩ませていた最大の懸念事項――鶏肉の確保という難題は、思いがけない形で解決した。
異世界でからあげ売ります。
ただし――肉は蛙です。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
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