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第二章 スタミナ満点「しょうが焼き弁当」編
第10話 W弁当、そしてW看板娘
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ペコリーノを迎えた次の日、俺はしょうが焼き弁当を常連客に配ってみた。
「なんだこの柔らかい豚肉は! 酒場の固くて脂っこい肉と比べものにならねえ! ふわふわとして口の中でいつまでも噛んでいたくなる!」
「タマネギもたまらねえ! 塩っ辛いソースと肉の脂を吸ってとろっとっろだ! 肉と一緒に食べてよし、単独で食べてよし!」
反応は上々。
スキンヘッドの戦士とひょろっとした狩人は、競うようにしょうが焼きをかき込んだ。
「お前ら分かってないな。この野菜が大事なんだ。肉の味に飽きた時、この細かく刻まれた野菜を食べると――口の中がさっぱりとする」
「「それな!」」
そんな彼らに連れられて顔を出した魔法使いの青年。
いつもはからあげ弁当を買ったり買わなかったりする彼だが、しょうが焼き弁当には太鼓判を押してくれた。間違いなくキャベツのおかげだ。
口に豚肉を運ぶ手も心なしか早い。
しょうが焼き弁当は前衛職以外にも好評のようだ。
「旦那。こいつはいつから販売するんだい?」
「値段は? からあげ弁当と変わらないなら二つ買っちゃうよ?」
「からあげとしょうが焼き、交互に頼むのはいいかもしれないな……」
常連客たちの嬉しい評価に「ありがとうございます」と俺は頭を下げる。
「まだ生産体制が整っていないので数は用意できませんが、明日からでも売っていこうかなと思っています。もちろん、今回もからあげと同じく銀貨1枚で」
「「「買った! やっぱりここの弁当は最高だぜ!」」」
冒険者たちが子供みたいな目をして言った。
思わずこっちが笑顔になる。
あぁ、俺は客のこんな顔が見たかったんだな。
こういう風に誰かから掛け値なしの感謝をされたかったんだな。
そんなことをしみじみと感じた。
「それはそうと、今日もからあげ弁当二つ」
「俺も俺も」
「俺も今日は食べようかな。一つお願いできるかい?」
「毎度。ミラ、からあげ弁当を五つ用意してあげて」
「もう準備済みよ! 持っていってあげてペコリーノ!」
あわただしくからあげを弁当につめる看板娘。
彼女の代わりに、麻袋に入った弁当を持って来たのは小さな女の子。
キャンティが見繕った白いワンピース。その上から黄色いエプロンを着た幼女は、どこからどう見てもモンスターには見えない。
お店をお手伝いする愛らしい子供だ。
金色をしたふわふわとした髪の幼女――ペコリーノは、店先に出るとそこに佇む男たちに花のような笑顔を向けた。
「からあげべんとぉ、ふたつと、ふたつと、ひとつになりまぁす」
「「「か、かわいい! 天使だ!」」」
君らが挑むダンジョンの中層ボスだ。
「がんばってぇ、ぼぉけんしゃのにぃに!」
「「「うん、頑張る!! にぃに、絶対に生きて帰ってくるから!!」」」
弁当屋の看板娘2は、また常連客を増やしてくれそうだ。
しかし、俺の大切な娘に変なことをしたら許さないぞ。
「ばいばぁーい、にぃにー! またきてねぇー!」
「「「また来るよ! 絶対通う! 毎日会いに来るからね!」」」
浮き足だってダンジョンに入っていく冒険者たち。
その背中に神の加護とほんの一時の幸福を俺は願った。
◇ ◇ ◇ ◇
しょうが焼き弁当は思った通り好評だった。
これは前衛職以外の人間にも受け入れられたのが大きい。
戦士・狩人以外にも、魔法使いや回復術師、道具持ちなどの補助職まで俺の店に脚を運ぶようになった。
つまり新規顧客の開拓に成功したのだ。
作ってよかったしょうが焼き弁当。
本日も弁当は完売御礼。
夕方最後の乗合馬車が広場にくれば、冒険者たちが夕飯代わりに買おうと店に顔を出す。そんな彼らに「すみません今日はもう完売しました」と俺は頭を下げた。
「ミラ。今日の売り上げの集計をお願い」
「はーい!」
「ペコリーノは野菜のストックを確認して」
「まかせて、ぱぁぱ」
甲斐甲斐しく手伝ってくれる嫁と娘に感謝しながら俺は裏庭に出る。
すると、今から出勤の【駆除チーム】が立っていた。
「……今日も大繁盛だな」
「はい。おかげさまで」
「……新しいしょうが焼き弁当だが。アレには薬草でも入っているのか?」
「いいえ? 何も入れてませんけれど?」
「……食べた日の疲れの溜まり方がまるで違うんだが」
「元いた世界でもよく言いますね。豚肉に疲れを取る効果があるそうですよ」
「……なるほど。異世界料理にはステータス上昇効果もあったのか」
「どうなんですかね?」
手を前に出して「ステータスオープン!」なんてふざけてみる。
だが、真顔をリゾットさんに向けられて俺はすぐに手を引っ込めた。
「……ところで材料は足りているか? 必要なものがあればいつでも言ってくれ」
「しばらくはからあげ弁当としょうが焼き弁当で大丈夫だと思います。あと、畑をやりだしたので、新しい弁当の開発はそっちの材料でしようかなと」
「…………そうか」
分かりやすくリゾットさんが落ち込んだ声を漏らす。
ポーカーフェイスの彼だが声にはなぜか感情がモロに出る。
「新作ができたら味見をお願いしますね。ぜひ意見が聞きたいので」
「……そうか!」
この通りだ。
よっぽど異世界料理が楽しみなのだろう。
彼の期待を裏切らないようこれからも頑張ろう。
裏庭に涼しい風が吹く。
そろそろ丘の稜線に日が沈む頃。
黄昏時の寂しさに、ふと俺の頭をある疑問がよぎった。
「リゾットさんはなんで俺にここまでしてくれるんです?」
「……む?」
以前から気になっていたことを隣のアサシンに尋ねた。
ナイフ一つを操りダンジョンで無双する。凄腕の冒険者。
そんな彼がどうして俺の道楽につきあってくれるのか――。
「いや、なんか俺、リゾットさんにしたかなと思って。材料を持って来てくれるのも善意で引き受けてくれたことだし」
「……どうせ処分するものだからな。こちらも助かっているぞ」
「それはまぁ、そうなんですが……」
どうも上手く言葉にできない。
言うんじゃなかったなと後悔に頭が重くなる。「忘れてください」という言葉が、喉から出そうになった時、リゾットさんが珍しく殺気を出さずに微笑んだ。
「……モンスターを料理しようなどと面白いことを考えるなと思った。最初、お前にビックトードの肉を渡したのは単なる気まぐれだ」
「あ、そうなんですか」
「……その後、お前はすぐ俺にからあげを食わせてくれたな」
懐かしい話だ。
「……からあげを貪り食う俺を嬉しそうに眺めるお前に、救われた気分になったんだ」
「救われた?」
「……俺たち【駆除チーム】の仕事は人に感謝されるものではない。俺たちがいないとこのダンジョンは崩壊する。だが、誰も俺たちを認識しないし見向きもしない」
リゾットさんが静かに瞳を閉じた。
夕闇はいよいよ濃くなり彼の暗いフードがその中に溶けこんでいく。
髪を夜風に揺らすと、彼は白い頬を面はゆそうに指でかいた。
「……だからだろうな、お前が喜んでくれるのが俺も嬉しかった」
「リゾットさん」
「……やりがいとでも言うのだろうか。我ながら青臭いとは思うが」
「……分かりますよ。その気持ち」
誰だって、誰かに感謝されたい。
長い社畜生活で心がすり減り、異世界転移しても望まぬ冒険生活に絶望し、吹っ切れるように弁当屋を開いた俺には、働く男の健気な願いがよく分かった。
異世界だって同じだ。
転移しても、転生しても、そこに元から住んでいても。
生きるからには誰かの役に立ちたい。
そう思うのは何もおかしなことじゃなかった。
目を見開いたリゾットさんが不器用な笑顔を浮かべる。俺がそう言うと分かっていたのだろうか。彼はもうそれ以上、自分の気持ちを語らなかった。
「……さぁ、早く仕事に戻れ」
「……そうですね!」
「……これからも異世界弁当を期待しているぞ」
そう言い残してリゾットさんたちはダンジョンへと姿を消した。
もっと美味しいお弁当を作ろう。
いろんなお弁当を売ろう。
ダンジョンに挑む全ての冒険者の笑顔のために。
◇ ◇ ◇ ◇
魔導書が床に散乱し、割れたフラスコが散らばった狭い部屋。
窓のない陰気な一室。角に置かれたソファーに腰掛けた女は――その小さな足で床に這いつくばる男の頭を蹴り上げた。
「まったく! なんでこんなことになってるのよ! おかしいじゃない! 絶対にあんな商売上手くいかないと思っていたのに!」
紫色した二つの房が彼女の苛立ちに合わせてゆれる。
碧色の輝かしい瞳は、しかし彼女の鬼のような憤怒の面相で台無しだ。
小さな唇の奥でギリギリと歯を食いしばって乙女は立ち上がった。
その手がスタッフを握る。
「ご主人様、もう、やめて」
「誰のせいでこんなことになってると思ってんの! 全部あんたのせいじゃない!」
「私ではなく、それは私の……」
「うるさいって言ってるのよ! 黙れできそこない!」
スタッフのこぶし大に膨れた先が男の頭部を襲う。
激しい打擲音。
そして――その頭がぼとりと落ちた。
ただし、流れたのは血ではなく透明の樹液。
「ご主人様、枯れてしまいます」
「コピー元と同じで本当に使えないわね!」
「どうかお慈悲をください。チョコさま」
「い・や・よ!」
零れ落ちた頭を抱えてむせびなくアルラウネ。
懇願する下僕を前に、少女は静かにその白いツメを噛んだ――。
「ジェロの裏切り者! 絶対にアンタを幸せになんてさせない! 邪魔してやる!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔法使いは理想のアルラウネと何をしていたのか? いよいよ核心に迫る主人公と魔法使いの関係――気になったら、評価・フォローよろしくお願いします。m(__)m
「なんだこの柔らかい豚肉は! 酒場の固くて脂っこい肉と比べものにならねえ! ふわふわとして口の中でいつまでも噛んでいたくなる!」
「タマネギもたまらねえ! 塩っ辛いソースと肉の脂を吸ってとろっとっろだ! 肉と一緒に食べてよし、単独で食べてよし!」
反応は上々。
スキンヘッドの戦士とひょろっとした狩人は、競うようにしょうが焼きをかき込んだ。
「お前ら分かってないな。この野菜が大事なんだ。肉の味に飽きた時、この細かく刻まれた野菜を食べると――口の中がさっぱりとする」
「「それな!」」
そんな彼らに連れられて顔を出した魔法使いの青年。
いつもはからあげ弁当を買ったり買わなかったりする彼だが、しょうが焼き弁当には太鼓判を押してくれた。間違いなくキャベツのおかげだ。
口に豚肉を運ぶ手も心なしか早い。
しょうが焼き弁当は前衛職以外にも好評のようだ。
「旦那。こいつはいつから販売するんだい?」
「値段は? からあげ弁当と変わらないなら二つ買っちゃうよ?」
「からあげとしょうが焼き、交互に頼むのはいいかもしれないな……」
常連客たちの嬉しい評価に「ありがとうございます」と俺は頭を下げる。
「まだ生産体制が整っていないので数は用意できませんが、明日からでも売っていこうかなと思っています。もちろん、今回もからあげと同じく銀貨1枚で」
「「「買った! やっぱりここの弁当は最高だぜ!」」」
冒険者たちが子供みたいな目をして言った。
思わずこっちが笑顔になる。
あぁ、俺は客のこんな顔が見たかったんだな。
こういう風に誰かから掛け値なしの感謝をされたかったんだな。
そんなことをしみじみと感じた。
「それはそうと、今日もからあげ弁当二つ」
「俺も俺も」
「俺も今日は食べようかな。一つお願いできるかい?」
「毎度。ミラ、からあげ弁当を五つ用意してあげて」
「もう準備済みよ! 持っていってあげてペコリーノ!」
あわただしくからあげを弁当につめる看板娘。
彼女の代わりに、麻袋に入った弁当を持って来たのは小さな女の子。
キャンティが見繕った白いワンピース。その上から黄色いエプロンを着た幼女は、どこからどう見てもモンスターには見えない。
お店をお手伝いする愛らしい子供だ。
金色をしたふわふわとした髪の幼女――ペコリーノは、店先に出るとそこに佇む男たちに花のような笑顔を向けた。
「からあげべんとぉ、ふたつと、ふたつと、ひとつになりまぁす」
「「「か、かわいい! 天使だ!」」」
君らが挑むダンジョンの中層ボスだ。
「がんばってぇ、ぼぉけんしゃのにぃに!」
「「「うん、頑張る!! にぃに、絶対に生きて帰ってくるから!!」」」
弁当屋の看板娘2は、また常連客を増やしてくれそうだ。
しかし、俺の大切な娘に変なことをしたら許さないぞ。
「ばいばぁーい、にぃにー! またきてねぇー!」
「「「また来るよ! 絶対通う! 毎日会いに来るからね!」」」
浮き足だってダンジョンに入っていく冒険者たち。
その背中に神の加護とほんの一時の幸福を俺は願った。
◇ ◇ ◇ ◇
しょうが焼き弁当は思った通り好評だった。
これは前衛職以外の人間にも受け入れられたのが大きい。
戦士・狩人以外にも、魔法使いや回復術師、道具持ちなどの補助職まで俺の店に脚を運ぶようになった。
つまり新規顧客の開拓に成功したのだ。
作ってよかったしょうが焼き弁当。
本日も弁当は完売御礼。
夕方最後の乗合馬車が広場にくれば、冒険者たちが夕飯代わりに買おうと店に顔を出す。そんな彼らに「すみません今日はもう完売しました」と俺は頭を下げた。
「ミラ。今日の売り上げの集計をお願い」
「はーい!」
「ペコリーノは野菜のストックを確認して」
「まかせて、ぱぁぱ」
甲斐甲斐しく手伝ってくれる嫁と娘に感謝しながら俺は裏庭に出る。
すると、今から出勤の【駆除チーム】が立っていた。
「……今日も大繁盛だな」
「はい。おかげさまで」
「……新しいしょうが焼き弁当だが。アレには薬草でも入っているのか?」
「いいえ? 何も入れてませんけれど?」
「……食べた日の疲れの溜まり方がまるで違うんだが」
「元いた世界でもよく言いますね。豚肉に疲れを取る効果があるそうですよ」
「……なるほど。異世界料理にはステータス上昇効果もあったのか」
「どうなんですかね?」
手を前に出して「ステータスオープン!」なんてふざけてみる。
だが、真顔をリゾットさんに向けられて俺はすぐに手を引っ込めた。
「……ところで材料は足りているか? 必要なものがあればいつでも言ってくれ」
「しばらくはからあげ弁当としょうが焼き弁当で大丈夫だと思います。あと、畑をやりだしたので、新しい弁当の開発はそっちの材料でしようかなと」
「…………そうか」
分かりやすくリゾットさんが落ち込んだ声を漏らす。
ポーカーフェイスの彼だが声にはなぜか感情がモロに出る。
「新作ができたら味見をお願いしますね。ぜひ意見が聞きたいので」
「……そうか!」
この通りだ。
よっぽど異世界料理が楽しみなのだろう。
彼の期待を裏切らないようこれからも頑張ろう。
裏庭に涼しい風が吹く。
そろそろ丘の稜線に日が沈む頃。
黄昏時の寂しさに、ふと俺の頭をある疑問がよぎった。
「リゾットさんはなんで俺にここまでしてくれるんです?」
「……む?」
以前から気になっていたことを隣のアサシンに尋ねた。
ナイフ一つを操りダンジョンで無双する。凄腕の冒険者。
そんな彼がどうして俺の道楽につきあってくれるのか――。
「いや、なんか俺、リゾットさんにしたかなと思って。材料を持って来てくれるのも善意で引き受けてくれたことだし」
「……どうせ処分するものだからな。こちらも助かっているぞ」
「それはまぁ、そうなんですが……」
どうも上手く言葉にできない。
言うんじゃなかったなと後悔に頭が重くなる。「忘れてください」という言葉が、喉から出そうになった時、リゾットさんが珍しく殺気を出さずに微笑んだ。
「……モンスターを料理しようなどと面白いことを考えるなと思った。最初、お前にビックトードの肉を渡したのは単なる気まぐれだ」
「あ、そうなんですか」
「……その後、お前はすぐ俺にからあげを食わせてくれたな」
懐かしい話だ。
「……からあげを貪り食う俺を嬉しそうに眺めるお前に、救われた気分になったんだ」
「救われた?」
「……俺たち【駆除チーム】の仕事は人に感謝されるものではない。俺たちがいないとこのダンジョンは崩壊する。だが、誰も俺たちを認識しないし見向きもしない」
リゾットさんが静かに瞳を閉じた。
夕闇はいよいよ濃くなり彼の暗いフードがその中に溶けこんでいく。
髪を夜風に揺らすと、彼は白い頬を面はゆそうに指でかいた。
「……だからだろうな、お前が喜んでくれるのが俺も嬉しかった」
「リゾットさん」
「……やりがいとでも言うのだろうか。我ながら青臭いとは思うが」
「……分かりますよ。その気持ち」
誰だって、誰かに感謝されたい。
長い社畜生活で心がすり減り、異世界転移しても望まぬ冒険生活に絶望し、吹っ切れるように弁当屋を開いた俺には、働く男の健気な願いがよく分かった。
異世界だって同じだ。
転移しても、転生しても、そこに元から住んでいても。
生きるからには誰かの役に立ちたい。
そう思うのは何もおかしなことじゃなかった。
目を見開いたリゾットさんが不器用な笑顔を浮かべる。俺がそう言うと分かっていたのだろうか。彼はもうそれ以上、自分の気持ちを語らなかった。
「……さぁ、早く仕事に戻れ」
「……そうですね!」
「……これからも異世界弁当を期待しているぞ」
そう言い残してリゾットさんたちはダンジョンへと姿を消した。
もっと美味しいお弁当を作ろう。
いろんなお弁当を売ろう。
ダンジョンに挑む全ての冒険者の笑顔のために。
◇ ◇ ◇ ◇
魔導書が床に散乱し、割れたフラスコが散らばった狭い部屋。
窓のない陰気な一室。角に置かれたソファーに腰掛けた女は――その小さな足で床に這いつくばる男の頭を蹴り上げた。
「まったく! なんでこんなことになってるのよ! おかしいじゃない! 絶対にあんな商売上手くいかないと思っていたのに!」
紫色した二つの房が彼女の苛立ちに合わせてゆれる。
碧色の輝かしい瞳は、しかし彼女の鬼のような憤怒の面相で台無しだ。
小さな唇の奥でギリギリと歯を食いしばって乙女は立ち上がった。
その手がスタッフを握る。
「ご主人様、もう、やめて」
「誰のせいでこんなことになってると思ってんの! 全部あんたのせいじゃない!」
「私ではなく、それは私の……」
「うるさいって言ってるのよ! 黙れできそこない!」
スタッフのこぶし大に膨れた先が男の頭部を襲う。
激しい打擲音。
そして――その頭がぼとりと落ちた。
ただし、流れたのは血ではなく透明の樹液。
「ご主人様、枯れてしまいます」
「コピー元と同じで本当に使えないわね!」
「どうかお慈悲をください。チョコさま」
「い・や・よ!」
零れ落ちた頭を抱えてむせびなくアルラウネ。
懇願する下僕を前に、少女は静かにその白いツメを噛んだ――。
「ジェロの裏切り者! 絶対にアンタを幸せになんてさせない! 邪魔してやる!」
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