87 / 175
優しいということ
しおりを挟む
まるで浸潤のように広がる黒い霧とその前に場違いに漂う桃色の髪の女は、しゃらしゃらと紫色の宝石が付いた宝石を揺らす。後ろ向きで虚無を誘導する桃色の女は器用に障害物を避けてゆらゆら、しゃらしゃらと鎖を揺らす。
「悪魔国からここまでもって来るの大変だったんだから……精々暴れてよ……これでさっくり倒されたら……ウケる」
浸潤する黒い霧は進む、只管に黒く、速く、染め、行く、一拍子先へとあたりを虚無に包み去ったあとも残された黒い霧は捨て置かれた孤児のようにふわふわとあたりに広がる無秩序に桃色は飲み込まれながらもしっかりと足を踏みしめ厄災を導く。その眼が黒に汚染されてしまっていても、その苦しみの涙が黒に染まっても。
「ここまでしたんだから……。しくじんなよ……オッサン」
穢れた桃色の少女が……厄災が……ペルマネンテの地を踏みしめんと着実に向かっていく。
「本当にッッッ!!!! 本当にッッッ!! 申し訳ッッッありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!! 料理もタダにします。薬代も出します!」
大男でもみ上げが凄く長い、いわばダンディーと称するのが相応しいコック服の男が、この世の終わりのように顔を青くさせてうちわ仰いでるくらいの風圧で頭を何度も下げてくれる。隣のグラスのほうがなんか顔が青いままなにも言わないのが気になるけれど、今は気になることを確認しないと。
「休んだらよくなったから大丈夫だって、そういえば……【老い巫女の保護】の依頼を出したドロウって君のことかな?」
「ええ、俺です」
大男で身体もしっかりしているのだけど、どこか疲れた雰囲気を漂わせて肩をがっくりと落としながら肯定の言葉を口にしてくれる、まさか、依頼とか今回の失敗とかで吹っ掛けるようなタイプに見えてたら嫌だなーと思いながら彼にその依頼を受けることを伝える。
「私達、明日正式にその依頼の受注をするのだけど、良かったらお暇な日があったらお話を聞かせて欲しいのだけど」
「けど、俺失敗してこんな糞みたいな料理だしちまったのに!」
疲れた雰囲気と失敗の重みで、放している間にも項垂れるように、頭を垂れ始めた顔をやっぱり内輪で仰いでるような風圧を発生させて上げて、自分の失敗のことを言ってくる。祈るようでそれでいて疲れたような目をしていて相当思い詰めているのが手に取るように分かる。
「いいのよ、依頼をするってことはそれだけどうしようもない事態なのでしょう? その状態でお仕事は大変だし……失敗したからこうやって会えたのだから、結果オーライ」
「怒られても仕方ないのに……ねぎらってくれてありがとうございます。申し訳ございませッ」
相当追い詰められてたのであろう、ドロウ君が謝りながら泣き始めてしまった。微妙に私が泣かしたようで慌ててハンカチ具現化して駆け寄るも、笑いながら泣いて「ありがとうございやす」と言ってハンカチは大丈夫と遠慮されてしまった。店の人や常連だろう人もドロウ君にそれぞれの労いと心配を言葉をドロウに向けて送っている姿は、中々暖かいものだった。
「よかったなー」
「明日休みでいいからいってこい」
「元気になってまた俺に料理作ってくれよドロウ!」
「優しい人でよかったなー」
私に優しいと言ってきた一人のオッサンが私ににじり寄ってきたかと思うと、バシバシと太っ腹!と肩を叩いてきて結構痛い。それにカフェなのにおじさん酒臭い。
「いや、優しいわけじゃ……あと痛いです」
「あれ、怒った? 優しい人なんだから怒っちゃダメだろー。酷いなー」
「あははは、すいません」
「あっは、許してくれる優しい人大好きよ俺ー、あいたたた!」
私が苦笑いしていると、連れのお客さんの一人がおっさんの耳を引っ張って店の外に連れて行ってくれた。もしかして店のお客さんじゃない? けど……なんか凄い嫌な言葉だったな。なんでそう思うかわからないけれど。
優しさからではないんだけどね。実際に私も思い詰めすぎて何度か仕事で失敗したことは何度も経験に前の世界であるから、とても責める気にはなれないし、責める人の気持ちが知れない。接客業やサービス業をやっていると如何に怒りが不毛かつどこまで行っても自分勝手なのが身に染みるよ。
ただ……私は優しくない、優しいなんて評価は似合わない。
「じゃあ、明日この店で話しましょう! お詫びのリベンジ料理よければ食ってください!」
「うん、ありがとう」
お金は無理矢理、タダにさせられてしまったがそんなことせずともいいのに。なんて言えなくて甘んじて受ける苦いし青臭くて本当に胃の中をひっくり返しそうだったのは事実だけどさ、そんなこんなで日が沈み空が紫色になるころ、グラスと帰ることとなったのだけれど……。グラスがわかりやすく……といっても無表情だけれども落ち込んでるので、どうしたのか聞いてみるために宿で借りた私の一人部屋でベットに座らせてみる。その横に私が対話しやすいように一人分間を開けて座る。
「今回の事、私が無断でカリスティアに……ケーキを食べて貰いたくて頼んだ結果でこうなってしまい申し訳ありません」
グラスは優雅に立ち上がり、私に向けて頭を垂れて謝罪をしてくれる。今回のケーキのことはアレは事故なのだから別に謝らなくてもいいのに、それでも本人にはとても重大な罪に思えるのだろう……凄く落ち込んで見えて、そうして仕切りに私の顔色を窺ってくる。気持ち悪さはないけどまだ顔色悪いのかと意味も無いのにぺたぺたとほっぺを触ってしまう。勿論、平熱だ。
「アレは事故で大丈夫……私はグラスが私の為にそのーそうしてくれるの嬉しいんだ! 恥ずかしくて遠慮合戦になるけれど。嬉しいの……それでなんで落ち込んでるのさ」
何か別の悩みでもできてしまったのかと、心配してグラスのほうに手を伸ばすと、緩慢な動きでグラスの冷たい手が私の手を掴み絡めとる。ただ、その手が凄く震えていて……。グラスがここまでになるのは初めてだから私は少し戸惑ってしまった。戸惑っている間でも震えている手をどうすることも出来ずに、項垂れたグラスが言葉を絞りだそうとしてくれている様子をただ待つだけ。
「……貴女が、カリスティアが苦しそうですから、怒られてしかたないの彼の発言の後から、優しいと評されたあたりが特に」
グラスは本当によく見てくれているみたいだ。接客業仕込みの笑顔をすぐに見破って中々私の痛いところにそっと手を置いてくれる。だから、私は取り繕うことも出来ずに顔が歪むのだろう。今の自分の口角が不自然に力が入って引きつっているのが分かる。
「あぁ……優しい、ね。うん、私じゃなくて、他人の為に身体を震わせられて心を砕けるグラスにこそ相応しい言葉だと思って……優しいって言葉」
これを言った後に失敗したと思ったがもう後の祭り、グラスには私の傷心魔術の原型【自己嫌悪】が中心だということは身と技をもって持って教えてしまっているから、もう自己嫌悪の入ったこの言葉を言った時点ですでに大丈夫も、話題逸らしも効かないだろう。
「貴女の心をこじ開ける覚悟で私は知りたいです。言ってくださいませんか?」
そらみたことか……というか、落ち込んでたのは演技なのかすっと背筋を伸ばし塩らしい気配は消え、グラスの冷たい手が今度は私の頬に来て、優しくグラスの方へと顔が向くように誘導された。塩らしい気配はなくなったけれどグラスの目が苦しそうに細められている。青色の瞳に写る私は、口角に不自然に力が入っている割には完璧に笑えていた。今この状況で完璧でなんも意味が無いけど。
一旦言いたいことをまとめるために一度目をつむってみる。なんで私が今苦しいのか、なんで私が優しいという言葉をあのタイミングで使われるのが嫌なのかを、慎重に記憶を掘り下げて探してゆく、今日経験した事象の情景を頭に思い浮かべる。
色々頭の中でまとめ終わったので目を開けてみると、グラスが変わらぬ苦しそうで悲しい顔で見つめてくる。根気よく私の話しを待つという決意の強さが奥に見える悲しい顔で。そんな顔をされたら言わないわけにはいかない、信頼してるから、グラスならば言っても大丈夫と今は思えるから。
「寂しい、苦しい、悲しい、その根源的な気持ちをなんとかしたい、処理をしたい……その手段に怒りがある。全ての怒りは怒りたいから怒っているに帰結する。あぁ……此処までを知るに何度失敗して理不尽に怒りを向けられてきたことか……。
今回、もし普通に怒ったとしてこの料理はなんだ!? に大抵はなるでしょう? その裏に楽しみにしていたのに不味かった。食べたとき不味かった。期待してたのに悲しかった、不味くて苦しかった。根源的な気持ちを分かって貰うために怒りという手段を人間はとるの……それに私は振り回されてきたからさ」
その経験の元で理不尽なことをされても、何だかんだ真には怒らないし、怒るときもその怒りの仕組みが頭にちらついてそれを了承した上で怒っていて、今回は怒ることを自分の中で容認できなかったから怒らなかっただけ。優しいとは絶対に違うはずなのだ。私は優しい人間ではない。優しくない。
その仕組みを知らずに怒らない選択出来る人間こそが優しいと称するに相応しい。
接客業として、お客様の怒りに寄り添うことを目的に調べたら結局怒りたいから怒ってる理不尽と分かって、余計心が荒んだなぁ……。
「だから、優しいと評されることに私は違和感を覚えるの。」
できるだけおちゃらけるように言うのを心がけるも、喉のつっかて掠れてしまって余計に痛々しくなる。
「その違和感と……カリスティアがどんなときもどこか一定を保ち、必要以上に怒りを表さずに、ある程度受け入れている理由がようやくわかりました」
「ん、失望した?」
「いえ、カリスティアは優しい人間だと思うだけです」
自分の怒りという仕組みを知っているためであり、作られた優しさだと言っているのに優しいとは一体なんなのだろう。普通は失望するところだろうに……現に前の世界では人間味がないとか良い子ぶりっこ言われて、ならば怒ったら優しいと思ったのに……酷いと嫌煙されてきたのだから。あぁ、あのおじさんの言い方でそれを思い出したからこんなに気持ちが落ち込むのか。
「いや、だから」
「私が勝手にそう思って居るだけです。貴女がいくら自分を優しい人間でないと言っても私の意見も思いも揺るぎません。カリスティア……貴女は優しい人間だ」
否定しようとした言葉に被された優しいという言葉と、冷たいけど暖かいグラスの温もり、暫くたってから……私が自分でグラスに抱きついたのだと認識したときには、グラスが逃げないようにがっしりと私を掴み。
「貴女は私を助けてくれた優しい人です。貴女が優しく勇気があるから私は此処に居るのです。それに怒らないことが優しい人という基準にする輩は自分の都合のいい人間を求めてるだけですから、あの忌々しい外野の発言は貴女が気にする必要はありません」
耐えても零れる涙と、優しく自分の存在を持って私のことを肯定してくれることに慣れてないことでよく分からない唸り声と共に自分の嗚咽が聞こえる。泣いているんだと情報として頭が理解するが、感情は止められるはずはなくボタボタとついに色々決壊してしまった。
「明日の為に今日はもう寝てください……ずっと一緒に居ますから」
怒りを抑えているぶん、こういう所で私は弱くなるのか……。
『何故、できない自分を具現化するのですか?』
この自己嫌悪を克服すれば、強くなれるのかな……。
いや、強くならねばいけない毎回泣いてられないのだから。
「悪魔国からここまでもって来るの大変だったんだから……精々暴れてよ……これでさっくり倒されたら……ウケる」
浸潤する黒い霧は進む、只管に黒く、速く、染め、行く、一拍子先へとあたりを虚無に包み去ったあとも残された黒い霧は捨て置かれた孤児のようにふわふわとあたりに広がる無秩序に桃色は飲み込まれながらもしっかりと足を踏みしめ厄災を導く。その眼が黒に汚染されてしまっていても、その苦しみの涙が黒に染まっても。
「ここまでしたんだから……。しくじんなよ……オッサン」
穢れた桃色の少女が……厄災が……ペルマネンテの地を踏みしめんと着実に向かっていく。
「本当にッッッ!!!! 本当にッッッ!! 申し訳ッッッありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!! 料理もタダにします。薬代も出します!」
大男でもみ上げが凄く長い、いわばダンディーと称するのが相応しいコック服の男が、この世の終わりのように顔を青くさせてうちわ仰いでるくらいの風圧で頭を何度も下げてくれる。隣のグラスのほうがなんか顔が青いままなにも言わないのが気になるけれど、今は気になることを確認しないと。
「休んだらよくなったから大丈夫だって、そういえば……【老い巫女の保護】の依頼を出したドロウって君のことかな?」
「ええ、俺です」
大男で身体もしっかりしているのだけど、どこか疲れた雰囲気を漂わせて肩をがっくりと落としながら肯定の言葉を口にしてくれる、まさか、依頼とか今回の失敗とかで吹っ掛けるようなタイプに見えてたら嫌だなーと思いながら彼にその依頼を受けることを伝える。
「私達、明日正式にその依頼の受注をするのだけど、良かったらお暇な日があったらお話を聞かせて欲しいのだけど」
「けど、俺失敗してこんな糞みたいな料理だしちまったのに!」
疲れた雰囲気と失敗の重みで、放している間にも項垂れるように、頭を垂れ始めた顔をやっぱり内輪で仰いでるような風圧を発生させて上げて、自分の失敗のことを言ってくる。祈るようでそれでいて疲れたような目をしていて相当思い詰めているのが手に取るように分かる。
「いいのよ、依頼をするってことはそれだけどうしようもない事態なのでしょう? その状態でお仕事は大変だし……失敗したからこうやって会えたのだから、結果オーライ」
「怒られても仕方ないのに……ねぎらってくれてありがとうございます。申し訳ございませッ」
相当追い詰められてたのであろう、ドロウ君が謝りながら泣き始めてしまった。微妙に私が泣かしたようで慌ててハンカチ具現化して駆け寄るも、笑いながら泣いて「ありがとうございやす」と言ってハンカチは大丈夫と遠慮されてしまった。店の人や常連だろう人もドロウ君にそれぞれの労いと心配を言葉をドロウに向けて送っている姿は、中々暖かいものだった。
「よかったなー」
「明日休みでいいからいってこい」
「元気になってまた俺に料理作ってくれよドロウ!」
「優しい人でよかったなー」
私に優しいと言ってきた一人のオッサンが私ににじり寄ってきたかと思うと、バシバシと太っ腹!と肩を叩いてきて結構痛い。それにカフェなのにおじさん酒臭い。
「いや、優しいわけじゃ……あと痛いです」
「あれ、怒った? 優しい人なんだから怒っちゃダメだろー。酷いなー」
「あははは、すいません」
「あっは、許してくれる優しい人大好きよ俺ー、あいたたた!」
私が苦笑いしていると、連れのお客さんの一人がおっさんの耳を引っ張って店の外に連れて行ってくれた。もしかして店のお客さんじゃない? けど……なんか凄い嫌な言葉だったな。なんでそう思うかわからないけれど。
優しさからではないんだけどね。実際に私も思い詰めすぎて何度か仕事で失敗したことは何度も経験に前の世界であるから、とても責める気にはなれないし、責める人の気持ちが知れない。接客業やサービス業をやっていると如何に怒りが不毛かつどこまで行っても自分勝手なのが身に染みるよ。
ただ……私は優しくない、優しいなんて評価は似合わない。
「じゃあ、明日この店で話しましょう! お詫びのリベンジ料理よければ食ってください!」
「うん、ありがとう」
お金は無理矢理、タダにさせられてしまったがそんなことせずともいいのに。なんて言えなくて甘んじて受ける苦いし青臭くて本当に胃の中をひっくり返しそうだったのは事実だけどさ、そんなこんなで日が沈み空が紫色になるころ、グラスと帰ることとなったのだけれど……。グラスがわかりやすく……といっても無表情だけれども落ち込んでるので、どうしたのか聞いてみるために宿で借りた私の一人部屋でベットに座らせてみる。その横に私が対話しやすいように一人分間を開けて座る。
「今回の事、私が無断でカリスティアに……ケーキを食べて貰いたくて頼んだ結果でこうなってしまい申し訳ありません」
グラスは優雅に立ち上がり、私に向けて頭を垂れて謝罪をしてくれる。今回のケーキのことはアレは事故なのだから別に謝らなくてもいいのに、それでも本人にはとても重大な罪に思えるのだろう……凄く落ち込んで見えて、そうして仕切りに私の顔色を窺ってくる。気持ち悪さはないけどまだ顔色悪いのかと意味も無いのにぺたぺたとほっぺを触ってしまう。勿論、平熱だ。
「アレは事故で大丈夫……私はグラスが私の為にそのーそうしてくれるの嬉しいんだ! 恥ずかしくて遠慮合戦になるけれど。嬉しいの……それでなんで落ち込んでるのさ」
何か別の悩みでもできてしまったのかと、心配してグラスのほうに手を伸ばすと、緩慢な動きでグラスの冷たい手が私の手を掴み絡めとる。ただ、その手が凄く震えていて……。グラスがここまでになるのは初めてだから私は少し戸惑ってしまった。戸惑っている間でも震えている手をどうすることも出来ずに、項垂れたグラスが言葉を絞りだそうとしてくれている様子をただ待つだけ。
「……貴女が、カリスティアが苦しそうですから、怒られてしかたないの彼の発言の後から、優しいと評されたあたりが特に」
グラスは本当によく見てくれているみたいだ。接客業仕込みの笑顔をすぐに見破って中々私の痛いところにそっと手を置いてくれる。だから、私は取り繕うことも出来ずに顔が歪むのだろう。今の自分の口角が不自然に力が入って引きつっているのが分かる。
「あぁ……優しい、ね。うん、私じゃなくて、他人の為に身体を震わせられて心を砕けるグラスにこそ相応しい言葉だと思って……優しいって言葉」
これを言った後に失敗したと思ったがもう後の祭り、グラスには私の傷心魔術の原型【自己嫌悪】が中心だということは身と技をもって持って教えてしまっているから、もう自己嫌悪の入ったこの言葉を言った時点ですでに大丈夫も、話題逸らしも効かないだろう。
「貴女の心をこじ開ける覚悟で私は知りたいです。言ってくださいませんか?」
そらみたことか……というか、落ち込んでたのは演技なのかすっと背筋を伸ばし塩らしい気配は消え、グラスの冷たい手が今度は私の頬に来て、優しくグラスの方へと顔が向くように誘導された。塩らしい気配はなくなったけれどグラスの目が苦しそうに細められている。青色の瞳に写る私は、口角に不自然に力が入っている割には完璧に笑えていた。今この状況で完璧でなんも意味が無いけど。
一旦言いたいことをまとめるために一度目をつむってみる。なんで私が今苦しいのか、なんで私が優しいという言葉をあのタイミングで使われるのが嫌なのかを、慎重に記憶を掘り下げて探してゆく、今日経験した事象の情景を頭に思い浮かべる。
色々頭の中でまとめ終わったので目を開けてみると、グラスが変わらぬ苦しそうで悲しい顔で見つめてくる。根気よく私の話しを待つという決意の強さが奥に見える悲しい顔で。そんな顔をされたら言わないわけにはいかない、信頼してるから、グラスならば言っても大丈夫と今は思えるから。
「寂しい、苦しい、悲しい、その根源的な気持ちをなんとかしたい、処理をしたい……その手段に怒りがある。全ての怒りは怒りたいから怒っているに帰結する。あぁ……此処までを知るに何度失敗して理不尽に怒りを向けられてきたことか……。
今回、もし普通に怒ったとしてこの料理はなんだ!? に大抵はなるでしょう? その裏に楽しみにしていたのに不味かった。食べたとき不味かった。期待してたのに悲しかった、不味くて苦しかった。根源的な気持ちを分かって貰うために怒りという手段を人間はとるの……それに私は振り回されてきたからさ」
その経験の元で理不尽なことをされても、何だかんだ真には怒らないし、怒るときもその怒りの仕組みが頭にちらついてそれを了承した上で怒っていて、今回は怒ることを自分の中で容認できなかったから怒らなかっただけ。優しいとは絶対に違うはずなのだ。私は優しい人間ではない。優しくない。
その仕組みを知らずに怒らない選択出来る人間こそが優しいと称するに相応しい。
接客業として、お客様の怒りに寄り添うことを目的に調べたら結局怒りたいから怒ってる理不尽と分かって、余計心が荒んだなぁ……。
「だから、優しいと評されることに私は違和感を覚えるの。」
できるだけおちゃらけるように言うのを心がけるも、喉のつっかて掠れてしまって余計に痛々しくなる。
「その違和感と……カリスティアがどんなときもどこか一定を保ち、必要以上に怒りを表さずに、ある程度受け入れている理由がようやくわかりました」
「ん、失望した?」
「いえ、カリスティアは優しい人間だと思うだけです」
自分の怒りという仕組みを知っているためであり、作られた優しさだと言っているのに優しいとは一体なんなのだろう。普通は失望するところだろうに……現に前の世界では人間味がないとか良い子ぶりっこ言われて、ならば怒ったら優しいと思ったのに……酷いと嫌煙されてきたのだから。あぁ、あのおじさんの言い方でそれを思い出したからこんなに気持ちが落ち込むのか。
「いや、だから」
「私が勝手にそう思って居るだけです。貴女がいくら自分を優しい人間でないと言っても私の意見も思いも揺るぎません。カリスティア……貴女は優しい人間だ」
否定しようとした言葉に被された優しいという言葉と、冷たいけど暖かいグラスの温もり、暫くたってから……私が自分でグラスに抱きついたのだと認識したときには、グラスが逃げないようにがっしりと私を掴み。
「貴女は私を助けてくれた優しい人です。貴女が優しく勇気があるから私は此処に居るのです。それに怒らないことが優しい人という基準にする輩は自分の都合のいい人間を求めてるだけですから、あの忌々しい外野の発言は貴女が気にする必要はありません」
耐えても零れる涙と、優しく自分の存在を持って私のことを肯定してくれることに慣れてないことでよく分からない唸り声と共に自分の嗚咽が聞こえる。泣いているんだと情報として頭が理解するが、感情は止められるはずはなくボタボタとついに色々決壊してしまった。
「明日の為に今日はもう寝てください……ずっと一緒に居ますから」
怒りを抑えているぶん、こういう所で私は弱くなるのか……。
『何故、できない自分を具現化するのですか?』
この自己嫌悪を克服すれば、強くなれるのかな……。
いや、強くならねばいけない毎回泣いてられないのだから。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる