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覚悟と恩義
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グラスの体調も戻り、ウィーンママの家も修理して周りも解凍して数日には二人で修行をし始めた。最初はやっぱり基礎の剣の振り方から始まったのだけれど、いろいろな戦いを重ねてからなのか苦手だった下段の振り上げもして次は、メインではないけれど練習しておいて損はない剣術から、主に、突き、真横切り、飛び上がりからの振り下ろしなど、実践ではあまり使うことはないけれど、全く使わぬ訳ではない。
喜んでグラスに頼んで修行を付けて貰って居るのだが、中々にスパルタで時折にドロウ君から心配の声があがるほどだった。前の世界の現代日本ではスパルタと言って良い練習内容だけれども、楽しいから余り苦にならないし、やっぱりブラックに務めてたほうが遥かに辛い。
スパルタとは言ってもブラックみたいにグラスは怒鳴らないし、何がダメかどこがダメかをスッパリ言ってくれるからわかりやすい。出来ている所はスッパリ出来ていることも伝えてくれるので、割とあっさりして余計にやりやすい。怒鳴られるのも、褒められるのも苦手な自分からすれば、本当にこれ以上はない教え方だ。
そして、日本の真夏を思わせるジットリと濡れるような気候の庭で今日も剣の練習に二人で励んでいる。傍らにはドロウ君が二人分の水を持って控えてくれている。暑いから家に居て良いと言ったのに、「見てるのも楽しいからいいんだ。それに料理人として二人が動いた分の食事を調整しないとな」なんて言ってくれるから将来の彼のお嫁さんは絶対に幸せだろう。
「左からの一線が遅いです。貴方は利き腕以外が疎か過ぎます」
「右利きの宿命……」
「今から両利きになれとは言いません、普 通 に振れるようになってください。遅いどころか力の重心がややズレてます。一度左手で上段と下段を左右20回ずつ、それをこなしてもう左の一線をまた私に打ち込んでください」
我が呪われし右手が! というポーズでボケたら華麗にスルーされた挙げ句にふざけた分が二十倍になって帰ってきた。暑い中でひんひん言いながら言われたとおりに左手で剣を振る。実際に利き手だけを使ってたら反応できない事が多々ある。主に旦那さんとの戦いで良く突きつけられた。それを思うと本当に私って具現化以外は役立たずも良いところだとは思う。けどへこんでいる暇はないので大人しく剣を振り続ける。
「終わったら呼んでください」
「はーい」
振っている中でグラスが訓練用の剣をしまって、呼べといって家の……というかドロウ君の方向へ向かった。
・
(容赦ねぇなー)
俺がグラスさんとカリスティアちゃんの訓練を見て思った感想がこれだ。良くも悪くも真面目だからこそ歯に物着せず、出来ても出来ていたという事実だけ伝えて次、愛し合ってる仲だとは見て居ても思ったし聞いていて自分からするとギョッとするしかなかった。
一応俺も父に剣術を習っては居たのだが、S級はわからんがA級レベルのカリスティアちゃんの剣術に、俺から見たら気にならないブレや重心のズレを容赦なく指摘する様は鬼というか、俺が料理人として就職するまで食いつないでいた冒険者家業の教官でもまだ褒めることが出来たのに……。
見れば見るほどに心配になって、それとなくカリスティアちゃんを心配しても
「厳しいちゃ厳しい方だとは思うよ? けど、命がかかってるんだからこのくらいじゃないと」
そう言って受け止めていた。こんな細腕であんな重すぎる世界という荷物を背負わされているのに何故ここまで頑張ることができるのか、俺にはやっぱりわからなかった。
『ドロウ……、もし、あたしゃが死に損ねたら……殺してくれないかい。お前の綺麗な、生命を元気づける手を汚すのは忍びない。それを承知で頼む、私とあの人を殺してくれ、他の誰でもない愛する息子のお前の手で』
今日も小さなその身体で剣を振り、地べたに転がされ、手にまめを作る彼女を見てお袋の言葉が頭の中で響いた。全部を脱ぎ捨てたくなるほどのムシムシとした暑さで、遠くが揺れて滲んでいるのにお袋の声は滲まずに俺の中に響いた。
『カリスティアに付いておやり。殴られようが要らないと言われようが付いておやり……あの子は一人にすると壊れてしまう。グラスという男も完璧な人間じゃない……頼んだよドロウ。くれぐれも、あたしゃの為に付いてやるんだよ』
確かに身体は壊れそうなほどに細くて小さい。けれど、壊れるとはとても思えなかった。あんなに強く意思を持って邁進する子が壊れるところは想像できなかった。だから俺は身体を支えることにした、美味しい飯を作って二人が楽しく談笑できるような、それはそれは暖かい飯を作ってやろうと思ったんだ。
「ドロウ様」
「んぁ? 水か?」
ボーッと考えて居たらいつの間にかグラスが目の前に居て驚いた。自分で水か? と聞いておいて反射で返事も聞かずに水筒を差し出してしまった。グラスはそんな俺の無礼を気にすることもなく「ええ、ありがとうございます」と薄く笑って水筒を受け取った。横流しに縛った髪を少し首からどかすように振って、水をこくりと飲む姿は……正直美形この野郎という感想しか沸かなかった。
(近所のブラウンちゃんに、こんなもっさりして顔が濃い奴じゃなくて王子様みたいな綺麗な男が良いってフラれた記憶が思い起こされるぜチクショー!!!)
心の中で過去の俺に向けて血涙を流している中で、グラスが水を飲み終わったのか水筒の蓋を閉める音が聞こえて受け取ろうと手を差し出すとお礼と共に控えめに水筒を渡された。以外に量が減っているから、こいつのだけ塩と水の分量多くして、カリスティアちゃんの場合は逆に量が少ないのと食べる量が少ないから果実水にでもしてみるかと、頭の中で二人の水分補給の状態をああしよう、こうしようと考えているとグラスから話しがありますと言われた。俺は、もしかしてと思ってその話を了承した。剣を振っているカリスティアからは少し後ろに離れた位置まで下がった所で話しが始まった。
「この先は死に直結するような戦いに身を投じることとなります。仲間として言います、非戦闘要員を抱える余裕は私達にはありません。悪魔族の国で離脱して頂けませんか?」
頂けませんか? とは口で言うが有無は言わせないほどの重い言葉。俺より若干下の眼差しは普段とかわらないのにゾッとする何かを感じさせる。場違いだが、ペルマネンテの王にグラスがなればさぞかし良い王として君臨しただろうと思わせる威厳も感じる。肌で王族の血が混じっているのがピリピリと感じられる。
「断る。勝手について行くから捨て置いて貰っても構わねぇ」
「私自身も後悔するのは嫌なんです。貴男に死なれたくはない……離脱してください」
知っては居たがそもそも問いかけの答えは一つしかなかった。実際にもう問いではなくて、くださいに変わっているのが何よりをも証拠だ。息苦しい、明らかに魔力で脅しにかかっているのがわかるくらいに身体が重たくて震える。氷帝というくらいだ、俺が気絶するまでいくらでも魔力の圧をかけられるだろう。それに耐えながら俺はもう一度言った。
「断る。」
身体が震える。先ほどまではあんなに暑かった身体が凍えるように寒い。ガタガタ震えだす俺の身体を記憶の中のお袋と親父が叱咤をする『あたしゃの最後の願いを聞かないでどうする!』『いっそのこと死んでもしがみつけ』死んだらダメだろ、記憶の中の親父にそう心の中で言ったら、身体の震えが少し収まった気がした。
「最後です。ドロウ様、非力な貴方に構っている余裕はありません。邪魔です……魔王城で即刻離脱してください」
冷たい刺すような声が俺を串刺しにして凍てつかせる。邪魔なのは承知だ、俺が非戦闘要員なのも承知だ、居なければいいのも承知だ……。だが、お袋が俺に貫かれて死ぬ瞬間にそう言ったんだ。俺に託したんだ……お袋の性分ならば恩は自分自身を最大限使って報いるお袋が託したんだ……。
恩義のために俺は脅し程度で屈しねぇぞ! グラス!!!
「断る!!!」
「……残念です。カリスティア、素振りは終わったんですか?」
「終わったよ~……あとグラス、この場合私が言うのが義理だと思うんだけど。出会いの始まり私だし」
っということで、カリスティアちゃんがそう言って剣を仕舞って俺の元へと歩み寄る。グラスだけでも怖いのにカリスティアちゃんにも言われたら正直トラウマになりそうだ。我が30代の割にはノミだのへたれだの、強いのは顔だけだの言われて居た俺……頑張れ。
カリスティアちゃんがついに俺の目の前に来る。14歳の少女は小さくて壊れそうなのに……その目の厳しさはグラス以上のような気がした。14歳の少女に不相応な経験の積み重ねを経験した人間がする目。俺を見て居るのに俺の後ろの未来を見て居るような目が俺を捕らえる。
「あくまで自分勝手、あのときもっと止めてくれれば……なんてことは通用しない。私はできる限りのことをするけど、ドロウ君を見捨てる選択肢を有事のさいはとる人間です。死ぬも生きるも全て自己責任で来るというのならば私はなにも言うことはございません。私は貴方の命を預かれる強い人間じゃありません……それでもいいですか?」
「それでいい、俺は俺の目的と心のために危険だろうが肥だめだろうが付いて行く。俺とお袋の為に!!!」
「……うん、よろしくねドロウ君」
厳しさが霧散した。俺がぐったりと水筒を両手に持ったままよろよろと地面に座った。カリスティアちゃんが「ちょちょ、そんなに怖いこと言ってないでしょう! 言ってないよね? 私怖くないよねぇ?」っと言う者だから、すこし気が抜けなかったが「中々怖かったよ……カリスティアちゃん」っと正直に言うと驚愕の顔で数秒固まったカリスティアちゃんが、ぐるりとグラスの方を向いて。
「グラス怖くないよね! ね! ね!?」
「そうですね……。今こうやって必死になってる所が怖いですね。鏡でもプレゼント致しましょうか?」
「グラス!!! そこになおれ、剣の錆びにして、コラ逃げるな待てぇぇぇい!!!」
先ほどの威圧はなんだったのか、腰が抜けている俺を差し置いて剣を使った追いかけっこを始める二人。生真面目そうなのに、この切り替えの速さに、何回度肝を抜かれたことか……。俺も切り替えて、そろそろ昼だなと判断して家の方向へ歩く、けど一旦止まって二人に声を張り上げた。
「追いかけっこが終わったら、河原でスペードウィッシュを二匹取ってきてくれー!!!」
「わかったー」
「わかりました」
楽しく追いかけっこをしたまま返事を返す二人が剣を躱しながら器用に川の方向へ移動しているのを見て、普通に行ったほうが速いだろと呟いて、俺は昼飯を作る為に今度こそ家の中に入るためにドアを開けた。
「ふひひひひ……天使がおわします家、あぁ、天使の唾液の香り……これが天使様がお使いになられているスプーン……ありがたや」
バタンッ!
開けて……閉めた。
(なんだあの男……変質者か!?)
騎士のような風貌で普通に見れば、女が群がるだろう顔の男がカリスティアちゃんのスプーンを持って輝かしい顔をしているのを見て、俺はドアからくるりと身体を傾けてグラスを呼びに行った。
喜んでグラスに頼んで修行を付けて貰って居るのだが、中々にスパルタで時折にドロウ君から心配の声があがるほどだった。前の世界の現代日本ではスパルタと言って良い練習内容だけれども、楽しいから余り苦にならないし、やっぱりブラックに務めてたほうが遥かに辛い。
スパルタとは言ってもブラックみたいにグラスは怒鳴らないし、何がダメかどこがダメかをスッパリ言ってくれるからわかりやすい。出来ている所はスッパリ出来ていることも伝えてくれるので、割とあっさりして余計にやりやすい。怒鳴られるのも、褒められるのも苦手な自分からすれば、本当にこれ以上はない教え方だ。
そして、日本の真夏を思わせるジットリと濡れるような気候の庭で今日も剣の練習に二人で励んでいる。傍らにはドロウ君が二人分の水を持って控えてくれている。暑いから家に居て良いと言ったのに、「見てるのも楽しいからいいんだ。それに料理人として二人が動いた分の食事を調整しないとな」なんて言ってくれるから将来の彼のお嫁さんは絶対に幸せだろう。
「左からの一線が遅いです。貴方は利き腕以外が疎か過ぎます」
「右利きの宿命……」
「今から両利きになれとは言いません、普 通 に振れるようになってください。遅いどころか力の重心がややズレてます。一度左手で上段と下段を左右20回ずつ、それをこなしてもう左の一線をまた私に打ち込んでください」
我が呪われし右手が! というポーズでボケたら華麗にスルーされた挙げ句にふざけた分が二十倍になって帰ってきた。暑い中でひんひん言いながら言われたとおりに左手で剣を振る。実際に利き手だけを使ってたら反応できない事が多々ある。主に旦那さんとの戦いで良く突きつけられた。それを思うと本当に私って具現化以外は役立たずも良いところだとは思う。けどへこんでいる暇はないので大人しく剣を振り続ける。
「終わったら呼んでください」
「はーい」
振っている中でグラスが訓練用の剣をしまって、呼べといって家の……というかドロウ君の方向へ向かった。
・
(容赦ねぇなー)
俺がグラスさんとカリスティアちゃんの訓練を見て思った感想がこれだ。良くも悪くも真面目だからこそ歯に物着せず、出来ても出来ていたという事実だけ伝えて次、愛し合ってる仲だとは見て居ても思ったし聞いていて自分からするとギョッとするしかなかった。
一応俺も父に剣術を習っては居たのだが、S級はわからんがA級レベルのカリスティアちゃんの剣術に、俺から見たら気にならないブレや重心のズレを容赦なく指摘する様は鬼というか、俺が料理人として就職するまで食いつないでいた冒険者家業の教官でもまだ褒めることが出来たのに……。
見れば見るほどに心配になって、それとなくカリスティアちゃんを心配しても
「厳しいちゃ厳しい方だとは思うよ? けど、命がかかってるんだからこのくらいじゃないと」
そう言って受け止めていた。こんな細腕であんな重すぎる世界という荷物を背負わされているのに何故ここまで頑張ることができるのか、俺にはやっぱりわからなかった。
『ドロウ……、もし、あたしゃが死に損ねたら……殺してくれないかい。お前の綺麗な、生命を元気づける手を汚すのは忍びない。それを承知で頼む、私とあの人を殺してくれ、他の誰でもない愛する息子のお前の手で』
今日も小さなその身体で剣を振り、地べたに転がされ、手にまめを作る彼女を見てお袋の言葉が頭の中で響いた。全部を脱ぎ捨てたくなるほどのムシムシとした暑さで、遠くが揺れて滲んでいるのにお袋の声は滲まずに俺の中に響いた。
『カリスティアに付いておやり。殴られようが要らないと言われようが付いておやり……あの子は一人にすると壊れてしまう。グラスという男も完璧な人間じゃない……頼んだよドロウ。くれぐれも、あたしゃの為に付いてやるんだよ』
確かに身体は壊れそうなほどに細くて小さい。けれど、壊れるとはとても思えなかった。あんなに強く意思を持って邁進する子が壊れるところは想像できなかった。だから俺は身体を支えることにした、美味しい飯を作って二人が楽しく談笑できるような、それはそれは暖かい飯を作ってやろうと思ったんだ。
「ドロウ様」
「んぁ? 水か?」
ボーッと考えて居たらいつの間にかグラスが目の前に居て驚いた。自分で水か? と聞いておいて反射で返事も聞かずに水筒を差し出してしまった。グラスはそんな俺の無礼を気にすることもなく「ええ、ありがとうございます」と薄く笑って水筒を受け取った。横流しに縛った髪を少し首からどかすように振って、水をこくりと飲む姿は……正直美形この野郎という感想しか沸かなかった。
(近所のブラウンちゃんに、こんなもっさりして顔が濃い奴じゃなくて王子様みたいな綺麗な男が良いってフラれた記憶が思い起こされるぜチクショー!!!)
心の中で過去の俺に向けて血涙を流している中で、グラスが水を飲み終わったのか水筒の蓋を閉める音が聞こえて受け取ろうと手を差し出すとお礼と共に控えめに水筒を渡された。以外に量が減っているから、こいつのだけ塩と水の分量多くして、カリスティアちゃんの場合は逆に量が少ないのと食べる量が少ないから果実水にでもしてみるかと、頭の中で二人の水分補給の状態をああしよう、こうしようと考えているとグラスから話しがありますと言われた。俺は、もしかしてと思ってその話を了承した。剣を振っているカリスティアからは少し後ろに離れた位置まで下がった所で話しが始まった。
「この先は死に直結するような戦いに身を投じることとなります。仲間として言います、非戦闘要員を抱える余裕は私達にはありません。悪魔族の国で離脱して頂けませんか?」
頂けませんか? とは口で言うが有無は言わせないほどの重い言葉。俺より若干下の眼差しは普段とかわらないのにゾッとする何かを感じさせる。場違いだが、ペルマネンテの王にグラスがなればさぞかし良い王として君臨しただろうと思わせる威厳も感じる。肌で王族の血が混じっているのがピリピリと感じられる。
「断る。勝手について行くから捨て置いて貰っても構わねぇ」
「私自身も後悔するのは嫌なんです。貴男に死なれたくはない……離脱してください」
知っては居たがそもそも問いかけの答えは一つしかなかった。実際にもう問いではなくて、くださいに変わっているのが何よりをも証拠だ。息苦しい、明らかに魔力で脅しにかかっているのがわかるくらいに身体が重たくて震える。氷帝というくらいだ、俺が気絶するまでいくらでも魔力の圧をかけられるだろう。それに耐えながら俺はもう一度言った。
「断る。」
身体が震える。先ほどまではあんなに暑かった身体が凍えるように寒い。ガタガタ震えだす俺の身体を記憶の中のお袋と親父が叱咤をする『あたしゃの最後の願いを聞かないでどうする!』『いっそのこと死んでもしがみつけ』死んだらダメだろ、記憶の中の親父にそう心の中で言ったら、身体の震えが少し収まった気がした。
「最後です。ドロウ様、非力な貴方に構っている余裕はありません。邪魔です……魔王城で即刻離脱してください」
冷たい刺すような声が俺を串刺しにして凍てつかせる。邪魔なのは承知だ、俺が非戦闘要員なのも承知だ、居なければいいのも承知だ……。だが、お袋が俺に貫かれて死ぬ瞬間にそう言ったんだ。俺に託したんだ……お袋の性分ならば恩は自分自身を最大限使って報いるお袋が託したんだ……。
恩義のために俺は脅し程度で屈しねぇぞ! グラス!!!
「断る!!!」
「……残念です。カリスティア、素振りは終わったんですか?」
「終わったよ~……あとグラス、この場合私が言うのが義理だと思うんだけど。出会いの始まり私だし」
っということで、カリスティアちゃんがそう言って剣を仕舞って俺の元へと歩み寄る。グラスだけでも怖いのにカリスティアちゃんにも言われたら正直トラウマになりそうだ。我が30代の割にはノミだのへたれだの、強いのは顔だけだの言われて居た俺……頑張れ。
カリスティアちゃんがついに俺の目の前に来る。14歳の少女は小さくて壊れそうなのに……その目の厳しさはグラス以上のような気がした。14歳の少女に不相応な経験の積み重ねを経験した人間がする目。俺を見て居るのに俺の後ろの未来を見て居るような目が俺を捕らえる。
「あくまで自分勝手、あのときもっと止めてくれれば……なんてことは通用しない。私はできる限りのことをするけど、ドロウ君を見捨てる選択肢を有事のさいはとる人間です。死ぬも生きるも全て自己責任で来るというのならば私はなにも言うことはございません。私は貴方の命を預かれる強い人間じゃありません……それでもいいですか?」
「それでいい、俺は俺の目的と心のために危険だろうが肥だめだろうが付いて行く。俺とお袋の為に!!!」
「……うん、よろしくねドロウ君」
厳しさが霧散した。俺がぐったりと水筒を両手に持ったままよろよろと地面に座った。カリスティアちゃんが「ちょちょ、そんなに怖いこと言ってないでしょう! 言ってないよね? 私怖くないよねぇ?」っと言う者だから、すこし気が抜けなかったが「中々怖かったよ……カリスティアちゃん」っと正直に言うと驚愕の顔で数秒固まったカリスティアちゃんが、ぐるりとグラスの方を向いて。
「グラス怖くないよね! ね! ね!?」
「そうですね……。今こうやって必死になってる所が怖いですね。鏡でもプレゼント致しましょうか?」
「グラス!!! そこになおれ、剣の錆びにして、コラ逃げるな待てぇぇぇい!!!」
先ほどの威圧はなんだったのか、腰が抜けている俺を差し置いて剣を使った追いかけっこを始める二人。生真面目そうなのに、この切り替えの速さに、何回度肝を抜かれたことか……。俺も切り替えて、そろそろ昼だなと判断して家の方向へ歩く、けど一旦止まって二人に声を張り上げた。
「追いかけっこが終わったら、河原でスペードウィッシュを二匹取ってきてくれー!!!」
「わかったー」
「わかりました」
楽しく追いかけっこをしたまま返事を返す二人が剣を躱しながら器用に川の方向へ移動しているのを見て、普通に行ったほうが速いだろと呟いて、俺は昼飯を作る為に今度こそ家の中に入るためにドアを開けた。
「ふひひひひ……天使がおわします家、あぁ、天使の唾液の香り……これが天使様がお使いになられているスプーン……ありがたや」
バタンッ!
開けて……閉めた。
(なんだあの男……変質者か!?)
騎士のような風貌で普通に見れば、女が群がるだろう顔の男がカリスティアちゃんのスプーンを持って輝かしい顔をしているのを見て、俺はドアからくるりと身体を傾けてグラスを呼びに行った。
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