転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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香りの葉

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 ゆらゆらと揺れる身体と、グラスのミントのようなスッキリとした香り。心地よくて寝ぼけ呆けた頭で自身の体温が移った熱を求めるように顔を擦り付けてみた。耳を付けると忙しなくはち切れるような心臓の音と、呼吸のような空気の音。顔に当たる風が、温度が丁度良い暖かさを持っている。

「ぐらすの匂い?」

 まだ眠くて目を開ける気にはなれない。ぽけらーっとそんなことを口に出して激しく脈動する心臓の音を求めて、耳や頬をスリスリと擦り付ける。グラスの爽快なサッパリとした匂いを堪能していると、段々と意識がハッキリしてきて、擦り付けを止める。

(背中で聞こえるほど、グラスの心臓バクバク言っている……。なんか、言葉よりも直接的に異性として見られてるって感じる事がこんなに恥ずかしいのね……。あぁ、嬉し恥ずかしい)

 寝ぼけて居ても記憶はあるのだ、明らかにグラスの匂いと言葉を発して顔を擦り付けた瞬間に、グラスの心臓がバクバクと高鳴っていた。いい加減私も起きないと、こっちも恥ずかしくて心臓が高鳴るんじゃないか、そう思ってやっと目を開ける。

 ママの家が近い所だ。夏の気候なのに丁度良い暖かさなのは、グラスのお陰だろう。日本でおなじみのジットリとした湿度の含んだ暑さ、湿気はどうしようもないけれど気温の方はグラスが居てくれるだけで大分快適だ。グラス事態は暑いのは体質的に苦手だから申し訳ないけれど、有り難い。

「グラス、降りる」

「少し行った所で降ろします。それまで寝て下さっても宜しいですよ」

「ふぁ……ふぅ……。うん」

 意識はハッキリしたけれど眠い。グラスの歩く振動と、高鳴りは多少収まっても、未だ速い心臓の音にあやされてまた眠くなる。それで出る欠伸もかみ切り切れない、甘えてもう一眠りしちゃおう。そうして私は瞼を落として意識を手放した。



「カリスティア、カリスティア、起きて下さい着きましたよ」

「んーおはよ……。 おお!」

「急に暴れないで下さい、落ちますよ」

 家から少し遠くの崖だ。雪も、夏の青葉も、秋の枯れ葉も、春の花々も一度に見られる美しくも幻想的な景色で、目をこすって開けた時の衝撃で前のめりに、急に動いてしまった。流石のグラスで急に動いても全くよろめく様子は無かった。けれど、しっかりとお叱りは頂きました御免なさい。

 一気にテンションが上がった私を降ろしてくれたグラスに「そこは切り立った崖です。気をつけてください」と念を押して私の手を離した。落ちない程度に景色を見る。悪魔族の国のデタラメ気候には泣かされることは多々あったけれど、四季と気候が絶妙に折り重なってそれはそれは幻想的だった。朝露を覗いた中に町があるような、鍵穴を覗いた先の花畑のような、ワクワクとする綺麗な景色。唯々感嘆のため息を漏らすばかりだった。

「グラス! グラス! あそこ大きい滝がある!」

「あれは滝ではなく山です。大体200年ほどの絶え間ない大雨に晒され、滝に見えるのです」

 雲をも貫く高い岩が見える滝は滝ではなく山だそう。淡々と教えてくれるグラスにお礼を言いもう一度みると、あれだけ綺麗な滝だと思って居たものが、殺意マシマシに見える。

「……人が死ぬほどの水の量と水圧になりそう」

「一度だけ、自主的な修行に行きましたが、そこで出会いました、お宝伝説を信じる冒険者の首が目の前で吹っ飛ぶ雨でした」

「よく生き残れたね……」

 やっぱり綺麗でも悪魔族の国は悪魔族の国でした。度をを越えて危険過ぎる。人の首が吹っ飛ぶほどの雨……フラグ建築しそうだから言いたかないけど、絶対に行きたくない。絶対行かない、ほら、富士山だって見るもんで登るものじゃないと言うでしょ? それと一緒だ、見てる分には綺麗。

「カリスティアの杖があったからこそですよ。座りますか? カリスティアの出したシートはちゃんと畳んで持って来ていますから」

「ありがとう! 座る。ついでにお腹空いたからストックの中のランチでも食べよう」

「ええ」

 六年前にグラスが好きだと行ってくれた料理とストックの中から出して食べた。六年前のだけど時間が停止しているお陰であのときの暖かさと美味しさのまま頂けた。

「まるで六年前の料理のようです。懐かしい……」

「ん、六年前にストックに入れた料理だよ?」

「ごほ! げっほ! こほこほ、ごほ、カリス、ごほ……ティア!!!」

「ストックの中は時間停止してるから大丈夫だって!!!」

 六年前の料理だと言うと流石のグラスもむせた。その後わかりやすく努の気配を感じたので、慌てて時間が停止していることを伝えた所で、どうにか怒りは収まった。「予め言いなさい」「はい」勿論だけど、驚かしたことはしっかりと叱られました。涙目でこちらを睨むグラスは、新鮮で可愛かったなと邪な念が頭によぎったけれどすぐに振り払う。それを言おうものなら何十倍にして帰ってくるかわからないから。

 私はお利口です。心の中でそう胸を張っていると食べ終わったグラスの膝の上に連行された。そういえばグラスのこのスッキリとしたミントのような匂いは何だろう? そう思って、グラスに思う存分に頭を撫でられながらも聞いてみた。

「そういえば、グラスって凄いスッキリとした匂いするんだけど、香水かなんか?」

「あぁ、香の葉ですね。使って見ますか?」

「いいの? 高くない?」

 私の知る香り系の商品は、貴族が買うような高いものばかり、グラスのこのスッキリとした匂いは落ち着くし、好きだからやってみたくはあるけれど値段が心配だった。窺うように上を向いてグラスを見ると。

「高価か、高価でないかでしたら高価です。けれど、気にしないで下さい」

「うん、ありがとう」

 正直に言ってくれる所が本当に助かる。なんとなく、物の価値が完全に不透明だと、返さなきゃ! っていう気持ちに駆り立てられることがあるから。私は一度グラスの上から退いて向かい合いに座る。グラスはローブの中を漁ると一つの緑の布袋を取り出した。中身はお茶の葉っぱのような、何の変哲もない緑色の葉っぱがグラスの手に一つ。鼻を近づけて嗅いでみると、辛うじてミントのような香り? がしたくらいだ。時間が経ったから薄いのか? けど、それならばグラスの溢れるような匂いは? 染みつくにしては若干濃い、うんうん使い方を考えてみてもわからなかったので、助けを乞うようにグラスの目を見ると、優しく目を細められた。

「香の葉の使用方法は、こうして使います」

 香の葉を口元へ持って行く、そうか食べるのか、なんてのんきに見て居たら。

「ッん!? グ、ら」

 香の葉を咥えたグラスが、呆けていた私の身体を左手で引き上げ、頭は右手で固定して私の唇を奪い侵入した。あまりの事で名前も言うことは出来ずに、頭は?マークと!マーク混在の大混乱で碌な抵抗が出来ないままに、舌を取られ、巧みにグラスの唾液に塗れた香の葉が私の口に移される。口も鼻もグラスの匂いで一杯にされ、誘導されるがままに、グラスと私の唾液が混じった香の葉を、コクリ……と首、脊髄、頭蓋骨に響くような音を立てて嚥下した。

 嚥下したのにも関わらずにディープキスは継続された。綺麗な景色の中で、口と口が交わる水音が響いて鼓膜を揺らす。息苦しさで朦朧と溶けて行く意識、縋るようにグラスの背中に手を回すと、私を抱きしめる左手の力が一段と強くなった。歯の裏も舌の裏も、全てが蹂躙され尽くして暫く経ってやっと口が離れた。

「カリスティア」

「グラス」

 絹よりも儚く互いの口を繋いで居た糸が、互いの名前を言うことで切れてポトリと地に落ちる。グラスも私も肩で息をしている。水音の次は情欲が混じる乱れた息があたりに反響する。グラスの目の色は青色に澄んでいるのに、獲物を見るような色に塗れた瞳をしていた。けれど、それも呼吸を整える間に落ち着いて優しい瞳になる。言ったようにこの世界の成人15歳まで待ってくれるみたいだ。残念……? 

「う……」

 残念がった自分の貞操概念の低さに打ちひしがれて、赤くなった顔がさらに赤くなったような気がした。チラリとグラスを見ると、先ほどまでグラスも薄紅の頬をしていたのに、今は私の赤い顔を嬉しそうに笑って見て居る。余裕綽々と言わんばかりの顔だった。少しムッとしてみると、グラスはクスクスと声を殺しながらついに笑い始めた。

「も~!!! こんなことしたら、身体がグラスに匂いになったわからないよ!!!」

「申し訳ありません。愛を示すことがこんなに楽しいとは予想外でして、自制出来ませんでした」

 大変正直で宜しい……なんてことあるか!!!

 こう言うときに正直過ぎて何も言えなくなる。恥ずかしさの余りに、立ち上がってグラスの腕を引っ張りながら「か~え~る~よ~!!!」と言って、景色を見る処の騒ぎではなくなった私の顔色のまま、支度をしてパッパと帰路に付いた。帰路のグラスは、無表情の癖して魔力は始終ご機嫌を奏でて居た。グラスがこんなにわかりやすくはしゃぐとは……。

 勿論、私ほどではないけれど。グラスのわかりやすいご機嫌に気づいた面々はそれぞれ好き放題な反応をくれた。

「孫は最低8人は見たいわ!」

 アドラメルクママ、悪魔はどうかわからないけど、私はそんなに産んだら死ぬ。

「野外で、卒業ヴァージンなんて、やーん」

 ガイコツがぶりっ子調にやーんなんて口走らないで虫酸が走るし、違う! 違うと知ってて言ってるのは知ってるけど、あえて言おう……違う!!!

「あら、お手が速いこと、外なんかで事を犯さなくとも、言って下されば、一夜とは言わずとも三日三晩くらい野宿致しますわ。カリスティア、グラス、お次は言って下さい」

 凄い気遣いの眼差しが暖かいけど違います。もしそうでも、王妃を外に占めだして行為に及ぶって、どんだけ私達は性欲お化けだと思われてるの?

「香の葉分けて貰ったのか、お揃いで良かったな」

ドロウ君……。ドロウ君だけは変わらないまま純粋に普通の人で居てね。ありがとう。


 結論、まともな思考しているのはドロウ君しかいない。精霊の国への旅路も、普通で居てくれることを願う。

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