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遅すぎる更生
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取り残された俺は、市民よりも下の暮らしをした。元国王などと言えば頭のおかしな男と思われ門前払い。人が嫌いと言えばならば野で暮らせと指を指して笑われた。エピクという幹部さえも帰ってこずに放って置かれた俺は、なんとも醜いままに這いずり回った。
魔物と寄り添い、あの生意気なカリスティアという女の実践で確かに通用する剣術の知識を使い、やっとの思いでペルマネンテまで帰ってきた。そこで、俺は初めて自分の愚かさと醜さに気づいた。
「おい、小娘。これを飲まんか! 命令だ!」
「おじふぁん あいあと」
国境の近くの町は市民は痩せ細り、飢餓で倒れた少女の歯は虫歯でボロボロになり、ろくに喋れなくなるほど。医療も食料も全てが死んでいた。何故? 疑問を胸に心を通わせた魔物達に頼み込み、食料を狩り、屋根すら直せぬ家の屋根を、カリスティアという馬鹿娘にこき使われた時に教わったやり方で補修をした。
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「何も差し上げられる物はありませんが……しいてやれることと言いましたら。貴方様のような魔物使いの偏見と差別を禁じるようにお触れを出しましょう」
オーディスの名は使えぬから、改めて名をレイディンスと改めた。初めて……自国の国民にお礼を言われた。初めて嬉しいと思えた。その思いは一気に地に落ちたが。
「前の国王様くらい馬鹿だったら、税金とか誤魔化せたのによ」
「今の王様、金の事だけはしっかりしてるからな。前の王様よりも確実に市民を絞りに……前の馬鹿王のがまだマシだとは思わなかったぜ」
初めて、私は国民にそう思われていることを、レイディンスという皮を通して聞いた。怒りもない、あっけなく自身の心にストンと入った。地を舐めるような生活をしていれば嫌でも自身の愚かさは身に染みた。俺は愚かだ、今こうやって、堕ちて、感謝されて、死にそうになって、やっと、やっと気づいたのだ。
どちらか片方が強ければ均衡は崩れる。民と国王と国がそれぞれ支え合うようにならねばならなかったのだと。決して贅沢をしていいという訳ではないということを、やっと知ったのだ。
「僕の傘下に入りませんか? 個人で魔物を使った情報収集ができるものを探していたのです。神のお導きあっての出会い……。如何でしょう?」
愚かな王として、救った町を逃げるように魔物と共に立ち去ってリチェルリットの元へ。魔の悪いことに神聖なる教会の前で行き倒れた挙げ句の果てに、この国の幹部、セシル・ルフレがこんな辺境に偶々視察に居たのか、教会の中から扉を開けて出てきた。控えていた神父服の男やシスターがボロボロになる俺を見て、汚れも気にせずに駆け寄った。
そんな中でセシル・ルフレは、町の外に控えさせている魔物の方角を見て微笑むと、俺の方を向いて傘下に入らないか? っと聞いてきた。
「俺の事を知ってて言っているのか?」
「はい! 知っていて……」
大嫌いだった国の幹部に利用されないか? と聞いているのです。そう、優しい顔のままにとんでもないことを言った。優しい、本能が味方だと無条件で信頼してしまうような声音で、言ったのだ。
「わかった。じゃが、とある娘の敵に回るようなことはしないからな」
「はい。マグナイリオ神父、彼を教会の中へ」
「は、はい!」
呆けて居た神父に命令をして、倒れた俺を教会の中に運び、飯を与え身を清めさせた。あっという間に馬車の中へ敷き詰められ。否が応でもこの恐ろしい男と二人っきりにされた。息子であるグラスとは違った……変わらぬ笑顔が余計に恐怖を煽る男。無表情の息子よりも余計たちが悪い。本能は良い人、味方、仲間、だと錯覚するのに、別の本能は危険だと警鐘を鳴らす底が見えぬ人物。
「先ほどにも言ったように、僕個人で所有する魔物使い……テイマーを求めています。仕事内容は簡単です。魔物が収集した、カリスティアちゃ、さんとグラスさんの情報を随時僕の方へと届けて下さい。それだけです。貴方の存在は公にはしませんので、安心して働いてください」
資料に目をモノクル越しに通しながら言った。
「俺は敵国の元国王だぞ? 契約だけでなく口約束で任せると言うのか!? 正気なのか!?」
魔法契約で縛られる位のことは、予め覚悟していたのにもかかわらずにだ。ただの口約束だけで目の前の男は済ませた。普通の一般的な国は、幹部がそこら辺の人材を拾いはしないし。なおかつ口約束だけで人を動かそうなどと……考えられん。俺の見込みは外れて、ただの優男なのか? そう思い始めて口を歪めた。そんな俺を見て目の前の男はそれはそれは慈しむように俺を見て目を細め綻ぶように笑った。
「契約で縛ることは神のご意志に反します。人を信じ、人を立ち上がれ、人を進ませ、過ちには自ら手を下す。そう、人の過ちは人が正すべきなのです」
な
ん
だ
?
慈しむ笑みに睨まれ身体は震えて凍えつく。経験した暗殺者よりも……鋭く心を引き裂く恐怖が喉からせり上がる。プルプルと震え出す俺に微笑みながら、持っていた資料を膝の上に置き、改めて俺と目を合せた。
「合格です」
「はぁ!?」
アレが凍るようならば、この男は石にするような恐怖で身体を固めてくる。身構えて相手の出方を震えて待ち構えていたのだが……。急にその雰囲気は霧散してニッコリと笑い。一言「合格です」とだけ言った。一瞬何を言われて居るのかがわからずに、酸欠の魚のように口をパクパクさせてセシルを見た。セシルは先ほど見て居た資料と、胸元に備えられた万年筆を持って、俺に差し出して来た。
「これが正式な契約の書類です……が、魔法契約ではありませんので、お気楽に契約なさって大丈夫ですよ。
僕が……。僕が口約束で契約を交すようなお人好しに見えるのでしたら、口約束でも構いませんが」
「むむむむッッッ!!! こんなことをされてお前なんぞお人好しだと思うか!!!」
過去の俺ならば、喜んで馬鹿な男と思い込み、口約束をしてとっとと逃げることにしたであろう。それを、試されたのだ。神の御許に首を差し出されるような、身のすくむ脅し……いや、俺が改心していないとわかった瞬間にこいつは俺を間違いなく……殺す気だった。ガタガタと震える手で契約書にサインをした。目の前の男の言った通りに魔法契約ではないただの紙の契約だ。止らぬ震えの中で書いた書面を渡す。セシルは3度ほど顔を僅かに上下させて、しっかりと書面をチェックした。
一段落ついたように崩れない笑みのまま、ふぅ……とため息をついて一言「歓迎します」とだけセシルは言った。それだけで、身体はわかりやすく崩れ馬車の中で、意思とは関係なく勝手に身体は横に倒れた。
「腐っても元国王、よく僕の殺気がわかりましたね」
「貴様が下手くそなだけだ! 下手くそ!!!」
「あはは……。ここまでハッキリ言われたのは久方ぶりです。さて、流石に王都まで貴方を持ち帰ることはできません。この近くの町へと降ろします。そこからお仕事を開始させてください」
そうやって、俺は数多の情報を魔物達にお願いをして男に私続けた。その中のアダムスに子供達が囚われているとの情報を聞いて、俺は愚かな元国王として城の中に潜入した。我が儘を言い続け、どうにか子供達の収容されている場所に入れられた。
子供達の収容所は上階の貴族や王族が住まう所だ。何故かというと、国の謀反を企てた賊などに子供達に武器を持たせ……爆弾に仕立てあげ殺す。優しい人間で善人であればあるほどに効果的な武器として子供は重宝されていた。全員諦めたように生気の無い目、絶望に心を焼かれ痩せ細った子供ばかりだった。どの子供調教は済ませてあるらしく、魔力を封じる手枷は付けていなかった。
「ミルクベスオークちゃん、スマンがミルクを貰うぞ」
慣れなければ少し見た目がアレだが、高級なミルクを出すミルクベスオークの生体に頼み込み、隠し持っていたいくつかの瓶にミルクを出して貰う。人間の赤ちゃんほどのサイズしかないが、これで生体である。兵士も見たことがない貴重な魔物故に、害がないと判断されてここまで一緒に忍ばせられたのだ。
「ほれ、全員たんと飲むが良いぞ。ミルクを出す見た目はちとアレだが栄養たっぷりだ」
「え、え?」
「毒が心配か? 俺が飲んで見せよう」
ほら、大丈夫だろう? 子供達に飲んで見せた。突然来た大人の俺に警戒すれど、空腹には勝てなかったのだろう。一人二人とミルクベスオークのミルクを飲んでは泣いていた。
「おい! 毒が入ってるかも知れないんだぞ!? 大人を信用してどうするんだ!」
一人の少年が俺に向かって吠えかかる。埃にまみれた尻尾の毛先がわかりやすく怯えて震えている。獣人なのだから、警戒心が強くてもしかたないだろうな。
「でも、キーラ君」
美味しそうにミルクを飲んでいた少女が窘めるようにキーラという少年に近づく、ただ、その目は俺の機嫌を損ねてないか? そんな目をしながら交互に俺とキーラという少年を見た。
「ほう、キーラと言うのか、そのまま人を疑う気持ちを忘れるな。この世界も、弱者も強者も疑いが身を守る術になるぞ、だが、今回は俺を信じてくれまいか?」
怒ってない、機嫌を損ねていない。その意思を乗せて笑顔を作り声を発した。腐っても国王だったのだ。ある程度人民を騙すために培った偽の笑顔や声音など自在に変えてくれる。キーラという少年は、驚いて俺を見ながら後ろに後に引くと、観念したようにミルクを飲む列の後ろに加わった。リーダーだったのだろう、少年が並び始めたことを見た他の懐疑的な子供も並び始めた。
「この後にすぐにお前らを助けてくれる少女が来る。その少女の指示通り動くのだぞ。その少女が来た時の合図はそうだな……【「無表情ガリガリ娘! 俺を護衛しながら逃がせ!!!」】っと言ったらそれが助けてくれる少女だ。俺は訳あって、愚かで傲慢でどうしようもない人間でないといけないからな。何も言わずに軽蔑して少女の指示にしたがうがいい。頼むぞ」
「げぇぇぇぇ!! なんでデブ王が居るのさ? なんで!?」
「よくぞ来た、無表情ガリガリ娘! 俺を護衛しながら逃がせ!!!」
俺は、愚かで傲慢でどうしようもない……ただの転落者だ。我が息子が白の凍てつく悪魔ならば、少女は黒く世界を駆ける天使だ。見ぬ間に美しく、気高くその黒髪を揺らす少女よ。今さら愛しくなった息子をよろしく頼む……。生かしてくれて……。
礼を言う……ありがとう
「ん? デブ王なんか言った?」
「なんでもないぞ、そこの薄汚い中年を置いて俺を優先して逃がせ」
「なんだと! お前のが薄汚いということを理解しろ!」
「あーあー。うーるーさーいー」
魔物と寄り添い、あの生意気なカリスティアという女の実践で確かに通用する剣術の知識を使い、やっとの思いでペルマネンテまで帰ってきた。そこで、俺は初めて自分の愚かさと醜さに気づいた。
「おい、小娘。これを飲まんか! 命令だ!」
「おじふぁん あいあと」
国境の近くの町は市民は痩せ細り、飢餓で倒れた少女の歯は虫歯でボロボロになり、ろくに喋れなくなるほど。医療も食料も全てが死んでいた。何故? 疑問を胸に心を通わせた魔物達に頼み込み、食料を狩り、屋根すら直せぬ家の屋根を、カリスティアという馬鹿娘にこき使われた時に教わったやり方で補修をした。
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「何も差し上げられる物はありませんが……しいてやれることと言いましたら。貴方様のような魔物使いの偏見と差別を禁じるようにお触れを出しましょう」
オーディスの名は使えぬから、改めて名をレイディンスと改めた。初めて……自国の国民にお礼を言われた。初めて嬉しいと思えた。その思いは一気に地に落ちたが。
「前の国王様くらい馬鹿だったら、税金とか誤魔化せたのによ」
「今の王様、金の事だけはしっかりしてるからな。前の王様よりも確実に市民を絞りに……前の馬鹿王のがまだマシだとは思わなかったぜ」
初めて、私は国民にそう思われていることを、レイディンスという皮を通して聞いた。怒りもない、あっけなく自身の心にストンと入った。地を舐めるような生活をしていれば嫌でも自身の愚かさは身に染みた。俺は愚かだ、今こうやって、堕ちて、感謝されて、死にそうになって、やっと、やっと気づいたのだ。
どちらか片方が強ければ均衡は崩れる。民と国王と国がそれぞれ支え合うようにならねばならなかったのだと。決して贅沢をしていいという訳ではないということを、やっと知ったのだ。
「僕の傘下に入りませんか? 個人で魔物を使った情報収集ができるものを探していたのです。神のお導きあっての出会い……。如何でしょう?」
愚かな王として、救った町を逃げるように魔物と共に立ち去ってリチェルリットの元へ。魔の悪いことに神聖なる教会の前で行き倒れた挙げ句の果てに、この国の幹部、セシル・ルフレがこんな辺境に偶々視察に居たのか、教会の中から扉を開けて出てきた。控えていた神父服の男やシスターがボロボロになる俺を見て、汚れも気にせずに駆け寄った。
そんな中でセシル・ルフレは、町の外に控えさせている魔物の方角を見て微笑むと、俺の方を向いて傘下に入らないか? っと聞いてきた。
「俺の事を知ってて言っているのか?」
「はい! 知っていて……」
大嫌いだった国の幹部に利用されないか? と聞いているのです。そう、優しい顔のままにとんでもないことを言った。優しい、本能が味方だと無条件で信頼してしまうような声音で、言ったのだ。
「わかった。じゃが、とある娘の敵に回るようなことはしないからな」
「はい。マグナイリオ神父、彼を教会の中へ」
「は、はい!」
呆けて居た神父に命令をして、倒れた俺を教会の中に運び、飯を与え身を清めさせた。あっという間に馬車の中へ敷き詰められ。否が応でもこの恐ろしい男と二人っきりにされた。息子であるグラスとは違った……変わらぬ笑顔が余計に恐怖を煽る男。無表情の息子よりも余計たちが悪い。本能は良い人、味方、仲間、だと錯覚するのに、別の本能は危険だと警鐘を鳴らす底が見えぬ人物。
「先ほどにも言ったように、僕個人で所有する魔物使い……テイマーを求めています。仕事内容は簡単です。魔物が収集した、カリスティアちゃ、さんとグラスさんの情報を随時僕の方へと届けて下さい。それだけです。貴方の存在は公にはしませんので、安心して働いてください」
資料に目をモノクル越しに通しながら言った。
「俺は敵国の元国王だぞ? 契約だけでなく口約束で任せると言うのか!? 正気なのか!?」
魔法契約で縛られる位のことは、予め覚悟していたのにもかかわらずにだ。ただの口約束だけで目の前の男は済ませた。普通の一般的な国は、幹部がそこら辺の人材を拾いはしないし。なおかつ口約束だけで人を動かそうなどと……考えられん。俺の見込みは外れて、ただの優男なのか? そう思い始めて口を歪めた。そんな俺を見て目の前の男はそれはそれは慈しむように俺を見て目を細め綻ぶように笑った。
「契約で縛ることは神のご意志に反します。人を信じ、人を立ち上がれ、人を進ませ、過ちには自ら手を下す。そう、人の過ちは人が正すべきなのです」
な
ん
だ
?
慈しむ笑みに睨まれ身体は震えて凍えつく。経験した暗殺者よりも……鋭く心を引き裂く恐怖が喉からせり上がる。プルプルと震え出す俺に微笑みながら、持っていた資料を膝の上に置き、改めて俺と目を合せた。
「合格です」
「はぁ!?」
アレが凍るようならば、この男は石にするような恐怖で身体を固めてくる。身構えて相手の出方を震えて待ち構えていたのだが……。急にその雰囲気は霧散してニッコリと笑い。一言「合格です」とだけ言った。一瞬何を言われて居るのかがわからずに、酸欠の魚のように口をパクパクさせてセシルを見た。セシルは先ほど見て居た資料と、胸元に備えられた万年筆を持って、俺に差し出して来た。
「これが正式な契約の書類です……が、魔法契約ではありませんので、お気楽に契約なさって大丈夫ですよ。
僕が……。僕が口約束で契約を交すようなお人好しに見えるのでしたら、口約束でも構いませんが」
「むむむむッッッ!!! こんなことをされてお前なんぞお人好しだと思うか!!!」
過去の俺ならば、喜んで馬鹿な男と思い込み、口約束をしてとっとと逃げることにしたであろう。それを、試されたのだ。神の御許に首を差し出されるような、身のすくむ脅し……いや、俺が改心していないとわかった瞬間にこいつは俺を間違いなく……殺す気だった。ガタガタと震える手で契約書にサインをした。目の前の男の言った通りに魔法契約ではないただの紙の契約だ。止らぬ震えの中で書いた書面を渡す。セシルは3度ほど顔を僅かに上下させて、しっかりと書面をチェックした。
一段落ついたように崩れない笑みのまま、ふぅ……とため息をついて一言「歓迎します」とだけセシルは言った。それだけで、身体はわかりやすく崩れ馬車の中で、意思とは関係なく勝手に身体は横に倒れた。
「腐っても元国王、よく僕の殺気がわかりましたね」
「貴様が下手くそなだけだ! 下手くそ!!!」
「あはは……。ここまでハッキリ言われたのは久方ぶりです。さて、流石に王都まで貴方を持ち帰ることはできません。この近くの町へと降ろします。そこからお仕事を開始させてください」
そうやって、俺は数多の情報を魔物達にお願いをして男に私続けた。その中のアダムスに子供達が囚われているとの情報を聞いて、俺は愚かな元国王として城の中に潜入した。我が儘を言い続け、どうにか子供達の収容されている場所に入れられた。
子供達の収容所は上階の貴族や王族が住まう所だ。何故かというと、国の謀反を企てた賊などに子供達に武器を持たせ……爆弾に仕立てあげ殺す。優しい人間で善人であればあるほどに効果的な武器として子供は重宝されていた。全員諦めたように生気の無い目、絶望に心を焼かれ痩せ細った子供ばかりだった。どの子供調教は済ませてあるらしく、魔力を封じる手枷は付けていなかった。
「ミルクベスオークちゃん、スマンがミルクを貰うぞ」
慣れなければ少し見た目がアレだが、高級なミルクを出すミルクベスオークの生体に頼み込み、隠し持っていたいくつかの瓶にミルクを出して貰う。人間の赤ちゃんほどのサイズしかないが、これで生体である。兵士も見たことがない貴重な魔物故に、害がないと判断されてここまで一緒に忍ばせられたのだ。
「ほれ、全員たんと飲むが良いぞ。ミルクを出す見た目はちとアレだが栄養たっぷりだ」
「え、え?」
「毒が心配か? 俺が飲んで見せよう」
ほら、大丈夫だろう? 子供達に飲んで見せた。突然来た大人の俺に警戒すれど、空腹には勝てなかったのだろう。一人二人とミルクベスオークのミルクを飲んでは泣いていた。
「おい! 毒が入ってるかも知れないんだぞ!? 大人を信用してどうするんだ!」
一人の少年が俺に向かって吠えかかる。埃にまみれた尻尾の毛先がわかりやすく怯えて震えている。獣人なのだから、警戒心が強くてもしかたないだろうな。
「でも、キーラ君」
美味しそうにミルクを飲んでいた少女が窘めるようにキーラという少年に近づく、ただ、その目は俺の機嫌を損ねてないか? そんな目をしながら交互に俺とキーラという少年を見た。
「ほう、キーラと言うのか、そのまま人を疑う気持ちを忘れるな。この世界も、弱者も強者も疑いが身を守る術になるぞ、だが、今回は俺を信じてくれまいか?」
怒ってない、機嫌を損ねていない。その意思を乗せて笑顔を作り声を発した。腐っても国王だったのだ。ある程度人民を騙すために培った偽の笑顔や声音など自在に変えてくれる。キーラという少年は、驚いて俺を見ながら後ろに後に引くと、観念したようにミルクを飲む列の後ろに加わった。リーダーだったのだろう、少年が並び始めたことを見た他の懐疑的な子供も並び始めた。
「この後にすぐにお前らを助けてくれる少女が来る。その少女の指示通り動くのだぞ。その少女が来た時の合図はそうだな……【「無表情ガリガリ娘! 俺を護衛しながら逃がせ!!!」】っと言ったらそれが助けてくれる少女だ。俺は訳あって、愚かで傲慢でどうしようもない人間でないといけないからな。何も言わずに軽蔑して少女の指示にしたがうがいい。頼むぞ」
「げぇぇぇぇ!! なんでデブ王が居るのさ? なんで!?」
「よくぞ来た、無表情ガリガリ娘! 俺を護衛しながら逃がせ!!!」
俺は、愚かで傲慢でどうしようもない……ただの転落者だ。我が息子が白の凍てつく悪魔ならば、少女は黒く世界を駆ける天使だ。見ぬ間に美しく、気高くその黒髪を揺らす少女よ。今さら愛しくなった息子をよろしく頼む……。生かしてくれて……。
礼を言う……ありがとう
「ん? デブ王なんか言った?」
「なんでもないぞ、そこの薄汚い中年を置いて俺を優先して逃がせ」
「なんだと! お前のが薄汚いということを理解しろ!」
「あーあー。うーるーさーいー」
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