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二手に分かれて
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夕方に差し掛かって、ドロウ君大丈夫かな? なんて思い始めた頃にドロウ君が死んだ目で持参した袋を持って帰ってきた。なにか入っているのはわかるのだけど、当初の予定より大分少ない袋をゆさゆさと前屈みにこちらに来るドロウ君に、皆なにかあったのか? っと視線をドロウ君に向ける。王妃様は「お疲れでしょう」っと一足先に視線を外して、ドロウ君を休ませる準備に取りかかった。
「ただいま……」
「おかえり、なんか痩せたのかしらドロウ君?」
「おかえり。なんかげっそりしてるね」
ドロウ君がゲッソリとした顔をして、グラスが肩を貸そうと手を出すけれど、ドロウ君は何も言わずに死んだ目で首を横に振った。げっそりとした割にはしっかりとした足取りで地べたに座ると、ヤケに痩せた袋をに手をつっこんだ。それで取り出された物にスケイスの方が頭に手を当てて呆れのため息と共に言葉を発した。
「一応旅行者向けに整備されとる町やったはずなんやが……」
「黒麦のパンとぼったくり飲料聖水の二つだけだった。情報は全ての苦悩をとか、正直気味が悪くて逃げ帰ってきたんだ」
しかも、購入制限が掛かってて一人一個と一本しか買えなかったと、自身の頭の後ろをガシガシと掻きむしりながら、また項垂れた。「ドロウ様髪が燃えています」「あちゃちゃ!!!」頭を垂れすぎて頭の毛が火に入ってしまったドロウ君は、ハゲる!っと慌てて頭をはらったお陰で先っちょだけ燃えただけにとどまった。ドロウ君は落ち着いた頃に町の様子を語ってくれた。
「こんにちは、すみません聞きたいことが」
「神のお心のままに祈り歩くことで目的の地へとたどり着くでしょう」
「え、ちょ、まっ」
日本語なのに日本語じゃないに通ずる話の通じなさに、四苦八苦した末になんとか食料を買い取れる場所にたどり着いたんだけど、売っているのは黒パンとぼったくり飲料聖水だけ、しかも人数分だけ。旅行者もいないし話しも通じないしなんてところで、八方ふさがりの状態のままにそのまま帰ってきたそうだ。何というかこの世界は話しが通じない奴が多いこと多いこと……なんて気取ってみるけれど、前の世界も一緒かと相づちをうちながら思った。
「4条聖伐命令か、よわったのー。」
「それは一体なんでしょうか?」
ンガーっと言いたげにカコカコ骨を鳴らして思考にふけるスケイスに、すかさずグラスが質問をした。スケイスはおっとそうだったと左手で顎骨を数回かいた。私は支度をしてくれている王妃様を「大事な話するよー!」と呼んだ。王妃様が作業を中断してこちらに来たのを見たスケイスは、全員いることは確認してから話してくれた。
「主に国を揺るがす罪人をあぶり出すときに、全国民に通達させられる国家命令の一つや。外部からのよそ者を発見した場合はすぐに教会に報告すること、よそ者には神を祈り称える内容以外を話すことは禁ずる、の二つが大まかな命令内容や。多分わてらのことやけど、神なのに罪人扱いなんちゅー……いよいよ訳のわからん状態になってもうたの。はよ此処立ち去らんと新しいパラディン共がくるで……そこでなんやがの」
二手に分かれることになりました。このトラブルに王妃を巻き込むのはやっぱり不味いので、ママ、王妃様、ドロウ君の三人は王妃様を仕方がないから精霊国すっとばして、直接リチェルリットへ、私、グラス、スケイスの三人は中央へと二手に分かれることとなった。ドロウ君が作ってくれた丸焼きはそちらに全部持ってって貰うこととなった。私達の方は最悪個人で魔物を狩れるという理由で。そんな中で人数が減って些か寂しいと思われた道中なのだが。
「カリスティア、栄養が足りません」
「だって食べるのが面倒くさい」
「主はん、一応身体は14歳なんやから食べなあかんて」
「だってめんどくさーい」
「そんなに面倒なのでしたら、歩かなくともいいです。食べようとしなくともいいです……その代わり」
私はグラスに人形のように持たれた挙げ句の果てに、口に無理矢理焼いた魔物の肉を詰め込まれると言う謎の状態になりました。その代わり無理矢理口の中に入れると言うことらしい。見上げるとご満悦顔のグラスとすぐ横には、ぷっぷと笑うスケイスと、仏頂面で飲み込んだ傍から肉を詰め込まれる私の珍道中が始まった。詰め込まれる前にストックに入れて抵抗したけれど、それをすると夜に倍の肉と食べれる野草の量が増えたので結局大人しく食べるはめに……。グラスが空間魔法使えるのは知ってたけど、わたしのストックみたいな似たような収納魔法で焼いた肉出るわ出るわ……。
ぷに……。ぷにゅ……。
暇があれば魔物を狩ってストックしたお陰で、ある意味一日中肉を食うこととなった私は……夜にテントの中で身体を拭こうと服を脱いだ所で、気になって腹の肉をつまんで見た。ふと……てる? 介護に打ちのめされて食べる気力が回復しないまま今の今まで居る私がふと……てる?
「そういえば顔も……。4日程度でこんな太るの!?」
顔もぷにぷにする気がして、私の顔から血の気が引いた。今鏡を見たら水死体のように真っ白だろう。骨が細いのにつまめるほど太るのは深刻なのでは? なんて考えて頭の中では太ったらグラスに、抱っこして貰えないのでは?そう考え初めて、私は一体何を考えているの! そう思って首を数度横に振った。まさか、昔は貧困過ぎて満足に食べられなかったから気にしたことなんてない、体型問題を今この頃になって考えないといけないなんて思わなかった。お陰で知識は皆無だし……。
「どうしよ……、う……ふぇ……」
身体を拭くために脱いだ恰好のまま、考えこんだ所でテントの隙間から冷たい風が入り込んで鼻がムズムズしはじめた。浅い息を数度声に出して吸った後にムズムズは去って行ったので、よかった……と慌てて身体を拭いた。相変わらずの効果もりもり積んだ黒いワンピースを着てみる。不意に鏡を具現化して見てみると……確かに美少女で可愛いのだけど、黒黒黒の黒女と言われても仕方ないほどに黒一辺倒だった。
……ちょっとだけ見た目に気を遣って、いやでもこんな状況にそんな贅沢なこと考えちゃいけないか。
アダムスよりは襲ってくる危機感が少ないから、そんなくだらないことを考えてしまうんだ。そう考えて振り払おうとしても、アドラメルクママが買ってくれた衣服の事を思い出してしまう。着てみたい……と心の隅にそう思った所で本格的に自分の頬を殴って、考えを飛ばした。息抜きできる時じゃないんだ、そう自分に言い聞かせて。無心のままにせっせと、魔具は壊れてないか? 手入れは? と確認し始める。今は何かしないとまた思っちゃいそうだったから。
「王妃様がやってくれた魔具の手入れと私の手入れだと、綺麗さが結構違うな……やりかた教えて貰えばよかった。とりあえずふき……おわ……。ふぇ、ふぇ、へぇ、ふぇくしゅーん!!! ……あ、あー!!!唾がぁ……」
あのとき止ったくしゃみが、よりによって魔具の手入れが終わった頃に出てきた。右手は手入れの布と左は魔具と両手が塞がってた挙げ句に、突然ムズムズが襲ってきたものだから魔具にくしゃみを豪快にふっかけてしまった。先ほどの悩みは頭から吹っ飛び、速く拭かないと錆びの原因になる! っと情けなく鼻を垂らしながら急いで拭いたのだった。
その間にも……ちょっとだけ余裕が出来たらグラスに……。グラスに少しでも良いからちょっとばし着飾って見せるくらいの……当たり前に出来るはずだったことに付き合って貰えたらいいな、なんて考えてしまった。
(そういえば正式なデートしたのって、結局二回程度しかないな。今回の事が終わっても、すぐにそれどこじゃなくなるんだろうなぁ……。いやいや、ダメダメ考えるな。今はダイエットのことを考えないと!)
・
・
「もっと速くこうすればよかったのです。あと少しすれば筋肉と脂肪のバランスが取れた肉体となることでしょう」
「そうでっか……ご機嫌なようで、わてなによりですぅー。特に魔物狩りに付き合わされなければ、ええけどのぅ……」
「ふふ、ご協力感謝していますよ。スケイス様」
スケイス様の予知が今回は当たる回数が多かったお陰で、予測される聖騎士達との戦いになることはなく、そして効率よく食べれる魔物を狩る事が出来た。本当に感謝しても仕切れないほどに、スケイス様には恩がある。今回の食べ物集めも、守る人数が減った事によって大胆に行動をすることができたのだ。お陰で自分でも中々に機嫌が良いと言えるほどだ。もっと……速くこうすればよかったのです……カリスティアの肉付きが若干よくなって私は機嫌がいい。ええ、機嫌がいいです。
「まぁ、根元から引っこ抜けるどころか、風に煽られて背骨から折れそうで……わても見てて恐ろしゅう思ってはるからのう、協力したるよ」
「ありがとうございます。スケイス様」
自身の具現化で出したテントの中に籠もっているカリスティア、テントの入り口は閉め切られてはおらず。若干ちゃっく? というものが空いたままになっている。細かい所に彼女の面倒くさがりやと大雑把が垣間見えるが、そこがまた愛らしい。褒め方を極めようと思っているうちに、カリスティアのことを見て居ると、カリスティアの此処が自分が好きで、カリスティアのどこが心配なのかが客観視できるようになってしまい、最近は些か自身の心の変化にこそばゆく思ってしまい……褒めよう。褒めてみようと思っても、何故か今まで通りに声が出ないことが多くなってしまい……。前の手合わせの時も結局言えなかった。
彼女を抱き込み食べ物を与えている間にも何度も口にしようとしたけれど、言葉がでなくて結局のところいつもと変わらずに無言で、彼女が私の手で物を与え続けていた。今まではそれでいいと思って居たから気にならなかったが……。
【「ッん!? グ、ら」】
テントから目線を外してせっせと焼いている肉に目を移した瞬間に、自身の欲の枷が外れたあのときの光景がフラッシュバックして来た。右手を口元に当てて必死にあのときのカリスティアの顔を頭の中から振り払う。本当はこんな腑抜けた事を考えてもいい状況ではないのに……。スケイス様の視線を誤魔化すように慣れた無表情を貫くが、スケイス様に通用することはなかった。
「ええんやないけ、こんな時だからこそ精一杯思っときぃ。主はんもグラスはんも……本当はもっと平和に愛を育めるはずだったんや思って、多少外れたほうがええ。死んだら愛も糞もないんやからな」
その言葉にスケイス様の火に照らされた頭蓋骨が悲しげに見えた。その頭蓋骨は上に傾き焚き火の煙を追うように天を見上げた。
「わても好きな奴がおったんや、守れなかったがのう……。のう、グラス。後悔はしないように、言いたいことはちゃんと言うんやで……。墓すら残すことを許されん世の中やからな。おっさんのしがない約束やで? 後悔せんようにな」
「……はい」
それ以降会話はなかった。懐かしむように最後まで空に昇る煙を見るスケイス様を後にして、カリスティアの居るテントへと向かう。長い間こもったままなので疲れて寝ているのだろうか? そう思い外から一度声を掛けると、焦ったようにガチャガチャと音を立ててカリスティアがよろめいて出てきた。彼女の瞳が何かを覚悟したような強い眼差しなのに、瞬時に気づき気を引き締めてカリスティアを見る。数度、口をあわあわとさせながらも意を決したようにカリスティアは口を開いた。
「私グラスの為にダイエットする!」
「やめてください! 何のために太らせたとお思いですか!?」
半分叫ぶように言ってしまった。ものぐさで面倒くさがりで毎回毎回だれよりも量を少なく食べる貴方に、私も今は別行動のドロウ様も、何ヵ月掛けて体重を増やす合作を行っていたか……。そんな私の心をいざ知らずにカリスティアはあり得ないという顔をして口をぽかーんと開けた。
「え、太らせたかったの!? なんで!?」
「質問を質問で返さないで頂きたい。筋肉を作るにも成長の為にもせめて平均体重くらいにですね……」
私が小言を言い始めたことにカリスティアが被せるように叫んだ。カリスティアは自分の衣服をまくり上げて腹を出した後に横腹をつまんで見せた。
「これ平均体重超してるよ! お腹の肉を掴めるようになったんだよ!?」
「毎回抱き上げている私が言います。達していません」
女性としてあるまじき行動に自身のこめかみがヒクつくように感じ、カリスティアの腕を掴んで強引にまくり上げた衣服を下へと戻した。
「私自身の身体は私がわかる。達してる」
「達してません」
「達してる」
「達してません」
「達してる」
「…………」
「…………」
お互いの頬を無言で掴み引っ張り合う不毛な私達の戦いが始まってしまった。後ろでスケイス様が「ほんまに見てて飽きないやっちゃのう」っと呆れたように笑われようと私とカリスティアは不毛な戦いを月がてっぺんに登るまで続けた。
「ただいま……」
「おかえり、なんか痩せたのかしらドロウ君?」
「おかえり。なんかげっそりしてるね」
ドロウ君がゲッソリとした顔をして、グラスが肩を貸そうと手を出すけれど、ドロウ君は何も言わずに死んだ目で首を横に振った。げっそりとした割にはしっかりとした足取りで地べたに座ると、ヤケに痩せた袋をに手をつっこんだ。それで取り出された物にスケイスの方が頭に手を当てて呆れのため息と共に言葉を発した。
「一応旅行者向けに整備されとる町やったはずなんやが……」
「黒麦のパンとぼったくり飲料聖水の二つだけだった。情報は全ての苦悩をとか、正直気味が悪くて逃げ帰ってきたんだ」
しかも、購入制限が掛かってて一人一個と一本しか買えなかったと、自身の頭の後ろをガシガシと掻きむしりながら、また項垂れた。「ドロウ様髪が燃えています」「あちゃちゃ!!!」頭を垂れすぎて頭の毛が火に入ってしまったドロウ君は、ハゲる!っと慌てて頭をはらったお陰で先っちょだけ燃えただけにとどまった。ドロウ君は落ち着いた頃に町の様子を語ってくれた。
「こんにちは、すみません聞きたいことが」
「神のお心のままに祈り歩くことで目的の地へとたどり着くでしょう」
「え、ちょ、まっ」
日本語なのに日本語じゃないに通ずる話の通じなさに、四苦八苦した末になんとか食料を買い取れる場所にたどり着いたんだけど、売っているのは黒パンとぼったくり飲料聖水だけ、しかも人数分だけ。旅行者もいないし話しも通じないしなんてところで、八方ふさがりの状態のままにそのまま帰ってきたそうだ。何というかこの世界は話しが通じない奴が多いこと多いこと……なんて気取ってみるけれど、前の世界も一緒かと相づちをうちながら思った。
「4条聖伐命令か、よわったのー。」
「それは一体なんでしょうか?」
ンガーっと言いたげにカコカコ骨を鳴らして思考にふけるスケイスに、すかさずグラスが質問をした。スケイスはおっとそうだったと左手で顎骨を数回かいた。私は支度をしてくれている王妃様を「大事な話するよー!」と呼んだ。王妃様が作業を中断してこちらに来たのを見たスケイスは、全員いることは確認してから話してくれた。
「主に国を揺るがす罪人をあぶり出すときに、全国民に通達させられる国家命令の一つや。外部からのよそ者を発見した場合はすぐに教会に報告すること、よそ者には神を祈り称える内容以外を話すことは禁ずる、の二つが大まかな命令内容や。多分わてらのことやけど、神なのに罪人扱いなんちゅー……いよいよ訳のわからん状態になってもうたの。はよ此処立ち去らんと新しいパラディン共がくるで……そこでなんやがの」
二手に分かれることになりました。このトラブルに王妃を巻き込むのはやっぱり不味いので、ママ、王妃様、ドロウ君の三人は王妃様を仕方がないから精霊国すっとばして、直接リチェルリットへ、私、グラス、スケイスの三人は中央へと二手に分かれることとなった。ドロウ君が作ってくれた丸焼きはそちらに全部持ってって貰うこととなった。私達の方は最悪個人で魔物を狩れるという理由で。そんな中で人数が減って些か寂しいと思われた道中なのだが。
「カリスティア、栄養が足りません」
「だって食べるのが面倒くさい」
「主はん、一応身体は14歳なんやから食べなあかんて」
「だってめんどくさーい」
「そんなに面倒なのでしたら、歩かなくともいいです。食べようとしなくともいいです……その代わり」
私はグラスに人形のように持たれた挙げ句の果てに、口に無理矢理焼いた魔物の肉を詰め込まれると言う謎の状態になりました。その代わり無理矢理口の中に入れると言うことらしい。見上げるとご満悦顔のグラスとすぐ横には、ぷっぷと笑うスケイスと、仏頂面で飲み込んだ傍から肉を詰め込まれる私の珍道中が始まった。詰め込まれる前にストックに入れて抵抗したけれど、それをすると夜に倍の肉と食べれる野草の量が増えたので結局大人しく食べるはめに……。グラスが空間魔法使えるのは知ってたけど、わたしのストックみたいな似たような収納魔法で焼いた肉出るわ出るわ……。
ぷに……。ぷにゅ……。
暇があれば魔物を狩ってストックしたお陰で、ある意味一日中肉を食うこととなった私は……夜にテントの中で身体を拭こうと服を脱いだ所で、気になって腹の肉をつまんで見た。ふと……てる? 介護に打ちのめされて食べる気力が回復しないまま今の今まで居る私がふと……てる?
「そういえば顔も……。4日程度でこんな太るの!?」
顔もぷにぷにする気がして、私の顔から血の気が引いた。今鏡を見たら水死体のように真っ白だろう。骨が細いのにつまめるほど太るのは深刻なのでは? なんて考えて頭の中では太ったらグラスに、抱っこして貰えないのでは?そう考え初めて、私は一体何を考えているの! そう思って首を数度横に振った。まさか、昔は貧困過ぎて満足に食べられなかったから気にしたことなんてない、体型問題を今この頃になって考えないといけないなんて思わなかった。お陰で知識は皆無だし……。
「どうしよ……、う……ふぇ……」
身体を拭くために脱いだ恰好のまま、考えこんだ所でテントの隙間から冷たい風が入り込んで鼻がムズムズしはじめた。浅い息を数度声に出して吸った後にムズムズは去って行ったので、よかった……と慌てて身体を拭いた。相変わらずの効果もりもり積んだ黒いワンピースを着てみる。不意に鏡を具現化して見てみると……確かに美少女で可愛いのだけど、黒黒黒の黒女と言われても仕方ないほどに黒一辺倒だった。
……ちょっとだけ見た目に気を遣って、いやでもこんな状況にそんな贅沢なこと考えちゃいけないか。
アダムスよりは襲ってくる危機感が少ないから、そんなくだらないことを考えてしまうんだ。そう考えて振り払おうとしても、アドラメルクママが買ってくれた衣服の事を思い出してしまう。着てみたい……と心の隅にそう思った所で本格的に自分の頬を殴って、考えを飛ばした。息抜きできる時じゃないんだ、そう自分に言い聞かせて。無心のままにせっせと、魔具は壊れてないか? 手入れは? と確認し始める。今は何かしないとまた思っちゃいそうだったから。
「王妃様がやってくれた魔具の手入れと私の手入れだと、綺麗さが結構違うな……やりかた教えて貰えばよかった。とりあえずふき……おわ……。ふぇ、ふぇ、へぇ、ふぇくしゅーん!!! ……あ、あー!!!唾がぁ……」
あのとき止ったくしゃみが、よりによって魔具の手入れが終わった頃に出てきた。右手は手入れの布と左は魔具と両手が塞がってた挙げ句に、突然ムズムズが襲ってきたものだから魔具にくしゃみを豪快にふっかけてしまった。先ほどの悩みは頭から吹っ飛び、速く拭かないと錆びの原因になる! っと情けなく鼻を垂らしながら急いで拭いたのだった。
その間にも……ちょっとだけ余裕が出来たらグラスに……。グラスに少しでも良いからちょっとばし着飾って見せるくらいの……当たり前に出来るはずだったことに付き合って貰えたらいいな、なんて考えてしまった。
(そういえば正式なデートしたのって、結局二回程度しかないな。今回の事が終わっても、すぐにそれどこじゃなくなるんだろうなぁ……。いやいや、ダメダメ考えるな。今はダイエットのことを考えないと!)
・
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「もっと速くこうすればよかったのです。あと少しすれば筋肉と脂肪のバランスが取れた肉体となることでしょう」
「そうでっか……ご機嫌なようで、わてなによりですぅー。特に魔物狩りに付き合わされなければ、ええけどのぅ……」
「ふふ、ご協力感謝していますよ。スケイス様」
スケイス様の予知が今回は当たる回数が多かったお陰で、予測される聖騎士達との戦いになることはなく、そして効率よく食べれる魔物を狩る事が出来た。本当に感謝しても仕切れないほどに、スケイス様には恩がある。今回の食べ物集めも、守る人数が減った事によって大胆に行動をすることができたのだ。お陰で自分でも中々に機嫌が良いと言えるほどだ。もっと……速くこうすればよかったのです……カリスティアの肉付きが若干よくなって私は機嫌がいい。ええ、機嫌がいいです。
「まぁ、根元から引っこ抜けるどころか、風に煽られて背骨から折れそうで……わても見てて恐ろしゅう思ってはるからのう、協力したるよ」
「ありがとうございます。スケイス様」
自身の具現化で出したテントの中に籠もっているカリスティア、テントの入り口は閉め切られてはおらず。若干ちゃっく? というものが空いたままになっている。細かい所に彼女の面倒くさがりやと大雑把が垣間見えるが、そこがまた愛らしい。褒め方を極めようと思っているうちに、カリスティアのことを見て居ると、カリスティアの此処が自分が好きで、カリスティアのどこが心配なのかが客観視できるようになってしまい、最近は些か自身の心の変化にこそばゆく思ってしまい……褒めよう。褒めてみようと思っても、何故か今まで通りに声が出ないことが多くなってしまい……。前の手合わせの時も結局言えなかった。
彼女を抱き込み食べ物を与えている間にも何度も口にしようとしたけれど、言葉がでなくて結局のところいつもと変わらずに無言で、彼女が私の手で物を与え続けていた。今まではそれでいいと思って居たから気にならなかったが……。
【「ッん!? グ、ら」】
テントから目線を外してせっせと焼いている肉に目を移した瞬間に、自身の欲の枷が外れたあのときの光景がフラッシュバックして来た。右手を口元に当てて必死にあのときのカリスティアの顔を頭の中から振り払う。本当はこんな腑抜けた事を考えてもいい状況ではないのに……。スケイス様の視線を誤魔化すように慣れた無表情を貫くが、スケイス様に通用することはなかった。
「ええんやないけ、こんな時だからこそ精一杯思っときぃ。主はんもグラスはんも……本当はもっと平和に愛を育めるはずだったんや思って、多少外れたほうがええ。死んだら愛も糞もないんやからな」
その言葉にスケイス様の火に照らされた頭蓋骨が悲しげに見えた。その頭蓋骨は上に傾き焚き火の煙を追うように天を見上げた。
「わても好きな奴がおったんや、守れなかったがのう……。のう、グラス。後悔はしないように、言いたいことはちゃんと言うんやで……。墓すら残すことを許されん世の中やからな。おっさんのしがない約束やで? 後悔せんようにな」
「……はい」
それ以降会話はなかった。懐かしむように最後まで空に昇る煙を見るスケイス様を後にして、カリスティアの居るテントへと向かう。長い間こもったままなので疲れて寝ているのだろうか? そう思い外から一度声を掛けると、焦ったようにガチャガチャと音を立ててカリスティアがよろめいて出てきた。彼女の瞳が何かを覚悟したような強い眼差しなのに、瞬時に気づき気を引き締めてカリスティアを見る。数度、口をあわあわとさせながらも意を決したようにカリスティアは口を開いた。
「私グラスの為にダイエットする!」
「やめてください! 何のために太らせたとお思いですか!?」
半分叫ぶように言ってしまった。ものぐさで面倒くさがりで毎回毎回だれよりも量を少なく食べる貴方に、私も今は別行動のドロウ様も、何ヵ月掛けて体重を増やす合作を行っていたか……。そんな私の心をいざ知らずにカリスティアはあり得ないという顔をして口をぽかーんと開けた。
「え、太らせたかったの!? なんで!?」
「質問を質問で返さないで頂きたい。筋肉を作るにも成長の為にもせめて平均体重くらいにですね……」
私が小言を言い始めたことにカリスティアが被せるように叫んだ。カリスティアは自分の衣服をまくり上げて腹を出した後に横腹をつまんで見せた。
「これ平均体重超してるよ! お腹の肉を掴めるようになったんだよ!?」
「毎回抱き上げている私が言います。達していません」
女性としてあるまじき行動に自身のこめかみがヒクつくように感じ、カリスティアの腕を掴んで強引にまくり上げた衣服を下へと戻した。
「私自身の身体は私がわかる。達してる」
「達してません」
「達してる」
「達してません」
「達してる」
「…………」
「…………」
お互いの頬を無言で掴み引っ張り合う不毛な私達の戦いが始まってしまった。後ろでスケイス様が「ほんまに見てて飽きないやっちゃのう」っと呆れたように笑われようと私とカリスティアは不毛な戦いを月がてっぺんに登るまで続けた。
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