転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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最終戦争【5】

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 ゴブリンの爪と牙の空洞に、種火草の茎を砕いて乾燥させた可燃性の高い火薬を詰めて作った足止め目的の爆竹や、具現化で複製したモルゲンスペシャル数本と高品質ポーション。がむしゃらにストックに入れていた資材を存分に使って色々作って苦しむ人に分け与えた。

 パキ

「カリスティア、そろそろ壊れます」

「おっけー。じゃあこの物資をどうぞ怪我人に! それじゃ」

「ありがとうございます!」

 城の扉が閉まる。慌てて大量の高品質ポーションを入れた最後のカゴを、治癒部隊の人に渡してグラスの方へと走った。まるで蜘蛛の巣が天空に張り巡らされたように障壁に亀裂が走る。パキパキとたき火の木が爆ぜる音に似た音で結界の亀裂は全体に巡り。

パキン

 あっけのない軽い音を立てて壊れた。壊れた瞬間に身体にゾッとするような重い感覚が肩に乗る。エピクに対峙したような感覚に似ていて……その圧の中に知っている人の魔力が感じられた。ママ、リアン、モルゲン、アルマ、四人の魔力が結界が割れた瞬間にリチェルリット王都を駆け巡る。

 皆が皆本気で戦っている。綺麗だった町並みは瓦礫の海に、地にが矢が生える。これ以上被害を広げないが為に……。また最初の時のように上から降ってくる天使達を見据えて、水明の剣を構える。周りの兵士や冒険者は言わずともそれぞれが武器を構え、生きる為に守る為に立っている。

「カリスティア、来ます」

「はーい」

 言葉はなくとも自然に互いの背中を守り支えるように動く。最初に構えるのは遠距離攻撃……空を飛べることは脅威だがその分天使の羽は脆い。最初の手筈は初級魔法で相手を引きつけてから、後方に守られている大規模魔法の詠唱を行っているものになぎ払って貰う。こんなゴチャゴチャの状態でも、そんな作戦と指揮を取れる所はほんと凄い。

【ウォータースプラッシュ】

【アイスアローレイン】

 私の水魔法を利用した低コストアイスアローレインが、グラスの驚異的魔力操作術によりほぼ全部天使の羽へと当たってバッサバッサと墜落してくる。その墜落した天使の……首を切った。覚悟はしてても少し手が震える。それでも攻撃は止ってくれるわけではない。同じ段取りで天使達を撃墜しては首を跳ねることを繰り返した。

 どうしても手が震える。どうしても覚悟が揺るぎそうになる。受肉してない天使も、首を切った位じゃ死なないけど……。私が切ったなかにもしかしたら受肉済みが居て、殺してしまっているかも知れない、けど戦争というものはそういう物。情けを掛ければどんな手痛い一撃を貰うかわからない……。死ぬ恐怖も罪悪感もあるけど手を止めるわけにはいかなかった。

【乙女の一房の髪を揺らす 乙女の一房の髪を撫でる 乙女の一房の髪を犯すものを射る ウィンドアロー】

【二重詠唱チェイン 燻らせる煙を散らす 香りを散らす 病魔を散らす 散らし拡散した残骸は全てを射る透明の刃となる ウィンドアローレイン!】

 杖を持つ二人の女魔術師が、何体かの天使を撃墜するウィンドアローレインを放った。

 主にグラスが無詠唱でポンポンやってるけど。レイン系の広範囲型魔法は難しいしMPの消費量の桁違い。だから二人一つに詠唱を分けたり、先に放たれた魔法を利用する形で詠唱を後付けして消費を抑えて使うなどしてる。先ほどの女の人二人がやってくれた二重詠唱チェインがそう。 

「っち、切りがねぇ。大規模魔法はまだか!」

「まだです! 攻撃が激し過ぎて魔力が安定しませ~ん!!!」

 物量ではどうしても相手に軍配が上がる。奇襲された側には備えなんて最低限しかないのだから……段々と余裕がなくなる。無くなれば争いは起きる。

「何だと、これだけ時間稼いでやって」

「おい、今はそんなこと言ってる場合じゃ」

「うるせぇ!!!」

 主に落ちた天使の雑魚散らししていた中年くらいの冒険者が、詠唱管理をしている兵士の女の子に食ってかかった。それを仲間なのか他人なのか若い人が止めたが、男は逆上して内輪揉めを始めた……この忙しいときに。イライラは伝染する。男が役目を放棄して騒げば騒ぐほどに作業は遅れ、魔法の精密さは失われていく。

 口も腕も魔力も動かしながらどうするかと考える。どうしよう、どうしようとこの悪循環を断つ為に考える。考えている間にいつの間にか後ろに居たグラスが耳元で囁いた。「私が指揮を執ります。カリスティアはそのまま剣で落ちた天使の処理を」それだけ言ってグラスは私の後ろを離れ。詠唱管理をしている兵士の女の子の所へ向かった。その頃には男は血がのぼせ上がり、内輪揉めの末殴り合いになっていた。

「静まりなさい!!!」

 良く通る鋭い声で内輪揉めを始める男を一喝したグラスは、その男達を素手で瞬時に制圧した。怒鳴った元凶の男は片手で投げ飛ばされ、頭に血が上ってしまった若い男はグラスに精一杯振り上げた拳を反対の手で軽く受け止められた。急に現れたグラスに場は困惑の雰囲気に変わった。先ほどのイライラとした空気よりは全然良い。グラスは、何かを兵士の女の子に話すと女の子は顎が外れそうなほど驚いて叫んだ。

「精霊国の氷のエレメントドラゴンを討伐した……あの氷帝グラス様!!! どどど、どうぞ指揮を執りください。いや是非ともお願いします!!!」

(私が寝ている間にそんなこと成し遂げてたんかい……)

 震える子羊のような声で指揮権をあっさり譲った兵士……いいのかよっとツッコミたくなったけど。それが可能なのがやっぱりリチェルリット。グラスが女の子の言葉に軽く頷いたあとに全員に聞こえる声で指示を飛ばした。本当にあの兄じゃなくてグラスが国王やった方が良いんじゃ……と思いたくなるほどに的確かつ、効率の良い指示だった。あれほどじり貧だった戦況が一気に持ち直した。

「まだ、引きつけて、まだ、まだ……。今です! 大規模魔法開始!!!」

「「「「大規模魔法 ポッシオン・アスター・ファイアアウト」」」」

 氷帝のネームバリューによる安心感で、戦況は立て直ししただけに飽き足らずに。無理のある大規模魔法の発動までこぎ着けた。やっぱり……グラスが国王やったほうが絶対にいい。冒険者に埋めていい才能じゃないと空と天使を焼き尽くす火の爆風を見て思った。

 指揮もやり、補助もやり、撃墜もやる。超人すぎて苦笑いしかできなかった。

「ほんと、周りが超人すぎて私の普通の人間っぷりが確認できて安心するわ」

 私がほっと胸をなで下ろしていると後ろから突然グラスの声が聞こえた。

「カリスティアが普通の人間でしたら、私を含め大半が普通の人間のくくりに入るかと」

「うわ、ビックリした。転移で後ろ来るの心臓に悪いからやめてよ」

 剣を持ったまま私の身体は盛大に跳ねて、ひねりあげるように無理矢理グラスの方へ向いた。クスリと笑ってから真剣な顔に戻ったグラスがそこに居て、自身の頬がむすっと膨れる。

「カリスティアの反応が面白いのでつい……。それはいいとして、この場は此処まで……一度戻りますよ。少し気になることができました」

「ん、わかった」

 私の手を掴みグラスは城の中へと転移する。そして転移した所は城の中でも見覚えがないところだった。グラスは私の手を繋ぎ直して歩き出した。段々と石壁が目立つ無骨な所へと進んでゆくグラス。そんなグラスが歩きながら理由を話してくれた。

「今回の奇襲戦争……。戦争にしては周りに被害がなさ過ぎます。本来奇襲による戦争は戦力を分断することを目的として、王都から離れた国境町を狙い……手薄になった所を本命の部隊で叩くのが定石です。けれど、今回どれだけ情報を得ても国境の被害が一つもないのです。他の村や町も……。

 今回はセシル様が休暇ということで抜けていたとはいえ、王都を態々リスクを冒して突撃するのは得策ではありません。実際に奇襲を許してしまったとはいえ、持ち前の臨機応変に対応できる軍事力で少しずつですが持ち直しています。自国にも被害がでる戦争を此処までして仕掛ける理由……。

 もしかしたらディザ様を欲しているのかも知れません。世界を恐慌させた悪魔を匿うリチェルリットを打ち倒し平和を獲得した天使族……。周辺国はともかく、遠くの小国でその噂が流れれば真偽の把握は難しい。それ流して自身達の信用と存在を回復させる魂胆かもしれません。

 宗教国家ヘレ・ケッテ・カルゲンの離反と崩壊、強化剤の記憶消去の副産物での存在感欠如、それに加えあれだけ馬鹿にしていたリチェルリットに保護されるとなれば、元の神聖な地位とやらに戻るのは、それこそ何百年かかることか……」

「属国になるくらいならば、死ぬ気で賭けたってことね。はた迷惑な……」

 天使族は知らんが死ぬ種族は死ぬのだから、自分の種族基準で戦争を仕掛けないで頂きたい。呆れたため息をつくと、グラスも釣られるように軽くため息をついた。

「一度、ディザ様の警備の様子を見ます。何事もなければ良いのですが」

 私もそう思う……けど、凄く嫌な予感がする。私はこの喉元からでそうな嫌な予感を持て余しながら、グラスの言葉の通り……何事もなければと祈って、手の引かれるがままにディザが収容されている所へ私達は向かった。

 




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