転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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最終戦争【10】

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 老いて白い髪の男が剣を持ってリチェルリットの敷地へと、魔物と人間の混在した軍隊を引き入れた。男は高らかに兵へと命令を下した。

「我が名は愚かなペルマネンテ国王オーディスである。みな、困窮している中でよく集まった……よく俺の我が儘を受け入れてくれた。我が恩人である少女を助け出す為に……魔物も人間も、俺に力を貸してくれ!!!」

 
 少年とも少女とも男性とも女性とも取れる色香を燻らせる魔王が、無数の悪魔を引き連れて吠える。

「あね様の愛し子とあね様の居るリチェルリットが襲われている! さぁ、立ち上がれ同士達よ! 天使達にこれ以上勝手な顔をさせてはならない! 長年にわたる同盟国であるリチェルリットを救うのだ!!!  

……あと、あね様とあね様の愛し子二人に害するやつは、みんな死ねば良いんだ……あと、リチェルリットに沢山いるいろんな種族のハーフの女の子とか献上してもらえないかな……。クオーターでもいいな」




 恩は巡り回り帰ってくる。






 「報告ご苦労様です。アダムスの件はわかりました……これで契約満了となります。給料も潤沢にお渡ししましたし……もう暇を好きになさっても宜しいですよ」

「あぁ……。世話になったな」

 転移の指輪でアダムスの外へ放り出された俺は、契約の通りにアダムスへの情報をセシルに持ち帰り……そして契約満了晴れて金を得て自由になった。俺への関心が無くなったようにすでに書類に目を移しているセシルに何にも思わずに頭を下げて、俺はその場を後にした。

「ぶもっふぶもっふ」

「フォレストハウンド、すまんが乗せてくれんか?」

「ぶも、わぉぉぉん!」

 仲の良い魔物達の背に乗り……自分で稼いだ金をもって自由気ままに俺は走っていた。走っているつもりだった……。

「……もう一度か」

 何を思ったのか俺はすっかり力が無くなったペルマネンテ城下に足を踏み入れた。城下の外に魔物を待機させ、俺は城へと足を進めた。

「なんだ貴様は! ここがどこと心得る」

「コレを見ろ」

 門番に引き留められた。流石にこの恰好では元国王本人とはいえ……わからぬだろう。ペルマネンテ王家の者だけが持つブローチを門番に見せると、見る見る顔を真っ青にして頭を下げた。

「申し訳ございませんでした」

「よい」

「へぇ?」

「よいから、現国王への面会を入れてくないか?」

「っは! ただいま!」

 力の無い王とはいえ、そこまで顔を真っ青にして恐ろしいと思われるほど……前の自分は愚かだったのか。ここに来てやっと身に染みる。前の自分ならば絶対に怒鳴り散らして首を跳ねろと吠えることが、容易に想像できる所が余計にだ。

 取り急ぎ俺は本人確認をされ、身を清められ衣服はペルマネンテ王家にとって最低限の身なりに整えられ。現国王である赤色の髪をこさえた息子の元へと立った。息子は、少し前の俺に似たギラギラと人を蔑むような目つきで……口角を上げて笑っていた。あれだけ自慢だった自身の玉座が……眩しくて疎ましい。息子は俺を見るなり顔を輝かして、俺をその目に認めた。

「父上! 息災で……。生きていて嬉しさのあまり……感激いたしました」

「あぁ」

 それから、国王の補佐と言い訳をして税金の改正や、性格の強制を何度も試みた。そのたびに息子達は疎ましそうに顔を歪め……いつしか俺の言い分を聞かぬようになった。その他の貴族達も下賤に毒されたお可哀想な元国王というレッテルを貼り……いつしか俺の言い分など聞かぬようになった。ならばと……俺は騎士団へと赴いた。

「俺は泥を舐め、貧困を吸い、地を這ってきた。許せとは言わない……認めろとも言わない……ただ、ただ俺に償いをさせてくれ。頼む!」

「……顔をお上げになってください」

 俺は昔何度も俺を強制しようとたて付いた騎士団団長の下へと赴いて……頭を下げた。職務中に邪魔にならぬ夜までしっかりと待っての謝罪。息を絞り出すように顔を上げるように言われたので、顔を上げると……俺よりも数段老いた団長が目に玉のような涙を蓄えてこちらを見ていた。

「やっと、やっとご理解いただけましたね」

 その声は震えていた。俺の記憶の中にある団長はいつも凜々しく俺を叱り飛ばしていたのに、今この時だけは人間味を感じさせるほどに……震えていた。

「あぁ、済まなかった。いや、謝罪だけでは同じだな……これから少しずつ俺が変えて見せる。だから……もう少しだけお前に迷惑を掛けていいか?」

「ええ、此処まで来ましたらこの短い命を……貴方の為に使いましょう」

 幼馴染みと言ったらいいのか、団長は俺に何度も何度も忠告をしてくれた。昔の俺はそれをはね除け聞く耳を持たずに居た。そんな俺でも……こんなに涙を貯めて思ってくれる者が居ることに……感謝を、信じるふりを続けていた神に今一度感謝をした。そして……小娘と今更愛しくなった息子へも感謝をした。

「巫山戯んな! ここから出せ!」

「すまなかった」

「そんなこと今更言われても……あんたの言うことなんて信じるわけないじゃない!」

「すまなかった」

「見ろよ、俺のよこの、この死体……最後まででられるって……信じてぇ、えぅっ……ぐすっ」

「すまなかった」

 俺は地下牢に収容した数多の民に謝った。すでに手遅れなもの……すぐに出さねば今すぐに死んでしまう者……俺を憎むもの……。様々な者に頭を下げて只管謝った。出せる者は俺と団長の権限で出して……俺と息子の愚かさで殺してしまったものは……責任持って骨を何日も掛けて拾い上げ、遺族へと自身の足で届けた。

「ふざけないで、わぁぁぁぁ!!!」

「すまなかった」

「……死んじまえ」

「すまなかった」

 下賤に毒された国王の話はいつしか民の元へと下がった。俺が元国王だと知ると石を投げる者も罵声をあげる者も……みな受け止め謝罪をし続けた。どれだけ罵声を浴びせられても支援をし続けた……魔物から食料を分けて貰い貧困にあえぐ民達の為に料理を振る舞った。段々と……その罵声は止んできた。

「そんなことをすれば本当に国は滅ぶぞ! 今すぐ辞めろ」

「……ッチ。父上だと思って多少は多めにみてやればピーピーと五月蠅いものだ。もういい、捕らえろ。公開処刑に処す!」

 税金をさらに10%掛けるという無茶な政策を耳にした俺は、息子の元へと殴り込んだ。ただでさえもう貧困は戻らぬものとなってこの仕打ち……国が滅ぶだけで済むならば良い。けれど民達の行き場がなくなってしまう……それをわからぬのかと散々叱り倒した……。そして俺は処刑されることとなった。民の前で。


 広間の中心に、見せつける為だけに作られたギロチンが置かれた。素足のままにペタペタと鎖で繋がれた腕を強引に引っ張られる形で前に出た。不思議と怒りはない……ただあるのは後悔のみ。このまま、償いも済まぬままに終わるのかという後悔のみ。民達の前に突き出され、もう白髪となってしまった髪を切りやすいように目の前で散髪され。俺はギロチンに首をセットされた。民達は言いようもない顔で俺を見つめている。

 俺に償いをさせてくれた、団長は痛ましい顔で俺を見て……処刑の合図をする我が息子の護衛を果たしている。いつでも息子のかけ声一つで首が飛ぶ。結局できる償いなど、たかが知れたままで終わってしまう不甲斐なさを……俺は噛みしめた。

 俺を殺すことによって民達の恐怖を煽り統治させやすくする。その礎に俺はなってしまう事が悔しい。

「……セット終わりました」

「辛い役目をさせてしまってすまない」

「ッッッ……」

 若い騎士に罪人の処刑の支度などしたくないだろう。俺は謝罪をした……心優しいそばかすが印象的な兵士に。俺の謝罪で目が涙に霞んでいる。このまま心優しいまま擦れずに居てくれと祈りを捧げ……俺は処刑の時間を迎えた。

「始めろ」

「ッハ!」

 息子の凛とした声と共に……ギロチンの刃を固定していたロープが切られる。剣が振るえたせいか、うまく切れずに数秒立って刃が降りる音がした。




 す ま な か っ た。




 死ぬ瞬間まで、俺はそう言った。








「すまないとおっしゃるならば……生きてください! 国王様!!!」

 キンッ! という音と共に俺の首を固定していた器具が、あのそばかすの兵士に外された。ゆるゆるとギロチンの刃を止める剣の元を辿るように見ると……。さっきまでは息子の隣に控えていた団長が居た。団長は俺が離れるのを目で見て確認して剣をギロチンから離した。ドスンと重い音とともに地にめり込むギロチンの刃……。団長は俺を立たせた。

「聞け民達よ! オーディス国王陛下はこのペルマネンテ建国の歴史……初代ペルマネンテ建国冒険譚のように冒険者となって世界を見て回った。そして、民としり、貧困をしり、人をしり、自然を知った。初代国王のように! 確かに国王様は道をお外しになられた……けれど、みなも見たであろう! 帰ってきたオーディス様を! 今一度オーディス様を信じて……民達よ立ち上がれ!!! 我らが国王は……オーディス・ペルマネンテ国王陛下である!!!」



おおぉぉぉぉぉ!!!


 そして、今一度民に信じられた俺は……リチェルリットを正式な同盟国として兵を率いて此処に居る。兵を踏み入れて見ればすでに日の光から現れた天使が……リチェルリットに降り注いでいる真っ最中だった

 剣を掲げる……俺が振り下ろせば大切な自国民を戦場へと送り込んでしまうその責任を剣に宿して。


「ペルマネンテ王国騎士団……進め!」


 振り降ろした。
 




「デブ王がなんかヤケに凜々しい顔で指揮とってるけど……どうする?」

「私にはもう関係ありません。行きますよ」

 強力な助っ人として来たペルマネンテと悪魔族の国……どっちも何故かトップが雁首そろえてやってきてることに不安を覚えながらも、助かることは助かる。人海戦術と奇襲戦争が得意なペルマネンテは、魔物と人間の混合部隊によって人間の脆さをカバーした部隊。悪魔族の国は個人主義だから、行くか行かないかは気分で決まる……なので数は少ないけど、強いお陰でそれが気にならない。

 現在の戦況は昨日と同じ位置に幹部が居て、一つ違うのがボロボロのろくでなーしズのラブマルージュとディザの二人で神聖属性封じの大規模結界を張る為に、城のてっぺんあたりで詠唱してること。あとは大した違いはない。

 いや……一つある。

「この魔力【サイレス】だよね?」

 天使の退けながら、未だ天候の悪い雲の中の魔力を読みグラスに向けてそう言った。

「……。最初の頃のように大規模魔法で一帯を攻撃するつもりでしょう」

「今更かい……」

「体裁や客観を気にする故の腰の重たさでしょう」

 最初の乱戦状態の時に大規模魔法の詠唱されれば、もっと天使族にとって有利にことが運んだはずだ。ディザとラブちゃんのことや……最終審判のラッパとかあれだけいつでも詠唱できる好きがリチェルリットにはあった。なのにそれをしなかった。今更しても妨害は容易い。

「杖のスキルを使います。カリスティアは落ちてくる雲の処理をしてください」

「はーい」

 杖のスキルという単語に反応をして自身の周りの天使とグラスの周りの天使を切り捨てる。周りの兵士や冒険者達もグラスの周りに纏う魔力に反応して、私と同じようにグラスを庇うように陣形と戦い方を変化させた。天使達もグラスの魔力を見て一斉にこちらを攻撃してくるけれど……今は私一人じゃないから、傷もなく飛んでくる矢をたたき折った。

【過ぎの貴方に反逆の垂氷により歩みを止めよう さして時は止る さして空間は凍結する

氷核を持て 集え これぞ全てを氷塊に塵と化す力なり

臓を 血を 命を 全てを止めて知れ アンファング・ザミェルザーチ】

 今回はこの曇天をどうにかする為だけなので、略式詠唱でのアンファン……うんちゃらざーち。音もなく凍った雲がゆっくりとリチェルリットへ落下してくる。私はそれを風魔法の【フライ】で高く速く飛び上がった。水明の剣を構え、大きく声が漏れるほどの深呼吸を二回して……落ちてくる雲を睨んだ。

「詠唱は恥ずかしいけど……この際だ!【西方の語法 岩はね水魚改め一色の青藍を写す水瓶 澄み渡る空を写す水剣執り 今 写し境界を別つ 水天一碧】もう……恥ずかしくて死ぬぅぅぅぅ!!!」

 空を写す水の続きを両断する魔法と剣術の混合……魔法剣術の一つである水天一碧。強力なんだけど詠唱が恥ずかして今まで習っても使ってこなかった。実はぶっちゃけ本番の一撃を水明の剣に纏わせて横薙ぎに雲を両断してみると……遙か向こうまで斬撃が行っていて、ぱっくりとリチェルリット王都だけを避けて切られた雲が落ちていった。

 やった……と思いちょっと嬉しくなる心を抑えて雲が無くなった空を見ると……太陽を背にした羽が何枚もある天使達が数人こちらを見ていた。雲がなくなることによって余計鮮明にはっきりとわかる【サイレス】の気配。魔法を隠す魔法が感知できるくらいに強くなったことに感激しながら、今は私が出来ることはここまで一旦戻ろうと離脱を試みると一人の天使が私の進路に割り込んで来た。

「……サリエル様。俺が相手をします」

「ふむ、よい。行け」

 離脱を阻まれた私の元に降りてきたのは……これまた別の筋肉マッチョで力ありそうな天使。また、私とは相性の悪いタイプの人が来たよこれ。しかも、サリエルとか言うこれまた太陽で目が痛いパツキンの天使と、他のラッパ吹いてた奴ら全員なんかしらの大規模魔法の詠唱してるし。

「能天使の称号を賜るパワーと申します。貴殿の名はなんと申す」

「普通の一般人カリスティアです」

 如何にもパワフルな名前の天使さんが頭をさげて自己紹介をしたのちに……凄く重量がありそうなハルバードを構えて来た。私も自己紹介をそこそこに剣を構えた。

 さて、どうするか

 なんて思った所で逃がしちゃくれないようだし……。それに、個人での柔軟な発想ができるリチェルリットだ。すぐにこの大規模魔法の詠唱を妨害するように動いているはずだ。時間稼ぎに初手からパワーに突っ込む、地上では避けにくい聞き手横薙ぎ一閃になぎ払う。翼の動きを停止して落ちる形で避けられた。

(地上と空中じゃやっぱ戦い方が違うな)

 今の一閃で思ったよりも部が悪いことを認識して、逃げられるように退路を確認したけれど、別の護衛天使が私を囲うように包囲してきて……とても逃げられる雰囲気ではなかった。ため息をついて再度打ち込んだ。やっぱりガタイの通りに、私の力ではとても動かなかった。何度かハルバードの持ち手を狙うように攻撃をしかけるけど。


「うらぁ!!!」

「あっぶな、胴体切れたらどうするのさ!」

 私の苦手な一撃が重たいタイプの天使で、あのオレオレ詐欺みたいな名前の人と違って確実に受け止めようとしたら両腕が砕ける……これは間違いない。幸いに力を込めて振るときの軌道が読みやすいお陰で当たることなく避けられるけれど、反撃できるほど相手は遅くない。

 このまま剣での応対だと戦況が進まないことを察した私は……パワーに向かってとあるものを投げた。

「【具現化ファイア】」

 ゴブリンの爪と牙で作った爆竹をパワーの周りに拡散するように投げて、具現化で火を付けて爆発させた。誘爆して小さな爆発が重なり合って大きな爆発になってパワーを包み込んだ。

 臭い、ウザい、汚いの三拍子そろったゴブリン製品……。さてどうなるか? いつ爆発の煙から飛び出てもいいように身構えて様子を見る。天使の羽に異常があれば落ちているはず……なのに落ちないで煙の中から居ると言うことは、相手も私の出方を窺っているということだ。

【我が力を認めし神よ セイントアローレイン!】

【朧に霞み居る散牙の矢 番い示す果て 矢は天と地を繋ぐ雨となる 具現化ウォーターアローレイン】 

 煙の中から神聖属性のアローレインの魔法が、私も具現化の補助を使って恥ずかしい詠唱を施しながら撃って迎撃した。魔法で散った煙の中に居たパワーの羽は無傷だった。よーく魔力を【鑑定】してみると……私がやっているように障壁を自動で張ってくれる類の魔具をしようしていることがわかった。

「やっぱり羽の対策済みか」

「お前のように礼式に欠いた戦いをする者が居なければ不要なのだがな」

「天使はどうか知らないけど私にとっちゃ礼式に欠いてるのはそちらだよ。私の爆竹は……命の取り合いなら、なんら問題ないと思いますけど? 死なない為に全力を出して何が悪い。パワーさんの言う礼式なんて私は何も聞いてませんけど?」

 お前の礼式なんてこちらは知らないんだから押しつけられても困る。そう言外に含めて【一閃】を撃つ。パワーは興味のなさそうに「結局はこうなるか」っと諦めたように呟いて避けた。あの、だから貴方の言う礼式とはなに? と追撃してきたくなったけど、私もどうせ平行線だろうと思って口を閉ざす。

(今は和解の話し合いに来てるわけじゃないしね)








「ほっほっほ。こんな大規模な魔力妨害は骨が折れるのう」

「ロイエくん。無理しないでー」

「あらぁ、むふん。悪魔風情が心配なんて殊勝な心掛けよ。感激だわぁ~ん」

「いいから、ディザとラブマルージュ始めなさい」

 戦争にも経験を……幹部が三人集まる安全な場所で、僕とカロフィーネ様は三人の監視役と戦争がどういうものかを直接見ることとなった。障壁に守られているとは言ってもそこから見える戦の様子は生々しいものだった。

 障壁の上に乗る誰かの手がぶら下がったり……この一番城から高いバルコニーから見える戦いの傷で運ばれる者の発する独特な血の匂いが、此処に居ても香ってくる。僕の心に天使達の怒りが燻る……カロフィーネ様も同じなようで、彼女の手も身体もこれ以上無いまでに震えている。

「わしが他界したら、暫く法管理は二人に任せようか」

「やめてよー。法管理なんて今の僕がやったら暴動おきるだろうね」

「ダメよ。ロイエちゃんはまだまだお髭が地面についちゃう位は生きてくれないとー」

 そんな僕たちを嘲笑うように三人は楽しく歓談を始めた……こんな時に。僕が怒るのが先かカロフィーネ様が怒るのが先か、僕とカロフィーネ様は三人の歓談を恨めしい目で睨み付ける。やがてカロフィーネ様は我慢の限界が来て三人に向かって叫んだ。

「今この国がどうなってるのかお分かり!? ちゃんと真面目に役目を果たしなさい、いま、今こうしている間に一つの生命が失われているのよ!!!」

「だからさ」

 カリス様の怒りをだからという言葉でディザは両断した。それに余計腹を立てたカロフィーネ様は目に皺を寄せこれ以上無いまでに睨み付けたが、ディザはどこ吹く風で語り始めた。

「魔力というものは、精神力や感情に強い影響されるというのはご存じでしょーう?」

「ええ、だから!」

「だから、僕達はこのようにちゃらんぽらんとしているのですよ。魔力の根源は自然にある……真面目にやろう成し遂げよう。その思いの末に、怒りと固定概念に囚われることが真面目であるか? 否、真面目……本気でやるのならば、それをそぎ落とした効率的であることを、成し遂げることが真面目と称されてよいのではないでしょうか?

だとしたら、僕らがやる真面目といったら自然に寄り添い魔力を練ることです。【サイレス】で囲んであるのでお二人には見えないでしょうが、こうして楽しく歓談しているときの方が魔力の流れはよいのですよ。僕達はいたって……真面目です。何故かはどうぞ、頭の運動がてらに考えてみるといい」

 ディザはそう言い切ると三人は歓談に戻った。理屈はわからないし初めてそんなことは聞いた。けど、ロイエ様が何も言わないことに、僕もカロフィーネ様も嘘とは断じることができなかった。そのまま、三人の歓談を聞き続けた。

「そろそろね」

 ラブマルージュ様がそう告げると三人とも雰囲気が一点して、真面目な顔になった。固く真剣味を感じるある意味感情をさらけ出しているように感じる。

 ディザとラブマルージュは互いの右手を空へと高く付きだして詠唱を始めた。この一変した雰囲気の違いに翻弄されながらも目が離せず……釘付けに僕は見て居た。カロフィーネ様は少し怖いようで僕のメイド服の端をつまんだので、何かあってはいけないと……僕はカロフィーネ様を自分の腕の中へと誘導して、隠すように抱きしめた。

 気丈に立っていても震えている。僕も震えそうになりながらも耐えて詠唱を二人で聴いた。

【開闢は光にあらず 閉じる眼の裏こそが始まりの母である 暗晦を拒むことなかれそれが父である】

【始まり故何者にも染まらぬ 全てを染めつくす権利を宿すのは闇である 黒闇必然の本質】

【燦爛は子である 光は幼子である 何者にも染まるお前は我を一刺しすれば陰と消える】

【光よ戻れ我が手に】

【光よ戻れ我が腹に】

【【我は光を愛故に食らい尽くす】】

【【神聖属性無効化結界 リュミエール・ラヴ・マンジャーレ】】


 二人の先ほどの軽さの消えた詠唱がバルコニーに響き渡った。先ほどまで殺し合ってた二人とは思えない息ぴったりの詠唱と完璧な薄黒い結界。敵味方共に神聖属性が使えなくなり……神聖属性を専門にする者達は動きにくくなった。天使達は大半が神聖、光、時、空間の属性の者達……これは相当痛手だろう。

 結界を張り終えたディザはバルコニーから戦況を一瞥して、薄ら笑いを浮かべボロボロのローブを翻して城の中へと戻っていった。

「人は汚れている位がちょうどいい……僕はそーおもうよ」

 戻る間際に僕の耳にだけ聞こえるようにそう呟いた。どういう意味だと聞こうと思った頃にはディザは居なかった。薄気味悪さを背に抱きしめるように守っていたカロフィーネ様を手放して、手ぐしで髪を整えた。少し恐怖に疲れてカロフィーネ様は「ありがとう」と笑って僕の元から数歩離れた。

「じゃ、アタシも治癒部隊のほうに帰るわね。それじゃぁんねぇん!」

 間延びした別れの言葉を背に、赤い髪を燻らせてバルコニーを後にした。僕とカロフィーネ様とロイエ様の中々無い三人の状態で、どうしたものかとロイエ様の方を向くと。髭をたっぷり蓄えた顔で笑ってカロフィーネ様と僕を手招きした。手招きされるままに僕もカロフィーネ様もそちらに寄った。

「カロフィーネ様、これからは罪人も受け入れる王女として立つのならば……よくこの戦況を見なさい。特に幹部達の様子をの。リュピア、主も」

「はい、あの……」

「魔力のことかの?」

「はい」

 カロフィーネ様が疑問に思っていることを当てるとロイエ様は髭に手を上げて梳きながら、どうするか迷っているように空を見上げた。

「僕からも……お願いします」

「うーむ、まぁ、知らぬ事の利点は少ないからのう」

 僕はカロフィーネ様の前に出てロイエ様に頭を下げて懇願した。そうすると折れたのか単純に利点を考えて判断したのか……おそらくは後者だろうが話してくださることとなった。

「単純な話しよ。自分の為に力をくれと、不躾に意見を押しつけても自然は見向きもしてくれん。そういうことよ。ほっほっほ……それ以上は自分で考えなさい」

 そうやって……笑ってロイエ様はそれ以降何も言わずに、大規模魔法の魔力妨害へと徹した。僕もカロフィーネ様も何となくわかるような、わからないような微妙な気持ちのままに……。再度国王様の命じるままに戦況を見る事にした。僕達は……これしかできないから。

 



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