エターナル・ビヨンド~今度こそ完結しますように~

だいず

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1巻:動き出す歴史

第一話 第二章:帝都への道

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 第二章:帝都への道
 一、街道沿いの出会い

 昼下がりの街道は活気に満ちていた。魔境帝国を横断する長い道を、商人の馬車は軋む音を立てて進み、旅人たちは笑い声を交わしながら行き交っている。温かい陽光が、賑わう人々の姿を穏やかに照らしていた。
「すごいね、リオン!こんなににぎやかなんだ!」
 シエラは興奮気味に周囲を見渡す。初めて見る光景に目を輝かせていた。
「……浮かれすぎだろ。」
 一方、リオンは落ち着かない様子だった。街道の賑わいの背後に、彼の警戒心が張り詰めている。
「商人が多いってことは、それを狙うものもいる。」
 シエラが楽しそうに歩を進める中、リオンは何度も背後を確認した。
 その予感はすぐに的中する。
 突然、街道の騒がしさが途切れた。サイ馬が鼻を鳴らし、旅人たちが足を止める。
「……?」
 次の瞬間、異質な気配が大気を揺らした。
 草むらが不自然に揺れ、低いうなり声が響く。現れたのは、巨大な爪を持つ魔物だった――太古の生き残り。
「っ!」
 リオンは即座にシエラの腕を引いた。
「逃げるぞ!」
 二人には戦う術がなかった。ただひたすら、駆ける。魔物の動きは異様に速い。多くの群衆の中にありながら、二人の姿しか目に入らないようだった。
 長旅のための荷物があだとなり、シエラは転んでしまう。リオンはとっさにシエラをかばい、目を閉じた。
「くっ……!」
 魔物の影が迫る。その瞬間――
 鈍い金属音と共に、魔物の悲鳴が響いた。リオンが目を開けると、鋭い銀色の剣が閃いていた。

「大丈夫かい?」
 穏やかな声とともに、魔物と二人の間に立ちはだかる若い男が目に入る。
 男は素早く剣を振るい、魔物の鼻先をかすめる鋭い一撃を放った。怯んだ魔物は低く唸り声を上げ、草むらの奥へと退いていく。
 男はリオンとシエラに手を貸し、引き起こした。二人が無事であることを確かめ、名乗った。
「僕は、ゼンジ。魔境の戦士だ」
 ゼンジと名乗る青年は、自身が帝都の兵学校から派遣されてきた上級生であり、季節外れの新入生が通る街道の安全を見回っていたと説明した。思いがけず学校関係者に出会った二人は、心の底から安堵した。
「この辺りは、たまに魔物が出るんだよ。」
 彼はあたりを見回して魔物の姿が見えないことを確かめ、ゆっくりと剣を収めた。微笑むと、白い歯がこぼれる。
「それにしても、驚いたな。キミらがこんな場所にいるなんてね。」
 穏やかな口調で言うと、ゼンジはゆったりとした立ち姿に戻った。シエラは息を整えながらも、興奮気味にゼンジを見つめた。
「助けてくれて、ありがとうございます!」
「礼はいいさ。キミらが無事なら、それで十分」
 朗らかな笑顔に二人はすっかり安心した。ゼンジは二人に自己紹介を求め、皆はすぐに打ち解けた。談笑しながら、街道を歩く。
「旅立ってすぐに魔物とは。キミら、運が悪かったな。」
「魔物って……今もいるんですね?」
 シエラは落ち着きを取り戻し、先の魔物に対して、やっと興味を持つ。ゼンジは紳士的に微笑んで、うなずいた。
「いるさ。もっとも、数はごく少ないけれどね。なんでも、太古の生物で、倒しても復活するらしい。凶暴で厄介な奴だね。」
 ゼンジの言葉は淡々としていたが、リオンは僅かに背筋が寒くなった。
「戦乱の時代だってだけで最悪なのに、そんな生き物までうろついてるのか。厳しいなぁ」
「まあ、そういうことだな。」
 リオンの身もふたもない感想に、ゼンジは失笑した。そして、切り出す。
「さあ、そろそろ“馬車の村”が見えてきた。行こうか。」


 二、帝都へ
 帝都への道のりは長い。ゼンジと出会った地点から馬車を使っても、一週間はかかる旅だった。
「ウマサイに乗るのは初めてだな……。」
 リオンはゆっくりと揺れる馬車の中で、ぼんやりと呟いた。目の前には巨大なウマサイが悠々と歩いている。その歩みは静かで、春の小山のような穏やかさであるが、頑丈さと落ち着きには安心感も覚えた。
「魔物よりも大きいから、安全なんだって」
 シエラは馬車の窓からその背を眺めて微笑んだ。
「ああ。ウマサイの隊列を襲う魔物はまずいない。」
 ゼンジは穏やかに言いながら、車内の荷物を軽く整えた。
「君たちは幸運だよ。故郷の支援が手厚いね。帝都までの道は本来とても険しいが、この馬車なら安全に進める。」
 旅はゆったりとしたものだった。途中、町や宿場を抜けながら、食料を補給し、夜は屋根付きの休憩所で眠る。シエラの両親がとりなしてくれた、最高の旅路である。
 そして、一週間後――
「……ついに着いた。」
 馬車が止まり、リオンは静かに息を吐いた。目の前に広がるのは、巨大な城門。大河となった女神川を渡る跳ね橋から、石造りの高い壁に覆われた入り口までの間に、おびただしい人々が待機している。
 門の上には、歴戦の戦士たちを模した像が所狭しと並んでいた。
「あれは、建国の英雄たちを讃えたものだよ。入城手続きは時間がかかるからね。どの像が自分に似ているかを探して時間を潰すんだ」
 ゼンジが説明すると、シエラは早速像を見渡した。
「あれ、ちょっとリオンに似てない?」
「……俺はこんな立派な体格じゃないよ。それに、この中に北方人はいないだろ」
 リオンは苦笑しながら否定した。
 二人は数時間かけて帝都に入城し、ゼンジの導きで兵学校に向かった。
 すぐに適性試験を受け、その日は来訪者用の宿舎で眠った。翌朝、配属が掲示板に張り出されていた。
『祭礼の娘シエラ、特別クラスに配属。
 いずみ村のリオン、通常クラスに配属。』
 発表を見て、リオンはつぶやく。
「当然か…。」
 村の統治者の娘と、難民出身の捕虜。その差を突きつけられた。覚悟はできていたはずなのに、胸の中に一つ、重りが投げ入れられたようだ。

 しばらく立っていると、穏やかな声が聞こえた。
「君にはまだ道がある。若者よ」
 振り向くと、ゼンジが立っていた。柔らかな表情だが、笑みは無い。彼はリオンの様子を気にかけて、わざわざ上級生の個室寮から新入生宿舎までやってきたらしい。
「……どういう意味?」
 リオンはゼンジを見上げる。
「シエラと離れて、落ち込んでるんだろ?彼女は家のこともあるし、特別だよ。でも、努力次第で、君にも特別クラス入りの可能性はある。」
 ゼンジは静かに言った。
「もちろん、身の上を思えば、簡単ではないかもしれない。でも、能力を示せば別だ。学校はきっと、君の価値を認めるよ。」
「魔物が出ても走るしかないんだ。無理だよ」
「確かに、簡単ではないだろうな。でも、俺は、全く不可能ではないと思うよ。」
 ゼンジの言葉は落ち着いていたが、どこか信念がこもっていた。
「お前が望むなら、手を貸そう。」
 リオンはその言葉をじっと聞きながら、少しだけ拳を握り締めた。ゼンジはリオンの声を待たずに、「じゃあ、これから特訓だな」と応えた。 

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