エターナル・ビヨンド~今度こそ完結しますように~

だいず

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1巻:動き出す歴史

第一話 第三章:兵学校

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 第三章:兵学校
 一.チャコとの出会い

 特別クラスの講義が終わり、シエラは廊下を歩いていた。周囲には活発に議論を交わす生徒がいるが、彼女の視線はふと、一人静かに座る少女へと向かった。
 優雅な編み込みの髪型をばっちり決めて、淡々と布を縫っている。誰とも話すことなく、ただ針の動きに集中している。その姿は、兵学校の厳めしい雰囲気の中で異質だった。
 興味を引かれたシエラは、その少女――チャコに話しかけた。
「こんにちは。すごく器用だね。」
 チャコは一瞬、針の動きを止めてシエラを見た。
「……見てたの?」
「うん、すごく細かい刺繍だったから。」
 シエラの明るい声に、チャコは小さく笑った。
「私に声をかけた新入生って、初めて。あなた、おもしろいね。名前は?」
「シエラ。いずみ村出身だよ。」
「そう…あなたが、シエラね。私はチャコ。」
 短い応答の後、チャコはふと思いついたように立ち上がった。
「いいわ、ちょっと来て。」

 チャコは個室寮の自室へ、シエラを招いた。そこはまるで小さなアトリエだった。棚には糸や布が整然と並び、テーブルにはいくつもの防具の試作品が置かれている。
「座ってて。お茶を淹れるわね。」
 チャコは素早い動作で湯を沸かし、シエラの前に香り高いお茶と焼き菓子を並べた。
「すごいね……兵学校にこんな部屋を持ってるなんて。」
 シエラは驚いた。チャコは微笑みながら、自分の縫製道具を手に取った。
「本当はね、私はドレスを作りたいの。」
「ドレス?」
「そう。でも、戦が続いているうちは誰もそんなもの買わない。だから、防具を作ることにした。防具なら売れるし、仕事にもなる。世の中が落ち着いたら、本当に作りたいものが作れるかもしれないから。平和な未来に投資してるの。」
 チャコの言葉に、シエラは深く考え込む。チャコはその沈黙に、少し不安そうな表情になる。
「……それって、すごく素敵な考え方だね。」
 シエラの言葉に、チャコは少し驚いたようになり、それから微笑んだ。
 チャコとシエラは、その後もよくアトリエで語り合った。
 兵学校では、新入生の一年間は相部屋と決められている。シエラの相部屋相手も悪い子ではない。しかし、季節外れの特別クラスには、やはりよそよそしい態度をとられてしまう。
 シエラにとって、チャコのアトリエは安心できる基地のようだった。
 チャコはテーブルの上の設計図を指でなぞった。そこには魔物の素材と、それを組み込んだ防具の試作品が描かれていた。
「この素材、普通の布や革よりも耐久性がある。魔物の皮を加工すれば、より軽くて丈夫な防具が作れるはずなのよ。」
「でも、魔物の素材って……手に入れるのが難しいんじゃない?」
「そうね。でも兵学校近くの修業の森なら、十分な素材が手に入るかもしれない。あそこは魔物の巣窟だから」
 チャコは、魔物素材について、あれこれと思索する。しかし、魔物の素材の集め方が難しく、論考は、いつもそこで堂々巡りになっていた。
 シエラはチャコの情熱を感じながら、ゆっくりと頷いた。
「チャコちゃん、私も手伝うよ。素材集め、一緒にやろう。」
 チャコはまた、驚いたように目を見開いた。そして、にっこりと微笑む。
「たぶん私、その言葉を待ってた。」
 シエラとチャコの、初めての冒険が決定した。


 二.リオンの修業

「遅い。」
 ゼンジの声が静かに響く。その言葉と同時に、リオンの剣が弾かれた。
「くっ……!」
 リオンは歯を食いしばり、体勢を整える。しかし、ゼンジは一歩も動かず、淡々と彼を見つめていた。
「反応が良い。体格のわりに力もある。が、身体を無駄に使いすぎだ。もっと精度を意識しろ。」
「そんなこと言われても……!」
 リオンは汗を拭いながら息を整えた。
 ゼンジの訓練は厳しい。彼は面倒見のよい性格で優しい。しかし、戦いにおいては容赦がない。
 彼の剣は正確無比で、無駄な動きが一切ない。その動きには、長年鍛え上げられた経験が滲んでいた。
「俺は父に徹底的に鍛えられたんだ。」
 ゼンジは剣を回しながら、ふと呟く。
「だから、お前にも同じように教えてやる。兵学校で生き抜くなら、中途半端は許されない。」
 リオンはゼンジの表情を見つめ、無言で頷いた。

 剣を振り続けた後、二人は休憩のために座り込んだ。風が心地よく、吹き抜ける。
「ゼンジさんって…厳しいよね?」
 リオンは息を整えながら尋ねる。体力の限界を迎えながら、色々と含みがある一言を放つ。その生意気さに、ゼンジは剣を拭きながら、ふっと笑った。
「父親の影響さ。」
「……お父さん?」
「帝国軍の将軍をやってる。バンジ・カイケツ…っていうんだけど、聞いたことないか?」
 リオンは驚き、思わずゼンジの横顔を見つめた。兵学校に入ったばかりで軍の事はほとんど知らないが、その名前は聞いたことがある。
「将軍…って。将来、あのでっかい門に飾られる人でしょ?じゃあ、ゼンジさんは将来エリート確定なんだ」
「あんなに打ち合っても、まだそう思うか?」
 ゼンジの反応に、リオンは瞬時にバツの悪そうな顔をした。ゼンジは、この繊細な観察眼は将来、彼を救うだろうと予感した。
「俺は、父の威光で祭り上げられるのは嫌だ。だから、自分の力を証明してきた。実力を見せれば、そんな勘繰りも無くなると信じてる。」
 ゼンジの眼差しには、確かな信念があった。リオンはその強さを感じつつ、自分の目的の空虚さにまた胸が重くなった。
「とりあえず、できることをやるしかない」
 自分に言い聞かせるようにリオンがつぶやく。ゼンジはぼんやりと上空を見つめながら、言う。
「新入生が特別クラスに配置換えになるには、魔物退治でもするしかないかな」
 その言葉に、リオンは眉をひそめる。
「魔物退治って…昔話じゃあるまいし」
「初日に見ただろ、魔物」
「そんな簡単な話じゃないってこと」
「当然だ。でも、四年生の最終試験を新入生が突破したとなれば、価値を認めざるを得ない。たとえ捕虜難民でもな。」
 リオンは静かに考え込んだ。
「つまり、俺が特別クラスに入るには……魔物と戦うしかないってことか。」
「そういうことだな。」
 ゼンジは立ち上がり、リオンに手を伸ばした。
「お前がそうしたいなら、俺は付き合うよ。どうする?」
 リオンはゼンジの手を見つめ、一瞬だけ迷った。だが、次の瞬間――彼はその手をしっかりと握りしめた。
「やるよ。」
 ゼンジは静かに微笑んだ。
「その言葉を待ってたんだ。」 

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