16 / 43
1巻:動き出す歴史
第三話 第一章:選べなかった選択 3
しおりを挟む
三、隠れた反逆者
翌日、地下通路を数時間歩き続けた一行は、ようやく地上への出口にたどり着いた。通路は出口に向かうにつれてだんだんと装飾が派手になっていき、最後は、まぶしいほどに照らされていた。アニによると、いきなり地上に出て目がつぶれないようにという工夫なのだという。
アニが先頭で地面を押し上げると、乾いた土が崩れ、外光が差し込んだ。
「…行くぞ」アニが小さく呟く。
四人は、土の中から這い出るようにして地上へと姿を現した。そこは、どこかの農村の外れだった。草原と土のにおいが、夏の風に浮き上がっている。草のざわめきを掻き分けていると、大きな声が割り込んできた。
「うわあ、出た出た! 本当に土の中から出てきたよね!」
あごひげをたっぷり蓄えた無骨な男が、頭を左右に振りながら驚いている。男は、出迎え役だと名乗り、四人を笑いながら引き上げてくれた。年の頃は三十前後。立派な体格を粗末な作業着に包み、強面の顔には人懐っこい表情が浮かんでいる。
「いやまあ、聞いてはいたけれども本当に土から出てきちゃってね。帝国の調査員ってのはすごいよね。ほれ、こっちこっち。案内するよね」
彼は軽い口調で、畑と木立の間にある小屋へと四人を導いた。木でできた小屋は粗末な造りで、外見は物置のようだった。しかし入口すぐに地下への階段が備えられ、その奥には充実した家具が並んでいた。
「すぐに呼んでくるからね、待ってなさいね」
男が奥の部屋に消え、すぐに背の高い紳士を連れて戻ってきた。紳士は、小屋の地下に潜伏するには似合わない手入れされた上下揃いの衣服をまとい、自らをオランドと名乗った。
オランドは現在、この農村の管理を任されている行政官であるが、実態は帝国軍の正規軍人であるという。その証として胸元から刻印入りの金属板を出して見せた。
彼はそこまで説明すると、無言で棚から小瓶を取り出し、丸薬を一つずつ四人に手渡した。
「飲んでください。移動の準備です」
チャコはじっと手のひらを見つめた。匂いはほとんどない。だが、直感的に「眠る薬」だと分かった。
「詳細は……?」
チャコが問うと、オランドは首を横に振った。
「その必要は、ありません。任務は王都で始まりますので。道中の情報は持たぬ方が安全です」
リオンが眉をひそめた。
「それって、俺たちは、どこにいるかも知らないまま運ばれるってこと?」
「そうです」
潜入官は淡々と答えた。
「知らないことは、誰にも教えられないでしょう。ここが、どこなのか。そして、どうやって都に紛れ込んだのか」
出迎え役の男が、少しだけ顔をしかめた。
「こんな小さな子に、なんだか気の毒ね。苦くないお薬にしておいたから、スッと飲んじまえば大丈夫だからね」
なだめようとする大男に対し、紳士は冷静だった。
「信用なりませんか」
丸薬をつまんで弄んでいるアニに、問いかけた。オランド自身、詳しい情報は知らされていない。それでも、アニがただの市民でないことは一見しただけで分かった。この青年は、軍の論理では動かないおそれがある。
「相手が軍人だというだけで、なんでも飲めるようには育てられていないんでね」
アニは、チャコに一瞥をおくる。彼の判断は、リーダーの采配にゆだねられたという事だろう。チャコは、丸薬を見つめたまま言った。
「……分かっています。覚悟はできてますから」
チャコは、冗談めかして「断っても帰れるわけじゃないし」と三人に付け加える。すると、アニは黙って頷き、リオンとシエラは小さく息を吐いた。
四人は、それぞれに丸薬を口に運び、飲み込んだ。大男が「大丈夫だからね…」と語りかけたが、なだめる言葉を全て聞かないうちに、意識が遠のいていく。視界がぼやけ、身体は重くなる。
最後に見えたのは小屋のくすんだ天井。そして、自らの倒れる音が聞こえた気がした。
シエラが目を覚ましたとき、頬には柔らかな枕を、身体には滑らかなシーツ感じた。彼女は心地よさに、しばらく目を閉じていた。
周囲に動くものを感じてゆっくりと目を開けると、視界の上には繊細な刺繍が施された天蓋が広がっていた。淡い金色の糸で編まれた模様が、朝の光に照らされて静かに輝いている。
枕元には、ほのかな花の香りが漂っていた。身を起こしてみると、桃色や白の小さな花が優しく舞い落ちている。
周囲には、清潔な装いの女性たちがこまごまとした作業に勤しんでいる。
その光景は、まるで夢の続きのようだった。
「え……?」
シエラが戸惑いながら小さな声を上げる。すると、周囲の女性たちは「おはようございます」とかわるがわる小さな声をかける。シエラは小さい会釈で応える中、自分がすでに見知らぬドレスに着替えさせられていることに気づく。
淡い薄桃色の布地に、さりげない色合いの金糸の刺繍。彼女の人生の中でも、見たことがないほど上品な装いだった。
彼女は思わず裾を撫で、刺繡をなぞるように指先を滑らせた。
そのとき、部屋の扉が静かに開いた。上品な女性が顔を覗かせ、柔らかく微笑む。周囲の女性たちが一同に会釈で迎えた。この女性は、彼女たちのまとめ役なのだろう。
「お嬢様、お目覚めですね。皆さま、すでにご準備を終えられていますよ」
上品な女性は自らを侍女長と名乗った。シエラは周囲の侍女たちの助けを借りて立ち上がり、部屋を後にした。
階段を降りると、広間の中央につながっていた。そこは寝室の柔らかな空気とは打って変わって、荘厳な空気に満ちていた。天井は高く、壁には王国の大きな旗が飾られている。床には厚手の絨毯が敷かれ、豪華なソファがいくつも並んでいた。天井まで届くほどの高い窓から差し込む光は、旗やソファの金の縁取りを柔らかく照らしている。
今は使われていない暖炉の近くに、チャコとリオンの姿が見えた。チャコは深緑のドレスに身を包み、王国風の髪飾りを付けている。リオンは黒の礼装を着て、少し居心地悪そうにしていた。
「……チャコちゃん、リオン。無事でよかった」
シエラが声をかけると、二人は振り返り、安堵の表情を見せた。もたもたと進むシエラに代わって、急ぎ足で駆け寄った。
二人がシエラの格好に思い思いの言葉をかけていると、階段の上から足音が響いた。
美しく着飾った青年が、ゆっくりとした歩調で降りてくる。乳白色の貴族服に身を包み、腰には豪華な飾り柄の細い剣。長い黒髪は上品に編まれ、後ろでまとめられている。
シエラが「この屋敷の主だろうか」と見上げていると、青年はシエラたちに向かって鼻にしわを寄せた。それでようやく、彼の正体に気付く。
「……アニ?」
シエラがつぶやくと、チャコは頷いた。シエラに付いてきた侍女たちは「まあ!」と声を上げ、口元を押さえ見とれている。
アニは不満げな顔で階段を降り、三人の下に合流した。
「言っておくが、オレは最初に目が覚めたんだぞ。支度に異常な時間がかかった。あれこれ触られて、本当に落ち着かない」
いつもの調子で話すその姿に、皆言葉を失った。顔や表情、背丈などは見慣れたものと同じだが、普段の無頼な雰囲気とはまるで違う。アニは、まるで王国の若き貴族のようだった。トム教官は、この変貌ぶりを予測していたのだろうか。
困惑する三人をよそに、アニだけがごちゃごちゃと文句を垂れていると、扉の音がその空気を破る。奥の大扉を従士が開き、上品な貴婦人が現れた。
年齢は五十代ほど。銀灰色の髪は丁寧に整えられ、動きには一切の無駄がない。ゆったりとした優雅な歩調で近づいてくる。
チャコが思わず王国式の礼のために膝を曲げると、彼女は微笑みで返した。そして、四人に視線を向けた。
「ようこそ。あなた方が、帝国からの?」
その声は柔らかく、しかし芯が通っていた。チャコは、しっかりと頷く。
貴婦人は一人ひとりを見渡しながら、言葉を続けた。「まずは、メイドたちの仕事を見せてもらいましょうか」
シエラに目を向けると、貴婦人は微笑みながら何度も頷いた。
「高潔な血が来るとは聞いていたけれど……予想以上ね。本当に美しいわ」
彼女はシエラを励ますように、軽く肩に触れた。
チャコには、落ち着いた声で言った。
「あなたも、最適ね。すぐに王都の空気に馴染むでしょう。立ち姿が洗練されているから、恰好はこれくらい地味な方が良いわ」
居住まいの悪そうなリオンには、少しだけ口元を緩めた。
「あなたも、悪くない。最近の従者には、こういう子が多いのよ」
貴婦人の言葉から、シエラは自分たちが装うべき立場を少しずつ理解していった。
そして最後に、貴婦人はアニの姿に目を留める。すると、貴婦人は一瞬言葉を詰まらせた。アニの姿に小さくため息をつく。だがすぐに、微笑みを整えて言った。
「……あなたも、上出来」
アニが顎だけで会釈を返すと、貴婦人は侍女たちに向かって「皆、よく仕上げてくれたわね」とねぎらいの言葉をかけた。
貴婦人は一歩下がり、姿勢を正した。
「私は、エヴァンジェリーン・ドラモンド。あなた方の伯母となります」
王国式の礼を優雅に示した貴婦人は、「エバ伯母様と呼んで」と微笑んだ。
「あなたたちは、辺境から引き取った親戚の令嬢と子息。そしてそれぞれの従者です。私の保護下にある若者として、振る舞っていただきます」
任務の始まりに、部屋の空気が少し張り詰めた。
「まずはこちらに滞在し、基本的な所作を学ぶように。2週間後には、嫌気払いの宴が。皆、出席するようにね」
エバ婦人はそう言うと、それぞれに偽名を用意したが、愛称としての呼び名はそのままで構わないと付け加えた。そして、「詳しい身の上は、メイドから」と告げて去っていった。
シエラは、婦人の後ろ姿を目で追いながら、ようやく目が覚めたように感じた。
翌日、地下通路を数時間歩き続けた一行は、ようやく地上への出口にたどり着いた。通路は出口に向かうにつれてだんだんと装飾が派手になっていき、最後は、まぶしいほどに照らされていた。アニによると、いきなり地上に出て目がつぶれないようにという工夫なのだという。
アニが先頭で地面を押し上げると、乾いた土が崩れ、外光が差し込んだ。
「…行くぞ」アニが小さく呟く。
四人は、土の中から這い出るようにして地上へと姿を現した。そこは、どこかの農村の外れだった。草原と土のにおいが、夏の風に浮き上がっている。草のざわめきを掻き分けていると、大きな声が割り込んできた。
「うわあ、出た出た! 本当に土の中から出てきたよね!」
あごひげをたっぷり蓄えた無骨な男が、頭を左右に振りながら驚いている。男は、出迎え役だと名乗り、四人を笑いながら引き上げてくれた。年の頃は三十前後。立派な体格を粗末な作業着に包み、強面の顔には人懐っこい表情が浮かんでいる。
「いやまあ、聞いてはいたけれども本当に土から出てきちゃってね。帝国の調査員ってのはすごいよね。ほれ、こっちこっち。案内するよね」
彼は軽い口調で、畑と木立の間にある小屋へと四人を導いた。木でできた小屋は粗末な造りで、外見は物置のようだった。しかし入口すぐに地下への階段が備えられ、その奥には充実した家具が並んでいた。
「すぐに呼んでくるからね、待ってなさいね」
男が奥の部屋に消え、すぐに背の高い紳士を連れて戻ってきた。紳士は、小屋の地下に潜伏するには似合わない手入れされた上下揃いの衣服をまとい、自らをオランドと名乗った。
オランドは現在、この農村の管理を任されている行政官であるが、実態は帝国軍の正規軍人であるという。その証として胸元から刻印入りの金属板を出して見せた。
彼はそこまで説明すると、無言で棚から小瓶を取り出し、丸薬を一つずつ四人に手渡した。
「飲んでください。移動の準備です」
チャコはじっと手のひらを見つめた。匂いはほとんどない。だが、直感的に「眠る薬」だと分かった。
「詳細は……?」
チャコが問うと、オランドは首を横に振った。
「その必要は、ありません。任務は王都で始まりますので。道中の情報は持たぬ方が安全です」
リオンが眉をひそめた。
「それって、俺たちは、どこにいるかも知らないまま運ばれるってこと?」
「そうです」
潜入官は淡々と答えた。
「知らないことは、誰にも教えられないでしょう。ここが、どこなのか。そして、どうやって都に紛れ込んだのか」
出迎え役の男が、少しだけ顔をしかめた。
「こんな小さな子に、なんだか気の毒ね。苦くないお薬にしておいたから、スッと飲んじまえば大丈夫だからね」
なだめようとする大男に対し、紳士は冷静だった。
「信用なりませんか」
丸薬をつまんで弄んでいるアニに、問いかけた。オランド自身、詳しい情報は知らされていない。それでも、アニがただの市民でないことは一見しただけで分かった。この青年は、軍の論理では動かないおそれがある。
「相手が軍人だというだけで、なんでも飲めるようには育てられていないんでね」
アニは、チャコに一瞥をおくる。彼の判断は、リーダーの采配にゆだねられたという事だろう。チャコは、丸薬を見つめたまま言った。
「……分かっています。覚悟はできてますから」
チャコは、冗談めかして「断っても帰れるわけじゃないし」と三人に付け加える。すると、アニは黙って頷き、リオンとシエラは小さく息を吐いた。
四人は、それぞれに丸薬を口に運び、飲み込んだ。大男が「大丈夫だからね…」と語りかけたが、なだめる言葉を全て聞かないうちに、意識が遠のいていく。視界がぼやけ、身体は重くなる。
最後に見えたのは小屋のくすんだ天井。そして、自らの倒れる音が聞こえた気がした。
シエラが目を覚ましたとき、頬には柔らかな枕を、身体には滑らかなシーツ感じた。彼女は心地よさに、しばらく目を閉じていた。
周囲に動くものを感じてゆっくりと目を開けると、視界の上には繊細な刺繍が施された天蓋が広がっていた。淡い金色の糸で編まれた模様が、朝の光に照らされて静かに輝いている。
枕元には、ほのかな花の香りが漂っていた。身を起こしてみると、桃色や白の小さな花が優しく舞い落ちている。
周囲には、清潔な装いの女性たちがこまごまとした作業に勤しんでいる。
その光景は、まるで夢の続きのようだった。
「え……?」
シエラが戸惑いながら小さな声を上げる。すると、周囲の女性たちは「おはようございます」とかわるがわる小さな声をかける。シエラは小さい会釈で応える中、自分がすでに見知らぬドレスに着替えさせられていることに気づく。
淡い薄桃色の布地に、さりげない色合いの金糸の刺繍。彼女の人生の中でも、見たことがないほど上品な装いだった。
彼女は思わず裾を撫で、刺繡をなぞるように指先を滑らせた。
そのとき、部屋の扉が静かに開いた。上品な女性が顔を覗かせ、柔らかく微笑む。周囲の女性たちが一同に会釈で迎えた。この女性は、彼女たちのまとめ役なのだろう。
「お嬢様、お目覚めですね。皆さま、すでにご準備を終えられていますよ」
上品な女性は自らを侍女長と名乗った。シエラは周囲の侍女たちの助けを借りて立ち上がり、部屋を後にした。
階段を降りると、広間の中央につながっていた。そこは寝室の柔らかな空気とは打って変わって、荘厳な空気に満ちていた。天井は高く、壁には王国の大きな旗が飾られている。床には厚手の絨毯が敷かれ、豪華なソファがいくつも並んでいた。天井まで届くほどの高い窓から差し込む光は、旗やソファの金の縁取りを柔らかく照らしている。
今は使われていない暖炉の近くに、チャコとリオンの姿が見えた。チャコは深緑のドレスに身を包み、王国風の髪飾りを付けている。リオンは黒の礼装を着て、少し居心地悪そうにしていた。
「……チャコちゃん、リオン。無事でよかった」
シエラが声をかけると、二人は振り返り、安堵の表情を見せた。もたもたと進むシエラに代わって、急ぎ足で駆け寄った。
二人がシエラの格好に思い思いの言葉をかけていると、階段の上から足音が響いた。
美しく着飾った青年が、ゆっくりとした歩調で降りてくる。乳白色の貴族服に身を包み、腰には豪華な飾り柄の細い剣。長い黒髪は上品に編まれ、後ろでまとめられている。
シエラが「この屋敷の主だろうか」と見上げていると、青年はシエラたちに向かって鼻にしわを寄せた。それでようやく、彼の正体に気付く。
「……アニ?」
シエラがつぶやくと、チャコは頷いた。シエラに付いてきた侍女たちは「まあ!」と声を上げ、口元を押さえ見とれている。
アニは不満げな顔で階段を降り、三人の下に合流した。
「言っておくが、オレは最初に目が覚めたんだぞ。支度に異常な時間がかかった。あれこれ触られて、本当に落ち着かない」
いつもの調子で話すその姿に、皆言葉を失った。顔や表情、背丈などは見慣れたものと同じだが、普段の無頼な雰囲気とはまるで違う。アニは、まるで王国の若き貴族のようだった。トム教官は、この変貌ぶりを予測していたのだろうか。
困惑する三人をよそに、アニだけがごちゃごちゃと文句を垂れていると、扉の音がその空気を破る。奥の大扉を従士が開き、上品な貴婦人が現れた。
年齢は五十代ほど。銀灰色の髪は丁寧に整えられ、動きには一切の無駄がない。ゆったりとした優雅な歩調で近づいてくる。
チャコが思わず王国式の礼のために膝を曲げると、彼女は微笑みで返した。そして、四人に視線を向けた。
「ようこそ。あなた方が、帝国からの?」
その声は柔らかく、しかし芯が通っていた。チャコは、しっかりと頷く。
貴婦人は一人ひとりを見渡しながら、言葉を続けた。「まずは、メイドたちの仕事を見せてもらいましょうか」
シエラに目を向けると、貴婦人は微笑みながら何度も頷いた。
「高潔な血が来るとは聞いていたけれど……予想以上ね。本当に美しいわ」
彼女はシエラを励ますように、軽く肩に触れた。
チャコには、落ち着いた声で言った。
「あなたも、最適ね。すぐに王都の空気に馴染むでしょう。立ち姿が洗練されているから、恰好はこれくらい地味な方が良いわ」
居住まいの悪そうなリオンには、少しだけ口元を緩めた。
「あなたも、悪くない。最近の従者には、こういう子が多いのよ」
貴婦人の言葉から、シエラは自分たちが装うべき立場を少しずつ理解していった。
そして最後に、貴婦人はアニの姿に目を留める。すると、貴婦人は一瞬言葉を詰まらせた。アニの姿に小さくため息をつく。だがすぐに、微笑みを整えて言った。
「……あなたも、上出来」
アニが顎だけで会釈を返すと、貴婦人は侍女たちに向かって「皆、よく仕上げてくれたわね」とねぎらいの言葉をかけた。
貴婦人は一歩下がり、姿勢を正した。
「私は、エヴァンジェリーン・ドラモンド。あなた方の伯母となります」
王国式の礼を優雅に示した貴婦人は、「エバ伯母様と呼んで」と微笑んだ。
「あなたたちは、辺境から引き取った親戚の令嬢と子息。そしてそれぞれの従者です。私の保護下にある若者として、振る舞っていただきます」
任務の始まりに、部屋の空気が少し張り詰めた。
「まずはこちらに滞在し、基本的な所作を学ぶように。2週間後には、嫌気払いの宴が。皆、出席するようにね」
エバ婦人はそう言うと、それぞれに偽名を用意したが、愛称としての呼び名はそのままで構わないと付け加えた。そして、「詳しい身の上は、メイドから」と告げて去っていった。
シエラは、婦人の後ろ姿を目で追いながら、ようやく目が覚めたように感じた。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる