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1巻:動き出す歴史
第四話 第五章:王様の人形 7
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七、ゼンジの観察眼
よく磨かれた銀製の浅い大皿――通称「銀の皿」の表面に、月明かりの庭園が揺らめいて映っていた。その映像の中で、ローザと名乗るメイドは次々と衝撃的な事実を淡々と説明している。
ゼンジはその事実を一つ一つ、手元の用紙に書き留める。しかし、その節々で、ローザがこちらをまっすぐ見つめてくるのが気になった。
通常の会話であれば、話し方の癖で片づけられる何気ない仕草である。しかし、この状況において、こちらを―つまり、メイドのシエラを―逐一見つめるのは、不自然である。ゼンジの目には、それが意図的な行為にしか見えなかった。
やがてローザは、北方王の計画について話し始めた。その計画の名を聞いた時、ゼンジの違和感は革新へと変わる。
「……これは、まずい!」
低くつぶやいたはずの声は、長期間の監視生活の中で裏返った。それでも、椅子を押しのけるように立ち上がり、部屋を飛び出そうとする。
どたばたと慌てた様子の彼に、ソファでうたた寝していた大魔導師の少女も薄目を開ける。
「ララアさん、少しの間だけ代わってください。僕はすぐに、トム教官を呼んできます!」
慌ただしく歪んだドアに手をかけるゼンジに、ララアは落ち着いた声で呼びかけた。
「緊急でしたら、すぐに呼べますよ」
ララアはソファに身を預けたまま、傾いた天井に向かって指先を軽く動かす。すると上壁に淡い光の輪が広がり、空間が水面のように揺らいだ。
次の瞬間、その揺らぎの中から金髪の大男が現れる。どさっと大きな音をたてて、床に落ちた。
「……っ、ララア!」
床にしたたかに腰を打ったトム教官は、とっさに元凶を探す。ソファに横たわる魔法少女を見つけ、詰め寄り、珍しく強い怒りを表した。
「ワープは嫌いなんだ。今生では二度としてくれるな!」
ララアは口をとがらせ、「緊急なのですよう」とだけ返す。
ゼンジは一連の状況を様々、今は無視することにした。一歩前に出て、背筋を伸ばす。
「教官。現在、作戦は危険な局面にあります。場合によっては、ララアさんの出動が必要になる可能性があります」
トム教官の視線が、にわかに鋭くなる。
「根拠は?」
ゼンジは呼吸を整え、事実だけを淡々と並べた。
「これはローザというメイドです」
銀の皿に映る侍女を指さす。
「この女、王子や騎士に説明している状況下において、会話の要所でシエラに不自然な頻度で視線を送っています。しかし、これまでのシエラとのかかわりにはこの行動をとらせる理由がありません。これは意図的な行為と推測されます。」
「どんな意図がある?」
矢継ぎ早な質問は、トム教官が正しい主張に対して取りがちな態度である。ゼンジは落ち着いて、説明を続けた。
「加えて、北方の国王が進めている計画というのが、“目”と言う名前だそうです。確か、シエラに持たせている通信用のブローチも、“目”という呼び名でしたよね?」
トム教官は、ふうんと鼻を鳴らし、長い指であごを撫でた。
「結論を言ってみろ」
「ローザは、こちら帝国の監視体制を察知している可能性が高いと判断します」
トム教官は腕を組み、黙って聞いていた。ゼンジはさらに続ける。
「もしそうであれば、シエラが潜入者であることは、すでにローザに露見していると考えるのが自然です。即時保護すべきです。放置すれば、捕縛または利用される危険があります」
ゼンジが話し終え、短い沈黙が過ぎ、トム教官は鼻で笑った。
「それじゃあ、弱いなぁ」
その声は冷たく、どこか試すような響きを帯びていた。
「ララアは、大魔導師様なんでね。それくらいの状況じゃ出動はできないな」
トム教官は、ゼンジに魔法使いの負う制約について簡単に説明した。魔法は“公益に資する目的”にのみ使用が許されており、力の強い魔法使いほどその制約は厳密になる。敵国に自ら潜入したシエラやリオンを救出するためにララアを出動させるのなら、それは明確な命の危険が迫っている場合でなくてはならない。
「とはいえ、状況は大きく動いた」
悔しそうに唇を噛むゼンジに、トム教官は少しだけ柔らかく言い添えた。銀の皿に視線を落とす。
映像の中では、ローザが物置小屋の床板を外し、地下への入り口を露わにしている。
「ここからは、俺も監視に入るよ」
トム教官は「もしかしたら、ずっと探していた事が分かるかもしれないしな」と、ゼンジの隣に座り込んだ。ゼンジは少々驚いたが、改めて背筋を伸ばした。
よく磨かれた銀製の浅い大皿――通称「銀の皿」の表面に、月明かりの庭園が揺らめいて映っていた。その映像の中で、ローザと名乗るメイドは次々と衝撃的な事実を淡々と説明している。
ゼンジはその事実を一つ一つ、手元の用紙に書き留める。しかし、その節々で、ローザがこちらをまっすぐ見つめてくるのが気になった。
通常の会話であれば、話し方の癖で片づけられる何気ない仕草である。しかし、この状況において、こちらを―つまり、メイドのシエラを―逐一見つめるのは、不自然である。ゼンジの目には、それが意図的な行為にしか見えなかった。
やがてローザは、北方王の計画について話し始めた。その計画の名を聞いた時、ゼンジの違和感は革新へと変わる。
「……これは、まずい!」
低くつぶやいたはずの声は、長期間の監視生活の中で裏返った。それでも、椅子を押しのけるように立ち上がり、部屋を飛び出そうとする。
どたばたと慌てた様子の彼に、ソファでうたた寝していた大魔導師の少女も薄目を開ける。
「ララアさん、少しの間だけ代わってください。僕はすぐに、トム教官を呼んできます!」
慌ただしく歪んだドアに手をかけるゼンジに、ララアは落ち着いた声で呼びかけた。
「緊急でしたら、すぐに呼べますよ」
ララアはソファに身を預けたまま、傾いた天井に向かって指先を軽く動かす。すると上壁に淡い光の輪が広がり、空間が水面のように揺らいだ。
次の瞬間、その揺らぎの中から金髪の大男が現れる。どさっと大きな音をたてて、床に落ちた。
「……っ、ララア!」
床にしたたかに腰を打ったトム教官は、とっさに元凶を探す。ソファに横たわる魔法少女を見つけ、詰め寄り、珍しく強い怒りを表した。
「ワープは嫌いなんだ。今生では二度としてくれるな!」
ララアは口をとがらせ、「緊急なのですよう」とだけ返す。
ゼンジは一連の状況を様々、今は無視することにした。一歩前に出て、背筋を伸ばす。
「教官。現在、作戦は危険な局面にあります。場合によっては、ララアさんの出動が必要になる可能性があります」
トム教官の視線が、にわかに鋭くなる。
「根拠は?」
ゼンジは呼吸を整え、事実だけを淡々と並べた。
「これはローザというメイドです」
銀の皿に映る侍女を指さす。
「この女、王子や騎士に説明している状況下において、会話の要所でシエラに不自然な頻度で視線を送っています。しかし、これまでのシエラとのかかわりにはこの行動をとらせる理由がありません。これは意図的な行為と推測されます。」
「どんな意図がある?」
矢継ぎ早な質問は、トム教官が正しい主張に対して取りがちな態度である。ゼンジは落ち着いて、説明を続けた。
「加えて、北方の国王が進めている計画というのが、“目”と言う名前だそうです。確か、シエラに持たせている通信用のブローチも、“目”という呼び名でしたよね?」
トム教官は、ふうんと鼻を鳴らし、長い指であごを撫でた。
「結論を言ってみろ」
「ローザは、こちら帝国の監視体制を察知している可能性が高いと判断します」
トム教官は腕を組み、黙って聞いていた。ゼンジはさらに続ける。
「もしそうであれば、シエラが潜入者であることは、すでにローザに露見していると考えるのが自然です。即時保護すべきです。放置すれば、捕縛または利用される危険があります」
ゼンジが話し終え、短い沈黙が過ぎ、トム教官は鼻で笑った。
「それじゃあ、弱いなぁ」
その声は冷たく、どこか試すような響きを帯びていた。
「ララアは、大魔導師様なんでね。それくらいの状況じゃ出動はできないな」
トム教官は、ゼンジに魔法使いの負う制約について簡単に説明した。魔法は“公益に資する目的”にのみ使用が許されており、力の強い魔法使いほどその制約は厳密になる。敵国に自ら潜入したシエラやリオンを救出するためにララアを出動させるのなら、それは明確な命の危険が迫っている場合でなくてはならない。
「とはいえ、状況は大きく動いた」
悔しそうに唇を噛むゼンジに、トム教官は少しだけ柔らかく言い添えた。銀の皿に視線を落とす。
映像の中では、ローザが物置小屋の床板を外し、地下への入り口を露わにしている。
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