エターナル・ビヨンド~今度こそ完結しますように~

だいず

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1巻:動き出す歴史

第五話 第二章:見つからない答え 1

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 一、機械人形の街

 ローザの申し出に、一行は答えを出しあぐねていた。王子とグラハムは顔を見合わせ、シエラとリオンはその一歩後ろで戸惑いの表情を浮かべている。
 そうした彼らの困惑を知ってか知らずか、機械人形たちは人込みを形成し、規則正しく街を移動していく。商人風の人形は手に商品を持ち足早に歩き、貴族と従者を模した人形は大仰に進んでいく。子どもの姿をした小さな人形はくるくると回る様な動きをつけながら、走り回る。精巧に作られた街の中で、生身の人間たちの方がむしろ、時の止まった作り物のように立ち尽くしていた。

 王子とグラハムの思考には、ローザの言葉がいまだ、引っかかっていた。現王が隠した研究施設が、彼の特別に思い入れのある場所にある…?その根拠が曖昧すぎるではないか。
「ローザ」と、王子は声をかけ、問いかけた。
「なぜ、研究施設が思い入れのある場所にあると言えるの?その推測に、確証はある?」
 王子の指摘に、グラハムはうなずき、疑念を隠さずに問をつなぐ。
「それに、お前はこの地下都市を熟知しているのではなかったのか。王子は陛下の説得がお役目ではないのか?」
 二人の問いに、ローザは一瞬だけ視線を下にとどめて静止し、やがて深く頭を下げた。

「申し訳ございません。誤解を招く言動を、とってしまいました。皆様を信用させることが、王様の安全確保のためには有効だと判断しました」
 彼女は顔を上げ、真剣な表情で説明を始める。
「私は、この地下都市には3度、来たことがあります。しかしそれは、私が単独で足を運んだ回数です。その全てで研究施設を検索しましたが、発見に至ったことは一度もありません」
「兄上が、君を連れてきたわけじゃないの?」王子が問う。すると、ローザは首を横に振る。
「王様は、私を研究施設に連れて行くことは一度もありませんでした」
 ローザの声が少しだけくぐもり、寂しさが滲むように響いた。
「私の役目は、王様がこの地下都市に滞在する間、陛下が寝室にご在室であるかのようにとりなすことでしたから」
 王子はそれを聞いて、小さくため息をつき、「ずっと、心配していたんだね」と、言葉をかけた。ローザは沈黙したが、わずかに伏せた瞼がその言葉を肯定していた。

 王子が機械人形にわずかな憐憫を感じているのを察知したグラハムは、厳しい顔で言葉を挟んだ。
「では、思い入れのある場所という推測の根拠は?」
 ローザは表情に冷静さを取り戻し、機械人形たちの流れを見つめ、言葉を選ぶように説明を紡いだ。
「王様は…、多忙な政務に追われる中で、最近は感情を表に出さなくなっておられます」
 彼女の言葉に苦い表情を見せる王子を安心させるように、彼女は「しかし」と続ける。
「お心は変わりません。王様は感情豊かで、自然を愛し、家族や親しい人を大切にされる方です」
 王子は自分に言い聞かせるように、静かに何度もうなずいた。ローザは王子に向けて、優しい声でつづけた。
「これまでに研究施設へ向かう王様を何度もお送りしましたが…毎回、少しだけ楽しそうにしていらっしゃいました。無機質なこの地下都市の中にあっても、足繁く通われる研究施設の場所は……何か特別な思い出のある場所なのではないかと…そう推測したのです」

 王子とグラハムは、ローザの言葉を静かに受け止めた。機械の分析としては少し根拠に欠けるように感じるが、単なる憶測と捨て置くべきでもないような気がした。
 グラハムは自分の認識の変化を悟らせないように、眼差しの険しさを保ったままで言った。
「つまり、お前は研究施設の在り処も、王の計画の詳細も知らないということか」
 ローザは再び深く頭を下げる。
「はい。あたかも熟知しているようにふるまい、皆様に誤解を与えてしまいました。心よりお詫び申し上げます」
 グラハムは深いため息をつき、腕を組んだ。
「お前の陛下への忠誠は、理解しよう。だが、私にも護衛としての責任がある」
 彼は王子を見据える。
「王子、これほど不確実な情報では、殿下を危険にさらすわけにはいきません。ここは一度引き返すべきです」
 王子はグラハムの進言を受け止めたが、すぐに首を振った。
「いや、グラハム。僕は、兄上を説得に行く」
「しかし――」
「心配はもっともだけど、僕の安全より、兄上のだ。兄上もしものことがあれば、この国は終わりだよ」
 王子の声には、これまでにない強い意志が込められていた。グラハムは「ですが、このままではどちらも失うおそれがあります」と食い下がる。しかし、王子は、「僕はどうでもいい」と突き放すように告げた。
「兄上が、安全に、あり続けることが大事なんだ。僕だけが残っても、兄上の代わりはできないよ?お前も将軍なら、飼い殺しの第二王子を危険に晒しても現王を守るべきだと分かるはずだ」
 グラハムは言葉を失った。王子の判断は確かに理にかなっている。しかし、やはり護衛として、そして王子の従兄として、納得できなかった。
 王子はローザに向き直る。その背中には、少しだけ王の風格が漂っていた。
「ローザ、この地下都市の監視体制はどうなっている?警備は?」
「それについては、これまでの3度の調査で確認済みです」と、ローザは即座に答えた。
「この地下都市は、いわば張りぼてのようなものです。」
「張りぼて?」
「建物の大半は空の箱で、侵入しても、監視・警護反応はありません。おそらく、ここは機械人形の行動を制御する実験場のようなものかと推測されます。人形たちの動作パターンを改善するような…」
 王子は説明を断ち切るようにうなずき、グラハムを振り返った。
「グラハム、わかったね。ひとまず、探索はできそうだ。でも、君が危険だと判断した時点で、僕は君の退避命令に従う。約束する」
 グラハムはしばらく沈黙していたが、やがて渋々といった様子で頷いた。
「…承知しました。ただし、少しでも異常を感じたら即座に撤退します。それでよろしいですね?」
「もちろん」
 彼らのやり取りを確認し、ローザは安堵の表情を見せた。これまでより一層深く、一礼する。
「まことに、ありがとうございます」

「さーて、兄上の思い入れの場所か。難題だなぁ。グラハム、何か思い当たらない?」
 王子はわざとらしく明るい調子で、両腕を上げて伸びあがった。グラハムは「私は何も」と言いながら、やれやれと首を振った。やがて地下の王都に歩みだす二人を、シエラとリオンは追いかけていった。

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