エターナル・ビヨンド~今度こそ完結しますように~

だいず

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1巻:動き出す歴史

第五話 第二章:見つからない答え 2

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 二、グレートソード

 一行は機械人形たちの流れに身を任せ、王都の中央広場にあたる場所へと向かっていた。王都は王宮から見た市井を、再現しているようだった。王子は歩きながら、傍らに寄り添わせたシエラを相手に、思い出を辿るようにつぶやき始める。

「兄上の思い入れのある場所か…」
 王子は街並みを見回しながら考え込む。
「そうだなあ、兄上とは十歳も年が離れているから、一緒に過ごした時間は限られてるんだけど…」
 そう言って、王子は現王との兄弟関係をシエラに説明した。王子によると、王子と現王は年齢差があるため、物心ついた時には既に兄は王権についており多忙な日々を送っていた。それでも王子が幼い頃は、現王は弟王子のために時間を作ってくれており、二人で過ごした記憶は鮮明に残っているという。

「あ、そうそう!」と、王子の表情が急に明るくなる。
「実は僕が庭園の植物を世話するようになったのも、兄上の影響なんだよ!兄上、植物の世話がものすごく得意でね。王宮の庭園は兄上が忙しくなるからって、引き継いだんだ」
 シエラは、「そうだったのですね」と、王子の話に相槌を打つ。王子は「兄上の庭には全然及ばないよ」と、謙遜してみせる。
 そうして歩き続け、王子はふと立ち止まり、右手前方を見やる。
「王都の一角にバラ園があるって知ってる?」
「バラ園って、花の?」
「そうそう。あそこはね、兄上が即位する前に、父上…先王から贈られた場所なんだよ。とても珍しい青いバラが咲いていて、すごく綺麗なんだ」
 王子は振り返って、シエラの顔を見る。「君にも見せてあげたいな。きっと気に入ると思う」
 場に合わない朗らかな王子の笑顔に、シエラも笑顔を作って応えた。異常な環境で記憶を引き出すには、できるだけ安心した雰囲気でいるべきだろう。

 王子はシエラと笑顔を交わしたのに満足したのか、再びバラ園の方を見る。
「バラ園かもしれないね…兄上にとって特別な場所だったから」
 神妙な雰囲気になりかけたのを引き戻すかのように、王子は話を続けた。
「それから!剣墓広場にも、一緒に行った事があるよ。この間、みんなで行ったでしょう?グラハムやマイヤーたちの成人の儀を一緒に見学したことがあってね」
 王子は機械人形たちの間を縫いながら、思い出に浸る。
「あの時の二人、すごくかっこよかったんだよ。“僕も王様じゃなくて、騎士に生まれたかった”って言ったら、兄上は困ってたっけなぁ…」
 王子は少し恥ずかしそうに笑う。そして小さく息をつき、付け加えた。
「剣墓広場は広いし、研究施設を隠すには十分だろうね。剣墓をこう、押したら階段があって…とか?」
 おどけたような調子で語り続ける王子に、シエラは丁寧に反応を返し続けた。王子の表情は穏やかだったが、地下都市の不気味さに押しつぶされないようにしているようにも見えた。シエラにできるのは、王子の不安に知らないふりをし、彼を支えることだけだった。

 王子とシエラがわいわいと語り合う様子を横目で見ていたグラハム将軍は、リオンに小さく手招きした。
「リオン、来い」
 二人は王子とシエラから数歩離れた場所で足を止めた。グラハム将軍は声も顔も低く落とし、話し始める。
「まず、はっきりさせておくべきことがある」
 彼の表情は厳しく、リオンは思わず身を硬くした。
「私の第一義的な責任は、王子の護衛だ。お前たちは…、保護の対象ではない」
 リオンの顔が強張る。しかし、グラハム将軍は容赦なく続ける。
「何かあれば、私は王子だけを守る。お前たちを囮にしてでも、王子を逃がす。それが私の務めだ」
 グラハム将軍の顔は険しいままだったが、右の眉だけはすこしだけ申し訳なさそうに歪んでいた。
「もちろん、承知しています」
 リオンは小さく応えた。「こんなところで正体バレてたってオチじゃなくて助かったよ」という内心は、覆い隠して。
 グラハム将軍は、見習いの少年の返答に満足したようで、少し表情を緩めた。少し顔を上げ、切り出す。
「だからこそ、お前とシエラの身の安全は、お前が担う必要がある」
 そう言って、グラハムは腰の剣帯から一振りの小さな剣を外した。鞘に収められたそれは、リオンの体格にちょうど良い大きさのショートソードだった。
「これを」と、差し出された鞘をリオンは両手で受け取った。それは予想以上に軽く、手に馴染んだ。試しに柄を持ち鞘から抜いてみる。すると、美しい光沢を持つ良く磨かれた刀身が現れる。よく見ると、刀身にはいくつか小さなくぼみが空いており、その一つには緑の宝玉がはめ込まれていた。
「"グレートソード"というものだ」と、グラハム将軍は手短に説明する。
「我が王国剣士の伝統的な懐刀でな。実践用ではないが、軽くて取り回しが良い。お前の体格には最適だろう」
「グレートソード…」リオンは剣の名前を口の中で繰り返した。何度か聞いたことがある、伝説上の王様の名前だ。その名を冠す小さな剣を渡すからには、何か意味があるのだろう。哀れな子供への手向けか、奮起の要求か…リオンはわずかな時間に刀身に映った自分と問答を繰り返した。

「実は、これはマイヤー将軍からお前に渡すよう預かっていたものだ」
 刀身をまじまじと見つめるリオンに、グラハム将軍は声をかける。そこには、わずかな暖かみが混じっていた。
「王子がローザの誘いに乗った時点で、マイヤーには事情を話してある。その際、お前のためにこの剣を託された。これは、あいつからの“貸し出し”だ」
 リオンは驚いて顔を上げた。マイヤー将軍が、一度訓練に参加しただけの自分のことを気にかけてくれていたとは、露ほども思わなかった。確かに、訓練でマイヤー将軍には、力の使い方を再三指摘された。はっきりとは言われなかったが、筋力が足りないのに無茶な動きをするなという指導だったのだろう。
「これなら、思い通りに振れるか…」
 グラハムは剣を鞘に収めるリオンを見降ろし、不器用ながらも励ますように告げた。
「グレートソードは、騎士の魂だ。お前にも、失うのは惜しいと思う者がいるということだ。忘れるなよ」
 グラハム将軍は照れくさそうに視線を外し、王子を見守るふりをする。リオンは剣の止め紐を腰に括り付け、深く頷いた。
「ありがとうございます。必ず、シエラを守ります」
 見習い騎士のまっすぐな視線を背中に受けながら、グラハム将軍は「使ったら、返しておけよ」とそっけなく応えた。

 二人が戻ると、王子は思い出話を一区切りし、研究施設の隠し場所にいくつかの目星をつけていた。ふと、リオンの腰に新たに帯びられた剣に気づき、眉を上げる。
「それは…?」
「グラハム将軍から…というか、マイヤー将軍から貸していただきました」
 そうリオンが答えると、王子は理解したように「あっ、グレートソードか」と声を漏らした。
 王子は「リオン、よかったね」と、微笑む。そして、「さあ、行こう」と、歩き出した。

 地下都市は依然、作り物の奇妙な不気味さで満ちていた。しかしリオンには、少しだけ青空が爽やかに感じられた。
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