42 / 43
1巻:動き出す歴史
第五話 第四章:突然の幕切れ 3~4
しおりを挟む
三、救出要請
魔塔の来賓室で、僕は銀の皿に釘付けになっていた。ガタガタと揺れる視界、スムーズに進めない迷路の中で、状況は刻一刻と悪化している。
「ララア様!」
僕は振り返ると、ソファで優雅に寛いでいるララア様に向かって叫んだ。
「お願いします、シエラたちを助けてください!このままじゃ――」
「なぜですか?」
ララア様は立ち上がり、静かに問う。僕は、言葉に詰まってしまう。
「え?」
「なぜ、彼らを助けなければならないのでしょうか」
ララア様は相変わらず穏やかな表情で、赤い瞳を僕に向けた。
「あの子たちは、敵国に勝手に侵入し、相手を騙して入り込んだ工作員です。それが危険な目に遭ったからといって、どうして助けなければならないのですか?あなたは一部始終を見ていて、記録もあるのでしょう?軍事上のリスクを冒しても、救助する理由がありますか?」
「そ、それは…彼らが友達だからです!」
「友達。なるほど」ララア様は小さく頷いた。「では、友達のためなら、どんなことでもするべきでしょうか?」
「当たり前じゃないですか!」
「本当に?では、もしその友達が殺人者だったら?泥棒だったら?あなたはそれでも助けますか?」
「そんな…シエラたちは違います」
「そうですね。では、最初に戻りましょう。彼らは何をしに行ったのでしょうか?」
「それは…情報収集と…」
「スパイ活動ですね。敵国の機密を探り、国家機密を盗む行為です。それは、泥棒と同じ、悪いことです。」
ララア様の言葉が、僕の胸に突き刺さった。
「でも、それでも…」
「それでも?」
「僕にとって大切な人たちなんです」
声が震えた。
「シエラは…リオンは…僕の友達で、大切な仲間で…だから…」
涙が溢れ出してきた。膝から力が抜け、僕はララア様の前に跪いた。
「お願いします」
僕は両手でララア様の足にしがみついた。涙で顔がぐちゃぐちゃになりながら、必死に訴えた。
「理由なんてどうでもいいんです。ただ…ただ助けてください。僕の大切な友達を助けてください。お願いします」
ララア様は優しく僕の頭に手を置いた。
「そうですね。それなら、理由としては十分です。ありがとう。」
皿の中では、リオンが王子とシエラに追いついていた。三人は迷路の行き止まりに追い詰められ、困惑している。そこへ、ゆっくりとした足音が響いてきた。
現れたのは、薄手の服に身を包んだ痩せた男――フード―マだった。その後ろには、完全武装した騎士型の機械人形が控えている。こちらは庭師型とは違い、整然とした動きで剣を構えていた。
「第二王子殿下」
フード―マは恭しく頭を下げた。
「ご苦労様でした。現王陛下がお呼びです。どうぞ、素直にご同行ください」
王子は身を張ってシエラを庇いながら、フード―マを睨みつけた。
「兄上に会わせろ。僕が説得する」
「もちろんです。しかし、お連れの方々は、別室でお待ちいただくことになりますがね」
フード―マはそう言いながら、シエラに近づいた。細い指で彼女の腕をなぞりながら、嫌らしく笑う。
「この娘を使えば、あなた好みの機械人形ができるでしょうね」
「触るな!」
リオンが叫んで、フード―マの肩を激しく押しのけた。フード―マは意外そうな顔で、よろめきながらリオンを見つめた。
「おや、お前は…」
しかし、それが引き金となった。騎士型機械人形は主への脅威に即座に反応し、剣を抜いてシエラに向かって斬りかかった。
「シエラ!」
その瞬間、あたりが眩い光に包まれた。
「確認完了です」
ララア様は静かに言い、部屋から消えてしまった。
四、魔法少女、さっそうと登場
騎士型機械人形の剣がシエラに向かって振り下ろされた、その瞬間だった。
全てが、止まった。
剣の軌跡が空中で静止し、フード―マの瞼は見開いたまま。王子の絶叫も、リオンの必死の表情も、全てが静寂に包まれる。
そして――全てが巻き戻った。
騎士型機械人形の剣が上に戻り、フード―マが口をもごもごさせて後ずさりした。その場にいた全ての機械人形は、後ろに引っ張られるように吹き飛ばされた。金属の塊が迷路の壁に激突し、バラバラになって地面に転がる。
皆が状況を呑み込めないでいると、やや上方に、キラキラとした光の輪が現れた。
その中央から、小さな頭がひょっこりと顔を出す。赤い瞳をした少女が、光の輪から顔だけを覗かせていた。翼のような形に結ばれた桃色の髪は、パタパタとはためいている。
「シエラ様、リオンたん。お迎えに上がりましたよ」
少女は微笑みながら、シエラとリオンに向かって手を差し伸べた。二人は呆然としたまま、その小さな手を握る。
フードーマが何か言おうとするのを、ララアは人差し指で静止した。目を細め、一言残す。
「この私があなたを殺しますから…!」
ララアがにこりと微笑むと、光の輪が再び現れ、三人の姿を包み込む。
「王子!」
シエラは思わず叫んだが、その声は光に呑み込まれていく。次の瞬間、三人の姿は跡形もなく消え去った。
残されたのは、呆然と立ち尽くす王子とフード―マだけだった。
魔塔の来賓室で、僕は銀の皿に釘付けになっていた。ガタガタと揺れる視界、スムーズに進めない迷路の中で、状況は刻一刻と悪化している。
「ララア様!」
僕は振り返ると、ソファで優雅に寛いでいるララア様に向かって叫んだ。
「お願いします、シエラたちを助けてください!このままじゃ――」
「なぜですか?」
ララア様は立ち上がり、静かに問う。僕は、言葉に詰まってしまう。
「え?」
「なぜ、彼らを助けなければならないのでしょうか」
ララア様は相変わらず穏やかな表情で、赤い瞳を僕に向けた。
「あの子たちは、敵国に勝手に侵入し、相手を騙して入り込んだ工作員です。それが危険な目に遭ったからといって、どうして助けなければならないのですか?あなたは一部始終を見ていて、記録もあるのでしょう?軍事上のリスクを冒しても、救助する理由がありますか?」
「そ、それは…彼らが友達だからです!」
「友達。なるほど」ララア様は小さく頷いた。「では、友達のためなら、どんなことでもするべきでしょうか?」
「当たり前じゃないですか!」
「本当に?では、もしその友達が殺人者だったら?泥棒だったら?あなたはそれでも助けますか?」
「そんな…シエラたちは違います」
「そうですね。では、最初に戻りましょう。彼らは何をしに行ったのでしょうか?」
「それは…情報収集と…」
「スパイ活動ですね。敵国の機密を探り、国家機密を盗む行為です。それは、泥棒と同じ、悪いことです。」
ララア様の言葉が、僕の胸に突き刺さった。
「でも、それでも…」
「それでも?」
「僕にとって大切な人たちなんです」
声が震えた。
「シエラは…リオンは…僕の友達で、大切な仲間で…だから…」
涙が溢れ出してきた。膝から力が抜け、僕はララア様の前に跪いた。
「お願いします」
僕は両手でララア様の足にしがみついた。涙で顔がぐちゃぐちゃになりながら、必死に訴えた。
「理由なんてどうでもいいんです。ただ…ただ助けてください。僕の大切な友達を助けてください。お願いします」
ララア様は優しく僕の頭に手を置いた。
「そうですね。それなら、理由としては十分です。ありがとう。」
皿の中では、リオンが王子とシエラに追いついていた。三人は迷路の行き止まりに追い詰められ、困惑している。そこへ、ゆっくりとした足音が響いてきた。
現れたのは、薄手の服に身を包んだ痩せた男――フード―マだった。その後ろには、完全武装した騎士型の機械人形が控えている。こちらは庭師型とは違い、整然とした動きで剣を構えていた。
「第二王子殿下」
フード―マは恭しく頭を下げた。
「ご苦労様でした。現王陛下がお呼びです。どうぞ、素直にご同行ください」
王子は身を張ってシエラを庇いながら、フード―マを睨みつけた。
「兄上に会わせろ。僕が説得する」
「もちろんです。しかし、お連れの方々は、別室でお待ちいただくことになりますがね」
フード―マはそう言いながら、シエラに近づいた。細い指で彼女の腕をなぞりながら、嫌らしく笑う。
「この娘を使えば、あなた好みの機械人形ができるでしょうね」
「触るな!」
リオンが叫んで、フード―マの肩を激しく押しのけた。フード―マは意外そうな顔で、よろめきながらリオンを見つめた。
「おや、お前は…」
しかし、それが引き金となった。騎士型機械人形は主への脅威に即座に反応し、剣を抜いてシエラに向かって斬りかかった。
「シエラ!」
その瞬間、あたりが眩い光に包まれた。
「確認完了です」
ララア様は静かに言い、部屋から消えてしまった。
四、魔法少女、さっそうと登場
騎士型機械人形の剣がシエラに向かって振り下ろされた、その瞬間だった。
全てが、止まった。
剣の軌跡が空中で静止し、フード―マの瞼は見開いたまま。王子の絶叫も、リオンの必死の表情も、全てが静寂に包まれる。
そして――全てが巻き戻った。
騎士型機械人形の剣が上に戻り、フード―マが口をもごもごさせて後ずさりした。その場にいた全ての機械人形は、後ろに引っ張られるように吹き飛ばされた。金属の塊が迷路の壁に激突し、バラバラになって地面に転がる。
皆が状況を呑み込めないでいると、やや上方に、キラキラとした光の輪が現れた。
その中央から、小さな頭がひょっこりと顔を出す。赤い瞳をした少女が、光の輪から顔だけを覗かせていた。翼のような形に結ばれた桃色の髪は、パタパタとはためいている。
「シエラ様、リオンたん。お迎えに上がりましたよ」
少女は微笑みながら、シエラとリオンに向かって手を差し伸べた。二人は呆然としたまま、その小さな手を握る。
フードーマが何か言おうとするのを、ララアは人差し指で静止した。目を細め、一言残す。
「この私があなたを殺しますから…!」
ララアがにこりと微笑むと、光の輪が再び現れ、三人の姿を包み込む。
「王子!」
シエラは思わず叫んだが、その声は光に呑み込まれていく。次の瞬間、三人の姿は跡形もなく消え去った。
残されたのは、呆然と立ち尽くす王子とフード―マだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる