Bittersweet Ender 【完】

えびねこ

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8月

2.

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「――有床ってのは社会的責任がさ。ところで藤堂とどういう関係? 今まで見かけなかったよね」

 誠仁は突然話題を幼馴染へ振った。今までの会話は全部ただの前振りだったのかと言う位に。そもそも慎一郎のことがなければ、千晶には全く関心を持たなかったのだろう。

「なんのことですかね」
「どこで会ったの?」

「水族館じゃないですかね」

「ぶふっ、ああそう。じゃぁ泳いできてもらおうか」
「へぇ、輪投げショーとか始まっちゃいます?」
「おもしろいこというねぇ」

 お互い面白くなさそうな笑顔だが、声は楽しそうだ。そこへ横から同期の助け舟なのかライバル蹴落としなのかわからないフォローが入る。誠仁の目の奥が一瞬だけ色を変えた。自分に対して、ではなく、口をはさんだ存在を切捨てた、と千晶は見たが、さて。

「高遠さんは口説いても無駄ですよ、カレを追いかけて医学部入ったんだから」

 兄の存在を知られたくない千晶は「お世話になったの力になりたくてこの道を目指した」といったのを、周囲が曲解してくれたのだ。

「へー、そうだったんだ。素敵なひとなんだろうね」
「うふふ、ご想像におまかせします」
「ふーん、その人って本郷のひと?」
「さぁどうでしょうね。都内とだけ言っておきますよ」
「それに言ってもいいの?」
「別に誰に言ってもらってもかまいませんよ」
「なかなか手強いな」
「時田さんにはかないませんよ」

 どういう関係ってきかれても説明のしようが無いのだ。名前のつく関係ではないし、千晶も求めなかった。

「なんの話よ、時田」
「共通の知り合いがいるんだよ、ね」

 すっとぼけた効果は無かったらしい、千晶は同意をせず、明後日の方向を見ながら串を頬張る。

「じゃあ今度みんなでどっか出掛けようよ、俺らの夏休みは今年限りなんだ」
「いいね、とりあえずグアムとか」

(とりあえず水着、ね)誠仁の発言にすかさず女の子たちが喰いつく。海外や避暑地と盛り上がる傍らで、千晶は連れの発言を確認する。

「56年はお休み無いんですか?」
「そう、交代で休めるって建前だけ。寄附金どうこうはないからいいとこだよ」
「はぁ、寄附金ですか」
「うちはOBの厚志のおかげで学費も安いでしょ、国立は地元受けちゃったんだけどね」

 迷ったけど、こっちに出てきてよかった、と、愛学精神と東京でどれだけ目が覚めたかを語る福田。千晶が興味深く聞いていると、またあのチャラい声に中断される。

「え、ちあきちゃん海外ダメなの? 何やったの」
「まぁちょっと、皆さんで楽しんできてくださいね」

 発想がクズ過ぎる。多分、パスポートは取れるはず。取れてもこの人とは絶対行かないけど。



 日も落ちてきた頃お開きとなり、気の合った人たちは二次会へと行くのを千晶はゴミ袋片手に見送った。例の彼女を迎えに来た彼は伝書鳩よりカラスに似ていた。



「時田さん、また現れたよ、割としつこいね」
 あれからもやれテニス部に入れば試合で会えるだの、合コンしようだのと軽い調子で言ってきた。結局電話番号だけ教え解放された。他の学生経由で連絡先やその他をきくことも可能だろうに、そうした風でもない。そこまで千晶自身には興味がないというのが正解だろう。喰えないけど毒でもない。

 千晶も誠仁に興味は無いが、何か余計なことを慎一郎に吹き込みそうなので先に報告しておく。

「しようがないな、色々引っ掻き回すのが好きだからさ、彼」
「何を探してるんだろ」
「そう感じた?」
「うん、それよりただのご学友?」
「そうだよ、幼稚…小学校からだから遠慮がなくてね。ただの幼馴染だよ、悪友か。あのクラブのもう一人、彼とは別の系列高だったんだけど留学先が三人一緒になってね」
「へぇ、社会勉強に熱心だったんでしょうね」
「座学だけじゃ限界がね」
 千晶が意味深に頷くと、ちゃんと勉強してきたと言い張る。課外授業ならもう一人の彼、ヒロキとはセイリングでペアだったと健全なスポーツをしていたアピールする。訊いてないことまで話すと益々怪しい。

「へーぇ、とりあえずネズミーランドに行くんだって。シンも誘うって言ってたよ」
「アキ行くの?」
「いやいやいや、暑いし待つし、ちょっとね」
「あのハリボテ感が苦手そうだよね、ああ、着ぐるみの中身が気になって楽しめないほうか」

 ネズミーを否定せずに断ってるのにこれだ。千晶は嫌いではない、ただ真夏の炎天下に出かけたいかと聞かれたらノーだ。
 目の前の男は嫌いだろう。列に並ぶ姿も、キャラクターと写真を撮る姿も想像できない。

「……よくできた施設だとは思うよ。シンがあのカチューシャしてポップコーンを首からぶら下げた姿はみたいかも、下はもちろんサスペンダー付きのハーフパンツでお願いね」
「ありえないだろ、ハハッ(例の声)」



「――夢の国なら食いつくと思ったのにさ、女の子はみんな好きじゃないの? 特別室ラウンジのランチとディナーも付けるって言ったのに」

 果たして誠仁は千晶が男にモテモテだったとか、あれこれと吹っ掛けた。が、慎一郎が動じないのを見ると、千晶の食指の鈍さを愚痴り始めた。

「残念だったね。俺があのカチューシャつけたらいいってさ」
「ぶっ、そこは呑むでしょ。いいね、服買いに行こうよ、夏だから赤のハーフパンツかな、あの子にも水玉のさ」
「嫌だね、俺があのネズミ嫌いなの知ってるでしょ」
「別のキャラもあるじゃん。夏だしセーラーもカワッ…ふふっ」

 何を想像したのか誠仁は笑いが止まらない。あの子も言うねぇと、一人手を叩いて喜んでいる。

「…随分楽しそうだね」
「別に隠してるわけじゃないんでしょ、この前駅で二人見かけたよ」

「…春までだから」
 少し間を置いて答える。

「ああ、そういうこと。あの子そういうタイプじゃないよね、納得してるの?」
「彼女に言われたよ、あんたみたいのに情が湧くと困るってね」
「直球だね、あーあ女の子なのがもったいないね。男ならなぁ」
「そっちなのか」

 発想がズレてんのも二人似てると慎一郎は思ったが黙っていた。

「んー、あの子は色々惜しいんだよね、そこが面白そうではあるか」
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