Bittersweet Ender 【完】

えびねこ

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12月

2.

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「何編んでるの?」
 慎一郎は千晶が持ってきたシュトーレンをつまみながら訊く。
「病院のボランティア用だよ」
 来て早々ダイニングテーブルに編み物の店を広げた千晶は、そのまま内職の手を休めることなく答えた。ここは猫たちが邪魔しなくてはかどる、と言われれば終わるまでちょっかいは出せない。

「100円200円でぬいぐるみが売ってるのにどうなのかな、作るほうの自己満足かなとも思うんだけど」
「皆何か作るの?」
「ううん、手品とか出し物系のほうが多いよ、楽しませるのが好きな人多いんだ」

 病院ボランティアは毎月第4土曜の午後、今年はちょうど24日で、皆で子供達へのささやかなプレゼントを用意することになったのだ。これと言って特技のない千晶は、リハーサル不要の物品制作。
 ちっちゃな手のひらサイズの毛糸で編んだぬいぐるみ、綿をいれて目鼻を刺しゅうして出来上がり。数人で分担しているので千晶は予備も入れて5体つくればいい。
 
「これは口から血を流したりしなくていいの?」
「…変なアニメと間違ってない?」
「知ってるんじゃない。その緑のクマは丸腰でいいの?」
「だから、色はたまたま余ってた毛糸だから、ピンクも水色のも余りもの」

 慎一郎は出来上がった黄色いウサギと青い何かの編みぐるみを掴みながら剣呑なことを言う。ぬいぐるみのお腹を押したり、耳をひっぱったり、何も出てこないのを確かめると、アクションポーズを決めさせる。

「何か仕掛けないの?」
「ないです…この前ちょっといたずらしたら、『おねーさんはそんなことする人じゃないでしょ似合わないよ』って怒られたし」

 ギミック好きのはずの千晶がため息まじりで頭を垂れると、慎一郎も大きくため息をついた。

「……ああ、子供は残酷だね。何故童話が教訓じみてるか分かったよ」
「勧善懲悪や説教じみた話は嫌がって、理不尽な話には喜んで喰いつくのにね。子供のほうが現実と虚構の区別がはっきりしているのかな、夢中になっても裏に意図があるようなのは見抜いてるし」

 千晶の手元でファンシーな色合いの動物が、みるみる形になっていく。紙袋からは無難な色――白と茶色と黒の編地が覗いている。

「こっちのは?」
「それ? 弟に頼まれて本命避けだよ。彼男としてはクズなのに寄ってくるんだよね」

(も、は誰に係ってるんだろう)慎一郎は疑問に思ったが、そこに触れたら藪蛇な予感がしてやめた。

 千晶は本を取り出し、出来上がり例をみせる。子供向けをアレンジした猫耳付フードマフラー。パーツを並べ、あとは剥ぎ合わせるだけ。

「キャリコか」
「もう母親のお手製は恥ずかしいんだって、知らない人から見たらわかんないのにさぁ『いかにも手編みですって雰囲気に仕上げて』だって失礼しちゃうよね」

『ちょい不器用な彼女の手編みを恥ずかし気も無く巻いちゃう惚気た彼の図』を満たせという注文の多い弟に千晶はげんなり。女避けなら風呂に入らずエロゲーのマスコットを通学鞄に付けとけばと言ったら静かにキレられ、編むハメになったことは黙っておいた。

「彼雰囲気柔和だから大変だろうね。俺欲しいな」
「……も?」
「そ、俺欲しいな、ボストンは寒いんだよ」

(オレモホシイナ? 社交辞令的な?)千晶は聞かなかったことにした。作ることは好きだけれど、自分に必要なものを作る派で、人に作ってあげたい派ではないのだ。弟の頼みは仕方なく、だ。

「え、なに?」
「聞こえてるんでしょ」
「猫耳だよ、似合わないんじゃない?」 
「クマ…犬かな?…ウサギは無しだね」
 慎一郎は本をめくり選び始めた。動物が首に巻きつく形のマフラーや帽子も載っているが、フード付きタイプにこだわっているようだ。
(え、本気? 耳のデザイン以前に、ローゲージニットは似合わない気が、、、)
「…三月ウサギでぴったりじゃない。それともカエルでいい? ピクルスって名前入りで」
「カエルとカッパは止めて、特に緑は」

(三月ウサギは否定しないのか、緑の帽子ってなんだっけ?)グリーンも似合わなそうだと思った千晶はとりあえず手芸店に寄って考えることにした。彼が何か欲しがるのは珍しいのだから。
(面倒だけれど、まぁいいか、海外だし)
 


 ブルーグレーの犬耳付のフードマフラーを巻いた慎一郎を前に笑いを抑えきれない――はずだったのに、普通。垂れ耳とくたっとしたアルパカ毛糸のせいか普通にただのマフラーになってしまった。ローゲージも外した感がアリだ。

「…意外と似合わないこともなくもなかったね」

 鏡の前で無表情に喜んでいる慎一郎と、その横で、がっかりした顔を隠さない千晶。

(あーあ、いっそのことカエルにしておくんだった)
 
「ありがとうわん」

(ワン? ワンって言った? 幻聴? この顔で言った?)

「え、何もう一回」

 答えずプィっと横を向いた仕草がまんま拗ねた犬みたいで千晶に笑いがこみ上がる。どういたしまして、とにっこり返そうにも、ツボにハマって笑いを堪えた変な顔になってしまう。千晶が語尾に『にゃん』を付けた時の氷点下の反応を嫌でも思い出し、その落差に肩が震える。

 笑われたワンちゃんは面白くない、抱き着いて首に噛みつき、舐める。

(こんなにくだけたひとだったかな)

「ちょっ ごめんってば。やめっ、スティ」
「…ヴぁうーっ」
 やなこったとばかりにスイッチの入った大型駄犬は止まらない。

 冬の夜は長い。

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